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ジフと蒼陽の帰還
しおりを挟む次の日、昼過ぎに風が強くなってきたので急いで洗濯物を回収して建物の中に戻ろうとすると、ブォォォというバイクのエンジン音が聞こえてきた。
「レッド!!バイク!バイクの音がするよ!」
洗濯物のカゴを室内に置き、直ぐそこでドラム缶の中でイモを焼いていたレッドの肩をバシバシ叩いた。耳を済ませると、ちゃんと2台分の音がする。
「ジフと蒼陽が帰ってきた!」
俺は嬉しくて、嬉しくていてもたってもいられず、バリケードで囲んだ敷地の入り口に向かって走り出した。
「ポチ、気をつけてね」
後ろからレッドに声を掛けられ、一瞬だけ振り向いて手を振った。
ゲートまで来ると、いち早く音に気がついたのであろう豹兒が、既に扉を開けていた。
「豹兒!帰ってきたね、ジフと蒼陽帰ってきたね!」
とにかくテンションが上がって、豹兒の背中にむかって肩で何度も体当たりしたけれど、豹兒の体は一切ぶれず、足の一歩すら踏み出さないから、段々と目的が変わって、豹兒をふらつかせる為に両手で押したり、引っ張ったりした。
「……」
何やっているんだ、こいつ。そういう顔をしている。そうだね。息が切れてきたから、このへんで勘弁しておいてやるとしよう。俺は、バイクの姿が見えた頃、豹兒との戦いを辞めて、近づいてくるバイクを見つめた。
「格好いい!!」
「……」
大型のバイクに乗った、高身長で鍛えられた肉体の男、二人。まるで映画のワンシーンのようで、俺は興奮する観客の気分を味わった。
バイクは扉を抜け、俺と豹兒の前を数メートル走り去って停車した。バイクのエンジンが切られて、サイドスタンド側に少し傾き、二人の長い足が後ろに振り上げられて、地に足が付く。
ジフのヘルメットが外されて、無精髭が生えたジフの顔が覗く。
「ジ……ジフ……」
本当は大声を上げて飛びつきたかったんだけど、どうやら大きな怪我もなく、無事に帰ってきたジフを見たら、胸が一杯になって動けなかった。目に力を入れて堪えようとするのに、涙がボロボロ零れて止まらない。
「よぉ、犬。大人しくしてたか」
ヘルメットをハンドルに掛けて、黒い皮の手袋を外しながら、ジフが微笑んだ。相変わらず傷のせいで片方しか口角が上がっていない。
隣に停車した蒼陽も、メットを外してサングラスを取ると、俺に向かって爽やかに微笑んだ。
「ただいま、ポチ。何もなかった?」
俺は、ボロボロ泣きながら無言でジフの腰に抱きついた。
ジフは、外した手袋を「洗っとけ」と俺のポケットにつっこんだ。歩きだそうとするジフに離すまいと強く抱きつく。
「なんだよ、ちょっと出かけただけだろ、めんどくせぇな」
文句を言いながら、ジフは俺の背中を優しく一回だけ叩いた。
涙腺が崩壊して、思わず腕が緩んだら、ジフが歩き出してしまった。
「心配してくれたの?」
ジフの背中を目で追っていると、後ろから蒼陽にすっぽりと抱きしめられた。
俺の頭頂部に蒼陽のシャープな顎がのって、長い腕が肩の所から現れて視界が塞がる。密着すると蒼陽のデカさがリアルに感じられる。187㎝って何㎝だよ……しかも、腰の位置が明らかに高い。俺の腰に彼のアレがある……はず。股下2メートルか!
「……蒼陽、怪我は?」
斜め上を見上げると、蒼陽の秀麗なお顔がそこにある。彫りが深い。鼻が高い。肌が綺麗。それなのに、無邪気に歯を見せて笑ってしまうところ……まじで主人公感あって目が吸い寄せられる。圧倒的に、その場の中心になれる存在感だ。
「ないよ。かすり傷ひとつない。ちょっとくらい怪我して、ポチに心配して欲しかったけど、ジフは強いね。完璧だった。勉強させて貰ったよ」
こんなに屈託なく人を褒める蒼陽の爽やかさと、主人公にここまで言われるジフの強さ凄い。いやぁ……こんな美しい彫刻も真っ青なハンサムに、こんなに褒められたら、あの皮肉屋のジフだって惚れるのしょうがないかも。
「そうなんだ。良かった、二人が無事に帰ってきて」
ゾンビを倒したってことは、誰か人間が一人、完全な終わりを迎えたわけだけど……俺にとっては見知らぬ他人より、二人の方が大切だから、本当に良かったって思う。
「……良いね。帰りたい所があるって」
蒼陽の黒革の手袋が、俺の濡れた睫毛に触れて優しく涙を拭った。
「え?」
目を開けて蒼陽の方を振り向くと、先ほど胸元に挿したサングラスを俺の顔に掛けられた。超小顔の蒼陽のサングラス、ツルの所が顔にぶち当たるかと警戒したけど、ポチの顔には少し大きいくらいだった。ポチ……顔小さいな、と他人事の様に感じだ。それにしてもレンズが大きい。これ平凡な元の俺の顔だったら事故だからな。
「ポチ!」
門の施錠が終わった豹兒が走り寄ってきて、怒った声で俺の腕を引いた。
「…行こう」
豹兒は、あからさまに蒼陽を見ない。蒼陽は笑顔で此方を見ているけれど。
「あっ…ちょと……あ、おかえり、蒼陽!」
豹兒が歩き出したから、仕方なく足を動かし取り残される蒼陽に声を掛けた。
「……ただいま」
サングラスのレンズ越しに見る、薄暗い世界で、ちょっと眉毛がハの字になって力なく微笑んだ蒼陽の笑顔が、とても印象的で暫く俺の頭に焼き付いていた。
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