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第4章 仲間殺し

第56話『私は大丈夫です!』

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 真意を問いただすにしても、まずは目の前の相手を無力化しなければならない。ゴウトの踏み込みは人が反応できる速度を超えていた。それでも、今のリュールならば避けることは難しくなかった。
 低い姿勢のまま、体を左に回転させる。顔のすぐ横を黒紫の斧が通過していった。

『くらえ!』

 回転の勢いを利用し、ゴウトの足首を払うように最軽量のブレイダを振る。初撃で倒せそうにない相手であれば、足を狙う。これも彼から教わったことだ。
 足首の切断を狙った白銀の刃は、目標の直前で停止する。地面に突き立てられた斧槍の柄が、ブレイダを防いでいた。

「やるようになったな」
『まだまだ甘いがな』

 感心するように呟くゴウトの声と、槍斧となった少女の声が聞こえる。ブレイダと接触している間は、武具の声も届く。これで、お互いの場所が把握できるようになったはずだ。

「こいつは、どうかな」

 柄を回転させ、ブレイダを弾く。流れるような動作で横振りされる槍斧が、リュールの胴を右から狙う。 
 先程よりも速い。恐らく軽量化している。それでも、対応できない攻撃ではない。
 後方に避けるのが簡単だが、それでは奴の思うつぼだ。黒紫の斧槍はブレイダよりも長い。距離を取られれば、リュールにとって不利となる。

『だから、こうです!』

 リュールは一歩踏み込み、柄を掴んだ。至近距離になれば、先端にしか刃のない武器は脅威にならない。

「よう、ちゃんと話してくれよ」
『わしを掴むとは、失礼な小僧!』
『失礼なのはどっちですか!』
「うむ、思い切りもよくなった」

 満足気に頷いたゴウトは、リュールの腹を押すように蹴りつけた。単純な筋力ではゴウトに分があった。力負けしたリュールは、柄を手放し押しのけれられてしまう。

 体勢を崩したリュールに向かい、再度斧槍が振り下ろされる。避ける余裕はない。ブレイダで受け止めるべきか、判断に迷う。
 ゴウトの振り下ろしは、まともな剣では受け止めきれずに折れてしまうほどの威力だ。ブレイダの強度で耐えきれるかどうか、自信がなかった。

『リュール様! 私は大丈夫です!』
「ああ!」

 重い一撃を、何とかブレイダで受け止める。大丈夫との言葉通り、彼女の剣身は折れることなくリュールを守った。ただし、それを支える腕が悲鳴をあげている。

「お前の実力はわかった。成長してくれていて嬉しいよ。その剣とも良い関係だ」
「だから何だ?」
『物分りの悪い小僧だな』
『リュール様に、失礼な!』
「その剣には、伝わってるはずだよ」

 ゴウトは軽く飛び退き、リュールから距離をとった。口元には笑みが浮かんでいる。優しげな眼差しは消えていた。

「是が非でも、仲間になってもらう。その力、欲しているよ。明日の夜にまた会おう。全て説明してやる」
「逃げるのか?」
「今日は挨拶のつもりだったのでな。歓迎の準備をしておくよ。行こう、スクア」

 ゴウトは少女と共に、踵を返した。このまま立ち去るつもりらしい。

「行かせるか!」
『逃がしません!』

 後を追おうとしたリュールは、周囲に複数の気配を感じた。人型の魔獣が最低でも十体。これまで気が付かなかったのではなく、突然現れたような感覚だった。
 油断していたわけではない。ジル戦の経験から、ゴウトと刃を交わしている間も伏兵には気を配っていた。

「そいつらは置き土産だ。前菜みたいなものだな。楽しんでくれ」
「またな、生意気な小僧」

 豪快な笑い声をあげながら、ゴウトはスクアと呼んだ少女と共に姿を消した。

「ちっ」
『あの人を殺るかどうか、後ほど考えましょう。私としては殺りたいです』
「考えておこう」
『それと、お話があります』
「わかった、後で聞こう」
『はいっ!』

 リュールは人型魔獣に向け、八つ当たりすることを決めた。
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