45 / 74
第8章 洋上の楽園と人魚の秘宝 ~感度良好な探知係と、幻魔将軍の霧~
人魚の姫とノイズだらけの海 ~牧野樹里の憂鬱~ ☆
しおりを挟む
地魔将軍グランギガスを撃破し、新たな武装『超電磁魔導投射砲(リニア・レールガン)』を手に入れたアーク・ロイヤルはさらに西へ向かって航海を続けていた。
空は抜けるように青く、海は鏡のように穏やかだ。
甲板のプールサイドでは、勝利の余韻に浸るヒロインたちが今日も思い思いのバカンスを楽しんでいる。
「ののかちゃん、射的勝負しよ!負けた方がジュース奢りネ!」
「いいよ、美鈴。……私の目はもう外さないって言ったでしょ?」
王美鈴(ワン・メイリン)と滝川ののか(たきがわ ののか)が空き缶を並べて遊んでいる。
「あらあら、元気ねぇ。……相田くん、サンオイル塗ってくれる?」
一ノ瀬清花(いちのせ さやか)がデッキチェアで艶めかしい背中を晒し、僕、相田ミナトにウィンクを送る。
「はいはい。……清花、肌焼けてきたね。綺麗だ」
「ふふっ、貴方好みの色になったかしら?」
平和だ。
魔王城への旅路とは思えないほど穏やかな時間が流れている。
だが、そんな華やかな喧騒から少し離れた、静かなブリッジ(操舵室)。
そこに一人だけ浮かない顔をした少女がいた。
牧野樹里(まきの じゅり)。
アーク・ロイヤルの索敵・収集担当である彼女は、モニター席に座りヘッドホンを耳に当てたまま眉間に深い皺を寄せていた。
「……うぅ」
彼女は時折こめかみを押さえて小さく呻く。
その顔色は優れず、いつもはリスのように活発に動くエメラルドグリーンの瞳も今はどこか虚ろだ。
「……樹里?」
僕は清花の背中を塗り終えると心配になってブリッジへ入った。
「あ、相田くん……」
彼女は僕に気づくと慌てて作り笑いを浮かべた。
「ご、ごめんね。サボってるわけじゃないよ?ちゃんとレーダー監視してるから……」
「そうじゃないよ。……顔色が悪い。無理してないか?」
僕は彼女のそばに歩み寄りその肩に手を置いた。
ビクッ!
樹里の体が過剰なほど大きく跳ねた
「ひゃうっ!?あ、ご、ごめんなさい……!」
「えっ、いや、僕の方こそごめん。驚かせるつもりじゃ……」
「ち、違うの……!」
樹里はフルフルと首を振り申し訳無さそうに俯いた。
「相田くんが悪いんじゃないの。……ただ、ちょっと……『音』が、大きすぎて」
「音?」
僕は周囲に耳を澄ませた。
聞こえるのは、波の音と遠くから響くみんなの笑い声、そして計器類の低い駆動音だけだ。
決してうるさい環境ではない。
「僕たちには聞こえない音かい?」
「……うん」
樹里はヘッドホンを外し自分の耳を両手で塞ぐようにした。
「海って……情報量が多すぎるの」
彼女のスキル【素材探知】および【索敵】は、対象の魔力や存在感を波紋のように感知する能力だ。
荒野やダンジョンではそれが強力な武器となる。
だが海は生命の宝庫だ。
無数の魚の群れ、海流の摩擦、海底火山の微振動、そして海水に溶け込んだ微量な魔素。
それら全てが「信号」となって彼女の敏感すぎる五感に流れ込んでくるのだ。
「波の音が……ザザァって音じゃなくて、何万もの水の粒がぶつかる衝撃音に聞こえるの」
彼女は震える声で言った。
「魚たちの泳ぐ音が耳元でスクリューを回されてるみたいに響くし……魔力の流れがチカチカして眩しい……」
「そんな……」
僕は言葉を失った。
僕たちが「綺麗な海だ」と感動している裏で、彼女はずっと脳をヤスリで削られるような「ノイズの嵐」に耐えていたのだ。
「ごめん、気づいてあげられなくて」
「ううん、私が未熟なだけ……。レベルが上がって感度が良くなりすぎちゃったみたい」
彼女は弱々しく笑った。
「でも、平気だよ。……私がしっかり見てないとみんなを守れないし」
「樹里……」
健気で責任感が強い。
僕は彼女の頭を撫でようと手を伸ばし――止めた。
今の彼女にとって触覚すらも過敏な刺激になりかねない。
「……少し、休憩しよう。僕が代わるよ」
「でも……」
「命令だ。……君が倒れたらそれこそ僕の目がなくなってしまう」
その時だった。
「ッ!!?」
樹里が突然弾かれたように顔を上げた。
その瞳孔が猫のようにキュッと収縮する。
「樹里?どうした?」
「……聞こえる」
彼女は震える指で右舷方向を指差した。
「ノイズじゃない……これは……『歌』?」
「歌?」
「ううん、違う……悲鳴だわ。……誰かが助けを呼んでる!」
彼女のセンサーが海全体の雑音の中から、明確な意思を持った「SOS」を拾い上げたのだ。
「距離、3000!深度ゼロ、海面付近!……微弱だけど、知性のある魔力反応!」
「わかった!急行する!」
アーク・ロイヤルが大きく舵を切る。
甲板にいたヒロインたちも、船の急加速に気づき何事かと集まってきた。
「相田くん、敵襲!?」
「いや、救助活動だ!……あそこだ!」
前方の海面。
岩礁地帯の波間、何かが漂っていた。
「人……?でも、下半身が……」
双眼鏡を覗いていたののかが息を呑む。
「魚……?まさか」
船を近づけクレーンで慎重に引き上げる。
甲板に横たえられたのは、透き通るような水色の髪と宝石のような鱗を持つ下半身の少女だった。
「人魚……!」
ファンタジー世界の象徴とも言える存在。
だが、彼女の体はボロボロだった。
美しい鱗は剥がれ落ち、脇腹には深い切り傷があり赤黒い血が流れている。
「ひどい……」
莉奈が口元を押さえる。
「意識がないアル。……手当てを!」
「莉奈、お願い!」
「うん!
【完全浄化(パーフェクト・ヒール)】!」
莉奈が両手をかざすと金色の光が人魚の少女を包み込む。
傷口が塞がり、苦悶に歪んでいた表情が和らいでいく。
「……ん……ぅ……」
やがて人魚の少女がゆっくりと目を開けた。
そこには、海の青さを凝縮したような美しい瞳があった。
「ここは……?わたくしは……」
「気がついた?」
僕が顔を覗き込むと、彼女はビクリと身を縮め尾びれをバタつかせた。
「に、人間!?わたくしを……捕まえて見世物にする気ですか!?
「違うよ。君は海で怪我をして倒れていたんだ。僕たちが助けた」
「え……?」
彼女は自分の体を見下ろし傷が消えていることに気づいた。
そして周囲を取り囲む僕たちの顔を見る。
そこに敵意がないことを悟ると彼女はホッとしたように力を抜いた。
「……申し訳ありません。取り乱してしまいました」
彼女は上半身を起こし(その豊かな胸には貝殻のブラしか着けておらず、目のやり場に困る)優雅に一礼した。
「わたくしは、この海域を統べる人魚族の王女、マリンと申します」
「王女様!?」
相崎莉奈(あいざき りな)たちが目を丸くする。
「そんな高貴な方がどうしてあんな怪我を?」
マリンの表情が曇った。
美しい瞳から真珠のような涙がこぼれ落ちる
「……里が、奪われたのです」
「里?」
「はい。この海底にある『人魚の里』……わたくしたちの故郷が恐ろしい化け物に襲撃されました」
彼女は震える声で語り始めた。
数日前、突如として海の中に「不気味な霧」が発生した。
その霧の中から現れたのは実体のない亡霊のような軍勢。
人魚の戦士たちが槍で突いても、魔法を撃っても、すべてすり抜けてしまう。
「奴らは……わたくしたちの守り神である『真実の宝玉(トゥルー・オーブ)』を奪い、里を霧で覆い尽くしました。……父上も、母上も、みんな霧の中に囚われて……」
彼女は命からがら逃げ出し、助けを求めて海面まで上がってきたのだという。
「実体がない敵……」
清花が顎に手を当てて考え込む。
「物理攻撃無効……厄介な相手ね」
「その化け物の名前は?」
僕が尋ねるとマリンは恐怖に顔を歪めながら答えた。
「自らを……四天王『幻魔将軍(げんましょうぐん)・ミラージュ』と名乗っていました」
「四天王……!」
またしても魔王軍の幹部だ。
グランギガスを倒したばかりだというのに奴らは休む間を与えてくれないらしい。
「ミラージュ……幻影使いか」
「はい。奴は霧の中に無数の幻影を作り出し、現実と虚構を混ぜ合わせます。……そして人々の精神を壊し、魂を喰らうのです」
マリンが僕の手を握りしめた。
その手は冷たく震えていた。
「お願いします、人間の戦士様……!どうか里を救ってください!このままでは人魚族は全滅してしまいます!」
「相田くん」
ヒロインたちが僕を見る。
その目に迷いはない。
「もちろん、助けるよ」
僕はマリンの手を握り返した。
「僕たちは魔王を倒す旅をしている。四天王がいるならどのみち避けては通れない道だ」
「あ、ありがとうございます……!」
「でも、どうやって戦うの?」
現実的な質問をしたのは樹里だった。
彼女はまだ少し頭痛がするのか、こめかみを押さえながら聞いた。
「相手は実体がないんでしょ?それに、海の中じゃ私たちの攻撃も届かないし……」
「戦うには、『真実の宝玉』を取り戻す必要があります」
マリンが答える。
「あの宝玉の光を当てれば、ミラージュの幻影を打ち消し実体を暴くことができます。……ですが、宝玉は里の最深部にある神殿に封印されてしまいました」
「つまり敵の本拠地に乗り込んで、お宝を回収して、それを使ってボスを叩く……ってことか」
RPGの王道だ。
だが舞台は深海。
「問題は、どうやってそこまで行くかだけど……」
僕はアーク・ロイヤルの船体を撫でた。
「大丈夫。この船は海を渡るだけじゃない」
「総員、配置につけ!」
僕の号令と共にヒロインたちが動き出す。
「アーク・ロイヤル、モード・チェンジ!」
コンソールを操作する。
《了解。潜航シークエンス起動》
ゴゴゴゴゴ……! 船
上のマストが収納され、窓に装甲シャッターが下りる。
船体各部のバラストタンクに海水が注入され浮力が調整される。
「『潜水艦モード(ディープ・ダイバー)』へ変形!」
「すご……沈んでいく!」
「窓の外、全部水だよ!」
ブリッジのモニターには青く深い海中の景色が映し出された。
太陽の光が届かない深度へ、アーク・ロイヤルは静かに潜航していく。
「……うッ」
その時、樹里が呻き声を上げて座り込んだ。
「樹里!?」
「ご、ごめん……水の中に入ったら……ノイズがもっとひどく……」
水は空気よりも音を伝えやすい。
深海の高圧力と四方八方から押し寄せる魔力の波が彼女の過敏なセンサーを直接殴りつけているのだ。
「頭が……割れそう……」
「樹里、無理するな!探知は切っていい!
「ダメ……!霧の中じゃレーダーも効かない……。私の『目』がないと……みんな迷子になっちゃう……!」
彼女は脂汗を流しながら必死にコンソールにしがみついていた
「私が……やらなきゃ……。最高レアの素材(お宝)……見つけるんだから……」
その姿を見て僕は確信した。
今回の戦い鍵を握るのは彼女だ。
だが、今のままでは彼女が壊れてしまう。
幻影とノイズの迷宮を突破するには、彼女の「感度」を制御し、正しく導いてあげる必要がある。
(……待っててくれ、樹里。必ず、君を楽にしてあげるから)
「進路、人魚の里へ!……幻魔将軍ミラージュその正体暴いてやる!」
アーク・ロイヤルは、不気味な霧が漂う深淵へとゆっくりと進んでいった。
空は抜けるように青く、海は鏡のように穏やかだ。
甲板のプールサイドでは、勝利の余韻に浸るヒロインたちが今日も思い思いのバカンスを楽しんでいる。
「ののかちゃん、射的勝負しよ!負けた方がジュース奢りネ!」
「いいよ、美鈴。……私の目はもう外さないって言ったでしょ?」
王美鈴(ワン・メイリン)と滝川ののか(たきがわ ののか)が空き缶を並べて遊んでいる。
「あらあら、元気ねぇ。……相田くん、サンオイル塗ってくれる?」
一ノ瀬清花(いちのせ さやか)がデッキチェアで艶めかしい背中を晒し、僕、相田ミナトにウィンクを送る。
「はいはい。……清花、肌焼けてきたね。綺麗だ」
「ふふっ、貴方好みの色になったかしら?」
平和だ。
魔王城への旅路とは思えないほど穏やかな時間が流れている。
だが、そんな華やかな喧騒から少し離れた、静かなブリッジ(操舵室)。
そこに一人だけ浮かない顔をした少女がいた。
牧野樹里(まきの じゅり)。
アーク・ロイヤルの索敵・収集担当である彼女は、モニター席に座りヘッドホンを耳に当てたまま眉間に深い皺を寄せていた。
「……うぅ」
彼女は時折こめかみを押さえて小さく呻く。
その顔色は優れず、いつもはリスのように活発に動くエメラルドグリーンの瞳も今はどこか虚ろだ。
「……樹里?」
僕は清花の背中を塗り終えると心配になってブリッジへ入った。
「あ、相田くん……」
彼女は僕に気づくと慌てて作り笑いを浮かべた。
「ご、ごめんね。サボってるわけじゃないよ?ちゃんとレーダー監視してるから……」
「そうじゃないよ。……顔色が悪い。無理してないか?」
僕は彼女のそばに歩み寄りその肩に手を置いた。
ビクッ!
樹里の体が過剰なほど大きく跳ねた
「ひゃうっ!?あ、ご、ごめんなさい……!」
「えっ、いや、僕の方こそごめん。驚かせるつもりじゃ……」
「ち、違うの……!」
樹里はフルフルと首を振り申し訳無さそうに俯いた。
「相田くんが悪いんじゃないの。……ただ、ちょっと……『音』が、大きすぎて」
「音?」
僕は周囲に耳を澄ませた。
聞こえるのは、波の音と遠くから響くみんなの笑い声、そして計器類の低い駆動音だけだ。
決してうるさい環境ではない。
「僕たちには聞こえない音かい?」
「……うん」
樹里はヘッドホンを外し自分の耳を両手で塞ぐようにした。
「海って……情報量が多すぎるの」
彼女のスキル【素材探知】および【索敵】は、対象の魔力や存在感を波紋のように感知する能力だ。
荒野やダンジョンではそれが強力な武器となる。
だが海は生命の宝庫だ。
無数の魚の群れ、海流の摩擦、海底火山の微振動、そして海水に溶け込んだ微量な魔素。
それら全てが「信号」となって彼女の敏感すぎる五感に流れ込んでくるのだ。
「波の音が……ザザァって音じゃなくて、何万もの水の粒がぶつかる衝撃音に聞こえるの」
彼女は震える声で言った。
「魚たちの泳ぐ音が耳元でスクリューを回されてるみたいに響くし……魔力の流れがチカチカして眩しい……」
「そんな……」
僕は言葉を失った。
僕たちが「綺麗な海だ」と感動している裏で、彼女はずっと脳をヤスリで削られるような「ノイズの嵐」に耐えていたのだ。
「ごめん、気づいてあげられなくて」
「ううん、私が未熟なだけ……。レベルが上がって感度が良くなりすぎちゃったみたい」
彼女は弱々しく笑った。
「でも、平気だよ。……私がしっかり見てないとみんなを守れないし」
「樹里……」
健気で責任感が強い。
僕は彼女の頭を撫でようと手を伸ばし――止めた。
今の彼女にとって触覚すらも過敏な刺激になりかねない。
「……少し、休憩しよう。僕が代わるよ」
「でも……」
「命令だ。……君が倒れたらそれこそ僕の目がなくなってしまう」
その時だった。
「ッ!!?」
樹里が突然弾かれたように顔を上げた。
その瞳孔が猫のようにキュッと収縮する。
「樹里?どうした?」
「……聞こえる」
彼女は震える指で右舷方向を指差した。
「ノイズじゃない……これは……『歌』?」
「歌?」
「ううん、違う……悲鳴だわ。……誰かが助けを呼んでる!」
彼女のセンサーが海全体の雑音の中から、明確な意思を持った「SOS」を拾い上げたのだ。
「距離、3000!深度ゼロ、海面付近!……微弱だけど、知性のある魔力反応!」
「わかった!急行する!」
アーク・ロイヤルが大きく舵を切る。
甲板にいたヒロインたちも、船の急加速に気づき何事かと集まってきた。
「相田くん、敵襲!?」
「いや、救助活動だ!……あそこだ!」
前方の海面。
岩礁地帯の波間、何かが漂っていた。
「人……?でも、下半身が……」
双眼鏡を覗いていたののかが息を呑む。
「魚……?まさか」
船を近づけクレーンで慎重に引き上げる。
甲板に横たえられたのは、透き通るような水色の髪と宝石のような鱗を持つ下半身の少女だった。
「人魚……!」
ファンタジー世界の象徴とも言える存在。
だが、彼女の体はボロボロだった。
美しい鱗は剥がれ落ち、脇腹には深い切り傷があり赤黒い血が流れている。
「ひどい……」
莉奈が口元を押さえる。
「意識がないアル。……手当てを!」
「莉奈、お願い!」
「うん!
【完全浄化(パーフェクト・ヒール)】!」
莉奈が両手をかざすと金色の光が人魚の少女を包み込む。
傷口が塞がり、苦悶に歪んでいた表情が和らいでいく。
「……ん……ぅ……」
やがて人魚の少女がゆっくりと目を開けた。
そこには、海の青さを凝縮したような美しい瞳があった。
「ここは……?わたくしは……」
「気がついた?」
僕が顔を覗き込むと、彼女はビクリと身を縮め尾びれをバタつかせた。
「に、人間!?わたくしを……捕まえて見世物にする気ですか!?
「違うよ。君は海で怪我をして倒れていたんだ。僕たちが助けた」
「え……?」
彼女は自分の体を見下ろし傷が消えていることに気づいた。
そして周囲を取り囲む僕たちの顔を見る。
そこに敵意がないことを悟ると彼女はホッとしたように力を抜いた。
「……申し訳ありません。取り乱してしまいました」
彼女は上半身を起こし(その豊かな胸には貝殻のブラしか着けておらず、目のやり場に困る)優雅に一礼した。
「わたくしは、この海域を統べる人魚族の王女、マリンと申します」
「王女様!?」
相崎莉奈(あいざき りな)たちが目を丸くする。
「そんな高貴な方がどうしてあんな怪我を?」
マリンの表情が曇った。
美しい瞳から真珠のような涙がこぼれ落ちる
「……里が、奪われたのです」
「里?」
「はい。この海底にある『人魚の里』……わたくしたちの故郷が恐ろしい化け物に襲撃されました」
彼女は震える声で語り始めた。
数日前、突如として海の中に「不気味な霧」が発生した。
その霧の中から現れたのは実体のない亡霊のような軍勢。
人魚の戦士たちが槍で突いても、魔法を撃っても、すべてすり抜けてしまう。
「奴らは……わたくしたちの守り神である『真実の宝玉(トゥルー・オーブ)』を奪い、里を霧で覆い尽くしました。……父上も、母上も、みんな霧の中に囚われて……」
彼女は命からがら逃げ出し、助けを求めて海面まで上がってきたのだという。
「実体がない敵……」
清花が顎に手を当てて考え込む。
「物理攻撃無効……厄介な相手ね」
「その化け物の名前は?」
僕が尋ねるとマリンは恐怖に顔を歪めながら答えた。
「自らを……四天王『幻魔将軍(げんましょうぐん)・ミラージュ』と名乗っていました」
「四天王……!」
またしても魔王軍の幹部だ。
グランギガスを倒したばかりだというのに奴らは休む間を与えてくれないらしい。
「ミラージュ……幻影使いか」
「はい。奴は霧の中に無数の幻影を作り出し、現実と虚構を混ぜ合わせます。……そして人々の精神を壊し、魂を喰らうのです」
マリンが僕の手を握りしめた。
その手は冷たく震えていた。
「お願いします、人間の戦士様……!どうか里を救ってください!このままでは人魚族は全滅してしまいます!」
「相田くん」
ヒロインたちが僕を見る。
その目に迷いはない。
「もちろん、助けるよ」
僕はマリンの手を握り返した。
「僕たちは魔王を倒す旅をしている。四天王がいるならどのみち避けては通れない道だ」
「あ、ありがとうございます……!」
「でも、どうやって戦うの?」
現実的な質問をしたのは樹里だった。
彼女はまだ少し頭痛がするのか、こめかみを押さえながら聞いた。
「相手は実体がないんでしょ?それに、海の中じゃ私たちの攻撃も届かないし……」
「戦うには、『真実の宝玉』を取り戻す必要があります」
マリンが答える。
「あの宝玉の光を当てれば、ミラージュの幻影を打ち消し実体を暴くことができます。……ですが、宝玉は里の最深部にある神殿に封印されてしまいました」
「つまり敵の本拠地に乗り込んで、お宝を回収して、それを使ってボスを叩く……ってことか」
RPGの王道だ。
だが舞台は深海。
「問題は、どうやってそこまで行くかだけど……」
僕はアーク・ロイヤルの船体を撫でた。
「大丈夫。この船は海を渡るだけじゃない」
「総員、配置につけ!」
僕の号令と共にヒロインたちが動き出す。
「アーク・ロイヤル、モード・チェンジ!」
コンソールを操作する。
《了解。潜航シークエンス起動》
ゴゴゴゴゴ……! 船
上のマストが収納され、窓に装甲シャッターが下りる。
船体各部のバラストタンクに海水が注入され浮力が調整される。
「『潜水艦モード(ディープ・ダイバー)』へ変形!」
「すご……沈んでいく!」
「窓の外、全部水だよ!」
ブリッジのモニターには青く深い海中の景色が映し出された。
太陽の光が届かない深度へ、アーク・ロイヤルは静かに潜航していく。
「……うッ」
その時、樹里が呻き声を上げて座り込んだ。
「樹里!?」
「ご、ごめん……水の中に入ったら……ノイズがもっとひどく……」
水は空気よりも音を伝えやすい。
深海の高圧力と四方八方から押し寄せる魔力の波が彼女の過敏なセンサーを直接殴りつけているのだ。
「頭が……割れそう……」
「樹里、無理するな!探知は切っていい!
「ダメ……!霧の中じゃレーダーも効かない……。私の『目』がないと……みんな迷子になっちゃう……!」
彼女は脂汗を流しながら必死にコンソールにしがみついていた
「私が……やらなきゃ……。最高レアの素材(お宝)……見つけるんだから……」
その姿を見て僕は確信した。
今回の戦い鍵を握るのは彼女だ。
だが、今のままでは彼女が壊れてしまう。
幻影とノイズの迷宮を突破するには、彼女の「感度」を制御し、正しく導いてあげる必要がある。
(……待っててくれ、樹里。必ず、君を楽にしてあげるから)
「進路、人魚の里へ!……幻魔将軍ミラージュその正体暴いてやる!」
アーク・ロイヤルは、不気味な霧が漂う深淵へとゆっくりと進んでいった。
27
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
男が少ない世界に転生して
美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです!
旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします!
交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
