初恋Crab 可愛い君は今マッチョ

いんげん

文字の大きさ
7 / 14

ヒーローの成敗はバイオレンス

しおりを挟む



絶体絶命の僕らの前に…ヒーローが現れた。

「Dad!」

防波堤にしゃがみ込んだ、不知火くんのお父様が、僕らに太く大きな腕を伸ばした。

その姿は、まさに外国映画のヒーローのようだった。発達した筋肉に覆われた傷だらけの厚い体、強面だけど優しく微笑む顔。

「もう大丈夫だ」

不知火くんお父様が、僕らをまとめて引き上げた。
子供二人を軽々と。
「……」
ざばざばっと海水がコンクリートに滴った。

「よく頑張ったな」

ヒーローが、引き上げた僕らを優しく抱きしめた。
陸地に戻って来たけど、足に力が入らない僕は、しゃがんでいる彼の太い足の上に倒れ込んで、その胸にもたれた。厚い胸板が、とっても硬い。

「つばめっ!つばめ!」

後ろで不知火くんが心配そうに叫んでいる。

「…っく…ひく……ラブ…ラブを助けてぇ」

僕が泣きながら、不知火くんのお父様の胸にしがみつくと、ヒーローは目尻に皺を作り笑うと、頷いた。

「もちろん、でも、キミのラブは、泳げるようになった」

お父様の指差す先を見ると、ラブが犬かきで防波堤のすぐ下まで来ていた。

「わん!」

元気そうな姿に僕の全身の力が抜けた。
良かった…良かったよ……
ひく、ひくと涙と嗚咽が止まらない。

「つばめ…」

不知火くんに抱き寄せられて、お父様の上からどかされると、ヒーローは今度はラブを引き上げてくれた。
ラブは、しっかりと立って、思いっきりブルブルをして周囲に海水を撒き散らした。
そして僕の側に駆け寄ると、不知火くんの胸で泣く僕の頬をベロベロと舐めた。

僕は、安心したのと、怖かったのと、頭の中がグチャグチャになって、もっと小さな子供のように大きく泣き出した。

「うぁぁあん……う……えっ……うぇえん……良かったよぉ……ラブ……不知火くん……うわぁぁん……怖かったよ…」

二人が死んじゃうかと思った!
怖かった……僕が想像もしなかった、人の悪意も怖かった。

「つばめ……もう大丈夫……ごめん」

不知火くんの僕を抱きしめる腕も、ブルブルと震えていた。でもその拳は凄く力強く握られていた。

「さて……Fuc※※※ ※※!」

明らかに自分たちより強そうな、不知火くんのお父様の登場に、引いている男たちに向かって、ヒーローが何か叫んだけれど、僕の耳は不知火くんに塞がれて、聞こえなくなった。

「※※※!」

不知火くんのお父様は、一番近くにいた坊主の男を掴んで、殴った。
僕は、驚いて体をビクリと弾ませた。

お父様はすかさず、倒れそうな坊主を引き起こして、反対側の顔を殴った。

男の口から血と共に、白い歯みたいな物がいくつか弾け飛んだ。

圧倒的な体格差と、力の差で男は全く抵抗も出来ず、あっちこっち殴られて、最後は海に投げ入れられた。

そして次は、逃げ出す半分金髪の首根っこを掴み、引き倒した。

僕が、怖くなって震えだすと不知火くんは、僕に見えないように頭を、全部抱え込んだ。

時々、聞こえてくる男たちの断末魔の叫びと、聞き取れない英語。

「くそ……俺が殺りたかった……」

耳元で不知火くんが、呟いた言葉は気のせいだろうか…。

□□□□

不知火くんの腕が、僕の頭から外れた頃……防波堤は血みどろで、海水も混ざり、歯が浮かんでいた。

「次来たら……殺す…正解!」
不知火くんのお父様は、ピアスの男を黒いワンボックスカーに投げ入れると、車体を蹴り上げた。なぜか車の助手席のドアが取れかかっている。

「ひいいいい!早く出せ!」

ボロボロの男たちが、車を急発進させて、逃げていく。
すると近くに財布が落ちている事に気がついた不知火くんが、それを拾い上げ、お金をその場に捨てて、財布を戻って来たお父様に投げつけた。

えっ…それって……どう……するの…?


お父様は、財布をポケットにしまい。

「Oh……ツバメさん……大丈夫ですか……とっても心配……すぐ病院へ行きましょう」
と、膝から崩れ落ちて、僕らを抱きしめた。

僕は、一瞬固まった。

うん……あれは……成敗だよね…はは……あんこパンマンだって、ヒーロー戦隊だって、スーパーメンだって悪と戦うもん。
今のは……怖くない!……怖くないよ。

「助けてくれて……ありがとうございます」

僕は、返り血が一切ついていない不知火くんのお父様に抱きついた。

「わおぉ……これが……Kawaii!」

不知火くんのお父様は、僕に抱きつかれた状態で右腕の拳をあげた。

『ちょっと、アナタ!アイツら逃して良いの?あと5本くらい骨折って、眉毛生えないように傷くらいつけないと!』
どこからか、不知火くんのお母様が走り寄ってきた。
何か興奮気味に英語で喋っている。
『ハニー、とりあえず泳がしただけだよ。まずはこの子を病院へ連れて行かなきゃ』
『それもそうね。スマホ忘れて写真取れなかったから、とりあえず、ナンバープレートは剥がして貰っておいたわ。中にあった鞄とかも押収しといた』
『母さん、早く車回して来て…』

不知火くん家族が何か話してる…。
僕にはわからないので、首をかしげて腕から抜け出して、ラブの首に抱きついた。

「ラブ、大丈夫?怖い思いさせてごめんね……良かった」
「わん!」

『Kawaii…愛らしい……彼は、プリンセスなのかい』
『父さん……本人に言ったら、嫌われるよ』
『……それは嫌だ』











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...