あの時、君の側にいられたら 【恋愛小説】

いんげん

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第十話 ふわふわと、本業の射的ピューピュー

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「居た!探すまでもなく目立っているな、平。流石だ」
 飯島と、彼女に連行された岡前は、詠臣と寧々がやって来る三十分前から、現地にて彼らが現れるのを待っていた。
 そして、ついにその時が来た。

 詠臣の人より頭一つ飛び抜けた長身と、全身から漂うオーラが一般の客に埋没していない。例え後ろ姿でも目立っている。ただ、硬派すぎて冷酷に見える部分もあり、気さくに話しかけられる雰囲気がない。そのお陰で騒がれたりせずに、遠巻きから人の視線を集めている。

「うわー! 何だあれ! 相手の女性……とんでもないな……綺麗な子だなぁ、なぁ飯島」
 岡前が隣に立つ飯島に話かけた。すると飯島が岡前の胸ぐらを掴んだ。
「なんなの、あの女! ふわふわしやがって!」
「ふ…ふわふわって……お前に比べたら全人類の女子がふわふわしてるからな……」
 岡前は胸ぐらを掴まれたまま、飯島に向かって言い返した。

「あんな女一瞬で倒せるわ!」
「いや、戦うなよ……押しただけで死んじゃいそうだよ。というか、平らの好みが彼女なら、残念ながらお前に望みはない。お前はお前でいい女だから、評価してくれる男を見つけろ」
「私と彼女の何が違うのですか!」
「えっ……逆に何が同じなんだよ……見ろよ、あの品の良い美貌を。思わず守ってあげたくなる華奢な感じと、優しそうな笑顔。なにより、あの二人、メチャクチャお似合いだぞ……二人だけえげつないくらい顔が小さいし、輝きが違う。完全にアソコだけスクリーンの中だ」
 岡前は、何故だか誇らしい気持ちになり、流石我らの期待の星、平だと思った。

「岡前先輩、私だって十分綺麗かと」
 飯島は自分に自信があった。今まで実らなかった恋は、平だけだった。
「あー、そうだけどさぁ。まさに真逆だよな。トイプードルとドーベルマンみたいな、どっちも違ってどっちも良いだろ。男は平以外にも沢山居るって」
「私は、平先輩より良い男には、会ったことがありません。能力、頭脳、容姿、性格、全てを兼ね揃えた、あんなに魅力的な人が他にいますか⁉」
「いない」
 二人は見つめ合って大きく頷いた。二人も、同じ部隊の隊員たちも、みな平に魅了されていた。優秀で仲間思いな、すこしお堅い平に。

「あっ、でも……むかし、平が言ってたな、自分では何も敵わないと思った相手が居たって……」
「謙虚……平先輩ほどの人でも相手を立てるなんて……」
「おぉ! 見ろ飯島……平が……女性と手を繋いだ!」
「なんですって⁉」



 施設内には、少し古ぼけたゲームコーナーなどもあり、その付近には家族連れが多かった。
 コインを入れて乗用するパンダや消防車、パトカーなどや、コルクを詰めた射的、スパーボールすくい、輪投げがあった。
「懐かしいですね」
 手を繋いでいる為に、見上げた詠臣の顔が近くて恥ずかしい。
「寧々さん……こういうのをやられた事があるのですか?」
 詠臣が意外そうに寧々を見下ろした。

「はい、両親が健在の時は。父が射的に夢中になって、でも全然当たらなくて見かねた母が百発百中で素敵でした」
「平さんは?」
「うちは、男ばかり年子で四人の家だったので、出かけるのはいつもアウトドアでした。母が、人の多いところは収集がつかなくなるから嫌だと」
「それは、とても楽しそうですね!」
「どうでしょうか。私の下二人が行方不明にならないように必死でした」
「平さんが焦っている姿、想像がつきません」
「前回お会いした時は、最近では一番焦ってました。普通はお帰りになるでしょうが、まだいらしてくれて嬉しかったです」
 詠臣が寧々と繋いでいる手をギュッと握った。
(恥ずかしい……顔が熱いよ、平さんの目が見られない)

「ああー!また外れたよ!」
 二人の間の少し気恥ずかしいふんわりとした雰囲気の中に、射的コーナーの少年の声が入り込んできた。
 小学生低学年くらいの少年が、赤ちゃんを抱く母親に見守られ射的をしている。
 少年の狙いは、箱に入った赤ちゃん用のぴゅーっと音が鳴るウサギの人形のようだ。

「あと二発だ坊主、頑張れ」
 店主が笑いながら見守っている。
 少年が銃を構えて、再びコルクの玉を放ったが、景品には当たったものの、棚から落とさなければならないらしく、周囲からうなり声が漏れる。
「当たったのに!落ちない」
 寧々と詠臣も思わず見入ってしまった。
「後一発で終わりよ、もう一回は勘弁して」
 母親が赤ちゃんをあやしながら少年に声をかけた。
「ぜってー落とす!」

「……少年」
 意気込む少年に、詠臣が寧々の手を離し近づいていった。
そして耳元で景品を指さして何か話ながら、少年の銃を借りてコルクの栓を一度抜いて入れ直している。
「どうぞ」
 そして、銃を返すと、少年がお礼を言って銃を構えた。
 先ほどよりも、低く体を乗り出すように構えている。
 見守っていた人達は、突然現れた只者じゃない男に興味津々だったが、少年が銃を構えると、再び静かに見守った。

 コン、とコルクが景品に当たる小気味良い音が響き、景品がユラユラと揺れると、見守る人達の拳が握られた。
(落ちて!)
 スポーツの試合を観戦している気分になった寧々も祈るように手を組んだ。
「落ちろ!」
 少年が叫ぶと、丁度景品が倒れ、ウサギの玩具が棚から落ちた。
「よっしゃーーー‼」
 少年が叫び、周囲は歓喜に沸いた。
 寧々は、射的のゲームだというのに、ちょっと涙ぐんで手を叩いて喜んだ。
 店主も喜んで、やったな、などと少年を賞賛しながら景品を取りに駆けつけた。

「ありがと、おじちゃん!」
 少年は、悪気なく満面の笑みで詠臣を振り返った。詠臣もおじさん呼ばわりを気にする様子もなく、少しだけ口角をあげて微笑んだ。
 少年は景品を受け取ると、箱からむしり取るようにウサギを取り出して、赤ちゃんの前でウサギをつぶして音をだしている。不機嫌だった赤ちゃんのご機嫌は興味深い玩具の登場で急上昇し、きゃっきゃと笑っている。

「寧々さん?」
 少年達の様子に、感動の涙が流れてきた寧々を詠臣が、ぎょっとして見下ろしている。
「詠臣さんのアドバイスで沢山の幸せが訪れましたね」
「そ……そんな大げさな……」
 悪い気はしなかたが、あまりに壮大な話になって詠臣が苦笑する。

「すばらしいスポーツの大会を見た気分です」
「バイバイ、おじちゃん」
 少年が詠臣に向かって大きく手を振っている。その顔はとても満足そうだ。
 少年の母が、詠臣に向かって頭を下げて、三人が立ち去っていった。
 しばらくの間ピューピューとウサギの玩具の音が聞こえてきていた。
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