16 / 49
豹兒とポチの仲直り
しおりを挟むお互いにチラッと見ては視線を逸らすという、なんとなく気まずい夕食をすごして、夜になった。
今日の見張りは豹兒だ。俺も見張り出来れば良いんだけど、ゾンビ倒せない見張りは意味が無いから却下だってジフが言ってた。ゾンビ一体増えるだけだからなって。確かにそうだけど、毎晩一人だけグーグー寝るのも何となく気が引ける。
ベットに横になったら、深いため息が出た。
「仲直りしてくれば?」
上のベッドのレッドから声がかかった。その優しい声色に鼻がツンとする。
仲直り。仲直りか。
「……」
確かに、その方が良いかも。
だって……この世界は、明日も同じ日常が過ごせるって保証はない。こんな意味の分からない喧嘩をしたまま、お互いに何かあったら嫌だ。
「……俺、ちょっと行ってくる」
俺は室内に置いてあった裁縫箱を持って、ジフと使った会議室へ向かった。
暗い工場の中を歩くのも大分慣れて来た。突然感じる夜行性の鳥の鳴き声とかにはビックリするけど。
「……」
そっとドアをしめて、外の街灯の明かりに照らされた薄暗い部屋で椅子に座った。
「……はぁ」
なんだか全身から力が抜けた。
手足を投げ出して、ぼんやりと窓の外の夜空を見上げた。
今、感じているこの世界は、以前暮らしていた世界と同じなのに違うのが不思議だ。夜の暗さも、空気も、感覚も一緒なのに……。
何故だが、一人になって、不思議な気持ちになった。
別に元の世界に特別、未練は無いのだけど…。
俺の向こうでの人生って何だったのかな?と、ちょっと感傷的になる。家族も居ないし、特別仲の良い友人も居なかった。
むしろ……今の方が、ここでの生活の方が、よほど深い人間関係を築いている。
俺は、初めて友達と、しょうもない喧嘩をした。
冷静になってみると、只の馬鹿だ、俺。
雄っぱいだぜ、喧嘩の内容。雄っぱいで喧嘩。
「ははは…」
ふと、ジフや蒼陽は無事だろうかと心配になった。
怪我してないかな?ゾンビになったりしないかな。
早く帰ってきて、無事な姿を見せて欲しい。
「よし!」
お守りなんて、全然科学的じゃないけど、作らずにいられない。何かに縋らずにはいられない。
豹兒の事を想って、縫った。ずっと、元気でいて欲しい。また、下らない喧嘩をして、色んな話をしたい。
この世界は凄く怖い。
大切な人が、簡単に失われてしまうかもしれない。そんな所だ。
蒼陽のグループは、本当に分裂してゾンビになるの? でも、分裂しなかったら、ゾンビにならない?それとも、もっと沢山の人がゾンビになる?
考えれば考えるほど、ドツボにハマっていく。
「……できた」
黒の布に、フェルトで豹を作って付けたのだけど、これ……不細工な黒猫にしか見えない。
素晴らしきB級作品だ。自分で作っておいて何だけど、鼻で笑ってしまった。
俺は、ソレを持って立ち上がり、守衛室へと向かった。
□□□□□
出来る限り足音を立てないように、そっと歩いた。だけど、あと2メートルって所まで来て「ポチ?」と中から声がかかった。
「にゃー」
何だ、猫か作戦を発動してみたけど、言ってから酷く恥ずかしくなった。
これは、もう蒼陽のときに失敗しているしね。
「お疲れ、豹兒」
「……どうしたの」
俺が顔を覗かせると、豹兒は読んでいたであろう小説を閉じてテーブルに置いた。本当に豹兒って美形だよな。薄暗い部屋で手元に電池式のスタンドライト置いて静かに本を読んでいる姿とか……写真に撮ったら、もはや芸術だと思う。
豹兒は組んでいた足をはずして立ち上がった。
俺は、豹兒の視線から目を逸らしながら近づいた。恥ずかしくて、気まずくて左右に揺れつつ歩いてしまった。
「……はい」
さっき作ったお守りを手にのせて豹兒に差し出した。ちらっと目線だけで豹兒の顔を見上げる。豹兒は驚いたように目を見開いてから、微笑み、ポケットからは俺の腕輪が取り出された。しゃらりと伸びた腕輪がキラキラと輝いた。
俺が口を開いた巾着に豹兒がそっと腕輪を入れた。キュッと巾着の紐を引いて、広げられている豹兒の大きな掌の上に載せた。
「……有難う、ポチ」
豹兒が少し目を細めて、口元を緩めた。つられて俺も微笑んでしまった。俺達の間に流れる空気が気まずいものから、柔らかく温かいものに変わった。
「豹兒、怪我したりしないでね。俺、これからもずっと、豹兒と過ごしたい。一緒にトレーニングして、畑耕して、ご飯食べて、喧嘩したい」
「……ポチは…弱いから、俺は死なない」
なんて失礼な事を、と思ったけど事実だから口を噤む。豹兒はお守りを握りしめ、その手を見つめると、顔を寄せてきた。
「ポチ……俺の、ピアス取って」
そう言って、右耳を向けられたので、首を傾げながら豹兒の耳に手を伸ばし、ピンクのダイアのピアスを取った。それを右手で摘まんで、どうするの?と目の前に翳した。
「……入れて」
「うん」
豹兒が開いたお守りの中に、豹兒のピアスを入れた。
「……」
なぜか豹兒は、すごく嬉しそうだ。そして……俺は何だか妙に恥ずかしかった。
「ずっと一緒に、入れておく……きっと、コイツも楽しい……」
「……豹兒」
何だろう、顔から火が出そうなくらい、熱い。なんでだ?とにかく胸がムズムズする。ここに居たくない。恥ずかしい。
「お、俺!もう眠いし、戻るね!」
ぎこちなく手を上げて、もう帰りますよとアピールをした。
「…ここで寝れば」
「い、いい!レッドが心配するかもしれないし、走って戻る!じゃあね!」
俺は、逃げるように守衛室を走り去った。
22
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中
油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。
背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。
魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。
魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。
少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。
異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。
今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。
激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる