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後篇
六浦綾音①
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その翌日。ダリア・クロックを使うと、とあるパーティ会場にいた。
(あれ、ここは……)
そうだ、会社の同僚の結婚式があって、その二次会に出たんだっけ。営業部の男性と製版部の女性のカップルで、会社のみんなでお祝いしたんだった。
「トッキー、飲んでいる?」
またまた藍さんである。少し落ち着いたデザインのゲストドレスを着ている……露出は相変わらず高い。おいしそうにワイングラスを傾けていた。バイキング形式で、座る場所も自由だからいろいろな人と話せる。
「ねえ時任くん、ちょっといいかな?」
横から声を掛けられた。目が少しつり上がっているが、顔立ちのかわいい女性だ。総務部の六浦綾音さんである。いつも明るくて元気で、男性陣から人気がある。元ヤンといううわさもあるが、それも気にならないほど魅力がある。
「後ろ、変じゃない?」
六浦さんは後頭部を僕に向けた。髪が乱れていないかを気にしていたのだろう。
「これから余興で歌を歌うから……」
「うん、大丈夫大丈夫。変じゃないよ」
僕が笑顔で言うと…六浦さんは仏頂面で言い放った。
「そこはさ、『きれいだよ』って言うところでしょ!?」
そう言い残すと去っていった。え、何か失言しました?
「あんたは女心が分かってないねー」
藍さんがニヤリとしながらおかわりのビールを飲み始める。
「え、でも付き合ってもいないのに、おかしいでしょ」
「女はね、自分をほめてくれる言葉に弱いのよ」
そうですか、はいはい勉強になりました。
しかし不可解なのが、その後も隣の席に座られ「何なの、大丈夫って!」と文句を言われたことだ。彼女はアルコールが苦手らしく、ソフトドリンクを飲んでいる。ソフトドリンクでここまでくだを巻けるのも珍しい。
それにしても、六浦さんが歌った余興の歌は上手だった。十代の頃にバンドのボーカルをやっていたことがあるそうで、納得した。
そんなこんなで、二次会はおひらきとなり、皆で店を出る時間となった。
「トッキー、一緒に帰ろう」
藍さんが近寄る。帰る方向が同じ……というより、家が近所なのでこうなるのは必然である。
すると六浦さんもやってきて、「私も同じ方向なんで、一緒にいいですか?」と言ってきた。
三人で歩くと、結婚についての話になった。この時、三人とも独身の時期という設定である。
「結婚っていいなー、私も結婚したい」
「ですよねー憧れちゃう」
うっとりする二人を尻目に(そんな甘いもんじゃない)と思ってしまう。ここは仮想空間で、実際には自分が結婚していることを覚えている。未来からタイムスリップしてきたようなものだ。結婚したら、毎日家事があり、子供が生まれると二十四時間体制でお世話をする。夫婦が心を一つにできればいいが、完全に一致することはまずない。ささいな考えの違いが亀裂を生み、取り返しのつかない溝になることもあると、身をもって学んだ。
思えば、独身の頃は夢だけを見ていたなあ……。
「それにしても…」
と、六浦さんが僕をじっと見つめる。
「時任さんって、けっこうイケメンで性格もよくて仕事もできるのに、女心が分かっていないのが残念ですよね」
鋭い指摘だ。
「ホント、トッキーってちょっと残念よねー」
はいはい、そうですか……あれ? 六浦さん、顔赤くない?
「ふーっ、間違ってお酒飲んじゃって、酔っちゃったんですー」
フラフラして僕に寄りかかってきた。
「ちょ、大丈夫?」
「六浦ちゃん、お酒だめなのに……ちょっと、そこのコンビニで水買ってきてあげる」
藍さんがすぐそばのコンビニに入っていった。
すると、六浦さんは僕の手をつかみ、引っ張っていく。
「ど、どうしたの?」
「私、酔うとちょっとおかしくなるんですけど、付き合ってくれますか?」
腕をからませ、胸を押しつけてきた。その先には――ホテルがあった。
(あれ、ここは……)
そうだ、会社の同僚の結婚式があって、その二次会に出たんだっけ。営業部の男性と製版部の女性のカップルで、会社のみんなでお祝いしたんだった。
「トッキー、飲んでいる?」
またまた藍さんである。少し落ち着いたデザインのゲストドレスを着ている……露出は相変わらず高い。おいしそうにワイングラスを傾けていた。バイキング形式で、座る場所も自由だからいろいろな人と話せる。
「ねえ時任くん、ちょっといいかな?」
横から声を掛けられた。目が少しつり上がっているが、顔立ちのかわいい女性だ。総務部の六浦綾音さんである。いつも明るくて元気で、男性陣から人気がある。元ヤンといううわさもあるが、それも気にならないほど魅力がある。
「後ろ、変じゃない?」
六浦さんは後頭部を僕に向けた。髪が乱れていないかを気にしていたのだろう。
「これから余興で歌を歌うから……」
「うん、大丈夫大丈夫。変じゃないよ」
僕が笑顔で言うと…六浦さんは仏頂面で言い放った。
「そこはさ、『きれいだよ』って言うところでしょ!?」
そう言い残すと去っていった。え、何か失言しました?
「あんたは女心が分かってないねー」
藍さんがニヤリとしながらおかわりのビールを飲み始める。
「え、でも付き合ってもいないのに、おかしいでしょ」
「女はね、自分をほめてくれる言葉に弱いのよ」
そうですか、はいはい勉強になりました。
しかし不可解なのが、その後も隣の席に座られ「何なの、大丈夫って!」と文句を言われたことだ。彼女はアルコールが苦手らしく、ソフトドリンクを飲んでいる。ソフトドリンクでここまでくだを巻けるのも珍しい。
それにしても、六浦さんが歌った余興の歌は上手だった。十代の頃にバンドのボーカルをやっていたことがあるそうで、納得した。
そんなこんなで、二次会はおひらきとなり、皆で店を出る時間となった。
「トッキー、一緒に帰ろう」
藍さんが近寄る。帰る方向が同じ……というより、家が近所なのでこうなるのは必然である。
すると六浦さんもやってきて、「私も同じ方向なんで、一緒にいいですか?」と言ってきた。
三人で歩くと、結婚についての話になった。この時、三人とも独身の時期という設定である。
「結婚っていいなー、私も結婚したい」
「ですよねー憧れちゃう」
うっとりする二人を尻目に(そんな甘いもんじゃない)と思ってしまう。ここは仮想空間で、実際には自分が結婚していることを覚えている。未来からタイムスリップしてきたようなものだ。結婚したら、毎日家事があり、子供が生まれると二十四時間体制でお世話をする。夫婦が心を一つにできればいいが、完全に一致することはまずない。ささいな考えの違いが亀裂を生み、取り返しのつかない溝になることもあると、身をもって学んだ。
思えば、独身の頃は夢だけを見ていたなあ……。
「それにしても…」
と、六浦さんが僕をじっと見つめる。
「時任さんって、けっこうイケメンで性格もよくて仕事もできるのに、女心が分かっていないのが残念ですよね」
鋭い指摘だ。
「ホント、トッキーってちょっと残念よねー」
はいはい、そうですか……あれ? 六浦さん、顔赤くない?
「ふーっ、間違ってお酒飲んじゃって、酔っちゃったんですー」
フラフラして僕に寄りかかってきた。
「ちょ、大丈夫?」
「六浦ちゃん、お酒だめなのに……ちょっと、そこのコンビニで水買ってきてあげる」
藍さんがすぐそばのコンビニに入っていった。
すると、六浦さんは僕の手をつかみ、引っ張っていく。
「ど、どうしたの?」
「私、酔うとちょっとおかしくなるんですけど、付き合ってくれますか?」
腕をからませ、胸を押しつけてきた。その先には――ホテルがあった。
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