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星の石
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T/昭和7年冬の初め。信州富士見高原。のどかな田園風景が広がる乙事のとある地区。網倉家の畑、近くにツタキの生家がある。網倉ツタキ(13)、大量の野沢菜とトウモロコシなどをびくに入れて畑から出て家の中にin
家の中では網倉薫(12)、網倉颯太(11)、囲炉裏の側で宿題をする。ツタキin
地下足袋を脱ぐと、囲炉裏のある居間に入って来て囲炉裏の近くに野菜の入ったびくを置く。ツタキ、寒そうに囲炉裏の日に手をかざし、手をこすり合わせる。
8畳くらいの居間には囲炉裏の他は何もない。入って右手に手洗い場(トイレ)と手洗い桶がある。その隣には浴室。板の間で、小さな豆電球が一つついているのみ。薄暗い室内。
ツタキ「あぁ、寒い。二人ともただいま」
薫「あ、姉様!」
颯太「お帰りなさい」
二人のお腹が鳴る。
颯太「お腹すいた!」
ツタキ、立ち上がって割烹着をつけると、土間へ通り、左手にある台所out
食事の準備を始める。
ツタキ「これからご飯にしますよ」
薫子と颯太、びくの中の大量の野菜をのぞき込んで微笑む。
薫子「わぁ!また今日も野沢菜ともろこしが沢山!」
ツタキ「ありがたいことに、沢山出来てくれてね。おかげさまでまだまだ夏場にとれたジャガイモや枝豆やもろこしもだっぷり!」
颯太もワクワクしながら石臼とすり鉢、すりこ木を持ってくる
颯太「じゃあツタキ姉様、後は僕らの仕事だね」
颯太、もろこしの皮をむきながら
颯太「これ、粉にするよ」
ツタキ「ありがとう。よろしく頼むよ」
薫子「だったら私はシミ大根を作る準備」
薫子、土間を降りて左手の台所にout
大根を洗い出す
ツタキ「二人とも、ありがとね」
T/平成22年冬の初め。長野県富士見町・南諏訪高原病院。掛川十(22)、親友の丸山修(22)と共に病院を出てくる。空は夕方になりかけの青紫色で、病院の旧隔離病棟の周りには樫の木と白樺の木がいくつもそびえている。その下にはリンドウの花。
十「うわぁ…寒い」
十、空を見上げる。雪が降って来る。十、身を縮めて立ち止まる
十「どうりで寒いわけだよ…雪だもん」
丸山、十の肩に手を置いてポンポン叩く。二人とも、分厚いコートに手袋、耳まで隠れる帽子を深くかぶっている。十はやせ形で小柄、丸山は十より10センチほど背が高くて多少がっしりしている。二人とも丸い大きな眼鏡をかけている。
丸山「十、お疲れ」
十「うん」
丸山「ん」
丸山、道向こうを指さす。
十「ん?」
病院を出た通りの向こう側。柳平絹重(22)が笑いながら大きく手を振っている。地味な色の厚いコートにに和柄の布に綿を詰めたような防寒頭巾、長い毛糸のスカートにブーツで小柄な女性。彼女も丸くて大きな眼鏡をかけている。
丸山「彼女が来てるぞ」
十「本当だ!」
十、嬉しそうに駆け出しながら丸山に手を振る
十「じゃあ僕、先に行くよ。じゃあね!」
道には横断歩道はない。十、左右を確認してから狭い道を向こうに渡る。丸山、道向こうで絹重の元に駆け寄る十を見て微笑む。
丸山「あいつも本当に…彼女ラブだよな」
丸山、踵を返して病院下の駐車場の方に歩いてゆく。
十、絹重の元に駆け寄る。絹重、嬉しそうに微笑んで十に持ってきたマフラーをかける。
十「ありがとう」
十、マフラーを首元で縛る
十「絹重さん!迎えに来てくれたんだ」
絹重「えぇ、私も仕事が早く終わったの」
絹重、自分の車の助手席を開ける。白ナンバーでコンパクトな赤色のスポーツ風の自家用車。
絹重「乗って」
十「うん!」
十、車の助手席に乗り込み、絹重は運転席。車は発進し、駐車していた場所を離れていく。
車に乗りながら。絹重が運転する、十は助手席で暖かいお茶を紙コップで飲んでいる。社内は5人乗りで広く、どちらかと言えば男性風のイメージの車。
十「ねぇ、絹重さん?」
絹重「何?」
十「明日って君の誕生日だよね」
絹重「あらそうだったかしら?最近忙しくってそんな事すっかり忘れてたわ」
十「自分の誕生日くらい覚えてろよ」
絹重「で?それがどうしたの?」
十「どうしたのって、君も冷めてるなぁ。どこか行きたいところとか、欲しいものとか、食べたいものとかってないの?」
絹重「行きたい所?欲しいもの?食べたいもの?うーん…」
運転しながら考える。
絹重「特にないかしら」
十「おい!」
十、絹重に突っ込みを入れる様に小突く
絹重「あなたの希望は?何かある?」
十「君の誕生日なんだから僕の希望聞いてもしょうがないだろ」
赤信号で停まる。絹重、ハンドルを握りながら悪戯っぽく片手でドリンクを飲む。信号機が変わると笑ってアクセルを踏み込む
十「うわぁ!」
絹重「どうでもいいわ。あなたにお任せする」
十「君って人も本当に…」
言葉を飲み込む
十「何でもない」
笑って近くにあったホットドッグに手を伸ばす
十「これ食べていい?」
絹重「勿論いいわ。あなたのために買ったの」
十「やったぁ!いただきます!」
十、ニコニコして紙袋を開けて、ホットドッグを食べ出す。やわらかいコッペパンにマスタードとケイジャンケチャップ、チョリソーとレタス、そしてピクルス、
オリーブの実、ケッパーの入った典型的なアメリカ風のホットドック。
十「んー美味しい」
平成23年4月1日・飛行機内。十と絹重、ファーストクラスに悠々と座っている。絹重は興奮気味に辺りをきょろきょろしながら十の隣の窓際に座っている。ファーストクラスはわりかし空いている。
絹恵「まぁ!私ファーストクラスなんて初めてだわ!」
十「ふふ、気に入ってくれた?」
絹恵「勿論!」
十「良かった」
十に抱き着いて口づけ。十、照れ笑い。食事が運ばれてくる。十はお肉で絹重は魚。二人、赤ワインで乾杯する。
絹重「何処に連れて行ってくれるの?」
十「僕にお任せだって言ったろ。だからバースデーデートは僕のおすすめコースで」
絹重「サプライズね」
二人、無言で食事を始める。
T/スウェーデン・ヨーテボリ。
とある公園の池で小舟に揺られている。夕暮れの赤い空。人はほとんどおらず、時々犬の散歩の人が通り過ぎるくらい。十が船をこぎ、絹重は十と会い向かいに座って乗っている。
絹重「これからどこに行くの?」
十「内緒」
二人、しばらくして船を降りる。十、ふらふらになっており、絹重が肩を支える。
十、立ち止まってうなだれ、胸を擦る。絹重、十の背を擦る。
十「おえっ…気持ち悪っ…」
絹重「大丈夫?」
十「大丈夫大丈夫…」
絹重「無理しちゃだめよ、少し休みましょう」
十「大丈夫だよ、ありがとう。きっと歩いていた方が良くなるって」
十、ゆっくり歩きだし、絹重が十の肩を支えている。空は大分暗くなっている。
ヨーテボリ・オーロラ公園。すっかり夜になっている。オーロラのちらつく幻想的な空。二人、手を取り合って空を見上げている。
絹重「わぁ…」
十「一番よくオーロラが見える場所」
絹重「素敵」
十「僕、ずっと君とここに来たかったんだ」
絹重「不思議な感じね」
十「そうだね」
二人、オーロラの空をしばらくうっとりと眺める。十、そっと絹重に寄り添って絹重の肩を抱く。絹重も気が付いて十に歩み寄る。極寒のヨーテボリ、二人ともエスキモーの様な重装をしている。公園にはストリートグランドピアノが一台あるのみ。後は何もなく二人だけ。
翌日の昼。ヨーテボリ市街地。人通りが多いにぎやかな街。十と絹重、手を取ってスキップ気味に歩く。二人とも昨日よりは軽装だが、それでもやはり厚い防寒に身を包む。
絹重「次は何処に行こうかしら?」
十「そうだな…ハングリー?ハンガリー?」
絹重「分かった。H・U・N・G・R・Y!ハングリーね」
十「H・U・N・G・R・Y!ハングリー!」
二人、ナイスとハイタッチ。二人、店の中にout
レストラン「ハーリ・ヤーノシュ」。店内は混んでいる。BGMでは古いヨーロッパの映画ソングがかかってる。二人は満足そうに笑って立ち上がる。十、お代を支払ってからチップをテーブルに置いて、絹重の手を取って店を出る。
十「はぁ…もうお腹いっぱい」
絹重「美味しかった」
昼下がり。二人、外の人通りの多い通りを歩き出す。絹重は微笑みながら十を見る。
絹重「次は?何処に連れて行ってくれるの?」
十「僕に丸投げかよ…」
絹重「言ったはずよ。今回のデートはあなたにお任せだって」
十「君って人はいつもそうだよな…」
町の中央広場に楽師たちが集まる。十、指をさす。
十「あ、見てごらん」
絹重「え?」
十「一緒に来て」
十、絹重の手を引いて急いで広場に向かい、サークルの中に入る。楽師たちの演奏と共に町人たちが踊り出す。
十「僕らも踊ろう」
絹重「私、ダンスなんて出来ないわ」
十「大丈夫、踊ろう」
十、絹重の手を引いて紳士の様にリードして踊る。絹重、うっとり夢見心地になって十の事を見つめている。
客船の上。夕方。かなり大きな豪華客船は甲板もかなり人が多く、それぞれにワインを飲んだり、軽食を楽しんだりしている。二人、甲板に出て海を眺めている。
二人もワインを飲んで海を見ている。
絹重「いよいよ日本に帰るのね。帰りは船なんてあなたもロマンチックな方」
十「南米経由で帰りたいからね」
絹重「南米?何故?」
十「さぁ…僕にも分からないけど、僕がそうしたかったから」
絹恵、笑って十を小突く
南米・ナスカの地上絵。
十「遺跡巡りもいいねぇ。ここがナスカの地上絵だ」
絹重「わぁ…本物なんて初めて」
十「僕もこんなの初めてだよ」
十、写真を撮りまくる
南米・マヤ遺跡。
十「そしてここがマヤ遺跡」
意味深に
十「日本の縄文人と関係があるだとか」
絹重「あなたって詳しいのね」
十「まぁね…色々調べたから」
十、写真を撮りまくる。絹重、十のカメラをのぞき込む。新品の一眼レフ。
絹重「まぁ!それ一眼レフ!?」
十「うん」
撮りながら
十「言ったろ、小さい頃から僕は写真を撮るのがとても好きなんだ」
絹重、十から離れて広い土地で踊りまわる
ー挿入歌ー
『ケセラセラ』
When I was just a little girl
I asked my mother what will I be
Will I be pretty will I be rich
Here's what she said to me
Que sera sera
Whatever will be will be
The future's not ours to see
Que sera sera
What will be will be
When I grew up and fell in love
I asked my sweetheart what lies ahead
Will we have rainbows day after day
Here's what my sweetheart said
Que sera sera
Whatever will be will be
The future's not ours to see
Que sera sera
What will be will be
Now I have children of my own
They ask their mother what will I be
Will I be handsome will I be rich
I tell them tenderly
Que sera sera
Whatever will be will be
The future's not ours to see
Que sera sera
What will be will be
Que sera sera
ー終わるー
南米・マチュピチュ遺跡。
十「で、最後はマチュピチュ遺跡」
絹重「なるほど…」
十「インカ帝国だね」
絹重「インカ帝国か…ん!」
十「ん?」
絹重、スマホの写真を十に見せる
絹重「これね、前に長野県で撮ったの。マチュピチュ…でしょ」
十「本当だ」
二人、笑う
十「だったら…」
十、絹恵のスマホを操作
十「ハッシュタグは、長野県インカ帝国と松本市マチュピチュ」
投稿。
絹重「あらら、本当に投稿しちゃった」
十「良いじゃん、別に変な投稿じゃないんだから」
絹重「それもそうね」
絹重、死期を感じ取ったような顔をする
十「どうしたの?」
絹重「いえ…何でもない。十さん、幸せになってね」
十「は?」
絹重「なんちゃって…」
小粋に笑う
絹重「何でもないわ」
十「なんだよ、怖いって…」
MT/「星の石」
ーOP credit and songー
「そなたの赴くところ何処にでも」
ーENDー
T/日本・長野県諏訪郡富士見町。
十のアパート・居間。1dkの小さなアパートで地区100年でとても古い。しかし家の中はきれいに整理整頓されて掃除も行き届いている。金魚とナイチンゲールが買われている。壁にはフローレンスナイチンゲールのポスターが張られている。十と丸山、点滴と注射の訓練をしている。十、丸山に注射をしている。十、考えことをしてボンワリとしている。
丸山「痛い痛い痛い痛い!おい十、痛いったら!」
十「え…うわぁ!ごめん!」
丸山の腕、針がとんでもない事になって刺さっている。十、我に返って慌てて処置。丸山、とても痛そうに顔をしかめる。
丸山「お前、真面目にやれよ!」
十「ごめん…」
終わった後。15時くらい。二人、お茶をする。
丸山「どうした?悩み事?」
十「考え事してたんだよ」
丸山「何の?」
十「彼女の事…」
丸山「絹恵さん?」
十、ため息をつきながら頷きながらコーヒーを飲む
十「最近絹重さんと連絡とれないしさ、会いに行っても家にいないみたいだしどうしたのかなって」
丸山「喧嘩でもしたの?」
十「いや…何も心当たりない」
十、落ち着かない様に何度もコーヒーをすすってはため息。丸山、心配そうに十を見つめる。十、うわの空でため息をつきながらコーヒーに大量の砂糖を入れる。
丸山「おい十、それ入れすぎ」
十「今はいいの…」
丸山、十の手を止めて砂糖壺のふたを閉めながら
丸山「とにかくお前がそんな調子じゃ練習も怖いし、僕も調子狂うから今日のと
頃は練習は終わりにしよう。お前はゆっくり休め」
十「うん…」
丸山、コーヒーを飲み干し、立ち上がって手を振ると、十の家の玄関に行きout
十、最後まで丸山を見送っているが、丸山がいなくなるとテーブルの上のお茶セットを全て片付けてから近くのソファーに座ってそのまますぐに眠りに落ちる。
T/昭和8年4月。信州富士見高原。
南諏訪高原病院・旧病棟玄関前。多くの看護婦見習の女性が玄関先に集まっている。ツタキの隣に名取カヨ(12)、植松トミ(12)が並ぶ。最前列に柿澤梅乃(37)が立ち、説明をしている。白樺の木と樫の木がそびえ、リンドウの植え込みがある。
トミ「ツタキちゃん!」
ツタキ「トミちゃん!かよちゃん!」
カヨ「また一緒になれた。がんばろう!」
ツタキ「ええ!」
三人、肩を組んでオペラ「魔笛」のパパゲーノのアリア「おいらは鳥刺し」に乗せて替え歌を歌う。
トミ・カヨ・ツタキ「♪私達はいつでも一緒、ナース三人侍女ホイサッサ!」
三人、笑う
T/平成25年春。
南諏訪高原病院・4階病棟ナースステーション。小山タミ恵(23)、イライラとペンをカチカチやりながら頭をかきむしる。
タミ恵「あー…もうむかつく!」
強くデスクを叩く。五味田苗(23)と丸山、呆れ顔で目を細めてその様子を見ている。
田苗「また始まったよ…」
丸山「どうした?」
タミ恵「せっかく看護師になれ立ってんのに!どうして私が泌尿器科外来担当なのよ!」
紙にペン先を打ち付けながらイライラ
タミ恵「私は小児科か産婦人科に行きたかったのに」
田苗「いいじゃん、普段は4階病棟なんだし」
丸山「なんか僕ら、全員一緒って面白いよな」
タミ恵「確かにねぇ」
丸山を睨む
丸山「な、なんだよ…」
タミ恵「あんた…もし余計な事したり言ったら…容赦なく打つよ!」
こぶしを振り上げるタミ恵とガードする丸山。
丸山「何もないのにそういうこと言うなよ」
小粋にタミ恵を挑発するように
丸山「ご心配なく。僕は君のような女には興味ありませんから」
タミ恵「あんた…マジで打つよ」
丸山「打てるもんならぶ…」
タミ恵、力いっぱい丸山を小突く
丸山「痛っ!」
T/昭和7年冬。ナース三人侍女(12)、病室で亡くなった女性の遺体洗拭をする。病室の隅で小河原勉(15)、涙をこらえて俯き、立ち尽くす。瀬戸内修(15)、傍らで勉の肩を抱き、共に涙を流す。
T/昭和10年春の昼下がり。網倉ツタキ(15)、着物姿で瀬戸内修(18)と共に花畑を散歩している。空は青く澄み渡り、ひばりが上空を飛んでいる。八ヶ岳が間近にそびえ、遠くには蓼科山が見える。ツタキ、嬉しそうに両手を上にあげる。
ツタキ「あぁ、これで私も卒業したんだわ!」
修「おめでとう。とってもきれいだよ。その着物も君も…」
修、立ち止まってツタキの額にそっと口づけをする
修「とってもよく似合ってる」
ツタキ、真っ赤になって動揺しながらも小粋に笑って修を小突く
修「ツタキさん…」
修、笑いながら思い切ってツタキの手を取る
ツタキ「ん?」
修「ちょっとこれから、僕と一緒に来てくれる?」
修、ツタキの手を繋いだまま走って行く
高原の花畑。ツタキ、花の中に立ってくるくる踊っている。修、器用に花を結って花の冠と大きなブーケを作り、踊るツタキの手を取り、ツタキにかぶせる
ツタキ「わぁ素敵!」
修「ありがとう。はい…」
ツタキに綺麗にアレンジされた花束を持たせる
修「これも君にあげる。僕の蓼科ローズ…」
ツタキ「蓼科ローズ?」
修「高原のバラ…山の女王…薫るそよ風」
ツタキ、照れて俯く。修、「♪サセパリ」の一説を口ずさむ。
ツタキと修のみ。夕方になり、空が赤くなると同時に風が強くなる。鳥たちが空を帰ってゆく。修、岩の上に座って頬杖をついて遠くを見つめている。ツタキ、緑の草の上に立ってハーモニカを吹いている。
修「ツタキさん」
ツタキ、ハーモニカをやめて修の方を向く
修「明後日から僕は東京に立つ」
ツタキ「えぇ」
修「東京で音楽の教員になるために勉強をしたら、再びまた富士見に戻ってくるつもりだ」
ツタキ「え?」
修、ツタキを見て微笑む
修「このまま僕が京都に戻るか東京で教員になるかと思ってた?」
修、立ち上がって辺りを見つめながら大きく深呼吸
修「ううん、僕はこの町が好きだ。必ずこの地に戻って、この地で教員になる。僕は生涯ここで死ぬまで生きていきたいと思っているんだ」
ツタキ、嬉しそうに微笑む
ツタキ「私、あなたの素晴らしい夢を心から応援してる。大学を卒業してさらに立派になったあなたに会えるのを楽しみにしているわ」
修「ありがとう」
ツタキ「修さん、お気をつけて」
修、ツタキを強く抱きしめる。ツタキ、目を丸くして真っ赤な顔をして固まる。まだまだ冷たい高原の風が二人に吹き付けている。
ツタキ「え…ちょ…ちょっと修さん!?」
修「ツタキさん、この地を発つ前にどうしても伝えたかった。僕は君が好きだ」
ツタキ、放心状態で修に抱かれたまま。
修「僕は君より3歳も年上だし、しばらくはこの土地にもいなくなってしまうが…君の気持は?」
ツタキ、もごもごしたまま動揺
ー挿入歌ー
『マライカ』
(修)
Malaika,nakupunda malaika
Ningekuoa mali we,ningekuoa dada
Nashindwa na mali sina we
Ningekuoa Malaika
Pesa zasumbua roho yangu
Nami nifanyeje,kijana mwenzio
Nashindwa na mali sina we
Ningekuoa Malaika
Kidege,hukuwaza kidege
Ningekuoa mali we,ningekuoa dada
Nashindwa na mali sina we
Ningekuoa Malaika
Malaika,nakupunda malaika
Ningekuoa mali we,ningekuoa dada
Nashindwa na mali sina we
Ningekuoa Malaika
ー終わりー
修、動揺して気まずそうにツタキを胸から離して後ろ手を振って急いで帰ってゆくout。ツタキ、放心状態で修を見送り、そっと唇を人差し指でなぞる。辺りはコバルトブルーになり、夜になっている。金星と満月の光で高原の花々がきらめいて揺れている。
網倉家。ちゃぶ台の上には揚げだし豆腐と三つ葉のお浸し、コーンフラワーで作ったおやきが並んでいる。網倉の三兄弟、食事をしている。部屋は薄暗く明かりが灯り、時計が時を知らせるベルを打っている。
薫子「姉様?」
ツタキ、放心状態でおやきをいくつも黙々と食べている
薫子「どうしたの?」
颯太「ツタキ姉様、いつもと違う」
二人も食べながらツタキを見つめている。あの花束と花の冠が壁に飾られている
T/昭和13年春。富士見町の民宿
瀬戸内修(22)、網倉ツタキ(19)の手を引いて民宿にin。民宿のエントランスは多くの客で混んでおり、タバコを吸う男性の数も多い。女性はおしゃれな西洋風の奥様が多く、子供はいない。
ツタキ「修さん、お休みのたびに勉さんと共にいつも戻って来て下さって、私とっても嬉しいわ」
修「僕も君に、トムもカヨさんに会いたいからさ」
ツタキ「もう修さんたちもご卒業ね。今度は正式に帰っていらっしゃるのね」
修「あぁ…」
宿泊確認を取っている修。ツタキと修は並んでカウンターに立っている。民宿の女将・清水克子(60)が通りかかるin
生ごみを見るような目で二人を見る
克子「まぁ、こんなに若くて結婚もしていないような男女が二人だけで民宿だなんて…あぁ汚らわしい!なんてふしだらな!」
ツタキを見る
克子「おや、あんたはツタキちゃんじゃないかい?」
ツタキ「克子さん!」
克子「あんたもこんな非常識な男となんか一緒にいちゃだめだよ。すぐに別れな」
修「ごめんなさい女将さん。でも安心してください。僕らはもう夫婦になるので」
克子とツタキ、驚いて修を見る。修、小粋にツタキの肩を抱く。
ツタキ「お…修さん!?」
修、真っ赤になって照れながらオパールで作られた石の造花をツタキに渡す
修「これ、小河原勉が考えた飾り物なんだ。中世ヨーロッパにはばらの騎士という風習があって」
修、ばらの騎士の説明をし出す。ツタキと克子、修の話のうまさと面白さにうっ
とりしながらも夢中で聞き出す。
修「よってそれを真似たんだってさ。だから僕らは愛する女性にこれを渡す。オパールの水中花っていう名前の作品なんだ」
ツタキ「オパールの水中花…」
修、エントランスを見渡す。端に古いアップライトピアノが置かれている。
修「凄い…ピアノがある!」
修、ピアノの椅子に座る
修「女将さん、このピアノちょっと弾かせてもらうよ」
ツタキ、ピアノの側の修の近くに行く。
ツタキ「修さん、ピアノがお弾きになれるの?」
修「少しだけならね」
修、ピアノを弾き出す
克子「あらまぁまぁ…まさか本当に弾いてくれる人がいるだなんてねぇ。今まではただの飾りとしてしかなかったピアノなのに」
そこに清水春助(63)が二階からの階段からin
修のピアノに聞き入る。
春助「おぉ…」
修を指さす
春助「彼はピアニストかい?」
克子「知らんけどなんか、ツタキちゃんの恋人らしいよ」
春助「俺は本物のピアノなんて初めて聞いたぞ」
克子「そんなの私もだよ」
ツタキ、驚きながらもうっとりとして聞いている。
ー挿入歌ー(修の弾き語り)
『聞かせてよあの言葉を』
(修)
愛のその言葉を繰り返し
甘くこの胸にささやいてよ
愛のその言葉を繰り返し僕に
僕の好きなこの言葉
この胸で聞かせて たとえ嘘でもいい
君の言葉が甘い蜜の様に
僕の心を優しく揺さぶるの
(ツタキ)
愛のその言葉を繰り返し
甘くこの胸にささやいてよ
愛のその言葉を繰り返し私に
私の好きなあなた
この胸で信じて たとえ夢でもいい
愛の口づけと約束の言葉に
私の傷ついた胸は癒されるわ
(二人)
愛のその言葉を繰り返し
甘くこの胸にささやいてよ
愛のその言葉を繰り返し僕(私)に
ー終わりー
ツタキと側にいた客、そしてスタッフ全員が手を叩く
ツタキ「修さん…ありがとう」
修「ツタキさん、僕は君を愛してる。一生君の側にいたいし、君を支えていきたい。だから僕と、結婚してくれないか?」
ツタキ、恥ずかしそうに微笑む
ツタキ「はい…」
周囲から大拍手。修、ツタキの肩を抱いて照れ笑いをしながらみんなに頭を下げる
ツタキ「修さん」
修「ツタキ」
修、ツタキを抱きしめてそっと口づけをしあう。周囲から日や菓子の指笛や拍手が大きく鳴り響く。
網倉家・囲炉裏端。1か月後の5月。薫子、ツタキの着付けをしている。ツタキ、ウエディングドレス姿。ツタキは立って鏡を見ながら化粧をしたり髪を結いなおしたりしている。
薫子「姉様、いよいよ今日は修さんとの結婚式ね」
ツタキ「えぇ」
薫子「私、姉様と修ささんが一緒になってとても嬉しいわ!」
颯太「修さんが僕らの兄様になるんだ!」
ツタキ、赤くなりながら笑う
ツタキ「えぇそうよ。修さんはちょっと変わり者なところもあるけどとても優しくて誠実な方。きっとあんたたちにとっても素晴らしいお兄様になられるわ」
薫子、ツタキの着るウエディングドレスをまじまじ見る
薫子「修さんもおしゃれな方ね。和装じゃなくて洋装での結婚だなんて」
ツタキ「修さんらしいわ」
立ち鏡の前でポーズをとる
ツタキ「よしっ出来た!では行って参ります」
薫子・颯太「はい!」
薫子「姉様、家の事は私と颯太でやっておくわ」
ツタキ「ありがとう、よろしくね」
薫子「任せておいてください!」
颯太「姉様、式が終わったらさっそく修さんをうちに招いて!ご馳走用意しておくから!」
ツタキ「ありがとう」
ドレス姿でなれない歩き方をしながら玄関よりout
薫子・颯太「お気をつけて」
富士見町内の古い教会。二人だけの結婚の儀式を開いている。森の中にひっそりと建つ小さな古い教会。
ツタキ「これで私達、正式な夫婦なのね」
修「うん。ツタキさん、ありがとう」
ツタキ「こちらこそよ」
小粋に
ツタキ「儀式が終わったら改めて家に来て。あなたのお荷物は少しずつ取りに
行けばいいんですもの」
修「ありがとう、じゃあこれからはずっと君の家に一緒に住んでもいいって事か?」
ツタキ「勿論よ、夫婦なんですもの。薫子と颯太もそのつもりでもう大喜び!だから式が終わったら早速修さんを網倉家にお呼びしてねって言っていたの。私達の結婚の祝いのご馳走を用意してくれてあるんですって」
修「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
網倉家。薫子と颯太、ツタキと修が帰って来ると急いで玄関にin
丁寧におつくべ。頭を下げて出迎える
薫子「姉様、兄様お帰りなさいませ!」
颯太「早く上がって!ごはんいっぱい出来てるよ!」
ツタキ「二人ともありがとう。修さん、さぁどうぞ」
修「ありがとう。ではお邪魔します」
修とツタキ、土間から居間に上がる。
ツタキ「お邪魔しますじゃないでしょ。もうここは今日からあなたの家なんだから」
修「そうだね。じゃあ…ただいま帰りました」
ツタキ「さぁ、お座りになって」
囲炉裏端。4人、腰かける。料理がたくさん並んでいる。
薫「何もないけど、兄さんも食べて」
修「ありがとう、ではいただきます」
修、ニコニコして淑やかに食べる
修「美味しい!」
颯太、修の食べた煮物を指さしながら
颯太「あ、それは姉ちゃんの作った煮ものだよ!」
ツタキ「颯太!」
ツタキ、恥ずかしそうに颯太を遮る
ツタキ「修さん、ごめんなさいね…こんなひもじい食事で」
修「そんな事ないよ。すごく美味しい…これは?」
ツタキ「それは野沢菜と大根のお雑炊」
修、色々食べている
修「うん!どれもすごく美味しい。これは…おやき?」
ツタキ「えぇ、トウモロコシの粉のね」
修「へー!」
ツタキ。恥ずかしそうに修を小突く
翌日・夕方。ツタキ、仕事から帰って土間からin。
ツタキ「ただいま戻りました」
修、料理をしている。薫と颯太、掃除をしている
修「ツタキおかえり」
ツタキ、目を閉じて鼻をクンクン
ツタキ「わぁ!いい香り…」
修「夕食が出来てるよ」
ツタキ「わぁありがとう!何を作ってくれてるの?」
修、皿に盛りつけながら
修「瀬戸内特製のビーフシチュー」
ツタキ「わぁ!」
修「お口に合えばいいけど」
同・寝室。ツタキと修、並んで寝ている。部屋はもう真っ暗。
ツタキ「修さん、今日はご馳走様。とっても美味しかったわ」
修「お粗末様です。ありがとう」
ツタキ「お食事、これから毎日宜しくお願いしますね」
修「え?」
ツタキ、笑いながら目を閉じる
ツタキ「おやすみなさい」
修もふっと微笑む
修「お休み」
数か月後の夏。ルンルンと掃除をするツタキと食事を作る修。
ー挿入歌ー
『ネリーブライ』
(ツタキ)
ネリーブライ ネリーブライ 箒を持って
歌を歌いながら掃除しよう
薪を絶やさず良く燃やそう
バンジョーに合わせてひと働き
ほらネリーブライ 可愛くなったね
聞いておくれよこの一節
ほらネリーブライ お気に召さぬかい?
僕のこの歌が 恋の歌が
(修)
ネリーブライ ネリーブライ いい声だね
野山や林の小鳥の声
心が優しく器量よし
ポテトやケーキより君に夢中
ほらネリーブライ 可愛くなったね
聞いておくれよこの一節
ほらネリーブライ お気に召さぬかい?
僕のこの歌が 恋の歌が
ー終わりー
修「ツタキ、もうすぐご飯できるよ」
ツタキ「はーい、ありがとう」
小粋に自分のお腹を触りながら
ツタキ「あなたも…こんな方がお父上だなんて、本当に幸せ者ね」
修「え、どういう事?」
修、ツタキの側に来る。ツタキ、悪戯っぽく笑う
ツタキ「あなたにはずっと黙ってたけど…私、懐妊したみたいなの」
修「か、かかか、懐妊!?」
修、驚きすぎて目を真ん丸にして固まる
ツタキ「男の子かしらね?女の子かしらね?」
修、しばらくポカーンとしてツタキを見つめている
修「う…う…うううう…うわぁ!」
ツタキ「わぁ!」
修、黄色い声をあげてツタキに思い切り抱き着く
ツタキ「ちょっとやめてよ!苦しいわ!」
修、興奮をしながらツタキの手を握る
修「それでいつ!?」
ツタキ「つい先日分かったの。だから多分来年の春頃には生まれるんじゃないかしら」
修「そうか!」
ツタキ「えぇ!」
修「そうか…僕、こんなに早く父親になれるんだ!名前は何にしようか?」
ツタキ、子供のようにはしゃぐ修を見て笑い出す。
翌年の昭和15年春。諏訪南高原病院・夕方。産婦人科棟の一室にて瀬戸内ツタキ(21)、小河原カヨ(21)と植松トミ(21)の元で出産。
かよ「ツタキちゃんおめでとう!産まれたわ!」
ツタキ「あぁ…」
トミ「可愛い双子の赤ちゃん。二人とも女の子よ!」
ツタキ「双子!?」
修の直筆の命名書を見る。修の文字はとても達筆で丁寧。黒墨で書かれている。男子・瀬戸内覚美、女子・瀬戸内朝香と書いてある
ツタキ「でもまさか、修さんも双子の子だったなんて想像もつかないでしょうね」
かよ「そうでしょうね」
トミ「きっとびっくりね!」
ツタキ「えぇ!」
そこに網倉颯太(19)と網倉薫子(20)、入り口よりin
ツタキ「薫に颯太!」
薫子「お疲れ様」
颯太「姉様おめでとう」
ツタキ「二人ともありがとう。修さんは?」
薫子「まだお仕事よ。だから修さんに電話交換手に繋いでもらって知らせたから、間もなくいらっしゃると思うけど…」
更に数十分後。瀬戸内修(25)が駆け込むように息を切らして入り口からin
修「ツタキ!」
ツタキ「修さん!」
赤ちゃんをさす
ツタキ「産まれたわ。双子の女の子よ」
修「あぁ…」
修、安心したようにその場に崩れ落ちて床に座り込む。
修「良かった…ツタキ」
ツタキ「もうやだ修さんったら、泣いてるの?」
修、涙を隠すように立ち上がって後ろを向く。
修「いや…ありがとう」
ツタキ、ベッドから起き上がって笑う。
ツタキ「お父様でしょ。しっかりしてね」
網倉家・居間。1か月後の昼。修、食事の支度をしている。ツタキ、双子の子供
を子守している。修、台所から居間にin
修「ツタキに薫子さんに颯太君、出来たよ」
三人、修と共に囲炉裏端に就く。
ツタキ「今日は何?」
修「煮込みそうめん」
ツタキ「わぁ!いただいてもいい?」
修「勿論、召し上がれ」
全員、食べ始める。
ツタキ「とっても美味しいわ!」
修も食べながら赤ちゃんを見る
修「このご令嬢たちは何が食べられるかな?」
ツタキ「あなたたちはまだミルクよね」
ツタキ、後ろを向いて赤ちゃんたちにミルクをあげ出す。
ツタキ「ほら、あなたたちもお食事のお時間ですよ。召し上がれ」
後ろを向きながら。修、ツタキの背中を見ながら微笑んで食べている。
ツタキ「一度でいいからあなたと観に行きたかったわね…」
修「え、何を?」
ツタキ「浅草オペラや、オペラ、それに…映画」
修「浅草オペラに…オペラに…映画か」
ツタキ、ミルクをあげ終わってから赤ちゃんを再び寝かせ、修の方を向き直る。
ツタキ「お金があってもっと裕福なら見たいってずっと思ってたの。私の憧れの一つよ」
修「そうだったんだ」
微笑む
修「だったら観に行こう!」
ツタキ「観に行こうって…」
修「どうせなら全部一気に!」
ツタキ「えぇ!?何を言い出すの!?」
別の日・東京。浅草オペラ劇場。多くの人ごみの中、ツタキと修、劇場の入口よりin
観劇。修、ツタキを抱き寄せる。ツタキ、修にもたれかかる。修、片手でツタキの手を握る。
ツタキ「あなたの手って冷たいのね」
修「冬だから仕方ないさ」
ツタキ「ダメよ、ピアノを弾くんでしょ。大切な指なんだからこんなに冷たくちゃだめ」
ツタキ、自分の手袋を外して修にはめる。手袋はツタキのもののため、修の指先にしか入らない。二人、顔を見合わせてくすくす笑う。
ツタキ「あららら、手首まで入らないわね。でもはめないよりはましだと思う」
修「ありがとう。でも君は?」
ツタキ「私はいいの。全然寒くないもの」
修「でも君は繕い物や台所の仕事をする。それに君は看護婦なんだから冷たい手をしていたら患者さんも心配するよ」
ツタキ「そうかしら?」
ツタキ、小粋に笑う。
二人、他の観客と共に劇場から出てくる。二人、東京見物をしながらその後はオペラを見たり映画を見たり、買い物や喫茶店に入ったりしている。
網倉家。さらに数週間後。ツタキ、皿を拭きながら歌って踊る
ツタキ「♪命短し恋せよ乙女…」
薫子「姉様ご機嫌ね」
颯太「浅草オペラだ!」
ツタキ「先日修さんが見に連れて行ってくれたの!浅草オペラだけじゃないのよ!西洋オペラに映画まで!」
薫子「それで一日朝香と覚美を私達に預けて出て行ったのね」
ツタキ「苦労かけてしまってごめんね」
薫「いえいえ、姉様はずっと自分を犠牲にして働いてくれているんですもの、たまには羽を伸ばさなくちゃね」
ツタキ「ありがとう」
颯太「いつでも僕らを頼ってよ」
ツタキ、得意げに踊りながら歌う
ツタキ「♪I’m a Yankee Doodle dandy,I’m a Yankee Doodle do or die?」
修がちょうど外から帰って来るが一緒に参戦
ー挿入歌ー
『ヤンキードゥードゥル』
ツタキはタップダンスを踏みながら可憐に踊りながら歌う。バレエの得意な修も踊りに参戦しながら歌う。颯太と薫子も応戦。
(修)
I'm the kid that's all the candy
I'm a Yankee Doodle Dandy
I'm glad I am
So's Uncle Sam
(薫子・颯太)
I'm a real live Yankee Doodle
Made my name and fame and boodle
Just like Mister Doodle did, by riding on a pony
I love to listen to the Dixie strain
"I long to see the girl I left behind me"
And that ain't a josh
She's a Yankee, by gosh
(ツタキ)
Oh, say can you see
(修)
Anything about a Yankee that's a phony?
(薫子・颯太)
Little Johnny Jones, the jockey from the U.S.A
(ツタキ)
Will ride the pony Yankee Doodle English Derby Day
(修)
Jonesy's broken records every track and every meet
(ツタキ)
So Yankee Doodle's gonna be the boy they have to beat
(修)
Sportsmen of the British Isles who've followed his career
Have offered Johnny anything to keep him over here
(ツタキ)
But all the money in the Bank of England couldn't pay
Enough to keep young Johnny Jones away from old Broadway
(修)
If you want to take a tip, the surest of sure things
(ツタキ)
Have your houses mortgaged, hock your watches, pawn your rings
(修)
And put it all on Yankee Doodle, Johnny Jones is up!
(ツタキ)
I'm gonna give America the English Derby Cup
(修)
He's gonna give America the English Derby Cup
(ツタキ)
I'm a Yankee Doodle Dandy
A Yankee Doodle, do or die
A real live nephew of my Uncle Sam
Born on the Fourth of July
I've got a Yankee Doodle sweetheart
She's my Yankee Doodle joy
Yankee Doodle came to London
Just to ride the ponies
I am the Yankee Doodle Boy
He’s a Yankee Doodle Dandy
A Yankee Doodle do or die
A real live nephew of his Uncle Sam
Born on the Fourth of July
He’s got a Yankee Doodle sweetheart
She’s his Yankee Doodle joy
Yankee Doodle came to London
Just to ride the ponies
He is the Yankee Doodle boy
Yankee Doodle came to London
Just to ride the ponies
He is the Yankee Doodle boy
ー終わりー
修も笑って手を叩く。
修「ブラーヴァ」
ツタキ「私って才能あるかしら?看護婦やめて浅草オペラの女優になるって手もあるわね」
颯太「それか、浅草オペラっててもあるけど三浦環みたいなオペラ歌手って道もあるね!姉さんにも蝶々さん似合うんじゃないかな?」
薫「そうよ!あの人にできるんなら姉さんにだってできるんじゃない?」
ツタキ「いいわねぇ!」
修「おいおい…」
ツタキ、 物真似してオペラ風に唄う
ツタキ「♪パパパ…」
修「♪パパパ…」
ー挿入歌ー
『パパパパ』
(修)
papapa
(ツタキ)
papapa
(修)
Pa-pa-pa, pa-pa-pa. Papageno
(ツタキ)
Pa-pa-pa-, pa-pa-pa, - papagena,
(修)
Bist du mir nun ganz ergeben,
(ツタキ)
Nun bin ich dir ganz ergeben.
(修)
Nun, so sei mein liebes Weibchen!
(ツタキ)
Nun, so sei mein Herzenstäubchen,
Mein Herzenstäubchen!
(二人)
Mein liebes Weibchen ! Mein Herzenstäubchen !
Welche Freude wird das sein,
Wenn die Götter uns bedenken,
Unserer Liebe Kinder schenken
So liebe kleine Kinderlein, Kinderlein, Kinderlein, Kinderlein,
So liebe kleine Kinderlein.
Erst einen kleinen Papageno,
Dann eine kleine Papagena,
Dann wieder einen Papageno,
Dann wieder eine Papagena,
Papageno, Papagena, Papageno, …
Es ist das höchste der Gefühle,
Wenn viele, viele, der pa-pa-pageno(a), Papageno (a)
Der Eltern Sorgen werden sein.
Wenn viele, viele, der pa-pa-pageno(a)
ー終わるー
薫子と颯太、大拍手と口笛。ツタキと修、オペラのカーテンコールの様に頭を下げる。
颯太「姉様も兄様もお見事!人気スターになれるよ!」
薫子「本当ね!」
ツタキと修、もう一度スター気取りにカーテンコール挨拶をする
ツタキ「ご清聴どうも」
修「Danke Sehr!」
ツタキ「Graze!」
二人も拍手をしあう
修「僕は本当にツタキがやりたい事なら、例え浅草オペラでもオペラでも止めないよ。全力で応援する」
ツタキ「ありがとう。やっぱり修さんって優しいお方。私、本当にあなたの妻になれて良かったって心からそう思うわ」
二人、手を繋いだまま舞台の様に裾にout
同・家の中。更に数か月後。ツタキ、屋根裏によじ登って掃除をしている。修、料理をしている
修「ツタキ、あまり危ない事はするなよ」
ツタキ「大丈夫よ」
ツタキ、とても女性とは思えない体制でお転婆な事をしている。修、呆れてツタキを見上げながら
修「ツタキ!」
ツタキの腰を支えながら
修「そうはいってもさ、ここのところ君は毎日看護婦の仕事に出ているし、家に帰れば家の仕事と育児。しかもそんな男のやるような仕事…このままではツタキの体がどうにかなってしまうぞ」
ツタキ、ガサゴソやりながら
ツタキ「ご心配ありがとう、でも本当に大丈夫よ。私は元気」
修「ツタキ!」
ツタキの元に来る。
修「いいよ、後は僕がやるから」
ツタキ「終わったわ!今降りる!」
ツタキ、やっと屋根裏部屋から降りてくる。数メートルから飛び降りて着地。修がツタキを抱きとめる。
修「セーフ!」
ツタキ「ありがとう」
ツタキ、台所に行って割烹着をつける
ツタキ「後はお食事の支度も私がやるわ。あなたはお休みになってて」
ツタキ、ニンジンを洗ってニンジンを切り出す。
ツタキ「あら、お天ぷらを作ってくださってあるわね。じゃあこのにんじんは」
人差し指を立てる
ツタキ「なますね」
ツタキ、鼻血が出ている。修、ショックを受けたような顔
修「ツタキ…君」
ツタキ「ん?」
鼻を押さえて下を向く
ツタキ「ん…」
修、ツタキを支えて居間に連れて行き、座らせる。
修「おいっ!大丈夫か?」
ツタキ「大丈夫よ…ちょっと鼻血が出てしまっただけ」
修「早く病院に行こう!」
ツタキ「おバカさん…これくらいで病院に行ってどうするのよ」
修、布団を敷き出してツタキを布団に誘導させる
修「今日は君は寝てな!後はやるから」
ツタキ「大丈夫よ」
修「ダメだ!今日は僕の言う事を聞くように」
ツタキ「もう、分かったわよ…しつこい人」
修「今日は嫌でも僕の言う事を聞いてもらうよ」
ツタキを寝かす
修「やっぱり食事は僕が作る」
ツタキ「えぇ、じゃああなたにお任せするわ…」
修「ん!」
ツタキ「切りかけのニンジン、使ってくださいね」
修、親指を立てる
修「You got it dude!」
数十分後。ツタキの床に修がin
食事を乗せた膳を持ってくる。
修「おまたせ」
ツタキ「ありがとう。いただきます」
口に入れて修を見て微笑んで頷く
ツタキ「すごく美味しい!」
ツタキ、悪戯っぽくどんどん食べる
修「女子なんだからその食べ方はないんじゃないか?ちょっとはしたないよ」
ツタキ「いいのよ!」
修「良くない!僕の為にも少し淑やかにしてくれたっていいんじゃないか?」
ツタキ、横目で修を見ながら食べ方のペースを落とす。
ツタキ「はいはい。小うるさい旦那様です事」
修「小うるさい旦那で悪ござんしたね」
昭和18年・12月31日。瀬戸内ツタキ(24)と瀬戸内修(28)と双子と網倉薫子(23)と網倉颯太(22)、ささやかに修の誕生日を祝っている。机にはささやかではあるが大晦日のご馳走が並んでいる。
ツタキ「修さん、28歳のお誕生日おめでとう」
修「ありがとう。こんな年になってもまだ祝ってくれる人がいるなんて嬉しいな」
ツタキ「当たり前でしょ。まだまだこれからだわ」
薫子「兄様が例え年を召しても、毎年お祝いしますわ」
全員、笑い合う
ツタキ「お誕生日に大晦日のお御馳走…素敵ね」
修「ああ…」
ラジオをつける。ラジオでは戦争のニュースばかりが取り上げられている
修「毎日戦争の事ばかりだ」
ツタキ「怖いわ…戦争が日本でも始まったのね」
修「大きな被害がこないといいんだが」
ツタキ「修さん…あなた、戦争に行ったりしないわよね?ずっと、私と子供たちの側にいてくれるわよね」
修「約束するよ、僕はどこにもいかない」
ツタキ「絶対よ、約束よ…」
修「勿論…」
ツタキ「あぁ…」
ツタキ、修に寄り添う。修、ツタキを抱いて支える。
ツタキ「あなたの探し求めている“パンに合うピアノ”…あなたはこれからそれを探さないといけないもの。」
修「パンに合うピアノか…」
静かに笑う
修「それはもういいんだ…」
ツタキ「どうして?」
修、お茶目に悪戯っぽくツタキを見つめて微笑む
修「何故かって?それはもう見つけたから」
ツタキ「そうなの!?ついに見つかったの?」
修「あぁ…でもそれはまだ黙っておこう」
ツタキ「何故?」
修「昭和20年の君の誕生日に教える事にする」
ツタキ「何故、昭和20年なの?」
修、意味深に遠くを見つめる。自分でも漠然とした予感でわくわく。
修「何だかその年に…特別な事がありそうな予感がするから」
ツタキ、不思議そうに修を見て笑う
ツタキ「分かったわ。あなたも相変わらず変わり者さん」
修「ツタキ、戦争が終わったら必ず見に行こう…」
ツタキ「何を?」
修「僕の夢…ヨーテボリのオーロラ」
ツタキ「素敵…是非」
修の手を握る
ツタキ「戦争が終わったら絶対に見に行きましょう」
諏訪南高原病院。産婦人科棟の一室。昭和19年12月31日。瀬戸内ツタキ(25)、双子を出産。
かよ「ツタキちゃん!おめでとう!産まれたわ」
トミ「またまた可愛い双子の赤ちゃんよ。女の子と男の子よ!」
ツタキ「あぁ…」
かよ「お名前は?もう決まっているの?」
ツタキ「えぇ…」
ツタキ、修直筆の命名書を見せる。命名書には墨で達筆で美しい字で「男子・直里、女子・睦子」
カヨ「とても達筆…美しい字」
ツタキ、命名書をまじまじ
落合小学校。3年生教室。修、教壇に立っている。瀬戸内修(29)、ふと窓の外に目をやる。平和な青空が広がっており、辺りは一面の雪景色。教室の中でも暖炉を焚いているが、隙間から強い風が吹き込んでくる。
修「よし、みんな今日は授業はここで終了。外に行こう!」
児童全員と修out、ワーッと喜んで外に飛び出す。
校庭。修と児童たち、鎌倉や雪合戦をして遊び出す。その数十分後、空襲警報の放送がかかり、サイレンが鳴り響く。
修「空襲警報だ!」
修、児童たちを防空壕に誘導させる。児童たち、防空壕にそれぞれ入ってゆく。修も辺りを気にして取り残された子供がいないか確認しながら入ろうとする。
ドカーンと酢覚ましい爆発音がする。
南諏訪高原病院・霊安室。昭和20年1月3日。ツタキ、震える手でヒ素と水銀を取る
ツタキ「私の大切な人はみんな私の元を去っていくのだわ」
ビンと天井にかけた紐とを交互に見る
ツタキ「修さん…勉さん待ってて。私もすぐにあなたたちのもとに行くわ」
ツタキ、両方の瓶を見比べる
ツタキ「どっちの方法で死ぬのが一番いいのかしら」
覚悟を決めて
ツタキ「いいわ。両方使ってやる!修さんたちが受けた以上に辛い方法を用いて私も死ぬわ。さようなら!」
毒薬を服用しようとするツタキ。トミとカヨin
急いで駆け込んで来る
トミ「ちょっとツタキちゃん!何やってるのよ!」
かよ「やめてよ!バカな考えはよして!」
ツタキ「いいえ!いやよ!放して!」
激しく薬を持って暴れながら急いで飲み干そうとする。トミとカヨ、ぎょっとしてツタキの手を止める
ツタキ「放して!放してよ!」
カヨ「ダメ、離さないわ!ツタキちゃん、死んじゃあだめ!」
トミ「そうよ!死ぬだなんて言わないで!」
暴れるツタキを二人で止める
トミ「生きていれば、きっと…きっといいことがあるわよ!」
カヨ「ツタキちゃん!気を確かに持って!強く生きましょう!私達がついているわ!」
ツタキ、激しく首を振って泣き崩れる
○諏訪南高原病院・旧病棟
昭和20年4月1日。ツタキ、心ここにあらずに瀬戸内の車椅子を押して歩いている
ツタキ「今日は私の誕生日だわ…一人ぼっちの誕生日」
瀬戸内「あいつはツタキさんに何も言わないで勝手に約束を破りやがって。結局あんたに迷惑をかける結果になっちまった。ツタキさんとの大切な日もすっぽかしやがった…」
ツタキ「そうですよね…本当に」
空襲警報
ツタキ・瀬戸内「え!?」
梅乃の声「ツタキさんに瀬戸内さん!早く逃げて!警報よ!」
ツタキ「えぇ!?」
人々、逃げまどって防空壕に向かって走り出す。ツタキも急いで瀬戸内の車椅子を押して走り出す。
瀬戸内「ツタキさん、わしの事はいいからあんただけでも生きろ!」
ツタキ「何を言っているんですか隆彦さん!一緒に行くに決まっているでしょう!」
梅乃の声「ツタキさん!瀬戸内さん!」
ツタキ「柿澤婦長!」
全員、移動を始める。ツタキ、急いで車椅子を押して出来る限り小走り
瀬戸内「ツタキさん!早く!わしの事はもういい!あんただけでも早く逃げろ!あんただけでも生きるんじゃ!」
ツタキ「いいえ隆彦さん、そんなのだめに決まっているじゃないですか!一緒に行かれるところまで行きましょう!二人で生きるの!」
階段に差し掛かり、ツタキと駆け付けた梅乃、瀬戸内の車椅子を担いで階段を身軽に降りる。
梅乃「瀬戸内さん、しっかりおつかまり下さいね」
ツタキ「たとえ死んでしまう事になったとしても私は最後まで瀬戸内さんのお側にいます!修さんを守れなかった分も隆彦さんの事を守ります!」
ツタキと梅乃と瀬戸内、病院の出入り口の扉を開けて外に出る。一歩踏み出た拍子に 空襲、三人を直撃
ツタキ・梅乃「きゃあっ!」
ツタキ、梅乃、手を顔の前にかざしてガード
網倉家付近・防空壕の中。多くの人が避難している。
颯太「姉さん!ツタキ姉さんは!?」
薫子「大丈夫…きっと姉さんたちだって非難をしているわ」
颯太「大丈夫かな?僕なんだか不安だよ」
薫子「大丈夫に決まっているでしょ…」
朝香「おば様、おじ様、母上様はご無事なのでしょうか?」
覚美「亡くなってしまわれませんよね?生きて、またいつもの様にここに戻られますよね」
薫子「えぇ…あんたのお母様はきっと大丈夫」
颯太「姉様はそんなに簡単に死ぬ様な人じゃないよ」
薫と颯太、産まれたばかりの直里と睦子を庇う様に抱き締める
○同・防空壕の外
二人、恐る恐る顔をのぞかせる。南諏訪高原病院の一部から煙と火が上がる
薫子「あれって…南諏訪高原病院!?」
颯太「ツタキ姉様、本当に大丈夫なの?」
薫「姉様を信じましょ、姉さんはきっと無事よ。大丈夫」
朝香・覚美「母上様…」
薫子「とにかく、もし私達が死んでもこの子たちだけは守り抜かなくちゃ」
颯太「僕らがいなくなっても姉様にだけでも元気でいてもらわなくっちゃな…」
薫子「そうよね…」
二人の兄弟、互いに慰め合うように抱き締め合う。
T/平成24年4月1日・4階病棟ナースステーション。医療従事者たちが事務作業をしたり、動き回ったりしている。突然大きな揺れが起きる。全員、動きをtめる。ロッカーのスマートフォンも鳴り響く。
タミ恵「あら、地震?」
田苗「本当だ」
丸山「二人とも何のんきなこと言ってるんだよ!避難誘導しろ!」
梅乃「3人は自力で逃げれる患者さんたちの介抱をして!」
田苗・タミ恵・丸山「はい!」
同病院・駐車場。患者と医療従事者は全員避難している。
タミ恵「どうにか収まったみたいね」
丸山「みんなは無事か?」
田苗「全員ちゃんといます」
梅乃「よかった。しかし突然の地震、なんだったのかしらね」
タミ恵「長かったよな」
田苗・丸山「うん」
全員、しばらく放心状態
T/昭和20年4月1日。同・旧病棟。ツタキと瀬戸内、病棟に戻る。全員死。病院も玄関付近のみ一部ぐちゃぐちャ。ツタキ、辺りを見回す。
ツタキ「あぁ…こんな事になってしまって」
近くにいる全員に触れるが冷たく、ツタキの手に血が付く
ツタキ「血…本当にみんな亡くなってしまったの?」
辺りには遺体の周りに血液や飛び出た内臓が散乱して無残な状態になっている
ツタキ「あぁ…これがあのついさっきまで私が勤めていた綺麗で清潔で静かな病院?もうさっきまでの事がはるかかなたの夢のようね…信じられない」
放心状態で笑い出す
ツタキ「皮肉なものね。結局私の大切な人はみんな私の前から消えちゃった。もう誰一人として残っていないのに、私だけ生き残るだなんてね」
ー挿入歌ー
『愛の神よ、照覧あれ』
Porgi amor quarche ristoro
al mio duolo, a’ miei sospir!
O mi rendi il mio tesoro,
O mi lascia almen morir
ー終わるー
瀬戸内、車いすでツタキに近寄る。
瀬戸内「いや、ツタキさん」
ツタキ「え…」
ツタキ、急いで振り返る。瀬戸内、ツタキの側で微笑んでいる。
ツタキ「隆彦さん!?あぁ…隆彦さんよかった!隆彦さんは生きていて下さったのね」
瀬戸内「いんや…」
ツタキ「え?」
瀬戸内「残念ながら…」
首を振ってツタキを先ほどの玄関に誘導。玄関先にツタキと瀬戸内の無残な遺体
瀬戸内「私達もどうも死んだらしい」
ツタキ「え…私達も死んだ」
自分の体を見る
ツタキ「本当…だったら何故?みんなは?」
瀬戸内「残念だが私達だけが死んでもなお、この世に残されちまったらしい。他の者らはみんなあの世だ」
瀬戸内、車いすを降りてよろよろと病院の庭や病院内を歩き回る。
瀬戸内「なんという事じゃ…わしの仲間もみんな死んじまっとる」
ツタキ「アハハハ…」
瀬戸内「ツタキさん…」
ツタキ、放心状態で涙を流しながら笑い出す。瀬戸内、ツタキに近づいてツタキを慰める
ツタキ「なんで…こんなのってあんまりだわ。こんな体で私、こんなところに取り残されて、これからどうすればいいのよ」
ハッと思い出した様に
ツタキ「じゃああの子達は!?朝香と覚美と直里と睦子は!?一体どうなっちゃったの!?」
瀬戸内「ツタキさん、あの子たちの事はきっとお前さんの妹さんと弟さんがしっかり守ってくれているだろうし二人が立派に育ててくれよう」
瀬戸内、ツタキの体を抱き寄せて慰める様にすごく小さな優しい声を出す。
ツタキ「あぁぁ…」
恐怖と絶望にうめく
瀬戸内「泣くなツタキさん…これからゆっくり考えよう。きっとわしにとってもツタキさんにとってもいい解決方法が見つかるはずだ」
ツタキ「隆彦さん…えぇ、そうね」
瀬戸内「あぁ…」
教会墓地。誰もいなく、春先のまだまだ冷たい風が吹きつけている。颯太と薫子、バラの花を墓地に添える。
颯太「姉さん…死んじゃってたんだね」
薫子「姉さん、何で死んじゃうのよ。姉さんにはもう4人の子供がいるのよ。朝香も覚美もまだこんなに小さいし、直里と睦子なんてまだ赤ちゃんで母親の顔すらよく知らないっていうのに…」
二人、静かに花を何本も手向け続けながらツタキの体を触る様に墓石を撫でる
薫子「姉さん、かき餅あみくらの事は心配しないで。今度は私と颯太が姉さんの代わりに働いてこの先も、きっとかき餅あみくらを守っていくから」
颯太「うん…今よりもさらにいい店にして見せるから絶対見に来いよ」
薫子「その日が来るまで安らかにお休みください」
颯太「ツタキ姉様」
朝香・覚美「母上様」
薫子と颯太、笑う
颯太「いや、姉さんの事だからきっと休んでなんていないと思うよ。“何もしないというのも私の性に合わないわ”とか言いながら、あの世でもなお人のために働いていそうだよな」
薫「確かに…その通りだと思うわ」
二人、しんみりと教会墓地からout
昭和20年8月15日・落合小学校音楽室。修、一人で出窓に座って町の放送を聞いている。町は静かレ穏やか、落ち着いている。
修「戦争が終わったんだ…」
夕暮れの町。窓の外にはぐちゃぐちゃになった校庭といつもと変わらない夕焼け空が見える。
修「今更遅いよ…」
立ち上がって音楽室を歩き回る。いろいろな楽器を触って鳴らしてみたり、音楽室を出たり入ったり。
修「僕はここで地縛霊になった。外にはもう出る事が出来ない。誰にも気づかれず、一体どうすればいい?」
昭和21年4月。1年生の教室で落ち込む修。
修「今日は昭和21年…あれから1年か。ツタキやトムは元気に生きてるだろうか…ツタキ、本当にすまない」
そこに大きなカバンを背負った小学1年生の瀬戸内朝香(7)と瀬戸内覚美(7)in
修の近くにやって来る
二人「父様」
朝香「やっぱりここにいた、やっと会えた」
修、振り返って二人を見る
修「ひょっとして…朝香と…覚美なのか?」
二人、微笑んで頷く
修「どうして?僕が見えるの?」
朝香「見えるから呼んだんじゃない!」
覚美「父様がここにいるって分かったから安心。これで今度からいつでも会える」
朝香「私達ね、実はここの学校に入学が出来る事になったの」
修、驚く
修「な…何で?だって君たちは」
二人、互いにいたずらっぽく顔を合わせる
ー時の流れ回想ー
二人は6年間、修の教室で学び、卒業していく。卒業をすると、下の双子・睦子と直里も修のクラスに入学してきてさらに6年間を過ごす。
T/1970年7月。
瀬戸内朝香(31)がウエディングドレス姿で学校を訪れる。後ろで入口よりin
修、窓の外をぼんやり眺めている。
朝香「父様」
修、気が付いて振り向く
修「朝香…?」
朝香「父様、私ね…今日結婚をするの」
修「そうなのか、おめでとう」
朝香を抱きしめる
修「朝香、立派になったな。ここまで育ってくれて本当にありがとう」
朝香「いいえ、お礼を言うのは私よ。父様と母様のお陰…本当にありがとう」
修「ツタキは…」
朝香、小粋に微笑む
朝香「心配しないで、母様は相変わらず元気よ。今でも病院で働いている。いつも父様にお会いしたがっているわ」
修、心を痛めて涙を隠すように窓の外に目を戻す。
朝香「父様…」
微笑んで修の手を取って走り出す
修「ちょっと!」
朝香「早く!始まっちゃうわ!」
修「始まっちゃうって何が!?どこで!?」
朝香「体育館よ。父様、学校から出られないからこの校内で結婚式を開くことにしたの」
廊下を走りながら
朝香「父様には一緒にヴァージンロードを歩いていただかないとね」
修、走りながら朝香の言葉に胸を熱くする
朝香「旦那様になる掛川弥穂さんはとても誠実で素敵な方よ。父様そっくりの素晴らしい心の持ち主だわ。きっと父様も気に入って下さると思うの」
朝香、修の手を繋いで学校の廊下を全速力で走る
同・体育館。多くの人たちが集まっている。朝香、自分の娘たち以外からは誰からも見えない修と腕を組んでヴァージンロードを歩く。朝香と修は体育館後ろの入口よりin。参列者と参列者の間をゆっくり歩く。
朝香(小声で)「父様が他の誰にも見えないのは幸いだと思うわ。だって思いっきり泣いても誰も気が付かないんですもの」
修、肩ひじで何度も涙をぬぐいながら泣いている
朝香(小声で)「全く…父様って本当に涙もろいお方です事」
朝香、掛川弥穂(35)と並んで結婚式が進んでいく
T/1973年3月。掛川朝香(34)、いつもの入口よりin
女の赤ちゃんを抱いて修の元に来る。修、とても喜んで朝香を抱きしめ、子供を抱く。赤ちゃんにも修の姿は見えている様子。
T/1975年1月。掛川朝香(36)、2歳になってよちよち歩けるようになった子供・掛川綴(2)と、もう一人新しい赤ちゃんを抱いて修を訪ねる。いつもの入口より朝香in
修「朝香!あぁ…綴ももうこんなに大きくなったのか!」
朝香の腕を見る
修「わぁ!」
朝香「そう…妹が生まれたの。茶和子っていうのよ」
修、綴と遊びながらも茶和子を抱いて茶和子をあやす。
朝香「良かった…さすがは私の子。二人とも父様の事が分かるみたい」
修、すっかり父親の顔で二人と遊んでいる
修「僕が分かりますか?おじいちゃんですよ」
朝香「良く分かっているわよね」
朝香、それから毎日、毎年修の元に顔を出しに来ている。二人の子供も成長しても修の事が見えており、修にとてもなついている。修は地縛霊になっても良き父親で良き祖父で、良き教員として強かに慎ましくやっている。
1988年10月20日。15歳になった掛川綴(15)と13歳になった掛川茶和子(13)と掛川朝香(49)が修を訪れる。赤ちゃんを抱いている。
朝香「私もも49歳になるけど、まさかこの年になってまた母親になれるだなんて夢みたいだわ」
修「本当だ…僕もまた新しい孫を見れるだなんて思わなかった。僕も嬉しいよ…ありがとう。名前は?」
朝香「10月10日に生まれたの。だから元気いっぱいの男の子、十君よ」
修、笑う
修「朝香らしいね」
朝香「父様だってきっと同じお名前を付けたと思うわ。でしょ?父様譲りだわ」
修、笑いながら十を抱く
修「十君、分かりますか?おじいちゃんですよ」
朝香「ちゃんとわかっているわよね」
十、修を見て安心したように笑う
ー終わりー
T/平成3年。南諏訪高原病院・救急救命室。掛川朝香(53)、3歳になったばかりの掛川十(3)が横たわるストレッチャーの隣にいる。十の周りにはたくさんの医療従事者。
朝香の声「十!十!しっかりして!目を覚まして!」
中郡先生「お母さん、落ち着いてください!」
綴の声「十!?分かる!?お姉ちゃんよ!十!?」
3歳の十、瀕死でぐったりとしている。ツタキも急いで治療室にin
ツタキ「朝香に…十君!?」
心電図、警告音を出す。ツタキ、十の小さな手を握って口づけをする
ツタキ「死んじゃダメ…早く元気になるのよ」
心電図も十の容態も落ち着く
ツタキ「嘘…落ち着いた…」
朝香「十!」
綴「よかった!」
ツタキ、自分の唇と手を触る
ツタキ「ひょっとして…私、このまま何も出来ないんじゃないかも。私にも、看護婦としてまだ出来る事があるんだわ!」
ツタキ、悔しそうに指を鳴らす。
ツタキ「何で40年もの間、私は何もしてこなかったのかしら!?こんな事に気が付かなかったのかしら!?ただ見ているだけで嘆いているだけだったのかしら!?」
決心する
ツタキ「そうよ!私は生きている人間を脅かして命を奪ったり、人を脅かして怖がらすだけの幽霊になんかなりたくない!出来るのならば喜んで、幽霊になってもなお、私は看護婦として生きる人生の使命を果たすわ!私は患者さんを救う幽霊になる!」
ツタキ、その日から急患が来るたびに動き出す
同病院・4階病棟ナースステーション。掛川十(25)、わくわくと目を輝かせ
て出勤。スタッフ入り口よりin
十「あぁ!やっとこの病院に就職が決まってよかった!」
ふっと笑う
十「4階病棟の泌尿器科外来担当か。まぁいいか…」
ロッカーに荷物を入れてペットボトルのお茶を飲みながら
十「本当は小児科外来がよかったな」
十、仕事に入る。
十「おはようございます」
ツタキ、4階病棟のナースステーションに現れる。
ツタキ「あら?」
ツタキ、興味深げに十を見る
ツタキ「あの新人の男の子…ひょっとして、十君?」
タミ恵、丸山、田苗(各25)が事務仕事に追われている。
十「おはようございます!今日からよろしくお願いしま…って、あれ?」
田苗・タミ恵・丸山「十!?」
十「みんな!」
丸山・田苗・タミ恵「十!」
梅乃もやって来てにっこりと微笑む。
梅乃「十君、改めてよろしくね」
十「はい!」
掛川家・浴室。十が浴槽に入ってシャワーをかけ流しながら浴槽でカレーライス
を食べながら電話をしている。電話はテレビ電話になっているが十は気が付いていない。
十「うん、そう言う事なんだ」
絹重「なるほど…十さん、よかったわね。夢が叶って」
十「僕もう、ウハウハ!」
十、話に夢中。絹重、ずっとっホを赤らめたままクスクス笑いをこらえて十の体を見つめたまま。十、子供のように足を水の中でばたつかせたり、狭いお風呂で泳いでみたり、潜ってみたり、シャワーの水を飲んだり、カレーライスを食べたりしている
絹重の声「じゃあもう、南諏訪高原病院で正式に働いているのね」
十「うん、おかげさまで!」
十、湯船につかりながら足を滑らす。カレーライス、お風呂の中に散らばる。絹重、見たくない光景に思わず目を覆う
十「うわぁ!」
絹重「大丈夫?」
十「ごめんごめん、大丈夫。ちょっと足を滑らせただけ」
絹重「お腹…」
十「うん…?」
絹重「お疲れみたいだから、今日は切るわ。良く温まってゆっくり休んでね」
十「絹恵さん?ちょっと絹恵さん!おい!」
絹重「それでは…さようなら」
通話は切れる。十、お風呂の惨劇に気が付いてショックを起こす
十「うわぁ!僕のカレーライスがぁ!楽しみに食べてたのに…もう最悪」
頭をかきむしる
十「僕…お姉ちゃんに見つかったらあの世行きだ」
十にメッセージが送られてくる
十「ん?絹重さんからだ」
開く
十「あ…え…?」
十、メッセージを呼んで表情が硬くなり、目が大きく見開かれる。
絹重の文面『今、テレビ電話になってたから全て見えてしまったの…ごめんなさい。だからあなたが心配になっちゃって。気分が悪かったら無理しないで休んでね。胃、お大事にね。そしてお腹よく温めて早く治してね』
十「え…」
通話履歴を見る。テレビ電話と表示されている
十「うわぁ、最悪だ!もう僕、絹重さんに顔向けできないよ!彼女にフラれちゃう!結婚できない!」
半泣き
十「もうやだ…この惨劇、絶対に下痢と嘔吐だと思われてるじゃないか!」
十、お風呂の水を恨めしそうに掬い取ってえずく
十「えうーっ…」
急いで浴槽を出る
十「いくらカレーライスのこぼれた残骸だと分かっていても…気持ち悪すぎる。もうあがろう」
シャワーを浴びながら近くの棚に置いてあった缶ドリンクを手に取って飲むが、直後に思いっきりむせ返る。
十「うわぁしまった!こりゃジュースの方じゃなくてお酒のプンシュじゃん!僕、お酒持ってきちゃったんだ!」
十、ふらふらになってトロンとうつろな目で真っ赤な顔で浴室を出ていく。ほぼ
千鳥足になっている。
十「Have mercy…」
南諏訪高原病院・4階病棟廊下。夜勤。十、懐中電灯を持って歩いている。十、暗闇よりin
十N「で、今日は初めての夜勤なんだけど…ん?」
ツタキ、瀬戸内隆彦(105)の車いすを押して十とすれ違う。
十、黙って頭を下げて二人は通り過ぎる。ツタキ、立ち止まって振りかえり十を見る
ツタキ「掛川十君?」
十、驚いて懐中電灯を落として立ち止まり、振り返る
十「え?」
ツタキ「よね?」
十「はい…」
ツタキ「はーるかぶりね。私の事、覚えてる…かしら?」
十「え?」
落とした懐中電灯を拾い上げてツタキをまじまじ見つめる
十「はーるかぶり?どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
ツタキ「まぁ…覚えてないのね」
小粋に微笑む
ツタキ「まぁいいわ。きっとその内思い出すと思う」
十、 思い出そうとしながらも不思議そうにツタキを見る。ツタキ、吸い込まれて
しまいそうな眼差しで一度も目を離さずに十を見つめている。十、おどおど。廊下には他に誰もいないし、看護師たちも歩いていない。十とツタキの会話は二人にしか聞こえていない。
十「あ…あぁ、僕は今年の四月から4階病棟で働いております、看護師の掛川十です」
ツタキ、微笑んだまま十を見つめる
十「よ、宜しくお願いします。失礼ですが、どちらの看護師さんですか?まだ僕、皆さんの顔も名前も知らなくて…」
ツタキ「瀬戸内ツタキ。隔離病棟の看護師をしているわ。また会うでしょうし、これからよろしくね」
ツタキ、車いすを押して十とは反対方向に歩いてゆく。瀬戸内、微笑んで十に軽く会釈。ツタキ、十とは反対方向にout
十「隔離療養病棟…って」
二人、通り過ぎる。十、歩きながらも考えて悩む
十「何処?」
旧病棟隔離病棟2階・バルコニー。ツタキ、一人で風に吹かれている。春先の高原の強くて冷たい風が吹いている。
ツタキ「この街並みも随分と変わったものね。私も屋上までは出られるのに」
体を触る
ツタキ「外の世界もこんなに近くにあるのに、何でこの病院を出られないのかしらね。私は地縛霊として一生この病院に、いえ…永遠にこの病院に縛られたままなのかしら?誰にも知られることもなく、死ぬことも出来ず」
懐かしそうにふっと笑う
ツタキ「掛川十君…あの子も見ないうちに随分と大きくなった事。大きくなったらさらに…あの子、修さんにそっくりになったわ。修さん…どうしているのかしら?あなたは先に遠い黄泉の国に行ってしまったの?それともこの世のどこかにさ迷われているの?私と同じように…」
大きく伸びをして星の輝く夜空を見つめる
ツタキ「いいえ…深く考えたって何も解決はしないわ。時の流れに任せましょう。きっと十君にはまた会えると思うし、それだけでも慰めになるもの」
屋内に戻ってゆく
ツタキ「修さん…あなたに会いたい。あなたが恋しいわ」
強い夜風と共に扉の前で消える。ツタキout
ツタキの声「きっと今宵もとても寒いのでしょうね。でも私には寒さも風邪の冷たさも感じない…悲しく空しいわ」
ーED credit and songー
『白銀の月』
ーENDー
家の中では網倉薫(12)、網倉颯太(11)、囲炉裏の側で宿題をする。ツタキin
地下足袋を脱ぐと、囲炉裏のある居間に入って来て囲炉裏の近くに野菜の入ったびくを置く。ツタキ、寒そうに囲炉裏の日に手をかざし、手をこすり合わせる。
8畳くらいの居間には囲炉裏の他は何もない。入って右手に手洗い場(トイレ)と手洗い桶がある。その隣には浴室。板の間で、小さな豆電球が一つついているのみ。薄暗い室内。
ツタキ「あぁ、寒い。二人ともただいま」
薫「あ、姉様!」
颯太「お帰りなさい」
二人のお腹が鳴る。
颯太「お腹すいた!」
ツタキ、立ち上がって割烹着をつけると、土間へ通り、左手にある台所out
食事の準備を始める。
ツタキ「これからご飯にしますよ」
薫子と颯太、びくの中の大量の野菜をのぞき込んで微笑む。
薫子「わぁ!また今日も野沢菜ともろこしが沢山!」
ツタキ「ありがたいことに、沢山出来てくれてね。おかげさまでまだまだ夏場にとれたジャガイモや枝豆やもろこしもだっぷり!」
颯太もワクワクしながら石臼とすり鉢、すりこ木を持ってくる
颯太「じゃあツタキ姉様、後は僕らの仕事だね」
颯太、もろこしの皮をむきながら
颯太「これ、粉にするよ」
ツタキ「ありがとう。よろしく頼むよ」
薫子「だったら私はシミ大根を作る準備」
薫子、土間を降りて左手の台所にout
大根を洗い出す
ツタキ「二人とも、ありがとね」
T/平成22年冬の初め。長野県富士見町・南諏訪高原病院。掛川十(22)、親友の丸山修(22)と共に病院を出てくる。空は夕方になりかけの青紫色で、病院の旧隔離病棟の周りには樫の木と白樺の木がいくつもそびえている。その下にはリンドウの花。
十「うわぁ…寒い」
十、空を見上げる。雪が降って来る。十、身を縮めて立ち止まる
十「どうりで寒いわけだよ…雪だもん」
丸山、十の肩に手を置いてポンポン叩く。二人とも、分厚いコートに手袋、耳まで隠れる帽子を深くかぶっている。十はやせ形で小柄、丸山は十より10センチほど背が高くて多少がっしりしている。二人とも丸い大きな眼鏡をかけている。
丸山「十、お疲れ」
十「うん」
丸山「ん」
丸山、道向こうを指さす。
十「ん?」
病院を出た通りの向こう側。柳平絹重(22)が笑いながら大きく手を振っている。地味な色の厚いコートにに和柄の布に綿を詰めたような防寒頭巾、長い毛糸のスカートにブーツで小柄な女性。彼女も丸くて大きな眼鏡をかけている。
丸山「彼女が来てるぞ」
十「本当だ!」
十、嬉しそうに駆け出しながら丸山に手を振る
十「じゃあ僕、先に行くよ。じゃあね!」
道には横断歩道はない。十、左右を確認してから狭い道を向こうに渡る。丸山、道向こうで絹重の元に駆け寄る十を見て微笑む。
丸山「あいつも本当に…彼女ラブだよな」
丸山、踵を返して病院下の駐車場の方に歩いてゆく。
十、絹重の元に駆け寄る。絹重、嬉しそうに微笑んで十に持ってきたマフラーをかける。
十「ありがとう」
十、マフラーを首元で縛る
十「絹重さん!迎えに来てくれたんだ」
絹重「えぇ、私も仕事が早く終わったの」
絹重、自分の車の助手席を開ける。白ナンバーでコンパクトな赤色のスポーツ風の自家用車。
絹重「乗って」
十「うん!」
十、車の助手席に乗り込み、絹重は運転席。車は発進し、駐車していた場所を離れていく。
車に乗りながら。絹重が運転する、十は助手席で暖かいお茶を紙コップで飲んでいる。社内は5人乗りで広く、どちらかと言えば男性風のイメージの車。
十「ねぇ、絹重さん?」
絹重「何?」
十「明日って君の誕生日だよね」
絹重「あらそうだったかしら?最近忙しくってそんな事すっかり忘れてたわ」
十「自分の誕生日くらい覚えてろよ」
絹重「で?それがどうしたの?」
十「どうしたのって、君も冷めてるなぁ。どこか行きたいところとか、欲しいものとか、食べたいものとかってないの?」
絹重「行きたい所?欲しいもの?食べたいもの?うーん…」
運転しながら考える。
絹重「特にないかしら」
十「おい!」
十、絹重に突っ込みを入れる様に小突く
絹重「あなたの希望は?何かある?」
十「君の誕生日なんだから僕の希望聞いてもしょうがないだろ」
赤信号で停まる。絹重、ハンドルを握りながら悪戯っぽく片手でドリンクを飲む。信号機が変わると笑ってアクセルを踏み込む
十「うわぁ!」
絹重「どうでもいいわ。あなたにお任せする」
十「君って人も本当に…」
言葉を飲み込む
十「何でもない」
笑って近くにあったホットドッグに手を伸ばす
十「これ食べていい?」
絹重「勿論いいわ。あなたのために買ったの」
十「やったぁ!いただきます!」
十、ニコニコして紙袋を開けて、ホットドッグを食べ出す。やわらかいコッペパンにマスタードとケイジャンケチャップ、チョリソーとレタス、そしてピクルス、
オリーブの実、ケッパーの入った典型的なアメリカ風のホットドック。
十「んー美味しい」
平成23年4月1日・飛行機内。十と絹重、ファーストクラスに悠々と座っている。絹重は興奮気味に辺りをきょろきょろしながら十の隣の窓際に座っている。ファーストクラスはわりかし空いている。
絹恵「まぁ!私ファーストクラスなんて初めてだわ!」
十「ふふ、気に入ってくれた?」
絹恵「勿論!」
十「良かった」
十に抱き着いて口づけ。十、照れ笑い。食事が運ばれてくる。十はお肉で絹重は魚。二人、赤ワインで乾杯する。
絹重「何処に連れて行ってくれるの?」
十「僕にお任せだって言ったろ。だからバースデーデートは僕のおすすめコースで」
絹重「サプライズね」
二人、無言で食事を始める。
T/スウェーデン・ヨーテボリ。
とある公園の池で小舟に揺られている。夕暮れの赤い空。人はほとんどおらず、時々犬の散歩の人が通り過ぎるくらい。十が船をこぎ、絹重は十と会い向かいに座って乗っている。
絹重「これからどこに行くの?」
十「内緒」
二人、しばらくして船を降りる。十、ふらふらになっており、絹重が肩を支える。
十、立ち止まってうなだれ、胸を擦る。絹重、十の背を擦る。
十「おえっ…気持ち悪っ…」
絹重「大丈夫?」
十「大丈夫大丈夫…」
絹重「無理しちゃだめよ、少し休みましょう」
十「大丈夫だよ、ありがとう。きっと歩いていた方が良くなるって」
十、ゆっくり歩きだし、絹重が十の肩を支えている。空は大分暗くなっている。
ヨーテボリ・オーロラ公園。すっかり夜になっている。オーロラのちらつく幻想的な空。二人、手を取り合って空を見上げている。
絹重「わぁ…」
十「一番よくオーロラが見える場所」
絹重「素敵」
十「僕、ずっと君とここに来たかったんだ」
絹重「不思議な感じね」
十「そうだね」
二人、オーロラの空をしばらくうっとりと眺める。十、そっと絹重に寄り添って絹重の肩を抱く。絹重も気が付いて十に歩み寄る。極寒のヨーテボリ、二人ともエスキモーの様な重装をしている。公園にはストリートグランドピアノが一台あるのみ。後は何もなく二人だけ。
翌日の昼。ヨーテボリ市街地。人通りが多いにぎやかな街。十と絹重、手を取ってスキップ気味に歩く。二人とも昨日よりは軽装だが、それでもやはり厚い防寒に身を包む。
絹重「次は何処に行こうかしら?」
十「そうだな…ハングリー?ハンガリー?」
絹重「分かった。H・U・N・G・R・Y!ハングリーね」
十「H・U・N・G・R・Y!ハングリー!」
二人、ナイスとハイタッチ。二人、店の中にout
レストラン「ハーリ・ヤーノシュ」。店内は混んでいる。BGMでは古いヨーロッパの映画ソングがかかってる。二人は満足そうに笑って立ち上がる。十、お代を支払ってからチップをテーブルに置いて、絹重の手を取って店を出る。
十「はぁ…もうお腹いっぱい」
絹重「美味しかった」
昼下がり。二人、外の人通りの多い通りを歩き出す。絹重は微笑みながら十を見る。
絹重「次は?何処に連れて行ってくれるの?」
十「僕に丸投げかよ…」
絹重「言ったはずよ。今回のデートはあなたにお任せだって」
十「君って人はいつもそうだよな…」
町の中央広場に楽師たちが集まる。十、指をさす。
十「あ、見てごらん」
絹重「え?」
十「一緒に来て」
十、絹重の手を引いて急いで広場に向かい、サークルの中に入る。楽師たちの演奏と共に町人たちが踊り出す。
十「僕らも踊ろう」
絹重「私、ダンスなんて出来ないわ」
十「大丈夫、踊ろう」
十、絹重の手を引いて紳士の様にリードして踊る。絹重、うっとり夢見心地になって十の事を見つめている。
客船の上。夕方。かなり大きな豪華客船は甲板もかなり人が多く、それぞれにワインを飲んだり、軽食を楽しんだりしている。二人、甲板に出て海を眺めている。
二人もワインを飲んで海を見ている。
絹重「いよいよ日本に帰るのね。帰りは船なんてあなたもロマンチックな方」
十「南米経由で帰りたいからね」
絹重「南米?何故?」
十「さぁ…僕にも分からないけど、僕がそうしたかったから」
絹恵、笑って十を小突く
南米・ナスカの地上絵。
十「遺跡巡りもいいねぇ。ここがナスカの地上絵だ」
絹重「わぁ…本物なんて初めて」
十「僕もこんなの初めてだよ」
十、写真を撮りまくる
南米・マヤ遺跡。
十「そしてここがマヤ遺跡」
意味深に
十「日本の縄文人と関係があるだとか」
絹重「あなたって詳しいのね」
十「まぁね…色々調べたから」
十、写真を撮りまくる。絹重、十のカメラをのぞき込む。新品の一眼レフ。
絹重「まぁ!それ一眼レフ!?」
十「うん」
撮りながら
十「言ったろ、小さい頃から僕は写真を撮るのがとても好きなんだ」
絹重、十から離れて広い土地で踊りまわる
ー挿入歌ー
『ケセラセラ』
When I was just a little girl
I asked my mother what will I be
Will I be pretty will I be rich
Here's what she said to me
Que sera sera
Whatever will be will be
The future's not ours to see
Que sera sera
What will be will be
When I grew up and fell in love
I asked my sweetheart what lies ahead
Will we have rainbows day after day
Here's what my sweetheart said
Que sera sera
Whatever will be will be
The future's not ours to see
Que sera sera
What will be will be
Now I have children of my own
They ask their mother what will I be
Will I be handsome will I be rich
I tell them tenderly
Que sera sera
Whatever will be will be
The future's not ours to see
Que sera sera
What will be will be
Que sera sera
ー終わるー
南米・マチュピチュ遺跡。
十「で、最後はマチュピチュ遺跡」
絹重「なるほど…」
十「インカ帝国だね」
絹重「インカ帝国か…ん!」
十「ん?」
絹重、スマホの写真を十に見せる
絹重「これね、前に長野県で撮ったの。マチュピチュ…でしょ」
十「本当だ」
二人、笑う
十「だったら…」
十、絹恵のスマホを操作
十「ハッシュタグは、長野県インカ帝国と松本市マチュピチュ」
投稿。
絹重「あらら、本当に投稿しちゃった」
十「良いじゃん、別に変な投稿じゃないんだから」
絹重「それもそうね」
絹重、死期を感じ取ったような顔をする
十「どうしたの?」
絹重「いえ…何でもない。十さん、幸せになってね」
十「は?」
絹重「なんちゃって…」
小粋に笑う
絹重「何でもないわ」
十「なんだよ、怖いって…」
MT/「星の石」
ーOP credit and songー
「そなたの赴くところ何処にでも」
ーENDー
T/日本・長野県諏訪郡富士見町。
十のアパート・居間。1dkの小さなアパートで地区100年でとても古い。しかし家の中はきれいに整理整頓されて掃除も行き届いている。金魚とナイチンゲールが買われている。壁にはフローレンスナイチンゲールのポスターが張られている。十と丸山、点滴と注射の訓練をしている。十、丸山に注射をしている。十、考えことをしてボンワリとしている。
丸山「痛い痛い痛い痛い!おい十、痛いったら!」
十「え…うわぁ!ごめん!」
丸山の腕、針がとんでもない事になって刺さっている。十、我に返って慌てて処置。丸山、とても痛そうに顔をしかめる。
丸山「お前、真面目にやれよ!」
十「ごめん…」
終わった後。15時くらい。二人、お茶をする。
丸山「どうした?悩み事?」
十「考え事してたんだよ」
丸山「何の?」
十「彼女の事…」
丸山「絹恵さん?」
十、ため息をつきながら頷きながらコーヒーを飲む
十「最近絹重さんと連絡とれないしさ、会いに行っても家にいないみたいだしどうしたのかなって」
丸山「喧嘩でもしたの?」
十「いや…何も心当たりない」
十、落ち着かない様に何度もコーヒーをすすってはため息。丸山、心配そうに十を見つめる。十、うわの空でため息をつきながらコーヒーに大量の砂糖を入れる。
丸山「おい十、それ入れすぎ」
十「今はいいの…」
丸山、十の手を止めて砂糖壺のふたを閉めながら
丸山「とにかくお前がそんな調子じゃ練習も怖いし、僕も調子狂うから今日のと
頃は練習は終わりにしよう。お前はゆっくり休め」
十「うん…」
丸山、コーヒーを飲み干し、立ち上がって手を振ると、十の家の玄関に行きout
十、最後まで丸山を見送っているが、丸山がいなくなるとテーブルの上のお茶セットを全て片付けてから近くのソファーに座ってそのまますぐに眠りに落ちる。
T/昭和8年4月。信州富士見高原。
南諏訪高原病院・旧病棟玄関前。多くの看護婦見習の女性が玄関先に集まっている。ツタキの隣に名取カヨ(12)、植松トミ(12)が並ぶ。最前列に柿澤梅乃(37)が立ち、説明をしている。白樺の木と樫の木がそびえ、リンドウの植え込みがある。
トミ「ツタキちゃん!」
ツタキ「トミちゃん!かよちゃん!」
カヨ「また一緒になれた。がんばろう!」
ツタキ「ええ!」
三人、肩を組んでオペラ「魔笛」のパパゲーノのアリア「おいらは鳥刺し」に乗せて替え歌を歌う。
トミ・カヨ・ツタキ「♪私達はいつでも一緒、ナース三人侍女ホイサッサ!」
三人、笑う
T/平成25年春。
南諏訪高原病院・4階病棟ナースステーション。小山タミ恵(23)、イライラとペンをカチカチやりながら頭をかきむしる。
タミ恵「あー…もうむかつく!」
強くデスクを叩く。五味田苗(23)と丸山、呆れ顔で目を細めてその様子を見ている。
田苗「また始まったよ…」
丸山「どうした?」
タミ恵「せっかく看護師になれ立ってんのに!どうして私が泌尿器科外来担当なのよ!」
紙にペン先を打ち付けながらイライラ
タミ恵「私は小児科か産婦人科に行きたかったのに」
田苗「いいじゃん、普段は4階病棟なんだし」
丸山「なんか僕ら、全員一緒って面白いよな」
タミ恵「確かにねぇ」
丸山を睨む
丸山「な、なんだよ…」
タミ恵「あんた…もし余計な事したり言ったら…容赦なく打つよ!」
こぶしを振り上げるタミ恵とガードする丸山。
丸山「何もないのにそういうこと言うなよ」
小粋にタミ恵を挑発するように
丸山「ご心配なく。僕は君のような女には興味ありませんから」
タミ恵「あんた…マジで打つよ」
丸山「打てるもんならぶ…」
タミ恵、力いっぱい丸山を小突く
丸山「痛っ!」
T/昭和7年冬。ナース三人侍女(12)、病室で亡くなった女性の遺体洗拭をする。病室の隅で小河原勉(15)、涙をこらえて俯き、立ち尽くす。瀬戸内修(15)、傍らで勉の肩を抱き、共に涙を流す。
T/昭和10年春の昼下がり。網倉ツタキ(15)、着物姿で瀬戸内修(18)と共に花畑を散歩している。空は青く澄み渡り、ひばりが上空を飛んでいる。八ヶ岳が間近にそびえ、遠くには蓼科山が見える。ツタキ、嬉しそうに両手を上にあげる。
ツタキ「あぁ、これで私も卒業したんだわ!」
修「おめでとう。とってもきれいだよ。その着物も君も…」
修、立ち止まってツタキの額にそっと口づけをする
修「とってもよく似合ってる」
ツタキ、真っ赤になって動揺しながらも小粋に笑って修を小突く
修「ツタキさん…」
修、笑いながら思い切ってツタキの手を取る
ツタキ「ん?」
修「ちょっとこれから、僕と一緒に来てくれる?」
修、ツタキの手を繋いだまま走って行く
高原の花畑。ツタキ、花の中に立ってくるくる踊っている。修、器用に花を結って花の冠と大きなブーケを作り、踊るツタキの手を取り、ツタキにかぶせる
ツタキ「わぁ素敵!」
修「ありがとう。はい…」
ツタキに綺麗にアレンジされた花束を持たせる
修「これも君にあげる。僕の蓼科ローズ…」
ツタキ「蓼科ローズ?」
修「高原のバラ…山の女王…薫るそよ風」
ツタキ、照れて俯く。修、「♪サセパリ」の一説を口ずさむ。
ツタキと修のみ。夕方になり、空が赤くなると同時に風が強くなる。鳥たちが空を帰ってゆく。修、岩の上に座って頬杖をついて遠くを見つめている。ツタキ、緑の草の上に立ってハーモニカを吹いている。
修「ツタキさん」
ツタキ、ハーモニカをやめて修の方を向く
修「明後日から僕は東京に立つ」
ツタキ「えぇ」
修「東京で音楽の教員になるために勉強をしたら、再びまた富士見に戻ってくるつもりだ」
ツタキ「え?」
修、ツタキを見て微笑む
修「このまま僕が京都に戻るか東京で教員になるかと思ってた?」
修、立ち上がって辺りを見つめながら大きく深呼吸
修「ううん、僕はこの町が好きだ。必ずこの地に戻って、この地で教員になる。僕は生涯ここで死ぬまで生きていきたいと思っているんだ」
ツタキ、嬉しそうに微笑む
ツタキ「私、あなたの素晴らしい夢を心から応援してる。大学を卒業してさらに立派になったあなたに会えるのを楽しみにしているわ」
修「ありがとう」
ツタキ「修さん、お気をつけて」
修、ツタキを強く抱きしめる。ツタキ、目を丸くして真っ赤な顔をして固まる。まだまだ冷たい高原の風が二人に吹き付けている。
ツタキ「え…ちょ…ちょっと修さん!?」
修「ツタキさん、この地を発つ前にどうしても伝えたかった。僕は君が好きだ」
ツタキ、放心状態で修に抱かれたまま。
修「僕は君より3歳も年上だし、しばらくはこの土地にもいなくなってしまうが…君の気持は?」
ツタキ、もごもごしたまま動揺
ー挿入歌ー
『マライカ』
(修)
Malaika,nakupunda malaika
Ningekuoa mali we,ningekuoa dada
Nashindwa na mali sina we
Ningekuoa Malaika
Pesa zasumbua roho yangu
Nami nifanyeje,kijana mwenzio
Nashindwa na mali sina we
Ningekuoa Malaika
Kidege,hukuwaza kidege
Ningekuoa mali we,ningekuoa dada
Nashindwa na mali sina we
Ningekuoa Malaika
Malaika,nakupunda malaika
Ningekuoa mali we,ningekuoa dada
Nashindwa na mali sina we
Ningekuoa Malaika
ー終わりー
修、動揺して気まずそうにツタキを胸から離して後ろ手を振って急いで帰ってゆくout。ツタキ、放心状態で修を見送り、そっと唇を人差し指でなぞる。辺りはコバルトブルーになり、夜になっている。金星と満月の光で高原の花々がきらめいて揺れている。
網倉家。ちゃぶ台の上には揚げだし豆腐と三つ葉のお浸し、コーンフラワーで作ったおやきが並んでいる。網倉の三兄弟、食事をしている。部屋は薄暗く明かりが灯り、時計が時を知らせるベルを打っている。
薫子「姉様?」
ツタキ、放心状態でおやきをいくつも黙々と食べている
薫子「どうしたの?」
颯太「ツタキ姉様、いつもと違う」
二人も食べながらツタキを見つめている。あの花束と花の冠が壁に飾られている
T/昭和13年春。富士見町の民宿
瀬戸内修(22)、網倉ツタキ(19)の手を引いて民宿にin。民宿のエントランスは多くの客で混んでおり、タバコを吸う男性の数も多い。女性はおしゃれな西洋風の奥様が多く、子供はいない。
ツタキ「修さん、お休みのたびに勉さんと共にいつも戻って来て下さって、私とっても嬉しいわ」
修「僕も君に、トムもカヨさんに会いたいからさ」
ツタキ「もう修さんたちもご卒業ね。今度は正式に帰っていらっしゃるのね」
修「あぁ…」
宿泊確認を取っている修。ツタキと修は並んでカウンターに立っている。民宿の女将・清水克子(60)が通りかかるin
生ごみを見るような目で二人を見る
克子「まぁ、こんなに若くて結婚もしていないような男女が二人だけで民宿だなんて…あぁ汚らわしい!なんてふしだらな!」
ツタキを見る
克子「おや、あんたはツタキちゃんじゃないかい?」
ツタキ「克子さん!」
克子「あんたもこんな非常識な男となんか一緒にいちゃだめだよ。すぐに別れな」
修「ごめんなさい女将さん。でも安心してください。僕らはもう夫婦になるので」
克子とツタキ、驚いて修を見る。修、小粋にツタキの肩を抱く。
ツタキ「お…修さん!?」
修、真っ赤になって照れながらオパールで作られた石の造花をツタキに渡す
修「これ、小河原勉が考えた飾り物なんだ。中世ヨーロッパにはばらの騎士という風習があって」
修、ばらの騎士の説明をし出す。ツタキと克子、修の話のうまさと面白さにうっ
とりしながらも夢中で聞き出す。
修「よってそれを真似たんだってさ。だから僕らは愛する女性にこれを渡す。オパールの水中花っていう名前の作品なんだ」
ツタキ「オパールの水中花…」
修、エントランスを見渡す。端に古いアップライトピアノが置かれている。
修「凄い…ピアノがある!」
修、ピアノの椅子に座る
修「女将さん、このピアノちょっと弾かせてもらうよ」
ツタキ、ピアノの側の修の近くに行く。
ツタキ「修さん、ピアノがお弾きになれるの?」
修「少しだけならね」
修、ピアノを弾き出す
克子「あらまぁまぁ…まさか本当に弾いてくれる人がいるだなんてねぇ。今まではただの飾りとしてしかなかったピアノなのに」
そこに清水春助(63)が二階からの階段からin
修のピアノに聞き入る。
春助「おぉ…」
修を指さす
春助「彼はピアニストかい?」
克子「知らんけどなんか、ツタキちゃんの恋人らしいよ」
春助「俺は本物のピアノなんて初めて聞いたぞ」
克子「そんなの私もだよ」
ツタキ、驚きながらもうっとりとして聞いている。
ー挿入歌ー(修の弾き語り)
『聞かせてよあの言葉を』
(修)
愛のその言葉を繰り返し
甘くこの胸にささやいてよ
愛のその言葉を繰り返し僕に
僕の好きなこの言葉
この胸で聞かせて たとえ嘘でもいい
君の言葉が甘い蜜の様に
僕の心を優しく揺さぶるの
(ツタキ)
愛のその言葉を繰り返し
甘くこの胸にささやいてよ
愛のその言葉を繰り返し私に
私の好きなあなた
この胸で信じて たとえ夢でもいい
愛の口づけと約束の言葉に
私の傷ついた胸は癒されるわ
(二人)
愛のその言葉を繰り返し
甘くこの胸にささやいてよ
愛のその言葉を繰り返し僕(私)に
ー終わりー
ツタキと側にいた客、そしてスタッフ全員が手を叩く
ツタキ「修さん…ありがとう」
修「ツタキさん、僕は君を愛してる。一生君の側にいたいし、君を支えていきたい。だから僕と、結婚してくれないか?」
ツタキ、恥ずかしそうに微笑む
ツタキ「はい…」
周囲から大拍手。修、ツタキの肩を抱いて照れ笑いをしながらみんなに頭を下げる
ツタキ「修さん」
修「ツタキ」
修、ツタキを抱きしめてそっと口づけをしあう。周囲から日や菓子の指笛や拍手が大きく鳴り響く。
網倉家・囲炉裏端。1か月後の5月。薫子、ツタキの着付けをしている。ツタキ、ウエディングドレス姿。ツタキは立って鏡を見ながら化粧をしたり髪を結いなおしたりしている。
薫子「姉様、いよいよ今日は修さんとの結婚式ね」
ツタキ「えぇ」
薫子「私、姉様と修ささんが一緒になってとても嬉しいわ!」
颯太「修さんが僕らの兄様になるんだ!」
ツタキ、赤くなりながら笑う
ツタキ「えぇそうよ。修さんはちょっと変わり者なところもあるけどとても優しくて誠実な方。きっとあんたたちにとっても素晴らしいお兄様になられるわ」
薫子、ツタキの着るウエディングドレスをまじまじ見る
薫子「修さんもおしゃれな方ね。和装じゃなくて洋装での結婚だなんて」
ツタキ「修さんらしいわ」
立ち鏡の前でポーズをとる
ツタキ「よしっ出来た!では行って参ります」
薫子・颯太「はい!」
薫子「姉様、家の事は私と颯太でやっておくわ」
ツタキ「ありがとう、よろしくね」
薫子「任せておいてください!」
颯太「姉様、式が終わったらさっそく修さんをうちに招いて!ご馳走用意しておくから!」
ツタキ「ありがとう」
ドレス姿でなれない歩き方をしながら玄関よりout
薫子・颯太「お気をつけて」
富士見町内の古い教会。二人だけの結婚の儀式を開いている。森の中にひっそりと建つ小さな古い教会。
ツタキ「これで私達、正式な夫婦なのね」
修「うん。ツタキさん、ありがとう」
ツタキ「こちらこそよ」
小粋に
ツタキ「儀式が終わったら改めて家に来て。あなたのお荷物は少しずつ取りに
行けばいいんですもの」
修「ありがとう、じゃあこれからはずっと君の家に一緒に住んでもいいって事か?」
ツタキ「勿論よ、夫婦なんですもの。薫子と颯太もそのつもりでもう大喜び!だから式が終わったら早速修さんを網倉家にお呼びしてねって言っていたの。私達の結婚の祝いのご馳走を用意してくれてあるんですって」
修「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
網倉家。薫子と颯太、ツタキと修が帰って来ると急いで玄関にin
丁寧におつくべ。頭を下げて出迎える
薫子「姉様、兄様お帰りなさいませ!」
颯太「早く上がって!ごはんいっぱい出来てるよ!」
ツタキ「二人ともありがとう。修さん、さぁどうぞ」
修「ありがとう。ではお邪魔します」
修とツタキ、土間から居間に上がる。
ツタキ「お邪魔しますじゃないでしょ。もうここは今日からあなたの家なんだから」
修「そうだね。じゃあ…ただいま帰りました」
ツタキ「さぁ、お座りになって」
囲炉裏端。4人、腰かける。料理がたくさん並んでいる。
薫「何もないけど、兄さんも食べて」
修「ありがとう、ではいただきます」
修、ニコニコして淑やかに食べる
修「美味しい!」
颯太、修の食べた煮物を指さしながら
颯太「あ、それは姉ちゃんの作った煮ものだよ!」
ツタキ「颯太!」
ツタキ、恥ずかしそうに颯太を遮る
ツタキ「修さん、ごめんなさいね…こんなひもじい食事で」
修「そんな事ないよ。すごく美味しい…これは?」
ツタキ「それは野沢菜と大根のお雑炊」
修、色々食べている
修「うん!どれもすごく美味しい。これは…おやき?」
ツタキ「えぇ、トウモロコシの粉のね」
修「へー!」
ツタキ。恥ずかしそうに修を小突く
翌日・夕方。ツタキ、仕事から帰って土間からin。
ツタキ「ただいま戻りました」
修、料理をしている。薫と颯太、掃除をしている
修「ツタキおかえり」
ツタキ、目を閉じて鼻をクンクン
ツタキ「わぁ!いい香り…」
修「夕食が出来てるよ」
ツタキ「わぁありがとう!何を作ってくれてるの?」
修、皿に盛りつけながら
修「瀬戸内特製のビーフシチュー」
ツタキ「わぁ!」
修「お口に合えばいいけど」
同・寝室。ツタキと修、並んで寝ている。部屋はもう真っ暗。
ツタキ「修さん、今日はご馳走様。とっても美味しかったわ」
修「お粗末様です。ありがとう」
ツタキ「お食事、これから毎日宜しくお願いしますね」
修「え?」
ツタキ、笑いながら目を閉じる
ツタキ「おやすみなさい」
修もふっと微笑む
修「お休み」
数か月後の夏。ルンルンと掃除をするツタキと食事を作る修。
ー挿入歌ー
『ネリーブライ』
(ツタキ)
ネリーブライ ネリーブライ 箒を持って
歌を歌いながら掃除しよう
薪を絶やさず良く燃やそう
バンジョーに合わせてひと働き
ほらネリーブライ 可愛くなったね
聞いておくれよこの一節
ほらネリーブライ お気に召さぬかい?
僕のこの歌が 恋の歌が
(修)
ネリーブライ ネリーブライ いい声だね
野山や林の小鳥の声
心が優しく器量よし
ポテトやケーキより君に夢中
ほらネリーブライ 可愛くなったね
聞いておくれよこの一節
ほらネリーブライ お気に召さぬかい?
僕のこの歌が 恋の歌が
ー終わりー
修「ツタキ、もうすぐご飯できるよ」
ツタキ「はーい、ありがとう」
小粋に自分のお腹を触りながら
ツタキ「あなたも…こんな方がお父上だなんて、本当に幸せ者ね」
修「え、どういう事?」
修、ツタキの側に来る。ツタキ、悪戯っぽく笑う
ツタキ「あなたにはずっと黙ってたけど…私、懐妊したみたいなの」
修「か、かかか、懐妊!?」
修、驚きすぎて目を真ん丸にして固まる
ツタキ「男の子かしらね?女の子かしらね?」
修、しばらくポカーンとしてツタキを見つめている
修「う…う…うううう…うわぁ!」
ツタキ「わぁ!」
修、黄色い声をあげてツタキに思い切り抱き着く
ツタキ「ちょっとやめてよ!苦しいわ!」
修、興奮をしながらツタキの手を握る
修「それでいつ!?」
ツタキ「つい先日分かったの。だから多分来年の春頃には生まれるんじゃないかしら」
修「そうか!」
ツタキ「えぇ!」
修「そうか…僕、こんなに早く父親になれるんだ!名前は何にしようか?」
ツタキ、子供のようにはしゃぐ修を見て笑い出す。
翌年の昭和15年春。諏訪南高原病院・夕方。産婦人科棟の一室にて瀬戸内ツタキ(21)、小河原カヨ(21)と植松トミ(21)の元で出産。
かよ「ツタキちゃんおめでとう!産まれたわ!」
ツタキ「あぁ…」
トミ「可愛い双子の赤ちゃん。二人とも女の子よ!」
ツタキ「双子!?」
修の直筆の命名書を見る。修の文字はとても達筆で丁寧。黒墨で書かれている。男子・瀬戸内覚美、女子・瀬戸内朝香と書いてある
ツタキ「でもまさか、修さんも双子の子だったなんて想像もつかないでしょうね」
かよ「そうでしょうね」
トミ「きっとびっくりね!」
ツタキ「えぇ!」
そこに網倉颯太(19)と網倉薫子(20)、入り口よりin
ツタキ「薫に颯太!」
薫子「お疲れ様」
颯太「姉様おめでとう」
ツタキ「二人ともありがとう。修さんは?」
薫子「まだお仕事よ。だから修さんに電話交換手に繋いでもらって知らせたから、間もなくいらっしゃると思うけど…」
更に数十分後。瀬戸内修(25)が駆け込むように息を切らして入り口からin
修「ツタキ!」
ツタキ「修さん!」
赤ちゃんをさす
ツタキ「産まれたわ。双子の女の子よ」
修「あぁ…」
修、安心したようにその場に崩れ落ちて床に座り込む。
修「良かった…ツタキ」
ツタキ「もうやだ修さんったら、泣いてるの?」
修、涙を隠すように立ち上がって後ろを向く。
修「いや…ありがとう」
ツタキ、ベッドから起き上がって笑う。
ツタキ「お父様でしょ。しっかりしてね」
網倉家・居間。1か月後の昼。修、食事の支度をしている。ツタキ、双子の子供
を子守している。修、台所から居間にin
修「ツタキに薫子さんに颯太君、出来たよ」
三人、修と共に囲炉裏端に就く。
ツタキ「今日は何?」
修「煮込みそうめん」
ツタキ「わぁ!いただいてもいい?」
修「勿論、召し上がれ」
全員、食べ始める。
ツタキ「とっても美味しいわ!」
修も食べながら赤ちゃんを見る
修「このご令嬢たちは何が食べられるかな?」
ツタキ「あなたたちはまだミルクよね」
ツタキ、後ろを向いて赤ちゃんたちにミルクをあげ出す。
ツタキ「ほら、あなたたちもお食事のお時間ですよ。召し上がれ」
後ろを向きながら。修、ツタキの背中を見ながら微笑んで食べている。
ツタキ「一度でいいからあなたと観に行きたかったわね…」
修「え、何を?」
ツタキ「浅草オペラや、オペラ、それに…映画」
修「浅草オペラに…オペラに…映画か」
ツタキ、ミルクをあげ終わってから赤ちゃんを再び寝かせ、修の方を向き直る。
ツタキ「お金があってもっと裕福なら見たいってずっと思ってたの。私の憧れの一つよ」
修「そうだったんだ」
微笑む
修「だったら観に行こう!」
ツタキ「観に行こうって…」
修「どうせなら全部一気に!」
ツタキ「えぇ!?何を言い出すの!?」
別の日・東京。浅草オペラ劇場。多くの人ごみの中、ツタキと修、劇場の入口よりin
観劇。修、ツタキを抱き寄せる。ツタキ、修にもたれかかる。修、片手でツタキの手を握る。
ツタキ「あなたの手って冷たいのね」
修「冬だから仕方ないさ」
ツタキ「ダメよ、ピアノを弾くんでしょ。大切な指なんだからこんなに冷たくちゃだめ」
ツタキ、自分の手袋を外して修にはめる。手袋はツタキのもののため、修の指先にしか入らない。二人、顔を見合わせてくすくす笑う。
ツタキ「あららら、手首まで入らないわね。でもはめないよりはましだと思う」
修「ありがとう。でも君は?」
ツタキ「私はいいの。全然寒くないもの」
修「でも君は繕い物や台所の仕事をする。それに君は看護婦なんだから冷たい手をしていたら患者さんも心配するよ」
ツタキ「そうかしら?」
ツタキ、小粋に笑う。
二人、他の観客と共に劇場から出てくる。二人、東京見物をしながらその後はオペラを見たり映画を見たり、買い物や喫茶店に入ったりしている。
網倉家。さらに数週間後。ツタキ、皿を拭きながら歌って踊る
ツタキ「♪命短し恋せよ乙女…」
薫子「姉様ご機嫌ね」
颯太「浅草オペラだ!」
ツタキ「先日修さんが見に連れて行ってくれたの!浅草オペラだけじゃないのよ!西洋オペラに映画まで!」
薫子「それで一日朝香と覚美を私達に預けて出て行ったのね」
ツタキ「苦労かけてしまってごめんね」
薫「いえいえ、姉様はずっと自分を犠牲にして働いてくれているんですもの、たまには羽を伸ばさなくちゃね」
ツタキ「ありがとう」
颯太「いつでも僕らを頼ってよ」
ツタキ、得意げに踊りながら歌う
ツタキ「♪I’m a Yankee Doodle dandy,I’m a Yankee Doodle do or die?」
修がちょうど外から帰って来るが一緒に参戦
ー挿入歌ー
『ヤンキードゥードゥル』
ツタキはタップダンスを踏みながら可憐に踊りながら歌う。バレエの得意な修も踊りに参戦しながら歌う。颯太と薫子も応戦。
(修)
I'm the kid that's all the candy
I'm a Yankee Doodle Dandy
I'm glad I am
So's Uncle Sam
(薫子・颯太)
I'm a real live Yankee Doodle
Made my name and fame and boodle
Just like Mister Doodle did, by riding on a pony
I love to listen to the Dixie strain
"I long to see the girl I left behind me"
And that ain't a josh
She's a Yankee, by gosh
(ツタキ)
Oh, say can you see
(修)
Anything about a Yankee that's a phony?
(薫子・颯太)
Little Johnny Jones, the jockey from the U.S.A
(ツタキ)
Will ride the pony Yankee Doodle English Derby Day
(修)
Jonesy's broken records every track and every meet
(ツタキ)
So Yankee Doodle's gonna be the boy they have to beat
(修)
Sportsmen of the British Isles who've followed his career
Have offered Johnny anything to keep him over here
(ツタキ)
But all the money in the Bank of England couldn't pay
Enough to keep young Johnny Jones away from old Broadway
(修)
If you want to take a tip, the surest of sure things
(ツタキ)
Have your houses mortgaged, hock your watches, pawn your rings
(修)
And put it all on Yankee Doodle, Johnny Jones is up!
(ツタキ)
I'm gonna give America the English Derby Cup
(修)
He's gonna give America the English Derby Cup
(ツタキ)
I'm a Yankee Doodle Dandy
A Yankee Doodle, do or die
A real live nephew of my Uncle Sam
Born on the Fourth of July
I've got a Yankee Doodle sweetheart
She's my Yankee Doodle joy
Yankee Doodle came to London
Just to ride the ponies
I am the Yankee Doodle Boy
He’s a Yankee Doodle Dandy
A Yankee Doodle do or die
A real live nephew of his Uncle Sam
Born on the Fourth of July
He’s got a Yankee Doodle sweetheart
She’s his Yankee Doodle joy
Yankee Doodle came to London
Just to ride the ponies
He is the Yankee Doodle boy
Yankee Doodle came to London
Just to ride the ponies
He is the Yankee Doodle boy
ー終わりー
修も笑って手を叩く。
修「ブラーヴァ」
ツタキ「私って才能あるかしら?看護婦やめて浅草オペラの女優になるって手もあるわね」
颯太「それか、浅草オペラっててもあるけど三浦環みたいなオペラ歌手って道もあるね!姉さんにも蝶々さん似合うんじゃないかな?」
薫「そうよ!あの人にできるんなら姉さんにだってできるんじゃない?」
ツタキ「いいわねぇ!」
修「おいおい…」
ツタキ、 物真似してオペラ風に唄う
ツタキ「♪パパパ…」
修「♪パパパ…」
ー挿入歌ー
『パパパパ』
(修)
papapa
(ツタキ)
papapa
(修)
Pa-pa-pa, pa-pa-pa. Papageno
(ツタキ)
Pa-pa-pa-, pa-pa-pa, - papagena,
(修)
Bist du mir nun ganz ergeben,
(ツタキ)
Nun bin ich dir ganz ergeben.
(修)
Nun, so sei mein liebes Weibchen!
(ツタキ)
Nun, so sei mein Herzenstäubchen,
Mein Herzenstäubchen!
(二人)
Mein liebes Weibchen ! Mein Herzenstäubchen !
Welche Freude wird das sein,
Wenn die Götter uns bedenken,
Unserer Liebe Kinder schenken
So liebe kleine Kinderlein, Kinderlein, Kinderlein, Kinderlein,
So liebe kleine Kinderlein.
Erst einen kleinen Papageno,
Dann eine kleine Papagena,
Dann wieder einen Papageno,
Dann wieder eine Papagena,
Papageno, Papagena, Papageno, …
Es ist das höchste der Gefühle,
Wenn viele, viele, der pa-pa-pageno(a), Papageno (a)
Der Eltern Sorgen werden sein.
Wenn viele, viele, der pa-pa-pageno(a)
ー終わるー
薫子と颯太、大拍手と口笛。ツタキと修、オペラのカーテンコールの様に頭を下げる。
颯太「姉様も兄様もお見事!人気スターになれるよ!」
薫子「本当ね!」
ツタキと修、もう一度スター気取りにカーテンコール挨拶をする
ツタキ「ご清聴どうも」
修「Danke Sehr!」
ツタキ「Graze!」
二人も拍手をしあう
修「僕は本当にツタキがやりたい事なら、例え浅草オペラでもオペラでも止めないよ。全力で応援する」
ツタキ「ありがとう。やっぱり修さんって優しいお方。私、本当にあなたの妻になれて良かったって心からそう思うわ」
二人、手を繋いだまま舞台の様に裾にout
同・家の中。更に数か月後。ツタキ、屋根裏によじ登って掃除をしている。修、料理をしている
修「ツタキ、あまり危ない事はするなよ」
ツタキ「大丈夫よ」
ツタキ、とても女性とは思えない体制でお転婆な事をしている。修、呆れてツタキを見上げながら
修「ツタキ!」
ツタキの腰を支えながら
修「そうはいってもさ、ここのところ君は毎日看護婦の仕事に出ているし、家に帰れば家の仕事と育児。しかもそんな男のやるような仕事…このままではツタキの体がどうにかなってしまうぞ」
ツタキ、ガサゴソやりながら
ツタキ「ご心配ありがとう、でも本当に大丈夫よ。私は元気」
修「ツタキ!」
ツタキの元に来る。
修「いいよ、後は僕がやるから」
ツタキ「終わったわ!今降りる!」
ツタキ、やっと屋根裏部屋から降りてくる。数メートルから飛び降りて着地。修がツタキを抱きとめる。
修「セーフ!」
ツタキ「ありがとう」
ツタキ、台所に行って割烹着をつける
ツタキ「後はお食事の支度も私がやるわ。あなたはお休みになってて」
ツタキ、ニンジンを洗ってニンジンを切り出す。
ツタキ「あら、お天ぷらを作ってくださってあるわね。じゃあこのにんじんは」
人差し指を立てる
ツタキ「なますね」
ツタキ、鼻血が出ている。修、ショックを受けたような顔
修「ツタキ…君」
ツタキ「ん?」
鼻を押さえて下を向く
ツタキ「ん…」
修、ツタキを支えて居間に連れて行き、座らせる。
修「おいっ!大丈夫か?」
ツタキ「大丈夫よ…ちょっと鼻血が出てしまっただけ」
修「早く病院に行こう!」
ツタキ「おバカさん…これくらいで病院に行ってどうするのよ」
修、布団を敷き出してツタキを布団に誘導させる
修「今日は君は寝てな!後はやるから」
ツタキ「大丈夫よ」
修「ダメだ!今日は僕の言う事を聞くように」
ツタキ「もう、分かったわよ…しつこい人」
修「今日は嫌でも僕の言う事を聞いてもらうよ」
ツタキを寝かす
修「やっぱり食事は僕が作る」
ツタキ「えぇ、じゃああなたにお任せするわ…」
修「ん!」
ツタキ「切りかけのニンジン、使ってくださいね」
修、親指を立てる
修「You got it dude!」
数十分後。ツタキの床に修がin
食事を乗せた膳を持ってくる。
修「おまたせ」
ツタキ「ありがとう。いただきます」
口に入れて修を見て微笑んで頷く
ツタキ「すごく美味しい!」
ツタキ、悪戯っぽくどんどん食べる
修「女子なんだからその食べ方はないんじゃないか?ちょっとはしたないよ」
ツタキ「いいのよ!」
修「良くない!僕の為にも少し淑やかにしてくれたっていいんじゃないか?」
ツタキ、横目で修を見ながら食べ方のペースを落とす。
ツタキ「はいはい。小うるさい旦那様です事」
修「小うるさい旦那で悪ござんしたね」
昭和18年・12月31日。瀬戸内ツタキ(24)と瀬戸内修(28)と双子と網倉薫子(23)と網倉颯太(22)、ささやかに修の誕生日を祝っている。机にはささやかではあるが大晦日のご馳走が並んでいる。
ツタキ「修さん、28歳のお誕生日おめでとう」
修「ありがとう。こんな年になってもまだ祝ってくれる人がいるなんて嬉しいな」
ツタキ「当たり前でしょ。まだまだこれからだわ」
薫子「兄様が例え年を召しても、毎年お祝いしますわ」
全員、笑い合う
ツタキ「お誕生日に大晦日のお御馳走…素敵ね」
修「ああ…」
ラジオをつける。ラジオでは戦争のニュースばかりが取り上げられている
修「毎日戦争の事ばかりだ」
ツタキ「怖いわ…戦争が日本でも始まったのね」
修「大きな被害がこないといいんだが」
ツタキ「修さん…あなた、戦争に行ったりしないわよね?ずっと、私と子供たちの側にいてくれるわよね」
修「約束するよ、僕はどこにもいかない」
ツタキ「絶対よ、約束よ…」
修「勿論…」
ツタキ「あぁ…」
ツタキ、修に寄り添う。修、ツタキを抱いて支える。
ツタキ「あなたの探し求めている“パンに合うピアノ”…あなたはこれからそれを探さないといけないもの。」
修「パンに合うピアノか…」
静かに笑う
修「それはもういいんだ…」
ツタキ「どうして?」
修、お茶目に悪戯っぽくツタキを見つめて微笑む
修「何故かって?それはもう見つけたから」
ツタキ「そうなの!?ついに見つかったの?」
修「あぁ…でもそれはまだ黙っておこう」
ツタキ「何故?」
修「昭和20年の君の誕生日に教える事にする」
ツタキ「何故、昭和20年なの?」
修、意味深に遠くを見つめる。自分でも漠然とした予感でわくわく。
修「何だかその年に…特別な事がありそうな予感がするから」
ツタキ、不思議そうに修を見て笑う
ツタキ「分かったわ。あなたも相変わらず変わり者さん」
修「ツタキ、戦争が終わったら必ず見に行こう…」
ツタキ「何を?」
修「僕の夢…ヨーテボリのオーロラ」
ツタキ「素敵…是非」
修の手を握る
ツタキ「戦争が終わったら絶対に見に行きましょう」
諏訪南高原病院。産婦人科棟の一室。昭和19年12月31日。瀬戸内ツタキ(25)、双子を出産。
かよ「ツタキちゃん!おめでとう!産まれたわ」
トミ「またまた可愛い双子の赤ちゃんよ。女の子と男の子よ!」
ツタキ「あぁ…」
かよ「お名前は?もう決まっているの?」
ツタキ「えぇ…」
ツタキ、修直筆の命名書を見せる。命名書には墨で達筆で美しい字で「男子・直里、女子・睦子」
カヨ「とても達筆…美しい字」
ツタキ、命名書をまじまじ
落合小学校。3年生教室。修、教壇に立っている。瀬戸内修(29)、ふと窓の外に目をやる。平和な青空が広がっており、辺りは一面の雪景色。教室の中でも暖炉を焚いているが、隙間から強い風が吹き込んでくる。
修「よし、みんな今日は授業はここで終了。外に行こう!」
児童全員と修out、ワーッと喜んで外に飛び出す。
校庭。修と児童たち、鎌倉や雪合戦をして遊び出す。その数十分後、空襲警報の放送がかかり、サイレンが鳴り響く。
修「空襲警報だ!」
修、児童たちを防空壕に誘導させる。児童たち、防空壕にそれぞれ入ってゆく。修も辺りを気にして取り残された子供がいないか確認しながら入ろうとする。
ドカーンと酢覚ましい爆発音がする。
南諏訪高原病院・霊安室。昭和20年1月3日。ツタキ、震える手でヒ素と水銀を取る
ツタキ「私の大切な人はみんな私の元を去っていくのだわ」
ビンと天井にかけた紐とを交互に見る
ツタキ「修さん…勉さん待ってて。私もすぐにあなたたちのもとに行くわ」
ツタキ、両方の瓶を見比べる
ツタキ「どっちの方法で死ぬのが一番いいのかしら」
覚悟を決めて
ツタキ「いいわ。両方使ってやる!修さんたちが受けた以上に辛い方法を用いて私も死ぬわ。さようなら!」
毒薬を服用しようとするツタキ。トミとカヨin
急いで駆け込んで来る
トミ「ちょっとツタキちゃん!何やってるのよ!」
かよ「やめてよ!バカな考えはよして!」
ツタキ「いいえ!いやよ!放して!」
激しく薬を持って暴れながら急いで飲み干そうとする。トミとカヨ、ぎょっとしてツタキの手を止める
ツタキ「放して!放してよ!」
カヨ「ダメ、離さないわ!ツタキちゃん、死んじゃあだめ!」
トミ「そうよ!死ぬだなんて言わないで!」
暴れるツタキを二人で止める
トミ「生きていれば、きっと…きっといいことがあるわよ!」
カヨ「ツタキちゃん!気を確かに持って!強く生きましょう!私達がついているわ!」
ツタキ、激しく首を振って泣き崩れる
○諏訪南高原病院・旧病棟
昭和20年4月1日。ツタキ、心ここにあらずに瀬戸内の車椅子を押して歩いている
ツタキ「今日は私の誕生日だわ…一人ぼっちの誕生日」
瀬戸内「あいつはツタキさんに何も言わないで勝手に約束を破りやがって。結局あんたに迷惑をかける結果になっちまった。ツタキさんとの大切な日もすっぽかしやがった…」
ツタキ「そうですよね…本当に」
空襲警報
ツタキ・瀬戸内「え!?」
梅乃の声「ツタキさんに瀬戸内さん!早く逃げて!警報よ!」
ツタキ「えぇ!?」
人々、逃げまどって防空壕に向かって走り出す。ツタキも急いで瀬戸内の車椅子を押して走り出す。
瀬戸内「ツタキさん、わしの事はいいからあんただけでも生きろ!」
ツタキ「何を言っているんですか隆彦さん!一緒に行くに決まっているでしょう!」
梅乃の声「ツタキさん!瀬戸内さん!」
ツタキ「柿澤婦長!」
全員、移動を始める。ツタキ、急いで車椅子を押して出来る限り小走り
瀬戸内「ツタキさん!早く!わしの事はもういい!あんただけでも早く逃げろ!あんただけでも生きるんじゃ!」
ツタキ「いいえ隆彦さん、そんなのだめに決まっているじゃないですか!一緒に行かれるところまで行きましょう!二人で生きるの!」
階段に差し掛かり、ツタキと駆け付けた梅乃、瀬戸内の車椅子を担いで階段を身軽に降りる。
梅乃「瀬戸内さん、しっかりおつかまり下さいね」
ツタキ「たとえ死んでしまう事になったとしても私は最後まで瀬戸内さんのお側にいます!修さんを守れなかった分も隆彦さんの事を守ります!」
ツタキと梅乃と瀬戸内、病院の出入り口の扉を開けて外に出る。一歩踏み出た拍子に 空襲、三人を直撃
ツタキ・梅乃「きゃあっ!」
ツタキ、梅乃、手を顔の前にかざしてガード
網倉家付近・防空壕の中。多くの人が避難している。
颯太「姉さん!ツタキ姉さんは!?」
薫子「大丈夫…きっと姉さんたちだって非難をしているわ」
颯太「大丈夫かな?僕なんだか不安だよ」
薫子「大丈夫に決まっているでしょ…」
朝香「おば様、おじ様、母上様はご無事なのでしょうか?」
覚美「亡くなってしまわれませんよね?生きて、またいつもの様にここに戻られますよね」
薫子「えぇ…あんたのお母様はきっと大丈夫」
颯太「姉様はそんなに簡単に死ぬ様な人じゃないよ」
薫と颯太、産まれたばかりの直里と睦子を庇う様に抱き締める
○同・防空壕の外
二人、恐る恐る顔をのぞかせる。南諏訪高原病院の一部から煙と火が上がる
薫子「あれって…南諏訪高原病院!?」
颯太「ツタキ姉様、本当に大丈夫なの?」
薫「姉様を信じましょ、姉さんはきっと無事よ。大丈夫」
朝香・覚美「母上様…」
薫子「とにかく、もし私達が死んでもこの子たちだけは守り抜かなくちゃ」
颯太「僕らがいなくなっても姉様にだけでも元気でいてもらわなくっちゃな…」
薫子「そうよね…」
二人の兄弟、互いに慰め合うように抱き締め合う。
T/平成24年4月1日・4階病棟ナースステーション。医療従事者たちが事務作業をしたり、動き回ったりしている。突然大きな揺れが起きる。全員、動きをtめる。ロッカーのスマートフォンも鳴り響く。
タミ恵「あら、地震?」
田苗「本当だ」
丸山「二人とも何のんきなこと言ってるんだよ!避難誘導しろ!」
梅乃「3人は自力で逃げれる患者さんたちの介抱をして!」
田苗・タミ恵・丸山「はい!」
同病院・駐車場。患者と医療従事者は全員避難している。
タミ恵「どうにか収まったみたいね」
丸山「みんなは無事か?」
田苗「全員ちゃんといます」
梅乃「よかった。しかし突然の地震、なんだったのかしらね」
タミ恵「長かったよな」
田苗・丸山「うん」
全員、しばらく放心状態
T/昭和20年4月1日。同・旧病棟。ツタキと瀬戸内、病棟に戻る。全員死。病院も玄関付近のみ一部ぐちゃぐちャ。ツタキ、辺りを見回す。
ツタキ「あぁ…こんな事になってしまって」
近くにいる全員に触れるが冷たく、ツタキの手に血が付く
ツタキ「血…本当にみんな亡くなってしまったの?」
辺りには遺体の周りに血液や飛び出た内臓が散乱して無残な状態になっている
ツタキ「あぁ…これがあのついさっきまで私が勤めていた綺麗で清潔で静かな病院?もうさっきまでの事がはるかかなたの夢のようね…信じられない」
放心状態で笑い出す
ツタキ「皮肉なものね。結局私の大切な人はみんな私の前から消えちゃった。もう誰一人として残っていないのに、私だけ生き残るだなんてね」
ー挿入歌ー
『愛の神よ、照覧あれ』
Porgi amor quarche ristoro
al mio duolo, a’ miei sospir!
O mi rendi il mio tesoro,
O mi lascia almen morir
ー終わるー
瀬戸内、車いすでツタキに近寄る。
瀬戸内「いや、ツタキさん」
ツタキ「え…」
ツタキ、急いで振り返る。瀬戸内、ツタキの側で微笑んでいる。
ツタキ「隆彦さん!?あぁ…隆彦さんよかった!隆彦さんは生きていて下さったのね」
瀬戸内「いんや…」
ツタキ「え?」
瀬戸内「残念ながら…」
首を振ってツタキを先ほどの玄関に誘導。玄関先にツタキと瀬戸内の無残な遺体
瀬戸内「私達もどうも死んだらしい」
ツタキ「え…私達も死んだ」
自分の体を見る
ツタキ「本当…だったら何故?みんなは?」
瀬戸内「残念だが私達だけが死んでもなお、この世に残されちまったらしい。他の者らはみんなあの世だ」
瀬戸内、車いすを降りてよろよろと病院の庭や病院内を歩き回る。
瀬戸内「なんという事じゃ…わしの仲間もみんな死んじまっとる」
ツタキ「アハハハ…」
瀬戸内「ツタキさん…」
ツタキ、放心状態で涙を流しながら笑い出す。瀬戸内、ツタキに近づいてツタキを慰める
ツタキ「なんで…こんなのってあんまりだわ。こんな体で私、こんなところに取り残されて、これからどうすればいいのよ」
ハッと思い出した様に
ツタキ「じゃああの子達は!?朝香と覚美と直里と睦子は!?一体どうなっちゃったの!?」
瀬戸内「ツタキさん、あの子たちの事はきっとお前さんの妹さんと弟さんがしっかり守ってくれているだろうし二人が立派に育ててくれよう」
瀬戸内、ツタキの体を抱き寄せて慰める様にすごく小さな優しい声を出す。
ツタキ「あぁぁ…」
恐怖と絶望にうめく
瀬戸内「泣くなツタキさん…これからゆっくり考えよう。きっとわしにとってもツタキさんにとってもいい解決方法が見つかるはずだ」
ツタキ「隆彦さん…えぇ、そうね」
瀬戸内「あぁ…」
教会墓地。誰もいなく、春先のまだまだ冷たい風が吹きつけている。颯太と薫子、バラの花を墓地に添える。
颯太「姉さん…死んじゃってたんだね」
薫子「姉さん、何で死んじゃうのよ。姉さんにはもう4人の子供がいるのよ。朝香も覚美もまだこんなに小さいし、直里と睦子なんてまだ赤ちゃんで母親の顔すらよく知らないっていうのに…」
二人、静かに花を何本も手向け続けながらツタキの体を触る様に墓石を撫でる
薫子「姉さん、かき餅あみくらの事は心配しないで。今度は私と颯太が姉さんの代わりに働いてこの先も、きっとかき餅あみくらを守っていくから」
颯太「うん…今よりもさらにいい店にして見せるから絶対見に来いよ」
薫子「その日が来るまで安らかにお休みください」
颯太「ツタキ姉様」
朝香・覚美「母上様」
薫子と颯太、笑う
颯太「いや、姉さんの事だからきっと休んでなんていないと思うよ。“何もしないというのも私の性に合わないわ”とか言いながら、あの世でもなお人のために働いていそうだよな」
薫「確かに…その通りだと思うわ」
二人、しんみりと教会墓地からout
昭和20年8月15日・落合小学校音楽室。修、一人で出窓に座って町の放送を聞いている。町は静かレ穏やか、落ち着いている。
修「戦争が終わったんだ…」
夕暮れの町。窓の外にはぐちゃぐちゃになった校庭といつもと変わらない夕焼け空が見える。
修「今更遅いよ…」
立ち上がって音楽室を歩き回る。いろいろな楽器を触って鳴らしてみたり、音楽室を出たり入ったり。
修「僕はここで地縛霊になった。外にはもう出る事が出来ない。誰にも気づかれず、一体どうすればいい?」
昭和21年4月。1年生の教室で落ち込む修。
修「今日は昭和21年…あれから1年か。ツタキやトムは元気に生きてるだろうか…ツタキ、本当にすまない」
そこに大きなカバンを背負った小学1年生の瀬戸内朝香(7)と瀬戸内覚美(7)in
修の近くにやって来る
二人「父様」
朝香「やっぱりここにいた、やっと会えた」
修、振り返って二人を見る
修「ひょっとして…朝香と…覚美なのか?」
二人、微笑んで頷く
修「どうして?僕が見えるの?」
朝香「見えるから呼んだんじゃない!」
覚美「父様がここにいるって分かったから安心。これで今度からいつでも会える」
朝香「私達ね、実はここの学校に入学が出来る事になったの」
修、驚く
修「な…何で?だって君たちは」
二人、互いにいたずらっぽく顔を合わせる
ー時の流れ回想ー
二人は6年間、修の教室で学び、卒業していく。卒業をすると、下の双子・睦子と直里も修のクラスに入学してきてさらに6年間を過ごす。
T/1970年7月。
瀬戸内朝香(31)がウエディングドレス姿で学校を訪れる。後ろで入口よりin
修、窓の外をぼんやり眺めている。
朝香「父様」
修、気が付いて振り向く
修「朝香…?」
朝香「父様、私ね…今日結婚をするの」
修「そうなのか、おめでとう」
朝香を抱きしめる
修「朝香、立派になったな。ここまで育ってくれて本当にありがとう」
朝香「いいえ、お礼を言うのは私よ。父様と母様のお陰…本当にありがとう」
修「ツタキは…」
朝香、小粋に微笑む
朝香「心配しないで、母様は相変わらず元気よ。今でも病院で働いている。いつも父様にお会いしたがっているわ」
修、心を痛めて涙を隠すように窓の外に目を戻す。
朝香「父様…」
微笑んで修の手を取って走り出す
修「ちょっと!」
朝香「早く!始まっちゃうわ!」
修「始まっちゃうって何が!?どこで!?」
朝香「体育館よ。父様、学校から出られないからこの校内で結婚式を開くことにしたの」
廊下を走りながら
朝香「父様には一緒にヴァージンロードを歩いていただかないとね」
修、走りながら朝香の言葉に胸を熱くする
朝香「旦那様になる掛川弥穂さんはとても誠実で素敵な方よ。父様そっくりの素晴らしい心の持ち主だわ。きっと父様も気に入って下さると思うの」
朝香、修の手を繋いで学校の廊下を全速力で走る
同・体育館。多くの人たちが集まっている。朝香、自分の娘たち以外からは誰からも見えない修と腕を組んでヴァージンロードを歩く。朝香と修は体育館後ろの入口よりin。参列者と参列者の間をゆっくり歩く。
朝香(小声で)「父様が他の誰にも見えないのは幸いだと思うわ。だって思いっきり泣いても誰も気が付かないんですもの」
修、肩ひじで何度も涙をぬぐいながら泣いている
朝香(小声で)「全く…父様って本当に涙もろいお方です事」
朝香、掛川弥穂(35)と並んで結婚式が進んでいく
T/1973年3月。掛川朝香(34)、いつもの入口よりin
女の赤ちゃんを抱いて修の元に来る。修、とても喜んで朝香を抱きしめ、子供を抱く。赤ちゃんにも修の姿は見えている様子。
T/1975年1月。掛川朝香(36)、2歳になってよちよち歩けるようになった子供・掛川綴(2)と、もう一人新しい赤ちゃんを抱いて修を訪ねる。いつもの入口より朝香in
修「朝香!あぁ…綴ももうこんなに大きくなったのか!」
朝香の腕を見る
修「わぁ!」
朝香「そう…妹が生まれたの。茶和子っていうのよ」
修、綴と遊びながらも茶和子を抱いて茶和子をあやす。
朝香「良かった…さすがは私の子。二人とも父様の事が分かるみたい」
修、すっかり父親の顔で二人と遊んでいる
修「僕が分かりますか?おじいちゃんですよ」
朝香「良く分かっているわよね」
朝香、それから毎日、毎年修の元に顔を出しに来ている。二人の子供も成長しても修の事が見えており、修にとてもなついている。修は地縛霊になっても良き父親で良き祖父で、良き教員として強かに慎ましくやっている。
1988年10月20日。15歳になった掛川綴(15)と13歳になった掛川茶和子(13)と掛川朝香(49)が修を訪れる。赤ちゃんを抱いている。
朝香「私もも49歳になるけど、まさかこの年になってまた母親になれるだなんて夢みたいだわ」
修「本当だ…僕もまた新しい孫を見れるだなんて思わなかった。僕も嬉しいよ…ありがとう。名前は?」
朝香「10月10日に生まれたの。だから元気いっぱいの男の子、十君よ」
修、笑う
修「朝香らしいね」
朝香「父様だってきっと同じお名前を付けたと思うわ。でしょ?父様譲りだわ」
修、笑いながら十を抱く
修「十君、分かりますか?おじいちゃんですよ」
朝香「ちゃんとわかっているわよね」
十、修を見て安心したように笑う
ー終わりー
T/平成3年。南諏訪高原病院・救急救命室。掛川朝香(53)、3歳になったばかりの掛川十(3)が横たわるストレッチャーの隣にいる。十の周りにはたくさんの医療従事者。
朝香の声「十!十!しっかりして!目を覚まして!」
中郡先生「お母さん、落ち着いてください!」
綴の声「十!?分かる!?お姉ちゃんよ!十!?」
3歳の十、瀕死でぐったりとしている。ツタキも急いで治療室にin
ツタキ「朝香に…十君!?」
心電図、警告音を出す。ツタキ、十の小さな手を握って口づけをする
ツタキ「死んじゃダメ…早く元気になるのよ」
心電図も十の容態も落ち着く
ツタキ「嘘…落ち着いた…」
朝香「十!」
綴「よかった!」
ツタキ、自分の唇と手を触る
ツタキ「ひょっとして…私、このまま何も出来ないんじゃないかも。私にも、看護婦としてまだ出来る事があるんだわ!」
ツタキ、悔しそうに指を鳴らす。
ツタキ「何で40年もの間、私は何もしてこなかったのかしら!?こんな事に気が付かなかったのかしら!?ただ見ているだけで嘆いているだけだったのかしら!?」
決心する
ツタキ「そうよ!私は生きている人間を脅かして命を奪ったり、人を脅かして怖がらすだけの幽霊になんかなりたくない!出来るのならば喜んで、幽霊になってもなお、私は看護婦として生きる人生の使命を果たすわ!私は患者さんを救う幽霊になる!」
ツタキ、その日から急患が来るたびに動き出す
同病院・4階病棟ナースステーション。掛川十(25)、わくわくと目を輝かせ
て出勤。スタッフ入り口よりin
十「あぁ!やっとこの病院に就職が決まってよかった!」
ふっと笑う
十「4階病棟の泌尿器科外来担当か。まぁいいか…」
ロッカーに荷物を入れてペットボトルのお茶を飲みながら
十「本当は小児科外来がよかったな」
十、仕事に入る。
十「おはようございます」
ツタキ、4階病棟のナースステーションに現れる。
ツタキ「あら?」
ツタキ、興味深げに十を見る
ツタキ「あの新人の男の子…ひょっとして、十君?」
タミ恵、丸山、田苗(各25)が事務仕事に追われている。
十「おはようございます!今日からよろしくお願いしま…って、あれ?」
田苗・タミ恵・丸山「十!?」
十「みんな!」
丸山・田苗・タミ恵「十!」
梅乃もやって来てにっこりと微笑む。
梅乃「十君、改めてよろしくね」
十「はい!」
掛川家・浴室。十が浴槽に入ってシャワーをかけ流しながら浴槽でカレーライス
を食べながら電話をしている。電話はテレビ電話になっているが十は気が付いていない。
十「うん、そう言う事なんだ」
絹重「なるほど…十さん、よかったわね。夢が叶って」
十「僕もう、ウハウハ!」
十、話に夢中。絹重、ずっとっホを赤らめたままクスクス笑いをこらえて十の体を見つめたまま。十、子供のように足を水の中でばたつかせたり、狭いお風呂で泳いでみたり、潜ってみたり、シャワーの水を飲んだり、カレーライスを食べたりしている
絹重の声「じゃあもう、南諏訪高原病院で正式に働いているのね」
十「うん、おかげさまで!」
十、湯船につかりながら足を滑らす。カレーライス、お風呂の中に散らばる。絹重、見たくない光景に思わず目を覆う
十「うわぁ!」
絹重「大丈夫?」
十「ごめんごめん、大丈夫。ちょっと足を滑らせただけ」
絹重「お腹…」
十「うん…?」
絹重「お疲れみたいだから、今日は切るわ。良く温まってゆっくり休んでね」
十「絹恵さん?ちょっと絹恵さん!おい!」
絹重「それでは…さようなら」
通話は切れる。十、お風呂の惨劇に気が付いてショックを起こす
十「うわぁ!僕のカレーライスがぁ!楽しみに食べてたのに…もう最悪」
頭をかきむしる
十「僕…お姉ちゃんに見つかったらあの世行きだ」
十にメッセージが送られてくる
十「ん?絹重さんからだ」
開く
十「あ…え…?」
十、メッセージを呼んで表情が硬くなり、目が大きく見開かれる。
絹重の文面『今、テレビ電話になってたから全て見えてしまったの…ごめんなさい。だからあなたが心配になっちゃって。気分が悪かったら無理しないで休んでね。胃、お大事にね。そしてお腹よく温めて早く治してね』
十「え…」
通話履歴を見る。テレビ電話と表示されている
十「うわぁ、最悪だ!もう僕、絹重さんに顔向けできないよ!彼女にフラれちゃう!結婚できない!」
半泣き
十「もうやだ…この惨劇、絶対に下痢と嘔吐だと思われてるじゃないか!」
十、お風呂の水を恨めしそうに掬い取ってえずく
十「えうーっ…」
急いで浴槽を出る
十「いくらカレーライスのこぼれた残骸だと分かっていても…気持ち悪すぎる。もうあがろう」
シャワーを浴びながら近くの棚に置いてあった缶ドリンクを手に取って飲むが、直後に思いっきりむせ返る。
十「うわぁしまった!こりゃジュースの方じゃなくてお酒のプンシュじゃん!僕、お酒持ってきちゃったんだ!」
十、ふらふらになってトロンとうつろな目で真っ赤な顔で浴室を出ていく。ほぼ
千鳥足になっている。
十「Have mercy…」
南諏訪高原病院・4階病棟廊下。夜勤。十、懐中電灯を持って歩いている。十、暗闇よりin
十N「で、今日は初めての夜勤なんだけど…ん?」
ツタキ、瀬戸内隆彦(105)の車いすを押して十とすれ違う。
十、黙って頭を下げて二人は通り過ぎる。ツタキ、立ち止まって振りかえり十を見る
ツタキ「掛川十君?」
十、驚いて懐中電灯を落として立ち止まり、振り返る
十「え?」
ツタキ「よね?」
十「はい…」
ツタキ「はーるかぶりね。私の事、覚えてる…かしら?」
十「え?」
落とした懐中電灯を拾い上げてツタキをまじまじ見つめる
十「はーるかぶり?どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
ツタキ「まぁ…覚えてないのね」
小粋に微笑む
ツタキ「まぁいいわ。きっとその内思い出すと思う」
十、 思い出そうとしながらも不思議そうにツタキを見る。ツタキ、吸い込まれて
しまいそうな眼差しで一度も目を離さずに十を見つめている。十、おどおど。廊下には他に誰もいないし、看護師たちも歩いていない。十とツタキの会話は二人にしか聞こえていない。
十「あ…あぁ、僕は今年の四月から4階病棟で働いております、看護師の掛川十です」
ツタキ、微笑んだまま十を見つめる
十「よ、宜しくお願いします。失礼ですが、どちらの看護師さんですか?まだ僕、皆さんの顔も名前も知らなくて…」
ツタキ「瀬戸内ツタキ。隔離病棟の看護師をしているわ。また会うでしょうし、これからよろしくね」
ツタキ、車いすを押して十とは反対方向に歩いてゆく。瀬戸内、微笑んで十に軽く会釈。ツタキ、十とは反対方向にout
十「隔離療養病棟…って」
二人、通り過ぎる。十、歩きながらも考えて悩む
十「何処?」
旧病棟隔離病棟2階・バルコニー。ツタキ、一人で風に吹かれている。春先の高原の強くて冷たい風が吹いている。
ツタキ「この街並みも随分と変わったものね。私も屋上までは出られるのに」
体を触る
ツタキ「外の世界もこんなに近くにあるのに、何でこの病院を出られないのかしらね。私は地縛霊として一生この病院に、いえ…永遠にこの病院に縛られたままなのかしら?誰にも知られることもなく、死ぬことも出来ず」
懐かしそうにふっと笑う
ツタキ「掛川十君…あの子も見ないうちに随分と大きくなった事。大きくなったらさらに…あの子、修さんにそっくりになったわ。修さん…どうしているのかしら?あなたは先に遠い黄泉の国に行ってしまったの?それともこの世のどこかにさ迷われているの?私と同じように…」
大きく伸びをして星の輝く夜空を見つめる
ツタキ「いいえ…深く考えたって何も解決はしないわ。時の流れに任せましょう。きっと十君にはまた会えると思うし、それだけでも慰めになるもの」
屋内に戻ってゆく
ツタキ「修さん…あなたに会いたい。あなたが恋しいわ」
強い夜風と共に扉の前で消える。ツタキout
ツタキの声「きっと今宵もとても寒いのでしょうね。でも私には寒さも風邪の冷たさも感じない…悲しく空しいわ」
ーED credit and songー
『白銀の月』
ーENDー
0
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