溺愛攻め×ツンデレ受け

のんさん

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甘い夜

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(小鳥遊視点)

「明日休みだったよね?」

隣に座る恋人の仁坂に聞かれ、うんと短く答える。

「どこ行きたい?遠くても車出すけど」

前は僕の希望に付き合ってもらったし、という仁坂に「ここ」と手に持っていたスマホを見せる。

「ああ、前にテレビでやってたケーキ屋か。本当に小鳥遊甘いもの好きだよね」

「ん……ちょっと早くから出発して昼飯はこのケーキ屋の近くにある蕎麦屋に行こうぜ。で、デザートにここのケーキを買って帰る」

お前蕎麦好きだろ、と言うと「大好き」と頬に軽くキスをされた。
突然のことに思わず頬をばっと抑える。

「………よく恥ずかしげもなくそういうこと出来るな。その顔面じゃなきゃドン引かれる行動だぞ」

キスをされたところからじわっと熱が広がるような感覚。
それを隠すためにわざとぶっきらぼうに言うとその全てを見透かすようにクスクス笑われた。

大学時代に出会った仁坂とはもう5年の付き合いになる。同棲も始めて半年を過ぎた。
今さら照れるようなことなんて何も無いと頭では分かっていても顔は勝手に熱を帯びていくし、絶対口には出さないがこういう何気ないやりとりとスキンシップが俺はたまらなく好きだった。
そして仁坂は俺が絶対に口に出さない部分を知った上でこういうことをしてくる男だった。


🎼.•*¨*•.¸¸🎶🎼.•*¨*•.¸¸🎶


明日の予定の話に甘い空気がまじり始めたその時、風呂が沸いたことを知らせるアラームが鳴った。

「あ、風呂沸いた」

止めてくる、とソファから立ち上がり風呂場のほうに向かう仁坂に「……そのまま入れば」と声をかけた。

「え、いいの?」

仁坂が足を止めて振り向く。

「いいよ、昨日は俺が先に入ったし。冷める前にお互い早く済ませちまおうぜ」


「じゃあお言葉に甘えて──あ、一緒に入る?」

からかうような口調と笑みで聞いてくる仁坂にアホなこと言ってないで早く入れ、とつっけどんに言いふいっと顔を背けた。
顔の熱を冷ますために1人になれる時間が欲しかった。

「つれないなあ………ま、いいや。じゃあ続きはお互い風呂から上がった後にベッドでね」

そう言って鼻歌を歌いながら風呂場に向かう仁坂の背にチラッと視線を向ける。

仁坂の金に近い派手な髪色は優しい口調とのギャップがすごい。そして今年で25歳になるのにその派手な髪がガキっぽくもチャラくもならずよく似合っているのはモデルのように整った容姿と美容師として魅せ方をよく知っているからだ。

("ベッドで"……か)

仁坂の言葉を反芻する。
ベッドで続き、なんて言われたら一般的にセックスを想像する人も多いだろうが、仁坂の言う続きとはキスやハグのことを指していた。

俺も仁坂もセックスはあまり積極的にしたいとは思うほうではなく、5年の付き合いの中でしたのは2回ほど。
同棲を始めてからは1回も無い。代わりにキスとハグは毎晩していたしそれでお互い満たされていた。

────でも最近、もう少し触ってほしいと思う自分がいる。

セックスをしたいというよりは言葉通りお互いの身体をただ触り合ったり、1~2回の軽いキスじゃなくもっと深いキスを何回もして欲しかった。
毎晩ハグとキスをしていると言ってもそれはお互い残業が無かった時に限るし、最近は仕事の時間のズレですれ違うことも多かった。
休みの日に一緒に出かけたり出来ることも嬉しかったが、もっと甘えたいという気持ちも大きくなってくる。

やっぱり照れないで一緒に風呂入れば良かったかもと考えながらスマホに視線を戻した。
さっきまで開いていた店の情報ページを閉じ「恋人 スキンシップ」という今どき高校生ですら調べないような内容を検索する。

手を繋ぐ、バックハグ、キスマークをつける……どれも経験はあったが最近は全くやっていない。
仁坂にされているところを想像してしまいせっかく冷めた顔の熱がまた広がっていくのを感じた────今度は全身に。

他にも色々見ていくと『肩もみなどの軽いマッサージから自然なボディタッチに♡』という記事を見つけた。
これ良いな、とさらに続きを読んでいく。たくさん触れられるし、触れてもらえる。

もっと他にも……と画面をスクロールしていると
「──なし、小鳥遊」と耳元で名前を呼ばれた。
思わずスマホを伏せるのも忘れて振り向くと後ろに風呂上がりの仁坂が濡れた髪をタオルで拭きながら立っていた。

「さっきから何回も呼んでるんだけど。そんな熱心に何見てんの?」

ダメ、と制止するより仁坂が俺のスマホを覗き込むほうが早かった。

「………………………いちゃいちゃしたいの?」

俺のスマホ画面を3秒ほど見つめた仁坂の言葉に俺は全身がカッと今までの比じゃないくらい熱くなるのを感じた。

「っ………………………」

違…………わないけど言い方ってものがある、と恥ずかしさをこえて今すぐ消えたい気持ちで顔を背ける。

「………小鳥遊、風呂入りなよ」

仁坂の言葉を無視して現実をシャットアウトするようにぎゅっと目を瞑りどうやってこの恥ずかしい記憶を抹消するかと本気でぐるぐる考えていると

「んっ……………!」

柔らかい唇の感触に思わず目を開けた。
それに驚いている暇もなく仁坂の熱い舌が口内に入り込んでくる。

「んん………はっ………ぁ………」

ずっと待ち望んでいた気持ちよさに理性とさっきまでの恥ずかしさが溶けていく。
そのまま気持ちよさに身を預けていると息苦しくなる直前で仁坂の唇が離れていった。
もっとして欲しくてぼんやりした頭で仁坂のほうへ手をのばすとその手をふんわりと優しく握られた。

「風呂から上がったら──小鳥遊がしたいこと全部、一緒にしよう?」




─────────────────



期待しながら風呂から出るとドライヤーを持った仁坂がベッドで待っていた。
乾かしてあげる、と言い仁坂は俺の髪にドライヤーをあてていった。

「………もう乾いたんじゃね」

「もうちょっと。ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ」

髪に触れる手が心地良い反面、風呂に入る前の『続き』を早くして欲しいともどかしい気持ちもわいてくる。
しかし真剣に俺の髪を乾かしている仁坂をみているとそう思っているのが自分だけなような気がしてきて、して欲しいと素直にねだるのは恥ずかしかった。

「──────よし、終わった」

5分ほどして仁坂の手が離れていく。
チラッと振り向いて仁坂のほうを見るとドライヤーを片付け、代わりにボディクリームを手に持っていた。

「………?俺、クリームなんて塗らないけど」

「保湿はした方が良いよ。塗ってあげるからこっち来て」

そう言うと自分の胡座をかいた足をぽんぽんと叩いた。
迷いながらも背中を向けて腰をおろすと腕がのびてきてすっぽり包まれる。

「………今日なんでそんな世話焼きなんだよ」

間近に感じる恋人の吐息から必死に意識をそらしながらそう尋ねる。
いつも髪はお互い自分で乾かすし、ボディクリームなんて仕事上保湿が必要な仁坂は普段からマメに使っていたがそれを俺にも勧めてきたことはなかった。

「いちゃいちゃしたいのは僕も同じだから」

俺の指1本1本にクリームを塗り込みながら仁坂はそう答えた。

その答えを聞いて髪を乾かされている時から『続き』は始まっていたことを理解し一気に顔が熱くなっていくのを感じた。

「……………………ほんと?」

見上げると仁坂は「本当だよ」と微笑みながら俺の手に自分の手を重ねた。


─────────────────

(仁坂視点)


手をぎゅっと握りながら、何からしたい?と耳もとで囁くと小鳥遊の身体が少し震えたのが分かった。とろんとした目で見上げてくる。
それでもまだ恥ずかしさが残っているのか一瞬チラッと僕の唇に向けた視線はすぐに逸らしてしまった。

「言わないと勝手に色々しちゃうよ」

小鳥遊の返事を聞く前にクリームを塗り終えた手のひらを人差し指で円を描くようにくるくる撫でるとビクッとさっきより大きく肩が震えた。

「………っ………んっ………それ、やだっ………」

「嫌じゃないよね?撫でられるの好きでしょ」

気持ち良いの間違いだよねと言い今度は赤くなった耳に口付けそのまま耳たぶに少し舌を這わせた。

「ふっ………ぅあ、ぁっ………や、なんで……いつもそんなとこ触んないのに……」

泣きそうな顔で甘い声をあげられると、今すぐぐずぐずに甘やかしたい気持ちともう少しこの反応を見ていたい気持ちがせめぎ合う。

「じゃあ何して欲しいかちゃんと言って?」

「んっ………ちゅーして………」

そう言うと身体の向きを変え、正面からぎゅっと抱きついてきた。
可愛すぎる、と思いながらその唇に口付ける。

「はっ………ぁっ…………すき……もっと………」

「大好きなキスでとろとろになっちゃったね」

そう言いながら小鳥遊のふわっとした黒髪を撫でる。
潤んだ目もりんごみたいに赤く染まった頬もキスを待って少し開けている唇も、全部が愛おしかった。

舌を入れ深いキスをすると既に密着している身体をさらに擦り寄せてきた。

大好きだよ、とキスの合間に囁く。

「っ………おれも、だいすき……にさかぁ……」

蕩けた声と表情をもっと見ていたくてキスを繰り返す。

甘い時間は朝まで続いた。
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