29 / 74
第8章 絶望の戯曲と希望のプリズム
偽りの英雄、血塗られた喝采
しおりを挟む
あの日、僕たちの英雄譚は、一度、死んだ。
偽りの黄金の光に焼かれ、民衆の冷たい罵声という雨に打たれ、ズタズタに引き裂かれた。
だが、物語は、まだ終わってはいなかった。
いや、ここからが、本当の始まりだったのだ。
あれから三日。
王都は、奇妙な熱狂と、その裏側に潜む歪な緊張感に包まれていた。
新聞は連日、新たな守護神『ゴールデン・ジャスティス』の活躍を一面で報じ、民衆は彼の黄金の鎧がもたらす、わかりやすい『力』と『正義』に酔いしれていた。
プリズム・ナイツの名は、すでに過去の、そして、滑稽な偽物たちの代名詞として、人々の記憶の片隅へと追いやられようとしていた。
王立騎士団養成学院、僕の工房。
窓から差し込む朝日は、やけに明るく、それがかえって僕たちの心に落ちる影を色濃くしていた。
「アルト、はい、紅茶。ちゃんと眠れた?」
心配そうに僕の顔を覗き込むのは、リゼット・ブラウン。
その瞳には、もう涙の跡はない。だが、その代わりに、嵐の前の海のような、静かで、しかし、どこまでも強い意志の光が宿っていた。
彼女だけではない。
「…レヴィナス。昨夜あなたが解析していた、敵のエネルギー波形の追加データです。私の見解もまとめておきました」
工房の隅の椅子に座り、涼やかな顔で分厚い資料を差し出すのは、クラウディア・フォン・ヴァレンシュタイン。敗北は、彼女の砕けたプライドの欠片を、騎士としての鋼の使命感へと鍛え直したようだった。以前のような刺々しい理屈っぽさは消え、その声には、仲間への信頼が滲んでいる。
「あらあら、お二人とも、あまり根を詰めるといけませんです。わたくし、皆さんの心が少しでも安らぐように、お祈りしてきましたから」
聖母のような微笑みを浮かべて、エミリア・シフォンが、そっと僕たちのカップにハーブティーを注ぎ足す。トラウマを乗り越えた彼女の優しさは、もはや弱さの言い訳ではなく、全てを包み込む、強さそのものだった。
三者三様の、覚悟。
彼女たちの心は、確かに、あの日、僕が流した一筋の涙を触媒にして、一つに固まっていた。
「私たちが、アルトを笑顔にしなきゃ」
その想いが、砕かれたはずの彼女たちの心を、以前よりも遥かに強く、そして、美しく輝かせている。
僕は、机の引き出しから、三つのブレスレットを取り出した。
あの日以来、寝る間も惜しんで改良を重ねた、新しい『プリズム・チャーム』だ。
「リゼット、クラウディアさん、エミリアさん」
僕が一人一人の名前を呼ぶと、三人は息を呑み、僕の手に視線を集中させた。
外見は、以前のものと大差ない。だが、その内部構造は、僕の科学者としての魂と、彼女たちへの信頼の、全てを注ぎ込んだ、全くの別物だ。
「これは…?」
「決戦用の、アップデート版だ。僕の分析と、君たちの成長した心をシンクロさせるための、新しい回路を組み込んである。詳しい説明は、後だ」
僕は、一人一人の手を取り、新しいプリズム・チャームを、その腕にはめ込んでいく。
「今はただ、信じてくれ。君たちの勇気と、僕の計算を」
僕の言葉に、三人は、それぞれの瞳に決意の炎を灯し、力強く、頷いた。
その時だった。
―――ウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!
王都全体に、腹の底を抉るような、けたたましい警報(アラーム)が鳴り響いた。
それは、先日、学院を襲った鋼鉄の軍団の時と同じ、王国最高レベルの、敵性存在の侵入を知らせる、非常警報。
窓の外に、僕たちは見た。
王都の、青く澄み渡っていたはずの空が、急速に、どす黒い暗雲に覆われていく様を。
そして、地平線の彼方から、黒い津波のように押し寄せてくる、無数の異形の影を。
「魔獣…!なぜ、王都のこんな近くに、これほどの数が…!」
クラウディアが、戦慄の声を上げる。
だが、それは、ただの魔獣の群れではなかった。その中には、明らかに知性を持って統率された、禍々しい鎧を纏う魔人兵の集団が混じっている。
悪の組織、『虚構の楽園』。
彼らの、壮大な悲劇の舞台の幕が、今、上がったのだ。
街は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わった。
建物をなぎ倒し、人々を蹂躙する、暴力の奔流。
王都の騎士団が、必死に応戦するが、その数はあまりにも、絶望的に、足りていなかった。
「誰か…誰か助けて!」
「いやあああああっ!」
悲鳴と、絶望の声が、王都を満たす。
そんな中、人々は、一つの名を、祈るように叫び始めた。
「ゴールデン・ジャスティス様…!」
「我らが英雄よ!どうか、この王都をお救いください!」
その、民衆の祈りに応えるかのように。
天を覆う暗雲を、一筋の黄金の光が切り裂いて、舞い降りた。
太陽の光を反射して輝く、神々しいまでの黄金の鎧。純白のマントが、絶望の風に、気高くはためく。
「おお…!ジャスティス様だ!」
「我らの英雄が、来てくださったぞ!」
民衆の顔に、希望の光が差す。
ちょうどその時、巨大なミノタウロスが、瓦礫の下で泣き叫ぶ親子の元へと、その巨大な斧を振り上げていた。
誰もが、息を呑む。
ゴールデン・ジャスティスは、閃光となってその間に割って入った。
「おお、さすがはジャスティス様!」
民衆が、安堵の声を上げる。
だが、次の瞬間。彼らは、信じられない光景を、目の当たりにすることになる。
「ふはは…素晴らしい!実に、素晴らしい悲鳴だ!」
黄金の英雄は、親子を庇うどころか、その小さな身体を、まるで虫けらのように、片手で掴み上げた。
「え…?」
「ジャスティス…様…?」
母親の、呆然とした声。
それに応えるように、ゴールデン・ジャスティスは、その黄金の兜の奥で、冷たく、嘲笑った。
「君たちは、実に良い『役者』だ。この、私の、最高の舞台の幕開けを飾るにふさわしい、絶望の叫びを、聞かせておくれ」
ザシュッ。
あまりにも、軽く、乾いた音だった。
黄金の腕が、無慈悲に、母親と子供の胸を貫いた。
噴き出した鮮血が、神々しかったはずの黄金の鎧を、汚らわしい赤黒い色に、染め上げていく。
「…………あ」
民衆の、誰かが漏らした、か細い声。
歓声は、死んだ。
希望は、絶望へと、反転した。
時が、止まったかのような静寂の中、ゴールデン・ジャスティスは、ゆっくりと、その亡骸を投げ捨てると、広場に集う、全ての民衆へと向き直った。
「さて、愚かなる王都の民よ。紹介しよう」
芝居がかった、朗々とした声が、響き渡る。
「我が名は、カミヤ! 悪の組織、『虚構の楽園(アルカディア・フォールス)』に所属し、至高の悲劇を演出する、“演出家”の一人だ!」
彼は、両腕を広げ、恍惚とした表情で、天を仰いだ。
「我らが目的は、支配でも、破壊でもない! この世界という壮大な舞台で、最高の『物語』を上演すること!」
「そして、私が担当する演目は、『失墜する英雄譚』!」
「君たちが愛し、信じた英雄が、君たちを裏切り、蹂躙する! その、希望が絶望へと変わる瞬間の、美しい輝き! それこそが、最高の芸術なのだよ!」
狂気。
彼の言葉は、常人の理解を、完全に超越していた。
彼は、この虐殺を、自らが作り出す、最高のエンターテインメントだと、心の底から信じているのだ。
「さあ、始めよう! この王都を舞台にした、壮麗なる悲劇の第二幕を! 君たちには、私の物語を彩る、最高の『キャスト』として、死の舞踏を踊ってもらうとしよう!」
宣言と共に、カミヤの身体から、黄金のオーラが爆発的に溢れ出し、周囲の魔獣や魔人兵たちを、さらに凶暴化させていく。
虐殺が、始まった。
騎士団の抵抗も、もはや、無意味だった。カミヤの放つ黄金の光の一閃が、屈強な騎士たちを、紙細工のように薙ぎ払っていく。
人々が、最後の避難場所として殺到していた、中央広場。
そこへ、ついに、カミヤの、無慈悲な凶刃が、向けられた。
誰もが、死を覚悟した、その時。
天から、三色の閃光が、降り注いだ。
「「「変神っ!――プリズム・チェンジッ!!」」」
最初に、カミヤの黄金の剣を受け止めたのは、紅蓮の炎。
灼熱のオーラを孔雀の羽のように広げ、不屈の闘志をその瞳に宿した、一人の少女。
「――炎の魔法戦士。セーラー・フレア!」
「あんたの、くだらないお芝居は、ここで終わりよ!」
次に、広場を蹂躙していた魔獣の群れが、一瞬にして、氷の彫像へと変わる。
絶対零度の冷気をその身にまとい、戦場に舞い降りた、気高き騎士。
「――氷の魔法騎士。ナイト・ブリザード!」
「この王都は、あなたの歪んだ自己満足のための舞台ではありません」
そして、最後に。傷つき、倒れていた騎士団や民衆の身体を、温かく、優しい翠の光が、包み込んでいく。
光で編まれた六枚の翼を背負い、慈愛の微笑みを浮かべた、天からの御使い。
「――癒やしの魔法戦士。ヒーリング・エンジェル!」
「もう、誰も傷つけさせはしません…!あなたの、凍てついた心も、この力が、癒やしてみせます…!」
絶望の闇に閉ざされた王都に、三色の希望の光が、確かに灯った。
プリズム・ナイツ、ここに、見参。
「ほう…現れたか、プリズム・ナイツ。惨めな敗北の味を忘れ、またこの舞台に上がってきたか。愚かな役者たちめ」
カミヤは、僕たちを嘲笑うように、ゆっくりと拍手を送る。
セーラー・フレア――リゼットが、彼を睨みつけ、叫んだ。
「あんたこそ、何者なのよ!何のために、こんな酷いことを…!」
カミヤは、心底楽しそうに、その唇を歪めた。
「言ったはずだ。全ては、最高の『物語』のため。この王都を、悲劇と絶望の炎で焼き尽くし、歴史に刻まれる、不滅の傑作へと昇華させる。それが、今回の我々の目的だよ」
「そんなこと…!」
「「「私たちが、絶対に許さない!」」」
三人の少女の声が、一つに重なる。
それは、偽りの正義に、本物の正義を叩きつける、宣戦布告。
王都の、世界の、そして、愛するプロデューサーの笑顔を懸けた、プリズム・ナイツの、本当の戦いが、今、始まろうとしていた。
偽りの黄金の光に焼かれ、民衆の冷たい罵声という雨に打たれ、ズタズタに引き裂かれた。
だが、物語は、まだ終わってはいなかった。
いや、ここからが、本当の始まりだったのだ。
あれから三日。
王都は、奇妙な熱狂と、その裏側に潜む歪な緊張感に包まれていた。
新聞は連日、新たな守護神『ゴールデン・ジャスティス』の活躍を一面で報じ、民衆は彼の黄金の鎧がもたらす、わかりやすい『力』と『正義』に酔いしれていた。
プリズム・ナイツの名は、すでに過去の、そして、滑稽な偽物たちの代名詞として、人々の記憶の片隅へと追いやられようとしていた。
王立騎士団養成学院、僕の工房。
窓から差し込む朝日は、やけに明るく、それがかえって僕たちの心に落ちる影を色濃くしていた。
「アルト、はい、紅茶。ちゃんと眠れた?」
心配そうに僕の顔を覗き込むのは、リゼット・ブラウン。
その瞳には、もう涙の跡はない。だが、その代わりに、嵐の前の海のような、静かで、しかし、どこまでも強い意志の光が宿っていた。
彼女だけではない。
「…レヴィナス。昨夜あなたが解析していた、敵のエネルギー波形の追加データです。私の見解もまとめておきました」
工房の隅の椅子に座り、涼やかな顔で分厚い資料を差し出すのは、クラウディア・フォン・ヴァレンシュタイン。敗北は、彼女の砕けたプライドの欠片を、騎士としての鋼の使命感へと鍛え直したようだった。以前のような刺々しい理屈っぽさは消え、その声には、仲間への信頼が滲んでいる。
「あらあら、お二人とも、あまり根を詰めるといけませんです。わたくし、皆さんの心が少しでも安らぐように、お祈りしてきましたから」
聖母のような微笑みを浮かべて、エミリア・シフォンが、そっと僕たちのカップにハーブティーを注ぎ足す。トラウマを乗り越えた彼女の優しさは、もはや弱さの言い訳ではなく、全てを包み込む、強さそのものだった。
三者三様の、覚悟。
彼女たちの心は、確かに、あの日、僕が流した一筋の涙を触媒にして、一つに固まっていた。
「私たちが、アルトを笑顔にしなきゃ」
その想いが、砕かれたはずの彼女たちの心を、以前よりも遥かに強く、そして、美しく輝かせている。
僕は、机の引き出しから、三つのブレスレットを取り出した。
あの日以来、寝る間も惜しんで改良を重ねた、新しい『プリズム・チャーム』だ。
「リゼット、クラウディアさん、エミリアさん」
僕が一人一人の名前を呼ぶと、三人は息を呑み、僕の手に視線を集中させた。
外見は、以前のものと大差ない。だが、その内部構造は、僕の科学者としての魂と、彼女たちへの信頼の、全てを注ぎ込んだ、全くの別物だ。
「これは…?」
「決戦用の、アップデート版だ。僕の分析と、君たちの成長した心をシンクロさせるための、新しい回路を組み込んである。詳しい説明は、後だ」
僕は、一人一人の手を取り、新しいプリズム・チャームを、その腕にはめ込んでいく。
「今はただ、信じてくれ。君たちの勇気と、僕の計算を」
僕の言葉に、三人は、それぞれの瞳に決意の炎を灯し、力強く、頷いた。
その時だった。
―――ウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!
王都全体に、腹の底を抉るような、けたたましい警報(アラーム)が鳴り響いた。
それは、先日、学院を襲った鋼鉄の軍団の時と同じ、王国最高レベルの、敵性存在の侵入を知らせる、非常警報。
窓の外に、僕たちは見た。
王都の、青く澄み渡っていたはずの空が、急速に、どす黒い暗雲に覆われていく様を。
そして、地平線の彼方から、黒い津波のように押し寄せてくる、無数の異形の影を。
「魔獣…!なぜ、王都のこんな近くに、これほどの数が…!」
クラウディアが、戦慄の声を上げる。
だが、それは、ただの魔獣の群れではなかった。その中には、明らかに知性を持って統率された、禍々しい鎧を纏う魔人兵の集団が混じっている。
悪の組織、『虚構の楽園』。
彼らの、壮大な悲劇の舞台の幕が、今、上がったのだ。
街は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わった。
建物をなぎ倒し、人々を蹂躙する、暴力の奔流。
王都の騎士団が、必死に応戦するが、その数はあまりにも、絶望的に、足りていなかった。
「誰か…誰か助けて!」
「いやあああああっ!」
悲鳴と、絶望の声が、王都を満たす。
そんな中、人々は、一つの名を、祈るように叫び始めた。
「ゴールデン・ジャスティス様…!」
「我らが英雄よ!どうか、この王都をお救いください!」
その、民衆の祈りに応えるかのように。
天を覆う暗雲を、一筋の黄金の光が切り裂いて、舞い降りた。
太陽の光を反射して輝く、神々しいまでの黄金の鎧。純白のマントが、絶望の風に、気高くはためく。
「おお…!ジャスティス様だ!」
「我らの英雄が、来てくださったぞ!」
民衆の顔に、希望の光が差す。
ちょうどその時、巨大なミノタウロスが、瓦礫の下で泣き叫ぶ親子の元へと、その巨大な斧を振り上げていた。
誰もが、息を呑む。
ゴールデン・ジャスティスは、閃光となってその間に割って入った。
「おお、さすがはジャスティス様!」
民衆が、安堵の声を上げる。
だが、次の瞬間。彼らは、信じられない光景を、目の当たりにすることになる。
「ふはは…素晴らしい!実に、素晴らしい悲鳴だ!」
黄金の英雄は、親子を庇うどころか、その小さな身体を、まるで虫けらのように、片手で掴み上げた。
「え…?」
「ジャスティス…様…?」
母親の、呆然とした声。
それに応えるように、ゴールデン・ジャスティスは、その黄金の兜の奥で、冷たく、嘲笑った。
「君たちは、実に良い『役者』だ。この、私の、最高の舞台の幕開けを飾るにふさわしい、絶望の叫びを、聞かせておくれ」
ザシュッ。
あまりにも、軽く、乾いた音だった。
黄金の腕が、無慈悲に、母親と子供の胸を貫いた。
噴き出した鮮血が、神々しかったはずの黄金の鎧を、汚らわしい赤黒い色に、染め上げていく。
「…………あ」
民衆の、誰かが漏らした、か細い声。
歓声は、死んだ。
希望は、絶望へと、反転した。
時が、止まったかのような静寂の中、ゴールデン・ジャスティスは、ゆっくりと、その亡骸を投げ捨てると、広場に集う、全ての民衆へと向き直った。
「さて、愚かなる王都の民よ。紹介しよう」
芝居がかった、朗々とした声が、響き渡る。
「我が名は、カミヤ! 悪の組織、『虚構の楽園(アルカディア・フォールス)』に所属し、至高の悲劇を演出する、“演出家”の一人だ!」
彼は、両腕を広げ、恍惚とした表情で、天を仰いだ。
「我らが目的は、支配でも、破壊でもない! この世界という壮大な舞台で、最高の『物語』を上演すること!」
「そして、私が担当する演目は、『失墜する英雄譚』!」
「君たちが愛し、信じた英雄が、君たちを裏切り、蹂躙する! その、希望が絶望へと変わる瞬間の、美しい輝き! それこそが、最高の芸術なのだよ!」
狂気。
彼の言葉は、常人の理解を、完全に超越していた。
彼は、この虐殺を、自らが作り出す、最高のエンターテインメントだと、心の底から信じているのだ。
「さあ、始めよう! この王都を舞台にした、壮麗なる悲劇の第二幕を! 君たちには、私の物語を彩る、最高の『キャスト』として、死の舞踏を踊ってもらうとしよう!」
宣言と共に、カミヤの身体から、黄金のオーラが爆発的に溢れ出し、周囲の魔獣や魔人兵たちを、さらに凶暴化させていく。
虐殺が、始まった。
騎士団の抵抗も、もはや、無意味だった。カミヤの放つ黄金の光の一閃が、屈強な騎士たちを、紙細工のように薙ぎ払っていく。
人々が、最後の避難場所として殺到していた、中央広場。
そこへ、ついに、カミヤの、無慈悲な凶刃が、向けられた。
誰もが、死を覚悟した、その時。
天から、三色の閃光が、降り注いだ。
「「「変神っ!――プリズム・チェンジッ!!」」」
最初に、カミヤの黄金の剣を受け止めたのは、紅蓮の炎。
灼熱のオーラを孔雀の羽のように広げ、不屈の闘志をその瞳に宿した、一人の少女。
「――炎の魔法戦士。セーラー・フレア!」
「あんたの、くだらないお芝居は、ここで終わりよ!」
次に、広場を蹂躙していた魔獣の群れが、一瞬にして、氷の彫像へと変わる。
絶対零度の冷気をその身にまとい、戦場に舞い降りた、気高き騎士。
「――氷の魔法騎士。ナイト・ブリザード!」
「この王都は、あなたの歪んだ自己満足のための舞台ではありません」
そして、最後に。傷つき、倒れていた騎士団や民衆の身体を、温かく、優しい翠の光が、包み込んでいく。
光で編まれた六枚の翼を背負い、慈愛の微笑みを浮かべた、天からの御使い。
「――癒やしの魔法戦士。ヒーリング・エンジェル!」
「もう、誰も傷つけさせはしません…!あなたの、凍てついた心も、この力が、癒やしてみせます…!」
絶望の闇に閉ざされた王都に、三色の希望の光が、確かに灯った。
プリズム・ナイツ、ここに、見参。
「ほう…現れたか、プリズム・ナイツ。惨めな敗北の味を忘れ、またこの舞台に上がってきたか。愚かな役者たちめ」
カミヤは、僕たちを嘲笑うように、ゆっくりと拍手を送る。
セーラー・フレア――リゼットが、彼を睨みつけ、叫んだ。
「あんたこそ、何者なのよ!何のために、こんな酷いことを…!」
カミヤは、心底楽しそうに、その唇を歪めた。
「言ったはずだ。全ては、最高の『物語』のため。この王都を、悲劇と絶望の炎で焼き尽くし、歴史に刻まれる、不滅の傑作へと昇華させる。それが、今回の我々の目的だよ」
「そんなこと…!」
「「「私たちが、絶対に許さない!」」」
三人の少女の声が、一つに重なる。
それは、偽りの正義に、本物の正義を叩きつける、宣戦布告。
王都の、世界の、そして、愛するプロデューサーの笑顔を懸けた、プリズム・ナイツの、本当の戦いが、今、始まろうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。
死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった!
呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。
「もう手遅れだ」
これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る
がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。
その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。
爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。
爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。
『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』
人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。
『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』
諸事情により不定期更新になります。
完結まで頑張る!
四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜
最上 虎々
ファンタジー
ソドムの少年から平安武士、さらに日本兵から二十一世紀の男子高校生へ。
一つ一つの人生は短かった。
しかし幸か不幸か、今まで自分がどんな人生を歩んできたのかは覚えている。
だからこそ今度こそは長生きして、生きている実感と、生きる希望を持ちたい。
そんな想いを胸に、青年は五度目の命にして今までの四回とは別の世界に転生した。
早死にの男が、今まで死んできた世界とは違う場所で、今度こそ生き方を見つける物語。
本作は、「小説家になろう」、「カクヨム」、にも投稿しております。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ
黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ!
「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。
だが、それは新たな伝説の始まりだった!
「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」
前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる!
「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」
仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。
一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを!
無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる