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旅立ち編
越後の未来
しおりを挟む「ねぇ、お艶。お栄が嫁いだのは、陸奥の小早川さまの所だったかしら?」
幼き巫女を見送り、居室に戻った。
巫女にはそれぞれ宮がある。
輿入れして神宮を出ると、新しく来た巫女に受け継がれる。
睡は、脇息にもたれかかり、途中から手つかずの鴨の刺繍を眺めた。
「さようでございますが、何か?」
部屋に入るなり脱ぎ捨てられた睡の千早を畳みながら、お艶が答えた。
「それって、確か十年前に滅びてしまった出羽のあたりよね?」
「そうですね、北の国は端から鬼の浸食が進んでいるので昔とは変わりましたので、出羽だった地の東南、右下あたりですね」
「あの子、大丈夫なのかしら?」
「鬼にも山脈越えは難儀だろうと、予想では次の侵攻は越後かと」
「越後って、あの……さっきの人たちのところ?」
睡は、体を起こして、腕を組んだ。
すでに神獣の巫女が国にいるならば、参拝は巫女と共に半月早く来て、巫女とともに去っていく。
つまり、彼らには有する巫女がいない。
「はい、来年には越後の領地は半分ほどになる、そう聞きました」
「なぜ、誰も越後へはいかないの? 貧乏なの?」
「いいえ、越後は銀山を有し、栄えた港もあり、商人からもうまく徴収してます。むしろ豊かといえましょう」
「じゃあ、どうして今まで巫女は誰もいかなかったの? ほら……あの人、なんていうか……顔、いい方だと思うし、風格みたいなの、あるんじゃない?十代の巫女には、ちょっと年上かもしれないけど」
睡は言いよどみ、しきりに首を傾げた。
お艶が目を細めて、したり顔で見ている。
「まぁ、越後国主の永尾景之様は、若武者の頃から美丈夫で世の女性たちに騒がれていましたが、いかんせん、出羽の国危うしといわれ始めた二十年前には、次は越後と噂されてましたから、巫女には選ばれません」
「それは……巫女の価値なんて神獣にしかないから、失うことを恐れるのはわかるけど、今まで只の一人も? そういえば、出羽にも誰もいかなかったのよね」
お艶は静かに頷いた。
「前回の三年前も、弟君さまをお連れになり、彼との縁談を巫女たちに望みましたが、巫女たちは顔合わせすら……」
「そう……」
知らなかった、睡は深く息を吐きだした。
睡は、三年前もずっと居室と、畑に居た。
いつも静かな高天原神宮が唯一、にぎやかになる大名の参拝時期は、居心地が悪くて人目を忍ぶように過ごしていた。
「今回、弟君さまの御姿はありませんでしたね」
「どうするのよ! あきらめてしまったの?」
「これは、私の予想ですけど」
お艶は睡のそばに膝をつき、彼女の耳に顔を近づけた。
「きっと、たくさんの金子を持ち込んで、神祇官の人間に巫女との話し合いの場を設けさせ、交渉にあたるのでは?」
「……なんだか汚いわ」
「なりふり構っていられませんよ。領民が何万も戦場に散り、土地を失い、行く当てもなく餓えて死ぬんですよ。思い出深い地は鬼の住処に代わり、草木一本育たない穢れた土地に変わります」
「そ、そうね。構ってられないわ。あっ、そうだわ!いいこと思いついたわ」
睡の顔が、ぱっと輝いた。
「おやめください」
「まだ、なにも言ってないし、やってないわよ」
「わかりました、やめてください」
「……さぁ、でかけるわ」
折りたたまれた千早をむんずとつかみ、立ち上がった睡に、お艶が白目をむいてのけぞった。
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