時計仕掛けのダリア

クレシャス・ブレイク

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汗と油の青春

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汗と油の青春

「ただいま」
 帰宅すると、おいしそうなにおいがする。珍しく妻が料理を作ったのだろうか? 出産してから料理が徐々にできなくなり、今では夕飯は冷凍食品がほとんどだ。突け合わせの野菜は何とか切っているが……。
 さて、リビングに行ってみると、台所にはチキンの箱が置いてあった。フライドチキンの大手、ヤムヤム・フライド・チキン――通称YFCのものだ。
「今日はこれ食べたくて買ってきたのよ」
 そうですか……って、子供はまだ食べられないじゃないか。どうするんだ?
「あ、レトルトの離乳食あるから、用意して」
 レトルトか……別に否定するわけじゃないけどなあ。〇歳のとき、離乳食の野菜をゆでて冷凍したのは僕だし、子育てへの意欲がないのかな……。
 まあ、そんなこと言ったらまたへそを曲げるから言わないでいよ。

 それにしても懐かしい。僕は大学時代に三年半、このYFCでアルバイトをしていた。父親の会社が経営不振でボーナスがカットされ、大学の授業料が払えなくなった。そのため、奨学金とアルバイトの給料で学費を捻出していたのだ。おかげで何とか大学を卒業できた。
 大学で熱烈に何かを勉強したかったわけじゃない。とにかく、社会に出る前に「学歴」が必要だった。下に弟三人がいて、親を頼ることができないことは分かっていたから……。

 その日もダリア・クロックを使った僕は、その頃にタイムスリップしたような夢をみた。

「時任! チキン三トレイいってくれ!」
 ハッとした。ここは、自分がアルバイトしていたYFCの店じゃないか……。
 いや、ボーッとしている場合じゃない。副店長の指示があった。急いでチキンを揚げないと。僕は、慣れた手つきでチキンをつなぎの液に浸し、粉を付けた。三分以内でやれと言われているが、二分半でできる。ということは、バイトを始めて二年はたった頃か?
 油の入った電気釜に順番に入れて、密閉して圧力をかける。十五分たったらこれまた順番にできあがるので、トレイに移していく。ちなみに一トレイには三十六ピースが並ぶ。
「あっ、キチンだあ」
 女性の声がした。振り返ると、僕よりやや長身で、顔の彫りが深めの細い体。
「由希姉?」
 三村由希子……僕より一つ上のフリーターの女性で、二カ月前からカウンターのアルバイトをしている。最初はお互いに敬語だったが、バイト歴は僕の方が長く、年は由希姉が上なので、いつの間にかなれなれしいタメ口になっていた。ちなみに彼氏がいるらしい。
「おいしそう。食べたーい」
 由希姉は、僕の体に自分の体をピタッとくっつけてきた。そう、こんなところまでなれなれしいのだ、この人は。細身なので胸は小さめ……なんて言ったら、ボコボコにされるから言わんとこ。
「だめだめ、売り物だから。はい、どいてどいて」
「けちー」
 抗議を無視し、僕はチキンを保温用のキャビネットに入れる。
「お姉さんは、カウンターでせっせとチキンを売ってくださいな」
 由希姉の背中を押してカウンターに向かわせる。背中にあるブラジャーのホックが手に当たってドキっとした。
 時刻は十二時。そろそろ昼のピークだ。忙しくなるぞ。
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