愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第40話『斬ってしまいましょう!』

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 ルヴィエの他にも、傭兵団の生き残りがいた。それだけでなく、奴は魔獣を従えるような動きを見せている。
 混乱しつつも、体はしっかりと危険に反応していた。ブレイダを持っている間は特に、戦いの空気に敏感になるような感覚がある。

「どういうことだ!」

 一頭の魔獣を斬り捨てつつ、リュールは叫んだ。当のジルは、にやにやといやらしい笑みを浮かべ続けている。

「わかるだろぉ?」

 魔獣を盾にするようにして、ジルが接近する。蛇のような腕をしならせ、リュールに向けて短剣を振る。

「ちっ!」

 リュールは咄嗟に重量を増したブレイダで、黒紫の刃を受け止めようと構えた。軽いままでは弾かれることを想定しての対応だ。
 逆に弾き返し、腹に蹴りの一発をお見舞するつもりでいた。しかし、ジルの動きは想像以上に速かった。
 ブレイダに接触する直前、短剣は軌道を変えた。リュールの心臓をめがけ、真っ直ぐに突き出される。いくら軽い短剣といえども、この動きは予想できなかった。まるで、重さが無いようにすら感じられた。

「くっ!」

 瞬間、リュールは体を捻る。なんとか心臓は避けたが、胸から肩にかけて浅く切り裂かれた。かろうじて残っていた革の胸当てを無視するような、鋭い切れ味だった。
 ジルの短剣は、再び奇妙な動きでリュールに向かう。体勢を崩しつつも、なんとかブレイダの剣身で受け止めた。

『やらせません!』
『死ね』

 白銀の刃と黒紫の刃が接触した瞬間、リュールの耳にふたつの声が聞こえてきた。ひとつは今となっては聞き慣れたブレイダの声だ。そして、もうひとつは知らない女の低い声。
 間合いを取るため、後方に飛び下がる。一瞬の攻防で、リュールの疑念は確信に変わった。

『リュール様、あの短剣!』
「だろうな」

 胸の傷からは、未だ血が滴り続けている。徐々に塞がってきているが、その速度はこれまでの傷よりも遅い。
 あれは間違いなくブレイダの同類だ。レピアとも同じく、名を呼べば人の姿になるだろう。
 
『後ろです!』
「おう」

 三方向から飛びかかる魔獣を、一振で葬る。ただの魔獣では、もはやリュールとブレイダの敵ではない。

「あ、ようやく気付いたかぁ?」

 そのタイミングを狙ってくるのはわかっていた。リュールは体勢を低くし、敢えてジルに向け突っ込んだ。
 短剣が頬をかすめるが、気にすることではない。ブレイダを持っていない左の掌を突き出し、ジルの顔面を捉えた。

「ふん!」

 全力で頭を握りつつ、そのまま地面に叩きつける。

「ぎゃっ!」

 醜い悲鳴が上がり、鼻の骨が折れたような感触が伝わるが無視をした。意思のある剣を持った者に、この程度の怪我にさほど意味はない。その証拠に、掌に鼻の感触が戻りつつあった。
 ただしそれも、奴が右手に握っている短剣があればこそだ。敵意を向けるのであれば、かつての仲間でも容赦する気はなかった。

『斬ってしまいましょう!』
「だな」

 ブレイダの提案のまま、リュールはジルの右肘から先を斬り落とした。

「ああああああああ!」

 月明かりの中、ジルの絶叫が響き渡る。

「おい、死にたくなかったら全部説明しろ。あと町への攻撃をやめろ」

 ジルの右腋を左手で握り、簡単に止血する。このまま放っておけば、間もなく失血で命を落とすだろう。

「て、てめぇ、殺して、や」
「あ?」

 こちらを睨みつけるジルの顔、リュールは勢いを付けて頭突きする。完全に潰れた鼻から血が吹き出した。

『リュール様!』
「ああ」

 後ろから飛びかかる魔獣を気配だけで認識し、ブレイダを振る。獣の悲鳴と撒き散らされる血の臭いが、リュールをより研ぎ澄ますようだった。

「あ、ゆる、し」
「うるせぇな」
『殺っちゃいますか』
「もう話せなさそうだしな」

 こんな奴を相手にするよりも、町に急がねばならない。リュールは左手の力を抜き、立ち上がる。
 地面に転がるジルは、大量の血を流し意識が朦朧としているようだった。

「リ、リュ……」
「黙れ」
『永遠に!』

 リュールはジルの心臓にブレイダを突き立てようと振り上げた。

「ちょっと待ってくれ、リュール」

 暗がりから、リュールを呼ぶ声。ブレイダを振り上げたまま、リュールは声の主に目を向けた。

「そりゃ、そうだよな」

 親友の手には大剣が握られていた。闇に溶け込むような黒紫の刃は、重さなど無いように見えた。
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