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第8章 洋上の楽園と人魚の秘宝 ~感度良好な探知係と、幻魔将軍の霧~
深海に揺らめく幻影の霧 ~牧野樹里、ノイズに焼かれる脳髄~
青く冷たい静寂の世界。
水深500メートル。
太陽の光が届かぬ深海を超弩級潜水艦へと変形したアーク・ロイヤルが静かに進んでいく。
強力なライトが前方を照らすが、光は数メートル先で白い闇に吸い込まれてしまう。
霧だ。
本来、海の中に霧など発生するはずがない。
だが、そこには確かに牛乳を流し込んだような不気味な白い靄(もや)が漂っていた。
「……ここが、人魚の里への入り口です」
ブリッジで人魚姫のマリンが震える声で告げた
「この霧は『幻魔将軍ミラージュ』の結界……。一度入れば二度と出られない迷宮となっています」
「わかった。……総員、警戒レベル最大。樹里、頼むぞ」
キャプテンシートの僕、相田ミナトが声をかける。
「……ぅ、うん……」
ソナー席に座る牧野樹里(まきの じゅり)の返事は弱々しかった。
彼女はヘッドホンを両手で強く押さえ、ガタガタと小刻みに震えている。
「樹里?大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ……。ちょっと、音が……多いだけ」
彼女の顔色は青白い。
霧に近づくにつれて、彼女の【超感覚探知(ハイパー・センサー)】は異常な数の信号を拾い始めていたのだ。
ズズズン……。
船体が霧の中に突入した瞬間だった。
「きゃあぁぁっ!?」
樹里が悲鳴を上げヘッドホンをかなぐり捨てた。
「樹里!?」
「うるさい!うるさいの!頭の中で、何千人もの人が叫んでるみたい……!」
彼女は耳を塞いでうずくまる。
モニターの波形がデタラメな線を描いて乱舞している
『警告。外部センサー、エラー発生。……魔力干渉により位置情報ロスト』
「レーダーが効かない!?」
「目視もダメです!霧で何も見えません!」
ののかが叫ぶ。
アーク・ロイヤルは、視界ゼロの深海で完全に盲目となってしまった。
「ようこそ、我が揺り籠へ……」
どこからともなくねっとりとした男の声が響く。
スピーカーからではない。
脳に直接語りかけてくる念話だ。
『我は幻魔将軍ミラージュ。……愛しき獲物たちよ。永遠に霧の中を彷徨うがいい』
「出てこい!姿を見せろ!」
僕が叫ぶと、霧がゆらりと動き無数の影を作り出した。
「相田くん……こっちよ……♡」
「えっ?」
ブリッジの入り口に一ノ瀬清花(いちのせ さやか)が立っていた。
いや、おかしい。
清花は今、僕の隣にいるはずだ。
「ミナトさん……私のこと、抱いてくれますよね?♡」
反対側からは、全裸の篠原真美(しのはら まみ)が現れ、豊満な胸を押し付けてくる
「相田くぅ~ん、あそぼ~♡」
幼い姿になった相崎莉奈(あいざき りな)が足元にまとわりつく。
「な、なんだこれ……!?」
「相田くん、騙されないで!それは幻影よ!」
本物の清花が叫び、【聖域結界】を展開するが、幻影たちはすり抜けて迫ってくる。
「あはは……相田くん、好き……中に出して……♡」
幻影たちは淫らな言葉を囁き僕の体を撫で回す。
物理的な感触はない。
だが、精神に直接「快感」の信号を送り込んでくる。
「くっ……!邪魔だ!」
僕は必死に幻影を振り払うがキリがない。
視覚と聴覚、そして触覚までもが欺かれる。
だが、僕以上に追い詰められているのは樹里だった。
「あ、あぁ……!すごい……なにこれ……!」
うずくまっていた樹里が、虚ろな目で立ち上がりモニターに張り付いた。
彼女の視界には、僕たちとは違う「幻影」が見えていたのだ。
「SSR級の魔力反応……オリハルコンの鉱脈……深海真珠の山……!」
収集癖のある彼女にとって抗いがたい誘惑。
ミラージュの霧は、彼女の【素材探知】スキルを逆手に取り、偽物の「お宝反応」を脳内に直接流し込んでいた。
「こっち!右舷30度にすごいお宝があるの!行かなきゃ!」
樹里が操舵輪を奪おうとする。
「待て、樹里!それは罠だ!」
「罠じゃないもん!私のセンサーが言ってるの!あんなにキラキラ光ってるのに見えないの!?」
彼女の瞳孔は開ききり焦点が合っていない。
「あっちにも……こっちにも……!全部欲しい、全部集めなきゃ……!」
彼女の脳内ではスクラップの山が金銀財宝に見え、危険な海溝が光り輝く道に見えているのだ。
「樹里、しっかりしろ!それは偽物だ!」
僕が彼女の肩を掴むと彼女は激しく抵抗した。
「離して!聞こえるの、私を呼んでるの!……あそこに行けば、もっとすごい素材(相田くん)になれるの!」
「っ……!」
支離滅裂だ。
彼女の精神が情報の濁流に飲み込まれかけている。
『ククク……そうだ。欲望に溺れろ。感覚を暴走させろ』
ミラージュの嘲笑が響く。
『その娘の「目」と「耳」は良いな。……良すぎるが故に壊れやすい』
「きゃあぁぁぁぁっ!!!」
突然、樹里が絶叫した。
「痛い!痛い痛い痛い!音が……刺さる!」
偽物の信号に攻撃的なノイズが混ざり始めたのだ。
黒板を爪で引っ掻くような音を一万倍に増幅したような不快音。
それが彼女の過敏な鼓膜と脳髄をレイプする。
「やめて……もう聞きたくない……!静かにしてぇッ!」
彼女は自分の耳を引きちぎらんばかりに爪を立てた。
「樹里!自傷はダメだ!」
僕は彼女の両手首を掴み抱きしめた。
「嫌だ、嫌だぁ!相田くんの声が聞こえない!ノイズが……あぁぁぁッ!」
彼女は僕の腕の中で暴れ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだ。
「私が……私が案内しなきゃいけないのに……!何もわからない!どれが本物か、どれが嘘か……!」
彼女のプライドである【索敵】能力。
それが完全に無力化され逆に仲間を危険に晒しているという絶望。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私、壊れちゃった……ポンコツだぁ……」
プツン。
限界を超えた彼女の意識が糸が切れたように途絶えた。
「樹里!」
彼女は僕の胸に崩れ落ちぐったりと動かなくなった。
呼吸は荒く、全身が脂汗で濡れている。
「……退却だ!」
僕は叫んだ。
「このままじゃ全滅する!一度、霧の外へ出るぞ!」
「でも、方向がわかりません!」
ののかが悲鳴を上げる。
「マリン!出口はわかるか!?」
「は、はい!海流の微かな変化なら……あちらです!」
人魚姫の先導によりアーク・ロイヤルは決死の回頭を行った。
ガガガガガッ!
船底が岩盤を擦る音が響く。
幻影に騙され、壁に激突しながらも僕たちはなんとか白い霧の領域を脱出した。
視界がクリアになり、ソナーの反応が正常に戻る
「……助かった……」
ヒロインたちが床にへたり込む。
だが、僕の腕の中には気絶したままの樹里がいた。
彼女は悪夢にうなされるように、小さく震え続けている
「うぅ……うるさい……やめて……」
船内の医務室。
ベッドに寝かせられた樹里は依然として目を覚さない。
いや、意識はあるようだが、外界の刺激を拒絶して自らの殻に閉じこもってしまっているようだ。
「……精神的なショックが大きいわね」
清花が診断を下す。
「彼女の神経は今、ボロボロに焼き切れているわ。……外部からの情報をすべて『痛み』として認識してしまっている状態よ」
「治せるのか?」
「【浄化】や【回復魔法】では難しいわ。これは肉体の傷じゃなくて感覚のバグだもの」
清花は眼鏡を直し真剣な眼差しで僕を見た。
「彼女の乱れた感覚(センサー)を……正しく『チューニング』し直す必要があるわ」
「チューニング……」
その言葉の意味を僕は理解した。
彼女の過敏になりすぎた神経を、僕の愛撫と魔力で上書きし、ノイズを快感で塗り替える。
そして僕という「確かな存在(真実)」だけを感じ取れるように繋ぎ直すのだ。
「……任せてくれ」
僕は樹里の頬に触れた。
彼女はビクリと反応したが逃げようとはしなかった。
その無意識の反応は助けを求めているようにも見えた。
「僕が治す。……彼女を最高の状態に戻してみせる」
部屋には僕と樹里の二人きり。
静寂な医務室で、壊れかけた探索者を救うための優しくも濃厚な治療が始まろうとしていた。
水深500メートル。
太陽の光が届かぬ深海を超弩級潜水艦へと変形したアーク・ロイヤルが静かに進んでいく。
強力なライトが前方を照らすが、光は数メートル先で白い闇に吸い込まれてしまう。
霧だ。
本来、海の中に霧など発生するはずがない。
だが、そこには確かに牛乳を流し込んだような不気味な白い靄(もや)が漂っていた。
「……ここが、人魚の里への入り口です」
ブリッジで人魚姫のマリンが震える声で告げた
「この霧は『幻魔将軍ミラージュ』の結界……。一度入れば二度と出られない迷宮となっています」
「わかった。……総員、警戒レベル最大。樹里、頼むぞ」
キャプテンシートの僕、相田ミナトが声をかける。
「……ぅ、うん……」
ソナー席に座る牧野樹里(まきの じゅり)の返事は弱々しかった。
彼女はヘッドホンを両手で強く押さえ、ガタガタと小刻みに震えている。
「樹里?大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ……。ちょっと、音が……多いだけ」
彼女の顔色は青白い。
霧に近づくにつれて、彼女の【超感覚探知(ハイパー・センサー)】は異常な数の信号を拾い始めていたのだ。
ズズズン……。
船体が霧の中に突入した瞬間だった。
「きゃあぁぁっ!?」
樹里が悲鳴を上げヘッドホンをかなぐり捨てた。
「樹里!?」
「うるさい!うるさいの!頭の中で、何千人もの人が叫んでるみたい……!」
彼女は耳を塞いでうずくまる。
モニターの波形がデタラメな線を描いて乱舞している
『警告。外部センサー、エラー発生。……魔力干渉により位置情報ロスト』
「レーダーが効かない!?」
「目視もダメです!霧で何も見えません!」
ののかが叫ぶ。
アーク・ロイヤルは、視界ゼロの深海で完全に盲目となってしまった。
「ようこそ、我が揺り籠へ……」
どこからともなくねっとりとした男の声が響く。
スピーカーからではない。
脳に直接語りかけてくる念話だ。
『我は幻魔将軍ミラージュ。……愛しき獲物たちよ。永遠に霧の中を彷徨うがいい』
「出てこい!姿を見せろ!」
僕が叫ぶと、霧がゆらりと動き無数の影を作り出した。
「相田くん……こっちよ……♡」
「えっ?」
ブリッジの入り口に一ノ瀬清花(いちのせ さやか)が立っていた。
いや、おかしい。
清花は今、僕の隣にいるはずだ。
「ミナトさん……私のこと、抱いてくれますよね?♡」
反対側からは、全裸の篠原真美(しのはら まみ)が現れ、豊満な胸を押し付けてくる
「相田くぅ~ん、あそぼ~♡」
幼い姿になった相崎莉奈(あいざき りな)が足元にまとわりつく。
「な、なんだこれ……!?」
「相田くん、騙されないで!それは幻影よ!」
本物の清花が叫び、【聖域結界】を展開するが、幻影たちはすり抜けて迫ってくる。
「あはは……相田くん、好き……中に出して……♡」
幻影たちは淫らな言葉を囁き僕の体を撫で回す。
物理的な感触はない。
だが、精神に直接「快感」の信号を送り込んでくる。
「くっ……!邪魔だ!」
僕は必死に幻影を振り払うがキリがない。
視覚と聴覚、そして触覚までもが欺かれる。
だが、僕以上に追い詰められているのは樹里だった。
「あ、あぁ……!すごい……なにこれ……!」
うずくまっていた樹里が、虚ろな目で立ち上がりモニターに張り付いた。
彼女の視界には、僕たちとは違う「幻影」が見えていたのだ。
「SSR級の魔力反応……オリハルコンの鉱脈……深海真珠の山……!」
収集癖のある彼女にとって抗いがたい誘惑。
ミラージュの霧は、彼女の【素材探知】スキルを逆手に取り、偽物の「お宝反応」を脳内に直接流し込んでいた。
「こっち!右舷30度にすごいお宝があるの!行かなきゃ!」
樹里が操舵輪を奪おうとする。
「待て、樹里!それは罠だ!」
「罠じゃないもん!私のセンサーが言ってるの!あんなにキラキラ光ってるのに見えないの!?」
彼女の瞳孔は開ききり焦点が合っていない。
「あっちにも……こっちにも……!全部欲しい、全部集めなきゃ……!」
彼女の脳内ではスクラップの山が金銀財宝に見え、危険な海溝が光り輝く道に見えているのだ。
「樹里、しっかりしろ!それは偽物だ!」
僕が彼女の肩を掴むと彼女は激しく抵抗した。
「離して!聞こえるの、私を呼んでるの!……あそこに行けば、もっとすごい素材(相田くん)になれるの!」
「っ……!」
支離滅裂だ。
彼女の精神が情報の濁流に飲み込まれかけている。
『ククク……そうだ。欲望に溺れろ。感覚を暴走させろ』
ミラージュの嘲笑が響く。
『その娘の「目」と「耳」は良いな。……良すぎるが故に壊れやすい』
「きゃあぁぁぁぁっ!!!」
突然、樹里が絶叫した。
「痛い!痛い痛い痛い!音が……刺さる!」
偽物の信号に攻撃的なノイズが混ざり始めたのだ。
黒板を爪で引っ掻くような音を一万倍に増幅したような不快音。
それが彼女の過敏な鼓膜と脳髄をレイプする。
「やめて……もう聞きたくない……!静かにしてぇッ!」
彼女は自分の耳を引きちぎらんばかりに爪を立てた。
「樹里!自傷はダメだ!」
僕は彼女の両手首を掴み抱きしめた。
「嫌だ、嫌だぁ!相田くんの声が聞こえない!ノイズが……あぁぁぁッ!」
彼女は僕の腕の中で暴れ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだ。
「私が……私が案内しなきゃいけないのに……!何もわからない!どれが本物か、どれが嘘か……!」
彼女のプライドである【索敵】能力。
それが完全に無力化され逆に仲間を危険に晒しているという絶望。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私、壊れちゃった……ポンコツだぁ……」
プツン。
限界を超えた彼女の意識が糸が切れたように途絶えた。
「樹里!」
彼女は僕の胸に崩れ落ちぐったりと動かなくなった。
呼吸は荒く、全身が脂汗で濡れている。
「……退却だ!」
僕は叫んだ。
「このままじゃ全滅する!一度、霧の外へ出るぞ!」
「でも、方向がわかりません!」
ののかが悲鳴を上げる。
「マリン!出口はわかるか!?」
「は、はい!海流の微かな変化なら……あちらです!」
人魚姫の先導によりアーク・ロイヤルは決死の回頭を行った。
ガガガガガッ!
船底が岩盤を擦る音が響く。
幻影に騙され、壁に激突しながらも僕たちはなんとか白い霧の領域を脱出した。
視界がクリアになり、ソナーの反応が正常に戻る
「……助かった……」
ヒロインたちが床にへたり込む。
だが、僕の腕の中には気絶したままの樹里がいた。
彼女は悪夢にうなされるように、小さく震え続けている
「うぅ……うるさい……やめて……」
船内の医務室。
ベッドに寝かせられた樹里は依然として目を覚さない。
いや、意識はあるようだが、外界の刺激を拒絶して自らの殻に閉じこもってしまっているようだ。
「……精神的なショックが大きいわね」
清花が診断を下す。
「彼女の神経は今、ボロボロに焼き切れているわ。……外部からの情報をすべて『痛み』として認識してしまっている状態よ」
「治せるのか?」
「【浄化】や【回復魔法】では難しいわ。これは肉体の傷じゃなくて感覚のバグだもの」
清花は眼鏡を直し真剣な眼差しで僕を見た。
「彼女の乱れた感覚(センサー)を……正しく『チューニング』し直す必要があるわ」
「チューニング……」
その言葉の意味を僕は理解した。
彼女の過敏になりすぎた神経を、僕の愛撫と魔力で上書きし、ノイズを快感で塗り替える。
そして僕という「確かな存在(真実)」だけを感じ取れるように繋ぎ直すのだ。
「……任せてくれ」
僕は樹里の頬に触れた。
彼女はビクリと反応したが逃げようとはしなかった。
その無意識の反応は助けを求めているようにも見えた。
「僕が治す。……彼女を最高の状態に戻してみせる」
部屋には僕と樹里の二人きり。
静寂な医務室で、壊れかけた探索者を救うための優しくも濃厚な治療が始まろうとしていた。
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