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第2章 忍び寄る危機と少女の涙
絶望の淵で、君を想う
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オークの振り上げた棍棒が、リゼットのすぐ横の床を叩き割る。
その衝撃で吹き飛ばされ、彼女は燃え盛る店の外、地獄絵図と化した村の通りへと転がり出た。全身を打った痛みに咳き込みながら、煙に霞む目で必死に両親の姿を探す。
(お父さん…お母さん…!)
だが、瓦礫と炎が視界を遮り、二人の安否はわからない。
周囲は、魔獣の咆哮と、村人たちの断末魔の叫びで満ちていた。もう、どこへ逃げればいいのかもわからない。絶望が、リゼ-ットの心を完全に飲み込もうとしていた。
その時。
「う…うわぁぁぁん…!」
すぐ近くの瓦礫の下から、か細い泣き声が聞こえた。
見ると、顔見知りのパン屋の常連客の、まだ幼い男の子が足を挟まれて動けなくなっている。そしてその背後には、新たな魔獣が涎を垂らしながらゆっくりと迫っていた。
――ああ、もうダメだ。
――この村は、終わってしまうんだ。
――私も、ここで…。
諦めが心を支配する。
だが、恐怖に震える男の子の瞳と、自分の瞳がかち合った瞬間、リゼットの心の奥底で、何かが燃え上がった。
(アルトが守るって言ってくれた、この村を…)
(お父さんとお母さんがパンを焼いていた、この村を…)
(こんな風に、終わらせてたまるか…!)
理屈ではなかった。
ただ、衝動だった。
気づけば、リゼットは走り出していた。
震える足で、それでも必死に前へ進む。男の子の前へと回り込み、動かせない瓦礫の代わりに、自らの身体でその子を覆いかぶさるように庇った。
「だ、大丈夫よ。お姉ちゃんが、守ってあげるからね…」
自分に言い聞かせるような、か細い声。
背後から、魔獣の荒い息遣いと、死の匂いが迫る。リゼットはぎゅっと目を閉じた。
(ごめんなさい、お父さん、お母さん)
(ごめんなさい、アルト。…もう一度、会いたかったな)
死を覚悟した、その刹那――。
キィィィンッ!
甲高い金属音が響き、リゼットを打ち据えるはずだった衝撃は、いつまで経ってもやってこなかった。
恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
リゼットと子供を庇うように、一つの人影が立ちはだかっている。
その手には、見慣れない機械仕掛けの盾が展開され、魔獣の爪を寸前で受け止めていた。
夕焼けと炎の赤い光に照らされた、その背中。
研究に没頭していた時の、少し猫背な、でも誰よりも頼りになる、大好きな背中。
「アルト…!」
振り返った彼の顔は、いつもの穏やかな表情ではなかった。怒りと、そして強い決意を宿した、戦士の顔をしていた。
その彼が、リゼットへと手を差し出す。
握られていたのは、工房で何度も失敗を繰り返していた、あの機械仕掛けの腕輪(ブレス)だった。
「リゼット、遅くなってすまない」
絶望の淵で、彼女のヒーローが、ついにその姿を現した。
その衝撃で吹き飛ばされ、彼女は燃え盛る店の外、地獄絵図と化した村の通りへと転がり出た。全身を打った痛みに咳き込みながら、煙に霞む目で必死に両親の姿を探す。
(お父さん…お母さん…!)
だが、瓦礫と炎が視界を遮り、二人の安否はわからない。
周囲は、魔獣の咆哮と、村人たちの断末魔の叫びで満ちていた。もう、どこへ逃げればいいのかもわからない。絶望が、リゼ-ットの心を完全に飲み込もうとしていた。
その時。
「う…うわぁぁぁん…!」
すぐ近くの瓦礫の下から、か細い泣き声が聞こえた。
見ると、顔見知りのパン屋の常連客の、まだ幼い男の子が足を挟まれて動けなくなっている。そしてその背後には、新たな魔獣が涎を垂らしながらゆっくりと迫っていた。
――ああ、もうダメだ。
――この村は、終わってしまうんだ。
――私も、ここで…。
諦めが心を支配する。
だが、恐怖に震える男の子の瞳と、自分の瞳がかち合った瞬間、リゼットの心の奥底で、何かが燃え上がった。
(アルトが守るって言ってくれた、この村を…)
(お父さんとお母さんがパンを焼いていた、この村を…)
(こんな風に、終わらせてたまるか…!)
理屈ではなかった。
ただ、衝動だった。
気づけば、リゼットは走り出していた。
震える足で、それでも必死に前へ進む。男の子の前へと回り込み、動かせない瓦礫の代わりに、自らの身体でその子を覆いかぶさるように庇った。
「だ、大丈夫よ。お姉ちゃんが、守ってあげるからね…」
自分に言い聞かせるような、か細い声。
背後から、魔獣の荒い息遣いと、死の匂いが迫る。リゼットはぎゅっと目を閉じた。
(ごめんなさい、お父さん、お母さん)
(ごめんなさい、アルト。…もう一度、会いたかったな)
死を覚悟した、その刹那――。
キィィィンッ!
甲高い金属音が響き、リゼットを打ち据えるはずだった衝撃は、いつまで経ってもやってこなかった。
恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
リゼットと子供を庇うように、一つの人影が立ちはだかっている。
その手には、見慣れない機械仕掛けの盾が展開され、魔獣の爪を寸前で受け止めていた。
夕焼けと炎の赤い光に照らされた、その背中。
研究に没頭していた時の、少し猫背な、でも誰よりも頼りになる、大好きな背中。
「アルト…!」
振り返った彼の顔は、いつもの穏やかな表情ではなかった。怒りと、そして強い決意を宿した、戦士の顔をしていた。
その彼が、リゼットへと手を差し出す。
握られていたのは、工房で何度も失敗を繰り返していた、あの機械仕掛けの腕輪(ブレス)だった。
「リゼット、遅くなってすまない」
絶望の淵で、彼女のヒーローが、ついにその姿を現した。
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