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第三十五話 巡り合う
しおりを挟む「それでは、行ってきます」
「はい。気をつけて下さいね」
「寧々も。病院の場所は大丈夫ですか? もし、具合が悪くなったら……」
到着した次の日の朝、出かける詠臣が、また心配症をこじらせ始めたので、寧々はその背中を押しながら、何度も聞いたので大丈夫ですと言った。
「私の事は大丈夫です。ちゃんと病院に行きます。言葉も色々話せるので、何か有れば近くの方に聞きますから」
「……では……」
まだまだ何か言い足りない様子の詠臣だったが、玄関のドアに手をかけて振り返った。
以前までは、ここでキスをするシーンだけど、もうすっかりしていない。
寧々は、寂しくて、つい詠臣の形の良い唇をじっと見つめたが、詠臣はそのまま出て行ってしまった。
「……」
思わず深いため息が出る。遙か昔に、キスして貰えないなら、自分からすれば良い、と言った美怜の言葉が思い出される。でも、離婚届を見て以来、そんな勇気が出なかった。どうにか、少しずつでも、また近づきたいけれど、詠臣にその気が無ければ……迷惑でしかないと思うと、怖かった。
それから、詠臣が予約をしてくれたSDI内の日本軍の病院を受診した。
事前にカルテが渡っていたので、怪我の経緯や経過も知っていて貰えていた。一通りの体調の確認をされて、傷の消毒と包帯を変えて貰えた。
切れた頭の傷もソロソロ治ると言われ、寧々は嬉しくなった。
(おでこの包帯って目立つし早く無くなるといいな……それにしても、日本は長袖の時期だったけど……こっちは南国だから半袖で……痣が目立って困るな)
SDIは医療費が無料のため会計もなく、すぐに用が済み、病院が入っている学校のようなコンクリートの建物から出た。青く高い空から降り注ぐ日差しが強くて、圧倒された。
そして、居住区に戻る途中、やはり多くの人にジロジロ見られた。
(そういえば、日本だと事故に遭った人扱いだったけど、ここだと私、負傷兵に見えるかな?)
「……あれ?」
通りかかった道に、石碑みたいなものがあり、足を止めると、そこには名前がびっしり書かれていた。
(これって……ここで亡くなった人の名前だ……)
寧々は、その石碑に見入った。上から順に、琳士の名前がない事を願いながら、丁寧に確認していった。
「……これって」
何度も、何度も確認をした。でも、そこには葉鳥 琳士の名前はなかった。
でも、代わりに葉鳥 匠の名前が載っていた。匠達が此処に来てから二年目の暦が書かれていた。
「……どういうこと?」
(あのキエト少佐は、匠さんだった……間違いない……)
寧々は石碑の前にあるベンチに座った。
石畳の足下を見つめながら、頭を働かせてみるけれど、正解など見いだせるはずもない。しばらく、そこで、思案していると、足下に誰かの影が差した。
「っ⁉」
つい、仁彌の事を想いだして、大袈裟に体が震えた。恐る恐る、その影の主を見上げた。
「……匠さん?」
「……お前……」
そこに立っていたのは、匠だった。今日は、非番なのか、ラフな半袖のシャツにスラックス姿で、前髪を作っていない短髪も撫でつけられていなかった。
匠は、眉間の皺を深くして凶悪な顔で寧々を見下ろしていた。
「何で、こんな所に居る」
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