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またとないチャンス
しおりを挟むラブは、ヘビと別れ、鼻歌を歌いながら居住区へ向かった。
途中、鍵の掛かる部屋から、寄り添ったアゲハと、イルカが出てきた。
アゲハは、今日もボディラインのハッキリと分かる服を着ている。
刈り上げた襟足からうなじ、露出された胸へは、つい目線が向かってしまう。
「アゲハ!」
「あー、ラブ。その服気に入ったのね。そればっかり着てない?」
アゲハは、ラブの白いワンピースを指さしてニヤリと笑った。
「うん。とってもお気に入りだよ。ありがとう」
「いいわ、また似たパターンで作ってあげる」
アゲハが、うんうんと頷くと、直線的なサイドの髪が波を作った。
「そこ、イルカのお部屋?」
居住区までは、少しあるが、イルカとアゲハから、ソープの良い匂いがしてきた。
ラブは疑問に思って首を傾げて聞いた。
「あれ? ご存じないのですか?」
イルカが、黒目がちな目を見開いた。
「ここは、繁殖のお部屋よ」
「繁殖の……お部屋?」
「まぁ、詳しい事はヘビに聞きなさいよ」
アゲハは、魅惑的に微笑んでイルカの胸に頭を寄せた。
「そういえば、ラブさん。アダムさんに、赤い実の話を聞きましたか?」
「あー、まだ諦めてなかったの? 赤い実」
「まだ、会ってないよ」
「そうですか、アダムさんが、ご存じだと良いですね」
「うん。その、アダムは……」
「あっ!」
ラブが、アダムの所在について尋ねようとすると、アゲハが声を上げた。
「そういえば、明後日は、イベントじゃない!」
「あー」
手を叩いたアゲハに、イルカが頷いた。
「何ソレ?」
「年に数回ある、イベントよ。今回は、くじ引きしてペアを作って、女たちの行きたい場所に、男達がエスコートするイベントよ」
AIは、人間達の繁殖のために必死に色んな機会を作っている。
過去の人類に習い、コロニーでは、いくつかのイベントがある。女性からアピールするイベント、男性からアピールするイベント、どちらも参加すると、そこそこの報酬が貰えるうえ、娯楽に飢えた人々は、楽しんで参加している。
「アダムが、赤い実のありかを知ってたら、イベントで、ソレを穫りに行きたいって、ペアになった男にお願いすれば?」
「う、うん」
「なにその、微妙な感じ。どうしたの?」
「……キボコが、男さんに求めすぎるなって」
「キボコに恋愛相談したの? キボコに? あの、キボコに?」
「凄いですね、ラブさん」
イルカとアゲハは、呆れたような驚いた顔でラブを見つめている。
「キボコ、良い事言ってた気がする。だから、ラブ、赤い実、赤い実っていうの暫くやめるの」
ラブは、ペコペコに空いているお腹を押さえた。
「じゃあ、イベントには参加しないの?」
「あっ、個人的に、そのアダムに、こっそり、お願いすれば良いのかな!」
ラブは、自らの閃きに歓喜して、両腕を突き上げた。
「いや、いや、いや駄目ですよ! ラブさん、ヘビさんが好きなら誤解させてしまいますよ。男女が二人っきりでお出かけですよ」
イルカがブルブルと首を振った。アゲハが、その顎を掴んで止めた。
「良いアイデアよ! 嫉妬と競争心を煽るのよ。ヘビの気持ちも確かめられるでしょ。コレは、またとないチャンスよ。とりあえず、アダムに聞いてきなさい。話は、それからよ……面白くなってきたわ」
「アゲハさん……」
イルカが情けない顔で言った。彼は、いつもアゲハに振り回され、遊ばれている。
「アダムは、いつも皆と食事しないから、夕食の時間になったらコロニーの出口前に行きなさい。何でも、恋人が来ないか外で見張りながら食事しているらしいわよ」
「わかった!」
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