【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?

のびすけ。

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第3章 炎の変神(ヘンシン)!その名はセーラー・フレア

僕の理論を、君の勇気を

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絶望が支配する戦場に、甲高い金属音が響き渡った。
リゼットを庇うように立ちはだかったアルト。その左腕に装着された機械仕掛けの盾が、火花を散らしながら魔獣の爪を寸前で受け止めていた。

「アルト…!」

リゼットの唇から、か細く名前が漏れる。なぜ、どうやって。そんな思考すら、目の前の光景が現実であるという衝撃でまとまらない。涙で滲む視界の中で、彼の背中が、どんな城壁よりも頼もしく見えた。

「遅くなってすまない、リゼット。説明は後だ、時間がない!」

アルトは盾で魔獣を押し返すと、リゼットに向き直り、右手に持っていたものを彼女に突きつけた。
それは、工房で何度も失敗を繰り返していた、あの銀色のブレスレット――『プリズム・チャーム』だった。

「リゼット、これを!」

有無を言わさぬ口調で、彼はそれをリゼットの腕に強引にはめ込んだ。ひやりとした金属の感触に、彼女の肩がびくりと震える。

「な、なにを…アルト、これって、ポップコーンができた…」
「今はその話は忘れろ!」

アルトは真剣な、しかしその瞳の奥に狂気にも似た科学者の熱を宿して続けた。

「これは未完成品だ。理論上は機能するはずだが、実証実験は一度もできていない。動力源となるマナ安定化マトリクスが未実装で、このまま起動すれば暴走する確率が97.8%を超える」

絶望的な数値。科学者としては、決して人に使わせてはいけない代物だ。

「はっきり言って、危険な賭けだ。起動に成功する保証も、君の身体が無事で済む保証もどこにもない。でも…!」

彼はリゼットの肩を掴み、真っ直ぐにその瞳を見つめる。その視線は、まるで魂の中まで見透かすかのように鋭い。

「僕の計算では、一つだけ、この数式を覆す変数がある。それは、理論では決して導き出せない、人間の精神エネルギー…『意志の力』だ。君の、誰かを守りたいと願うその強い想い…その『勇気』という名のパラメータなら、きっと僕の理論の不確定要素を乗り越えて、この機械に応えてくれるはずなんだ!」

非論理的だ。あまりにも、非科学的すぎる。
だが、その言葉には、リゼット・ブラウンという一人の少女の可能性を、世界の誰よりも信じているという、絶対的な信頼が込められていた。

リゼットは息を呑む。
怖い。手足がまだ震えている。目の前にあるのは、数週間前にはガラクタ同然だった機械だ。
でも。
この人は、信じている。自分の突拍子もない理論を。そして、その理論の最後のピースとして、この私を。
彼女は、背後で泣いている幼い男の子を見た。燃え落ちていく、愛する故郷の家々を見た。
そして、目の前で自分に全てを託そうとしている、幼馴染の真剣な顔を見た。

もう、迷っている時間も、資格も、自分にはない。

「……やるわ」

涙を拭い、リゼットは強く頷いた。その瞳には、恐怖を乗り越えた先にある、確かな決意の光が宿っていた。

「話が早い!それでこそ、僕が見込んだヒーローの器だ!」

アルトはニヤリと笑うと、懐から小さな金属球――『音響閃光弾(ソニック・フラッシュ)試作品7号』を取り出し、体勢を立て直して迫りくる魔獣の足元へ投げつけた。
刹那、閃光と、人間には聞こえない高周波の衝撃音が炸裂する。魔獣が耳を押さえて苦悶の声を上げ、怯んだ。その数秒の隙を、彼は逃さない。

「リゼット、変身の手順を叩き込む!僕の言う通りにしろ!」

アルトは突如、水を得た魚のように生き生きとした表情になり、まるで歴戦の特撮監督のように、身振り手振りを交えて叫んだ。

「まず、しっかりと足を開いて腰を落とす!そう!変身とは下半身の安定が基本だ!大地から力を貰うイメージで、どっしりと構えろ!」
「え、ええっ!?」
「次に、ブレスレットを胸の前に構える!恐る恐るじゃない、もっと堂々と!それはガラクタじゃない、君の力の象徴だ!世界に、君の覚悟を見せつけろ!」

あまりに場違いで、しかし不思議な説得力に満ちたディレクション。リゼットは混乱しながらも、彼の熱に導かれるように、教えられた通りのポーズをとる。

「そして、心を澄ませ!恐怖を捨てろ!君が守りたいものを、一人一人、その顔を思い浮かべるんだ!お父さん、お母さん、この村の皆!その想いこそが、君の力の源になる!」
「最後に、心の底から叫ぶんだ!ただの言葉じゃない、君の魂そのものを音にして、世界にぶつけるんだ!いいか、リゼット!変身とは魂の爆発なんだ!」

アルトのヒーローマニアとしての魂が、今、ここで全開になる。
その凄まじいまでの熱量に浮かされるように、リゼットはブレスレットを強く握りしめ、大きく息を吸い込んだ。

目の前には、混乱から回復し、再び殺意の顎を開いて突進してくる魔獣の姿。
もう、覚悟を決めるしかなかった。

(やるしかない…!私の魂を、見せてやる!)

彼女は、教えられたその言葉を叫ぶべく、唇を、開いた――。
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