ゾンビBL小説の世界に転生した俺が、脇役に愛され過保護される話。【注、怖くないよ】

いんげん

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ゾンビが出たぞ

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ジフにお守りを渡し、朝になった。
若干の寝不足感にあくびが止まらない。

「ふぅあああ」

スナップエンドウを収穫しながら、平和だなぁと思う。いや、明日にはジフがゾンビ退治に行かなければならないから平和じゃないんだけどね。
今日は皆は、朝からジフの用意で色々忙しいから、俺一人で畑仕事をしている。
郊外の食品工場の緑地地帯で作っている野菜の出来は中々だ。四人で食べるには十分だ。
畑はここ以外にも、すぐそこの空き地にもある。 
工場は川沿いにあるので、モーターボートで移動もできるらしい。川の鯉は食には適していないみたいだけど。むかし、ここに住んでいた人が食べてみたらしいのだけど、三日下痢が止まらなかったらしい。俺は絶対に食べない。 魚は、もう少し山の方か、海で獲ってくるみたいだ。

川と逆の南側は、双眼鏡で見たのだけれど、大きな幹線道路があり、廃墟となったガソリンスタンドとか店舗が沢山並んでいた。しかし、道路は平坦で走りやすい道ではなく、ゾンビとの攻防で出来た謎のバリケードや塀、自衛隊の戦車とか、撃ってえぐれた跡がある。そしてゾンビ化した白骨がゴロゴロあるらしい。

「外かぁ」

俺も、大分トレーニングして、柔らかかった腹筋も……ほんの少しだけ肉がパツッとしてきた。懸垂も上までは行けないながらも体が上がる程度までは力がついた。何より毎日豹兒と敷地内の走り込みをして、逃げ足だけは鍛えている。何より逃げるが勝ちだからね!

ガラガラ…

「っ!?」
空き地の方の動物侵入を知らせる罠が音を鳴らしている。
何てことだ!狸かハクビシン?それとも猿?アイツら、俺達の大切な農作物を勝手に獲っていくうえに畑を荒らして行くんだ。許せん。
追い払いに行かないと。

外で作業する時用の掌サイズの警察みたいな拳銃が腰にぶら下がっているのを確認して、敷地の門を開けて空き地の畑へと走った。

「こら!出てけ、猿!」

畑に侵入していた2匹の猿を、鍬を振り回して追い払う。猿は近くの倒れかけている電柱に昇り、しばらく此方の様子を窺っているので、容赦なく拾った石を投げつけるけれど、全然当たらない。

「くそぉ!」

2匹は別々の方へ逃げる。1匹は見失い、もう1匹は電線を辿って廃墟となった飲食店、中古車販売店、コンビニの屋根へと移動した。すぐに立ち去る気持ちが無いのか、何度も振り返って俺を確認している。

「畑の野菜……まだ狙っているな!」

なんとしても追い払う!と、コンビニと裏道を隔てるブロック塀に、小さな物置を足場にして昇った。

ブロック塀に昇って、視界が高くなると塀の向こう側が見えたのだけど……人が座り込んでいた。
近くに大型のバイクが置いてあり、地面に座り込んでいる男がいた。
ま…まさか…まさか!ゾンビ!!

「うぁああ!」

黙っていれば、そこに猿いるし……人だと気がつかれなかったかも知れないのに、もう恐怖で叫んでしまった。
男が俺を見上げて、目を見開いた。

ゾ…ゾ…ゾンビ!!
すごい綺麗な顔したゾンビ!!俺はすぐさま塀から飛び降りた。猿もいつの間にか消えている。
やばい、やばい!逃げなきゃと焦る。周囲を見回して、割れたガラスの間からコンビニの中に入った。

「……まっ……待って!!」

ゾンビが俺を探している。
なりたてのゾンビは知能が残っていて、多少喋るらしい。しかも、一見普通の人間と変わらず、最初は銃や武器も上手に使える。だから人類はあっという間に減ったってジフが言ってた。
バイクも乗っているみたいだし、もしかして……ジフが倒しに行く予定のゾンビ此処まで来たんじゃ無いか!?

「どうしよ…どうしよ」

ジフに依頼が来るようなゾンビが、俺の当たるか分からない拳銃で倒せるはずが無い。
こ…ここは助けを呼ぶ為に、いっそ一か八か、空に向かって撃つ?
駄目だ、駄目だ、すぐソコに居るんだから、誰か来る前に囓られる!

絶体絶命だ。

逃げようにも、ゾンビ投げ出した足が凄い長かった。絶対身長高くてリーチが違う。逃げ切れる気がしない。
とにかく隠れてやり過ごすしかない。
商品の殆どが無くなっているコンビニの中を見回しが、隠れられそうな場所が無く、バックヤードへ足を踏み入れる。ドアは歪んでいて閉まらない。そこにはテーブルにロッカーパソコン、裏口しかない。

「どこ!!何処へいった!?」

ひいぃぃ!コッチの方へゾンビが来ている。やばい、やばい!ゾンビが来る。
何で、俺、猿なんてあんなに追って来たんだろう。
馬鹿だ、俺は馬鹿だ!
泣いても仕方ないけれど、涙が出てくる。
とりあえず、隠れて、最終的に戦おう!もしかしたら奇跡が起きる…かもしれない!

手前のロッカーを開けようとしたけれど、開かなかった。
それではと、隣のロッカーを開けると、猫が居た。

「っ!!」

びっ…びっくりした!
猫も驚いたのか、にゃっ!っと叫んで、ロッカーから飛び出した。クリーム色の逞しい野良猫は、飛び出した勢いで俺を踏み台にして、離れた所に着地した。
そして、ドアを押して店内の方へ走り去った。

「猫…」

ゾンビの声がする。
まさか!……これは『なんだ猫だったか』で終わるパターン!?
有難うございます、創作の神様たち!やっぱり此処は小説の中の世界だった!俺は頭の中で神達へのスタンディングオベーションを行った。

「……」
「っ!?」

ゾンビの足音がする。こちらに向かってくる。
嘘だろ!何だ猫かの下りじゃなかったの!?くそぉ!やっぱり、俺は呪われている。こんな世界に転生するんだもんな……そんな上手くいくわけないんだ…。

俺は、デスクの下に潜って、拳銃を取り出した。
撃つ。すぐに狙って撃つ!出来れば頭、ガタガタ震えているようなら、まずは一発当たれば何処でもいい、でもすぐに、もう一発!三人がアドバイスしてくれた事を思い出す。

あぁ…手が震えるし、涙は出てくるし、心臓がドクドク五月蠅い。呼吸が止まる。
でも、やるしかない。生き残る為には戦わないと。

そのとき、パーンという音が聞こえてきた。

思わず、撃たれた!と思って体を縮め、目をぎゅっと瞑ったけれど、痛みも衝撃も無い。
そういえば……少し離れた場所から聞こえてきた気がする。

「っち」

ドアの辺りからゾンビの舌打ちが聞こえ、そのままゾンビの足音が遠ざかっていった。
うそ……やった、なんとか……助かった。

「……」

一気に力が抜けて脱力した。これが腰が抜けるってやつだろうか。
腹の底から泣き笑いみたいな衝動が突き上げてくるけれど、まだ近くにゾンビが居るかもしれない。
必死で前腕を噛みしめて耐えた。
まだ、まだ安心できない。静かに、静かにしなきゃ。
自分の腕を噛んで、恐怖と助かった歓喜を我慢する。

やがて、バイクが走り出す音がして、ほっとした。

「あはっ……はは……ふっ……あはは……」

泣きながら笑いが止まらない。
何だコレ。俺、ちょっと正気を失ってる?と冷静に自分を俯瞰している。
そして、思い当たる。

「あのゾンビ!ウチに行ったんじゃ!?」

ヤバい!と勢いで立ち上がろうとして、デスクの引出しに思いっきり頭を打ち付けた。

「っ…てぇ……痛ぇ…」

傷む頭をスリスリ撫でて抑えながら、片手でハイハイするようにデスクの下から這い出た。
デスクに手を置いて上手く力の入らない、足で立ち上がると、膝が笑っている。拳銃を取り落としそうになって、慌ててしまった。

「みんな…」

あの銃声は工場の方からだった。ジフの明日の武器の試し打ちだろうか?
アレを聞いたゾンビは、きっと工場に向かったのだろう。人間がいると思って。
大変だ、ゾンビが来たと知らせないと。でも、バイクより速く着くことは無理だ。まだ銃声は聞こえてこないから戦闘にはなっていないかもしれない。

「下手に出て行くと足手纏いだし……」

それは確実だ。

今こそ空に向かって銃を撃つべきでは?
そしたら、工場の三人はきっと警戒するはず。もしも俺に何かあったと心配して出てこようとしてくれたとして、彼らは戦いのプロだから、無策で来たりしないはずだ。
でもあの顔が白い、ヴァンパイアかと思うほどの美形のゾンビが、凄く賢くて強かったらどうしよう。

「あああああ!もう俺のアホ!何で出てきた!」

とりあえず、工場へ向かおう。
俺は気合を入れて走り出し、劣化して所々亀裂のあるコンクリートの上を走った。裂け目から生えている草が邪魔をする。

工場近くまで戻ると、豹兒の声がした。

「ポチ!!どこにいる?ポチ!」

戦闘用に作られたバリケードのせいで姿は見えない。

「ひょ……豹兒!ゾンビ!ゾンビが出た!」

ゾンビは大きな音に反応するって言うけど、早く豹兒に危険を知らせないと、と思って叫んだ。



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