ゾンビBL小説の世界に転生した俺が、脇役に愛され過保護される話。【注、怖くないよ】

いんげん

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豹兒とポチの仲直り

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 お互いにチラッと見ては視線を逸らすという、なんとなく気まずい夕食をすごして、夜になった。

 今日の見張りは豹兒だ。俺も見張り出来れば良いんだけど、ゾンビ倒せない見張りは意味が無いから却下だってジフが言ってた。ゾンビ一体増えるだけだからなって。確かにそうだけど、毎晩一人だけグーグー寝るのも何となく気が引ける。

 ベットに横になったら、深いため息が出た。

「仲直りしてくれば?」

 上のベッドのレッドから声がかかった。その優しい声色に鼻がツンとする。
 仲直り。仲直りか。
「……」
 確かに、その方が良いかも。
 だって……この世界は、明日も同じ日常が過ごせるって保証はない。こんな意味の分からない喧嘩をしたまま、お互いに何かあったら嫌だ。

「……俺、ちょっと行ってくる」

 俺は室内に置いてあった裁縫箱を持って、ジフと使った会議室へ向かった。
 暗い工場の中を歩くのも大分慣れて来た。突然感じる夜行性の鳥の鳴き声とかにはビックリするけど。

「……」
 そっとドアをしめて、外の街灯の明かりに照らされた薄暗い部屋で椅子に座った。
「……はぁ」
 なんだか全身から力が抜けた。
 手足を投げ出して、ぼんやりと窓の外の夜空を見上げた。
 今、感じているこの世界は、以前暮らしていた世界と同じなのに違うのが不思議だ。夜の暗さも、空気も、感覚も一緒なのに……。
 何故だが、一人になって、不思議な気持ちになった。
 別に元の世界に特別、未練は無いのだけど…。
 俺の向こうでの人生って何だったのかな?と、ちょっと感傷的になる。家族も居ないし、特別仲の良い友人も居なかった。

 むしろ……今の方が、ここでの生活の方が、よほど深い人間関係を築いている。

 俺は、初めて友達と、しょうもない喧嘩をした。
 冷静になってみると、只の馬鹿だ、俺。
 雄っぱいだぜ、喧嘩の内容。雄っぱいで喧嘩。

「ははは…」

 ふと、ジフや蒼陽は無事だろうかと心配になった。
 怪我してないかな?ゾンビになったりしないかな。
 早く帰ってきて、無事な姿を見せて欲しい。

「よし!」

 お守りなんて、全然科学的じゃないけど、作らずにいられない。何かに縋らずにはいられない。
 豹兒の事を想って、縫った。ずっと、元気でいて欲しい。また、下らない喧嘩をして、色んな話をしたい。
 この世界は凄く怖い。
 大切な人が、簡単に失われてしまうかもしれない。そんな所だ。
 蒼陽のグループは、本当に分裂してゾンビになるの? でも、分裂しなかったら、ゾンビにならない?それとも、もっと沢山の人がゾンビになる?

 考えれば考えるほど、ドツボにハマっていく。

「……できた」
 黒の布に、フェルトで豹を作って付けたのだけど、これ……不細工な黒猫にしか見えない。
 素晴らしきB級作品だ。自分で作っておいて何だけど、鼻で笑ってしまった。
 俺は、ソレを持って立ち上がり、守衛室へと向かった。

□□□□□

 出来る限り足音を立てないように、そっと歩いた。だけど、あと2メートルって所まで来て「ポチ?」と中から声がかかった。

「にゃー」
 何だ、猫か作戦を発動してみたけど、言ってから酷く恥ずかしくなった。
 これは、もう蒼陽のときに失敗しているしね。

「お疲れ、豹兒」
「……どうしたの」
 
 俺が顔を覗かせると、豹兒は読んでいたであろう小説を閉じてテーブルに置いた。本当に豹兒って美形だよな。薄暗い部屋で手元に電池式のスタンドライト置いて静かに本を読んでいる姿とか……写真に撮ったら、もはや芸術だと思う。
 豹兒は組んでいた足をはずして立ち上がった。
 俺は、豹兒の視線から目を逸らしながら近づいた。恥ずかしくて、気まずくて左右に揺れつつ歩いてしまった。

「……はい」
 さっき作ったお守りを手にのせて豹兒に差し出した。ちらっと目線だけで豹兒の顔を見上げる。豹兒は驚いたように目を見開いてから、微笑み、ポケットからは俺の腕輪が取り出された。しゃらりと伸びた腕輪がキラキラと輝いた。
 俺が口を開いた巾着に豹兒がそっと腕輪を入れた。キュッと巾着の紐を引いて、広げられている豹兒の大きな掌の上に載せた。

「……有難う、ポチ」
 豹兒が少し目を細めて、口元を緩めた。つられて俺も微笑んでしまった。俺達の間に流れる空気が気まずいものから、柔らかく温かいものに変わった。
「豹兒、怪我したりしないでね。俺、これからもずっと、豹兒と過ごしたい。一緒にトレーニングして、畑耕して、ご飯食べて、喧嘩したい」
「……ポチは…弱いから、俺は死なない」
 なんて失礼な事を、と思ったけど事実だから口を噤む。豹兒はお守りを握りしめ、その手を見つめると、顔を寄せてきた。
「ポチ……俺の、ピアス取って」
 そう言って、右耳を向けられたので、首を傾げながら豹兒の耳に手を伸ばし、ピンクのダイアのピアスを取った。それを右手で摘まんで、どうするの?と目の前に翳した。
「……入れて」
「うん」
 豹兒が開いたお守りの中に、豹兒のピアスを入れた。
「……」
 なぜか豹兒は、すごく嬉しそうだ。そして……俺は何だか妙に恥ずかしかった。
「ずっと一緒に、入れておく……きっと、コイツも楽しい……」
「……豹兒」
 何だろう、顔から火が出そうなくらい、熱い。なんでだ?とにかく胸がムズムズする。ここに居たくない。恥ずかしい。
「お、俺!もう眠いし、戻るね!」
 ぎこちなく手を上げて、もう帰りますよとアピールをした。
「…ここで寝れば」 
「い、いい!レッドが心配するかもしれないし、走って戻る!じゃあね!」
 俺は、逃げるように守衛室を走り去った。







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