ゾンビBL小説の世界に転生した俺が、脇役に愛され過保護される話。【注、怖くないよ】

いんげん

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犬の学校

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 蒼陽を屋上から見送り、更に強くなった風に焦燥感を覚えながら台風の用意に勤しんだ。完全に守るエリアとガラスとか割れて、ゾンビが入って来ても良いエリアに分けて、此方側が戦闘をしやすいバリケードを作ったりして……いよいよ恐怖を感じた。
「ポチ……備えだから、大丈夫だ」
 明らかにビビっている俺に、豹兒が励ましの言葉をくれた。レッドとジフは夜に備えて今は仮眠中だ。俺と豹兒は、お握りを作っている。
「…うん」
「台風事態は分からないけど、ゾンビと戦うのはいつもの事だ」
「俺も……頑張る」
 もしも、ゾンビが現れたら。俺も此処の一員として戦わないと!まだゾンビを目の前で見たことないけど、しっかりしないと。
「……いや、ポチが近くで銃とか撃ったら、逆に全員、危ない。大人しく隠れて」
 ちょっと鼻で笑った豹兒が言った。豹兒が握ったお握りの横に俺のお握りを置いたら、サイズが全然違った。手のサイズが違うからかな?
「最近は的に当たるようになってきたよ。まぁ……緊張したらわからないけど…」
「俺達が、動けなくなったら……頑張って逃げてね」
「え?」
「ゾンビ化するスピードは人によって違うから。もしも、俺達がゾンビに噛まれて、すぐにゾンビになったら……ポチじゃ絶対勝てない。俺達が倒れたら、躊躇しないで逃げて。何処でも良い身を隠して、下野に逃げて」
 豹兒は、いつになく真剣な様子だ。
 もしも、きっとそんな時が来たら、俺は豹兒の言う通りに出来るだろうか?
「ジフもレッドも人間の間は最強の仲間だけど、ゾンビになったら……そうじゃない」
 豹兒の言葉が重い。確かにそうだ。最強の戦士は、ゾンビになれば最悪の敵になる。しかも……仲間だった時の姿でだ。あぁ…なんて残酷な世界なんだろう。彼らは、今までどんな過去を乗り越えて生きてきたんだろう。
「おいおい、豹兒の兄貴。しみったれた話して弟分をビビらしてんじゃねーぞ」
「……ジフ」
 大きな口であくびをしているジフが入って来た。ボリボリお腹も掻きながら。
「おい、犬!良いか、俺が今から特別に訓練をしてやる」
「え?」
 俺が座っている椅子の横に立ったジフをキョトンと見上げると、ジフはニヤニヤ笑いながら、俺の手を取って指に付いている米粒を食べた。すると、すかさず豹兒が濡れたふきんで俺の手を拭いた。豹兒……ジフはバイキンじゃないよ……。
「犬、伏せ!」
 床を指さしたジフが本物の犬に指示を出すように言った。
「は?え…あっ…」
 俺は困惑しながらも椅子から降りて、座った。
「お前はアホか?伏せだろ、お座りじゃない」
「えー、本気の?」
「当たり前だろ、伏せだ伏せ。ちゃんと腹ばいになれ。流れ弾に当たるぞ」
 その言葉を聞いて、からかわれているんじゃなくて、本当に訓練なんだと悟り、お腹を床につけて伏せた。でも、頭を上げてジフを見ていたから、頭も押しつけられた。
「よし、良い子だぜ」
 あれ?やっぱり遊ばれている?
「次、身を隠せは、手近な物の後ろに回れって事だ。そこら辺の物を倒してもいい」
「はい」
 直ぐ側の開いているドアの影に隠れた。
「厚さと強度も瞬時に計算できるようになれよ。その後の動きやすさもな」
「はい」
 ドアから顔をだして頷く。
「どっかに隠れてろは、迎えに来るまで大人しく何処かに隠れてろ。良いか、飼い主の指示は絶対だ。戻ってくるなと言われれば戻ってくるなよ」
「ちょっと待って!」
 俺はドアの影から抜け出し、精一杯背伸びをして、ジフのハーフアップの髪を掻き乱した。ジフの口元がピクピク動いて居る。
「てめぇ……訓練中に何しやがる」
「駄目だよ、やめて。不吉なフラグは立てないで!指示はちゃんと聞くから、フラグだけは折らせて!」
 駄目だ、そんな悲しい結末になりそうな話のまま終わるわけにはいかない。俺は、ガシッと逞しい肩を掴んだ。
「ジフも豹兒もレッドも、末永くずーーーっと、俺と此処で過ごして、後に俺がチーム最強の戦士になって、リーダーとなる!」
 そう宣言をすると、テーブルの向こう側にいる豹兒は、肘を口に当てて笑いを耐えている。ジフは、一瞬キョトンとしたあと「本当にお前は、馬鹿犬だな。飼い主の苦労が半端じゃねぇ」と苦笑いをした。その笑顔が何だか愛しくて、ちょっとキュンとした。


□□□□

 夜になると、雨風が強まってきた。
 俺と豹兒は、中庭側に窓がある部屋で避難。ジフはその廊下にバリケード付きのマイスペースを作り筋トレ中。レッドは階段前でLEDランプの明かりを頼りに漫画を読んでいる。外がゴウゴウと五月蠅いだけで意外とまったりとした時間が流れている。
「ポチ仮眠してないし、寝て良いよ。ここまで、来こられるゾンビ居ない」
 一緒に大きなソファに座っている豹兒がバスタオルを差し出してくれた。ソレを受け取って膝に置く。
「ドキドキして、眠れない」
 筋トレは、さっきやったし。蒼陽とレッドの分のお守りも作った。なぜか…豹兒に邪魔されたけど。眠れないけど、ずっと警戒していても仕方ない。どうしよう。
「あっ!豹兒って字はどうやって書くの?」
 この世界ってアジアの文字がごちゃ混ぜで、よく分からない。英語やローマ字はそのままっていう杜撰な設定だ。俺は、豹兒に向かって、教えて、教えてと左隣に座る豹兒に詰め寄って、左手を出した。
「……」
 豹兒は、すこし目尻の上がった目を見開き、少し考えた後で無言で書き始めた。掌の上をゆっくり動く豹兒の指がムズムズしてくすぐったくて、ふふふっと笑ってしまう。俺の手を下から支えてくれる手も何だか温かくて……字が頭に入ってこなかった。
「ちょっと待って、難しい。もう一回」
 今度は掌をもう少し顔に近づけた。
「……」
 ふっくらした唇を口の中に入れるように、豹兒は唇を噛んだ。あっ…これ、豹兒の癖っぽいよな。なんかクール可愛い。
「ゆっくりね。でも強くしないでね、痛いから」
「……」
 大きくため息をついた豹兒が、俺の手に漢字っぽいのを書いていく。でも画数多い!
「…あっ…駄目駄目、早い……訳わかんなくなる」
「……」
 豹兒が今度は、一回ずつ止めて分かりやすく書いてくれた。
「あー、あー、良い」
 分かった、ピンときた。今のはよく分かった。うんうん大きき頷くと、古いソファがギシギシ音を立てた。
「っ!!」
 突然、豹兒が俺の手を離して上を向いた。どうしたのか驚いて、豹兒を見ると真剣な顔をして廊下の方を見ているから、俺もそっちに視線を向けた。
「ジフ、どうしたの?」
 開いているドアの床すれすれの所から顔だけを出すという、気味の悪い格好をしているジフがいた。ライトでワザと顔だけ照らしているのが、またおかしい。寝っ転がって胸でライト持っているのかな?
「お前ら……いちゃつくな…」
「いちゃついてないよ、勉強だよ。豹兒の名前の字を教えて貰ってた」
「随分と新しい勉強法だな」
 どうした、ジフ。そっちで一人で寂しいのか暇なのか。よし、ここはジフの名前も覚えてあげようと思ってソファから腰を浮かそうとしたら、豹兒に腰を抱かれた。ん?あっ、勝手な配置変更は駄目でしたか?
「ジフ、何処かに隠れてください……戻らずに」
 おお!豹兒が冗談を言った!しかも、さっきのジフの発言のイジり!凄い!これは凄いことだ。
「豹兒!」
 俺は感動で豹兒の首に腕を回して飛びついた。ついに豹兒もクールを卒業?
「おまっ…おまえ……」
 匍匐前進で胸当たりまで見えるようになったジフが、ひょっとこみたいな面白い顔をしている。ライトで顔を照らすの辞めないのは気に入っているの?
「可愛くない……ある日やって来た馬鹿犬のせいで……弟分が可愛くない……うぅ…」 
 ジフは泣くフリをして、顔を隠している。
「豹兒、ジフ可哀想だから構ってあげて。俺、リラックスして眠くなってきた」
「……」
「豹兒くーん、俺の手にも字書いてよぉ。豹兒くんの名前が書けるようになりたいわぁ」
 ジフが、力(ちから)こぶモリモリの長い腕を差し出している。声がいつもより高いのが気持ち悪いけど、何だか二人のこのやりとり好きかも。思わずニコニコしてしまう。
「……はぁ、将棋と囲碁どっちにしますか」
 豹兒は、渋々立ち上がりソファの背に置いていた日本刀を持って立ち上がり、俺は、空いたスペースに横になった。
 すると抱えていたバスタオルが引き抜かれ、豹兒が俺に掛けてくれた。
「ポチ、おやすみ」
「……うん」
 今の豹兒、凄い大人ぽくって格好よかった。一人で大人になるのずるくない?よし……この台風騒ぎが落ち着いたら、もっと馬鹿なこと一緒にやるぞ。
「豹兒くん、俺も寒いからなにかかけてぇ」
 ノースリーブで床に転がっているジフが胸の前で腕をクロスしてふざけている。
「……俺より筋肉有りますよね……年ですか…」
「てめぇ、このやろう……大人の本気みせてやらぁ」
 仲いいなぁと、ほのぼのしながら俺は眠りに落ちた。






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