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蒼陽と屋上
しおりを挟む一日中、ゾンビを探し回り、夜通し戦闘して帰ってきたジフと蒼陽は、食事もそこそこに眠りについた。俺は、今日の俺の役目をさっさと片付けると、寝室を覗きに来た。二人が帰ってきて、5時間ほど経ったけど、二人はぐっすり眠っている。
「……」
あまり近づくと気配に聡い人達だから目が覚めてしまうかもしれない。ドアの近くから二人の姿を確認して、満足して部屋を出た。もう時刻は6時をまわり、廊下も薄暗い。
今日の夕食は、ジフ達が好きな時間に食べられるように、サンドイッチだ。焼いた鶏肉もある。俺はそのお弁当を持って、屋上への階段を駆け上がった。
日が暮れた屋上からは、一番星と中庭で豹兒がトレーニングをしているのが見える。強いゾンビとの戦闘は夜が多いから、暗い中でも十分にいつもの動きが出来るようにしないといけないらしい。暫く豹兒のトレーニングを眺めてから、風が強いから、屋上の階段の建物部分の風下に座った。
「……」
ジフと蒼陽が無事に帰ってきてくれて本当に良かった。まだ少し明るい夜空を見上げて、ほっとため息が出た。トマトとキュウリが挟まったサンドイッチをモソモソと食べる。塩と、こしょうだけど、自分で作った野菜だから、美味しく感じる。目の前を流れる川は、いつもより水面が荒れている。なんとなく落ち着かないなぁと眺めていると、キィと音がして、屋上に誰かがやって来た。
「ポチ、見つけた」
「蒼陽」
やって来たのは、瓶とサンドイッチを持った蒼陽だった。床に座っている状態で、見上げる蒼陽は背が高すぎて首が痛い。
「一緒に食べて良い?」
「うん、どうぞ」
蒼陽が俺の右隣に腰を下ろした。左足を二つに折り曲げて、右足が投げ出されているんだけど……改めて長すぎる。きっと前世は、バンビかバッタだな。そう思って自分で笑ってしまった。
「どうしたの?ご機嫌だね」
「ううん。何でも無い」
「ポチも飲む?」
掲げられた瓶のラベルを見るけど、文字が読めないから分からない。レストランとかで出される高級な水?とりあえず、すすめられたし断るのも何だなと思って、受け取って瓶を煽った。
「うっ……ごほっ……うぅ…お酒?」
「うん。ゾンビ退治してお土産にもらったんだ。報酬は後で運ばれてくるよ。色々貰えるみたいだよ」
中々強いお酒だったのか口も喉も焼けそうだ。かーって言いたくなる。でもダサいから必死に耐えた。すると、大丈夫?と蒼陽が俺の水を差しだしてきた。転生前の俺は、第三のビールくらいは飲める大人だったので、全然大丈夫ですけどって顔して、もう一口煽った。うん。強い。これ日本酒だね。値段が高いから買ったことないわ。
「……もういいや」
瓶を蒼陽に返して、慌てて水を飲んで口の中のお酒感を洗い流した。
「今度は、ジュース貰ってくるね」
蒼陽が上半身を倒して俺の顔を覗いてくる。左腕が俺の背中に回されていて……ドキッとした。いや、ビジュアルって凄い破壊力なんだね。美の暴力。俺は、蒼陽の貴公子っぷりに何だか楽しくなってきて、クスクス笑いが込み上げてきた。
「……ポチ?」
「あのさ、ふふっ……蒼陽、格好よすぎじゃない?なんなの…はは……」
目の前の蒼陽の綺麗な瞳が見開かれ、男らしい眉も弧を描いている。ビックリしているの?
「ポチ……お酒、駄目だったの?大丈夫?もっとお水飲んだ方がいいよ」
蒼陽が俺の水を手に取って、口元に持ってきた。
「酔ってない!お酒呑めるから大丈夫!お水は夜中おしっこしたくなるから飲まない!」
何でだろ?頭の中に色んな映像がいっぱい出てくる。忙しい感じ。ふと豹兒とトイレに行って豹兒のアレを、ソレした事を思い出した。
「一緒に行ってあげるよ」
さぁ、飲んでと頭を抑えられ、瓶を口に当てられたので、仕方なく水を飲む。水を飲みながら、蒼陽って、小説ではストイックだけど決して性的に無知じゃなかったと思うんだけど……まさか、もう色々経験済み?
それはそうだよね。こんなに輝く男をほっておくわけないよね。豹兒は周囲に人が居なすぎて、アレだったけど蒼陽の下野には人が一杯居るんだもんね。
そういえば……ジフやレッドを蹴落として、蒼陽と良い仲になっていた、あの金髪碧眼のメインヒーローは!?あの人、最初から蒼陽に軽いキスとか普通にしてたよね!?蒼陽は完全に相手にしてなかったけど。
「蒼陽!」
「なに?ポチ、どうしたの?」
甲斐甲斐しく俺の口元を指で拭っていた蒼陽は、俺の太ももの上に載っているサンドイッチを落ちないように、取り上げてラップを巻き直した。
「蒼陽は、下野に恋人とかいる?」
「いないよ」
蒼陽はいつもの爽やかなハリウッドスマイルだ。いや、きっと本人は誰とも付き合ってないつもりでも、周りの男は放っておいてない!だって外見が良くて、性格も優しくて、強くて、何でも出来る。えっ……マジで主人公じゃん。
「そんなわけ無い。蒼陽は……世界の中心だよ」
蒼陽の頬を両手で挟んで見つめ合った。ちゃんと言っておかないと。ジフやレッドが死んだりしないように、まじであの男と結ばれる原作ルートだけは駄目だ!
きっと主人公にとって凄く大切な人間になれば、ジフもレッドも生き残れるはず。残念ながら原作では……死んでも嘆いて貰えない位の位置づけだったんだよね……。
よし、俺は蒼陽をジフファミリーにズブズブに引き入れる!
「ポチ……熱烈だね……今度、酔ってない時に言って……」
彼の頬に当てた俺の手が、大きな手に包まれて蒼陽の唇まで誘導されて、掌にチュッとキスをされた。
「酔ってない!はは……くすぐったい。とにかく!蒼陽、下野に帰っても誰とも付きあわないでね」
男しか居ない世界でこんな事をいうのも妙だけどな。
「誰にも興味ないよ……俺は、一番叶えたい願いが、もう叶ったから、何も望まない」
ん?なにその汚れない心は。良い人すぎない?清らか過ぎない?なんか……結構欲望だらけの自分が恥ずかしくなってきたよ。というか、蒼陽の願いって、まさか俺?
自分を庇った幼馴染み生きてて良かったって話?良いのかな?
俺…本当に幼馴染み成り代わり転生なのか?それとも他人?分からないから悩ましい。
「蒼陽、心も綺麗すぎない?俺……いっぱいあるよ、したいこととか、欲しいものとか、昨日は仲間としょうもない喧嘩したし……」
蒼陽の手を振り払って俯く。酒のせいか頭がフラつく。
「何が欲しいの?どうして喧嘩したの?」
「んー、凄い甘い物食べたいし」
「うん」
「カレー食べたい」
「ふっ…」
「皆の役に立って、ポチすげぇなって言われたいし」
蒼陽の手が頭を撫で始めた。
「喧嘩は……雄っぱい戦争した」
「ちょっとまて……何戦争?」
「雄っぱいだよ」
どさくさに紛れて、蒼陽の雄っぱいに埋もれるべく、両手を広げた。蒼陽はサンドイッチをどかして俺を引き寄せてくれた。
トンと蒼陽の胸に頬がぶつかる。硬い。思ったよりも硬い。そして面積が広い。まさしく雄。豹兒のまだ完成前の少しの柔らかさを残した肉体と違うお胸。なんだろう、この安心感は。凄く眠くなる。
目が……開けてられない。意識が保てない。おやすみなさい。
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