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兄弟盃

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お見舞いに行くのに、見舞い品がない。

渋るオルニスを何とか説き伏せて、外の人のお見舞いに行けることになったんだけど、お見舞いの品が無い。

オルニスとアガメルは、今日の僕のお出かけ服を選ぶのに、真剣な議論をしている。
どうせフードかぶるんだし、何でも良いじゃんと、兄弟のお下がりを着続けてきた前世の僕が言っているぞ。

まぁ、ふとした瞬間に鏡に映る自分は、二度見するほどの美少年だけど……美醜逆転世界だからなぁ…残念だ。

そうだ、話がそれた。

お見舞いの品だよ。


外の人は盗賊って言うのらしいけど、何が好きなのかな?
僕の貧困な盗賊イメージは、仮面をつけてきっちりしたタキシードみたいな服を着て…って、アガメル仮面じゃん。

まさか…アガメルの前職は、世界を股にかける怪盗!

あれだよ、後ろから襲いかかってもソイって投げ飛ばされるんだよね。

ちょっとやってみよう!


座っていたベッドから足を下ろして、サンダルを履く。

ゆっくり、こっそり二人の背後に近寄る。

「……」

ドキドキ

よく分からないけど、殺気ってやつを殺して、僕は空気になったつもりで歩く。

ぬき足、さし足、白身アジ。

アガメル仮面を射程距離に捉え、ガバッと後ろから、抱きついた!


「…チーロさま、どうなさいました?これはなんのご褒美でしょうか…」

「…あれ?」

全然ひっくり返されたりとか、吹っ飛ばされたりとか無かった。
普通にアガメルの背中に抱きつく事に成功した。
艶のある後ろで束ねた黒髪からいい匂いがする。

「…アガメル…いい匂い」

「……チーロ……なぜアガメルに抱きつく…後ろからのそんな抱擁…俺はされていないぞ……」

何故か隣に立つオルニスが、怖い顔で僕を見下ろしている。

「アガメル、何か隠すしてる」

きっと怪盗の七つ道具とか、色々体に仕込んで有るはずだ。
付け髭とか、鳩とか、トランプとか。

前に回した手を、そっと懐へと入れる。

ん?

手に当たったモノを引き抜いて、アガメルから離れた。

「…それは…まさか…」

オルニスが何か驚いている。
僕の手には、中心が白く周りが茶色のオルニスの羽根が握られている。

「オルニスの羽根?」

「…違う」

オルニスの抜け毛ならぬ、抜け毛羽根か?と思うけれど、否定された。
何だか突然二人の間に流れた、重苦しい雰囲気は何だ?!

えっ…やばいの?

オルニス…若くして毛が…もとい羽根が薄くなってきて、悩んでいるのを見かねたアガメルが、抜け羽根を拾って隠して処理してるとか、そういう感じ?!
だってこれ絶対にオルニスの羽根と同じだもん。

「…すみません…オルニスさま……預かっておりました…廃棄しようと思ったのですが……」

アガメルが頭を下げた。
アガメルの毛は艶々のふさふさだ。

僕の千葉時代の父は、前から行くタイプだった。
毎朝枕を確かめていたし、櫛には金をかけていた。

「…匂いで……その羽根がわかったのか?」

「…オルニスさま…」

いつもよりも切羽詰まった顔で僕の両肩を掴むオルニス。
ちょっと痛い…。

大丈夫!大丈夫だよ、オルニス!
抜け毛多い上に、加齢臭とかしないよ!!

「…この羽根…いい匂い……」

羽根の先を鼻に当てて、くんくんと嗅いでニッコリと微笑んだ。

「……チーロ…まさか……そんな…」

えっ…えっ?
どうした、オルニス!
鳥人間にとって、スカスカの羽根はそんなにかっこ悪いのか?

「…チーロ、オルニス好きよ、カッコイイ」

僕は茶色の羽根を、懐にしまうと、自分の羽根を、ブチッと抜いた。

「…っ…」

結構痛くて思わず声が出る。

「…チーロ?」

オルニスが驚いた顔で僕を見ている。
僕は自分の抜いた羽根を、オルニスの翼にくっつけるように、さした。

「……チーロ……お前の羽根を、俺にくれるのか?」

何故かオルニスの手が震えて、いたく感動している。
えっ…付け毛ならぬ、付け羽根で満足なの?

「チーロ、オルニスの番よ。チーロの羽根はオルニスに一杯あげる!」

兄弟だろう。遠慮しないで。
僕の兄さんも将来を心配してシャンプー高いの買ってたけど、時々僕にも貸してくれた。

僕がオルニスの役に立つなら、喜んで羽根くらい差し出すよ。

僕が、もう一本羽根を引き抜こうとすると、オルニスがその手を掴んだ。

「もういい…十分だ…お前の気持ちはわかった……ありがとう、チーロ」

オルニスの顔が近づいてきて、唇が僕のおでこ、鼻、ほっぺたに触れた。

は…恥ずかしい!
オルニスとあんなことをした映像が頭の中に再生された。

「もう行こう!」

外の人のお見舞いの品はとりあえず保留!
僕はオルニスの手を振り解いて、ドアへ向かった。
オルニスが翼から、僕の羽根を取って、愛おしそうに口づけをしている。

やめて!
なんだろう…すごく照れる!





後で聞いた話なんだけど、天人の番は、お互いの羽根を交換しあう事が、もっとも誠実な愛情表現なんだって。

兄弟盃みたいなもの?

鳥人間、結構ヤクザなの?


とにかく、オルニスの羽根、大事に持っているね。


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