【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?

のびすけ。

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第10章 湯けむりは恋の香り!電撃お姉さんは征服がお好き!?

変神エレク・ハート! 恋する乙女は雷と共に!

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『王都 湯楽城』が誇る、最高級の特別室。

その広大な和室の一角で、悪の組織「どきどき☆世界征服同盟」の若き天才魔術師にして妖艶なる女幹部、ルージュ・ブリッツは、一人、悶絶していた。



「~~~~~っ!」



ふかふかの布団の上に突っ伏し、じたばたと足をばたつかせる。その姿は、世界征服を目論む悪の幹部というよりは、初恋の熱に浮かされた、ただの少女のそれだった。



彼女の脳内スクリーンには、数時間前の出来事が、エンドレスでリピート再生されていた。

湯けむりの中での、運命の出会い。

苔むした岩に足を滑らせ、彼の胸に倒れ込んでしまった、あの瞬間。



(か、硬かった…!男の人の胸って、あんなに硬いのね…!でも、温かくて…)



そして、滝壺に落ちそうになった自分を、ワイヤー一本で救い出してくれた、彼の雄姿。



『全く、危ないじゃないか。気をつけるんだ』



(思い出補正、発動。当社比、実に5割増しである)



脳内で再生される彼の声は、実際よりも数倍低く、甘く、そして、どこまでも優しく響き渡る。逆光と湯けむりに照らされた彼の横顔は、もはや神話の英雄ヒーローのそれと寸分違わぬ輝きを放っていた。



「あ、アルト…さん…」



ぽつりと、彼の名を呟くだけで、心臓が、きゅぅうん、と甘く締め付けられる。顔に、カッと熱が集まり、茹でダコのように真っ赤になるのが自分でもわかった。



(な、なんなのよ、もう!アタシとしたことが、こんな…!たかが一度会っただけの男に、こんなに心を乱されるなんて…!)



彼女は、枕に顔をうずめ、再び足をばたつかせる。

これが、『恋』。

魔導書をいくら読み込んでも、世界征服の計画をいくら練り上げても、決して知ることのできなかった、甘く、苦しく、そして、どうしようもなく心を焦がす、未知の感情。

十八年間、恋に恋してきた少女は、今、本物の恋の雷に、その身も心も、完全に撃ち抜かれてしまっていた。



その結果、彼女は、極めて重要な任務を、すっかり、きれいさっぱり、忘却の彼方へと追いやってしまっていた。

そう、今回の作戦のために、こっそりと連れてきていた、配下の魔獣たちの存在を。







その夜。

『王都 湯楽城』の静寂は、突如として、獣の咆哮によって切り裂かれた。



「グルルルルルオオオオオオッッ!」

「ギャアアアアッス!!」



温泉施設の裏手にある、従業員用の食料庫。そこに待機させられていた、数十体の魔獣たちが、痺れを切らして暴れ出したのだ。

主であるルージュからの指示が、一向にない。腹は減った。目の前には、美味そうな食材の匂いが満ちている。

もはや、彼らの、獣としての本能を抑えるものは、何もなかった。



食料庫の扉を、内側から破壊し、溢れ出す魔獣の群れ。

その異様な光景に、最初に気づいたのは、夜風にあたりに、散歩に出ていた宿泊客だった。



「ひっ…!ま、魔物だぁぁぁっ!」

「きゃあああああっ!」



悲鳴が、連鎖する。

平和だったはずの癒やしの空間は、一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄へと変わった。

美しく手入れされた庭園は踏み荒らされ、自慢の露天風呂には、オークが泥のついた巨体を沈めていた。



「お客様!お逃げください!」

「騎士団に連絡を!」



従業員たちの必死の誘導も、パニックに陥った人々の前では、ほとんど意味をなさない。

その、地獄絵図と化した光景を、大部屋のバルコニーから見下ろしていた、五つの影があった。



「…アルト!」

リゼットが、僕の名を呼ぶ。その声には、もはや遊びの色はない。戦士の顔をしている。

僕は、静かに頷いた。

「ああ。どうやら、僕たちの休日は、ここまでのようだな」



僕の言葉を合図に、四人の少女たちの瞳に、ヒーローとしての、決意の光が灯る。



「リゼット、クラウディアさんは、正面から突入!宿泊客の避難誘導と、敵主力の迎撃を!」

「「応っ!」」

「エミリアさんは、後方から負傷者の治療を!一人も見捨てるな!」

「はいです…!」

「菖蒲君は、僕と共に、敵の発生源と、指揮官の索敵を頼む!この騒ぎ、ただの魔獣の暴走とは思えない!」

「御意!」



僕の、プロデューサーとしての的確な指示が飛ぶ。

もはや、阿吽の呼吸だった。

四人は、それぞれの得物を手に、闇夜へと、その身を躍らせた。



「「変神っ!――プリズム・チェンジッ!!」」



紅蓮の炎と、絶対零度の氷が、夜の闇を切り裂く。

セーラー・フレアとナイト・ブリザードが、魔獣の群れのど真ん中に、舞い降りた。



「もう!せっかくの温泉旅行を、台無しにするんじゃないわよ!」

「ええ、全くですわ。私の、完璧な休日のスケジュールを狂わせた罪、その身で償ってもらいます」



炎の拳がオークを殴り飛ばし、氷の剣がゴブリンの群れを薙ぎ払う。

その、あまりにも鮮やかで、美しい戦いぶりに、逃げ惑っていた人々は、足を止め、息を呑んだ。



「あ…あれは…!」

「プリズム・ナイツだ!」



絶望の中に差し込んだ、二色の希望の光。

その光景を、少し離れた場所から、呆然と見つめている者がいた。

ルージュ・ブリッツ、その人である。



(あの子たち…昼間、スパにいた…!)

そして、彼女たちの、あの決め台詞。

(プリズム・ナイツ…!まさか、新聞に載っていた、あの子たちが…!)



彼女が驚愕に目を見開いていると、数体の魔獣が、彼女の存在に気づき、涎を垂らしながら、その牙を剥いてきた。

その魔獣たちは、紛れもなく、彼女自身が連れてきた、配下の兵士たちだった。

だが、暴走した今、もはや主従の関係など、彼らの頭にはない。



「…こ、このバカども…!」



ルージュの顔が、怒りに歪む。

それは、裏切られたことへの怒りではない。



「アタシの別荘(予定)を、メチャクチャにするんじゃないわよっ!」

そう。彼女にとって、この『王都 湯楽城』は、アルトとの運命の出会いを果たした、聖地。いずれ、必ずや征服し、自らの愛の巣(別荘)にする、と心に決めていた場所なのだ。

それを、自分の配下の失態で、これ以上、傷つけられてたまるものか。



「目障りよ!紫電の鞭ライトニング・ウィップ!」



ルージュの指先から、紫色の雷が、鞭のように迸る。

それは、並の騎士団の魔術師では、到底及びもつかない、高位の雷撃魔法だった。

雷の鞭は、生き物のようにしなり、三体の魔獣を、一瞬にして黒焦げの炭へと変えてしまった。



「ふん、アタシを誰だと思ってるのよ。これでも、悪の組織の、幹部なんだから」

彼女は、髪をかき上げ、不敵に笑う。

だが、その強がりは、長くは続かなかった。

次から次へと、際限なく湧いてくる魔獣たち。多勢に無勢。

徐々に、彼女の魔力は消耗し、その美しい額には、玉の汗が浮かび始めていた。



そして、ついに、その時が来る。

他の魔獣とは、明らかに格の違う、巨大な影が、彼女の前に立ちはだかった。

全身が、黒曜石のような硬い装甲で覆われた、三メートルはあろうかという、巨大なゴーレム。

その両腕は、城壁すらも砕くという、巨大な鉄球と化していた。



「しまっ…!」

ルージュが放った雷撃は、その黒い装甲に、弾丸のように弾き返される。

ゴーレムは、感情のない赤い単眼モノアイをぎらつかせ、その巨大な鉄球を、無慈悲に振り上げた。



(ま、まずい…!魔力が…もう…!)



絶体絶命。

恋に恋する乙女の、人生初の本当の恋は、こんなところで、あっけなく終わってしまうのか。

彼女が、ぎゅっと目を閉じた、その時。



風を切る音と共に、一つの影が、彼女の前に、舞い降りた。

月光を背に受け、その黒髪を、夜風に揺らす、少年の姿。



「アルト…!」



思わず、彼の名を呼ぶ。

なぜ、彼がここに。

僕アルトは、菖蒲君と共に、敵の指揮官を探していた。だが、これほどの騒ぎの中心に、ひときわ巨大な魔力反応。見過ごすわけにはいかなかったのだ。



「君には、ヒーローの素質がある!」



僕は、彼女の、絶望に屈しない、その強い瞳を見て、確信していた。

この少女は、なれる。僕の、新たなヒロインに。



僕は、懐から、この日のために開発しておいた、汎用型のプリズム・チャームを、彼女に投げ渡した。

ひやりとした金属の感触が、彼女の手に伝わる。



「心の底から叫ぶんだ!君の魂を!」



僕の、いつもの、ヒーロープロデューサーとしての、熱い言葉。

だが、その言葉は、恋する乙女のフィルターを通して、全く違う意味合いを持って、彼女の心に、突き刺さった。



(アタシの…魂…!)



それは、世界征服の野望なんかじゃない。

悪の組織の幹部としての、プライドでもない。

ただ、一つ。

目の前にいる、この男を、手に入れたい。

彼の隣に立ちたい。彼に、認められたい。

その、燃えるような、純粋な想い!



「―――変神っ!プリズム・チェンジッ!!」



彼女の、魂の叫びが、夜空に響き渡った。

刹那、世界が、紫の閃光に染まる。

彼女の腕にはめられたプリズム・チャームから、凄まじいまでの雷のエネルギーが迸り、そのダイナマイトボディを、優しく、しかし、激しく包み込んでいく。



深紅の湯着が光の粒子へと分解され、代わりに編み上げられていくのは、彼女の豊満な曲線を、これ以上ないほどに強調する、紫電の戦闘服。

胸元は、大胆に開かれ、腰からは、雷をまとった黒いフリルが、スカートのようにはためく。

その瞳には、恋する乙女の情熱と、全てを焼き尽くす、雷姫の威厳が宿っていた。



やがて光が収まり、変身を終えた少女が、紫色の雷を孔雀の羽のように広げながら、静かに大地に降り立つ。



「―――恋に焦がれる雷姫!エレク・ハート!」



凛とした声で、彼女は自らの名を高らかに告げた。

その、あまりにもセクシーで、あまりにもパワフルな、新たなヒーローの誕生に、僕のプロデューサー魂は、歓喜に打ち震えていた。



「な…なんだ、あの女は…!?」

「す、すごい魔力だ…!」

遠くで戦っていた、リゼットとクラウディアも、その光景に息を呑む。



巨大なゴーレムが、目の前の、小さな、しかし、強大なオーラを放つ少女に、本能的な恐怖を感じ、後ずさる。

だが、エレク・ハート――ルージュは、それを見逃さない。



「あんたみたいな、鉄くずのせいで、あ…アルトとの、甘い時間を邪魔されたのよ…!」



彼女は、天に、そのしなやかな腕を掲げた。

夜空を覆っていた雲が、渦を巻き、その中心に、凄まじいまでの紫電が集束していく。



「覚悟しなさい!アタシの、愛の、いかづちを!」

その瞳には、嫉妬の炎が、メラメラと燃え上がっている。

(そう、この一撃は、アルトとの時間を邪魔した、このゴーレムへの怒り。そして、遠くで見ている、あの赤と青の小娘たちへの、牽制でもあるのだ!)



「必殺!――ラヴァーズ・ボルトッ!!」



天から、巨大な、紫色の雷の槍が、召喚された。

それは、もはや魔法というよりも、天変地異。

神の怒りそのものだった。



雷の槍は、ゴーレムの、黒曜石の装甲を、まるで紙細工のように貫き、その巨体を、内側から、木っ端微塵に爆散させた。

後に残されたのは、地面に穿たれた、巨大なクレーターと、紫の雷を、その身に静かに揺らめかせる、一人の、恋する乙女の姿だけだった。

戦いは、終わった。

だが、本当の戦いは、ここから、始まろうとしていた。
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