【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?

のびすけ。

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第10章 湯けむりは恋の香り!電撃お姉さんは征服がお好き!?

新たな恋のライバル、電撃参戦!

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紫電の槍『ラヴァーズ・ボルト』が、最後の魔獣を黒い塵へと変えた、その直後。

戦場と化していたはずの温泉郷に、嘘のような静寂が訪れた。



ふっ、と身体を包んでいた紫のオーラが、まるで幻だったかのように消え去る。

同時に、エレク・ハートの身体を駆け巡っていた、万能感にも似た力が、急速に潮が引くように消えていく。



「あ…」



光の粒子が、ルージュの身体からふわりと解けていく。恋する乙女の情熱を体現したかのような戦闘服は消え去り、気づけば彼女は、元の、少しだけ湯着が乱れた、一人の妖艶な美女に戻っていた。

極度の興奮と、初めての変身による疲労。力が抜けた身体は、もはや立っていることすらできず、そのしなやかな膝が、がくりと折れた。



もう、雷姫ではない。

ただの、初めての恋と、初めてのヒーロー活動に、身も心も蕩けてしまった、一人の乙女に戻ったのだ。



その、崩れ落ちる身体を、背後からそっと、しかし力強く支える腕があった。



「…アルト…」



彼の名前を呼ぶ声は、自分でも驚くほど、甘く、か細く震えていた。

その声を聞いた瞬間、張り詰めていたルージュの心の糸が、ぷつりと、音を立てて切れた。

恐怖、安堵、興奮、そして、何よりも、この男がまた助けに来てくれたという、圧倒的な喜び。

あらゆる感情が一度に押し寄せ、熱い雫となって彼女の瞳から溢れ出す。



「アルトぉ…っ!」



ルージュは、本能のままに振り返り、夢中で彼の胸に飛び込んだ。

ぐりぐりと、その豊満な身体を、彼の硬い胸板に押し付ける。

温かい。安心する。今まで感じたことのない、絶対的な幸福感が、全身を駆け巡った。



(ああ、だめ…もう、だめ…!この胸のドキドキが、止まらない…!)

(これが、恋…!これが、アタシの、本当の気持ち…!)



彼女は、感極まって、涙声で宣言した。

悪の組織の幹部としてではなく、恋に落ちた一人の女として。



「あ、あんた、アタシのモノになりなさい!」



物語ならば、ここで主人公が優しく彼女を抱きしめ、新たなロマンスの幕が上がる、最高の場面。

……のはずだった。



「「「「なんですってーーーっ!?」」」」



地獄の底から響いてくるような、四人の少女たちの絶叫が、その甘い空気を、木っ端微塵に粉砕した。



そこに立っていたのは、戦闘を終え、息を切らしながら駆けつけてきた、プリズム・ナイツの四人の少女たち。

リゼット、クラウディア、エミリア、そして菖蒲。

彼女たちは見た。

昼間、スパで自分たちに圧倒的な敗北感を植え付けた、あのダイナマイトボディの美女が、自分たちの大切なアルト(主殿)に、これでもかというほど密着している、その衝撃的な光景を。



「な、な、な、な、なによ、あんた!アルトから離れなさいよ!」



最初に動いたのは、やはりリゼットだった。彼女は、嫉妬の炎をその栗色のポニーテールに宿し、僕とルージュを無理やり引き剥がそうと、その間に割って入ってくる。



「これはリゼット殿!落ち着かれよ!まずは状況の分析を…!」

「落ち着いてられるもんですか!あんな、あんな爆弾みたいなものを、アルトに押し付けて!もし爆発したらどうするのよ!」

(いや、爆発はしないと思うが…)と僕が冷静にツッコミを入れる暇もない。



ルージュは、僕の身体を盾にするように、しがみついたまま離れない。

「ふんっ、誰よ、あんたたち。この男は、もうアタシのモノだって言ってるでしょ!早い者勝ちよ、早い者勝ち!」

「早い者勝ちですって!?私とアルトは、生まれた時からの付き合いなのよ!あんたなんかより、ずーっと、ずーっと早いの!」



「待ちなさい、二人とも!」

氷のように冷たい声が、二人のヒートアップした口論に割り込む。

「今は、そのような非論理的な言い争いをしている場合ではありません。…それと、そこの女。あなたは、プロデューサーの身体に不必要な接触を続けている。これは、明確なセキュリティ規約違反です。速やかに、彼から半径1メートル以上、離れなさい」

クラウディアが、鞘に収めたままの剣の柄に手をかけ、絶対零度の視線でルージュを睨みつける。



「あら、おカタいお嬢さんね。セキュリティ?アタシは、この男の身も心も、これからずーっと守ってあげるつもりなんだけど?」

「…問答無用。実力行使も、やむを得ませんわね」



一触即発の二人を、今度は黒い影が、音もなく分断した。

「お待ちなされ!」

菖蒲が、僕とルージュの間に、まるで壁のように立ちはだかる。

「この妖艶なるくノ一め!貴様のその色香、さては主殿を誑かすための『ハニートラップ』でござるな!指南書で読んだ!だが、そうは問屋が卸さぬ!主殿の貞操は、妻たる拙者が、命に代えても守り抜く!」

「つま!?あんたみたいなチビっ子が、妻ですって!?笑わせないでちょうだい!」

「なっ…!チビとはなんだ、チビとは!忍びにとって、小柄なことは利点でござる!その、無駄に揺れる脂肪とは違うのでござるよ!」

「なんですってぇ!?」



リゼット vs ルージュ。

クラウディア vs ルージュ。

菖蒲 vs ルージュ。

三竦みどころではない、カオスな舌戦が繰り広げられる。



「あらあら、うふふ。皆さん、とってもお元気ですね。まずは、お怪我はありませんか?」

唯一、エミリアさんだけが、この戦場に、一輪の癒やしの花を咲かせようとしていたが、もはや、焼け石に水だった。



(ふむ、興味深い。変身による極度の興奮状態は、対象への独占欲、あるいは、ライバルに対する攻撃性といった、原始的な感情を増幅させる傾向があるようだ。ルージュ君のデータだけでなく、プリズム・ナイツの四人の精神的変化も、極めて貴重なサンプルだ…)

僕はといえば、その四色の火花が散る最前線で、抱きつかれたまま、冷静に、彼女たちの心理状態を分析していた。



ひとしきり、嵐のような舌戦が繰り広げられた後。

ルージュは、名残惜しそうに、しかし、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、僕の腕から、そっと身を離した。



「ふふんっ、まあ、いいわ。き、今日はこれくらいにしといてあげるわ!必ず、また会いに来るんだからね!」

彼女は、プリズム・ナイツの四人に、挑戦的な視線を送ると、くるりと背を向け、その場から去ろうとする。



その、しなやかな背中に、僕は、慌てて声をかけた。

プロデューサーとして、そして、科学者として、絶対に、見過ごせないことがあったからだ。



「あ、待ってくれ!」



僕の、少し焦ったような声に、ルージュの肩が、びくりと震えた。

そして、彼女は、ゆっくりと、期待に満ちた表情で、振り返る。



(な、なによ…!引き止めるなんて…!もしかして、もう、アタシに会いたくなっちゃったのかしら…!?)



そんな、彼女の甘い期待を、僕の、どこまでも合理的な言葉が、打ち砕く。



「その変身機、返してもらわないと!」

僕は、彼女の腕にはめられたままの、汎用型プリズム・チャームを指差した。

「それと、君の身体データと、変身シークエンスの記録が必要だ! すぐに来てくれ!」



僕は、叫んだ。

(意図:その変身機はまだ試作品だ。君の身体データを詳細に解析して、君専用の、より安全で、より高性能なプリズム・チャームを完成させたい。だから、すぐに僕の研究室に来てほしい)



その、科学者としての、純度100%の、業務連絡。

だが、その言葉は、恋に落ちた乙女の、都合の良いフィルターを通して、世にも甘い、愛の告白へと、完璧に誤変換されてしまった。



ドキッ!!!



ルージュの心臓が、人生で最大の音を立てて、跳ね上がった。



(す、すぐに…来てくれ…ですって!?)

(そ、そんなに…そんなにすぐに、アタシに会いたいなんて…!)



彼女の脳内に、ピンク色の、都合の良い妄想が、嵐のように吹き荒れる。

照れ隠しで、わざとぶっきらぼうな言い方をしてるんだわ!本当は、「行かないでくれ、僕のそばにいてほしい」って、言いたいのよ!なんて、なんて、可愛らしい人なのかしら!



彼女は、込み上げてくる喜びを、隠そうともせずに、身をよじった。

そして、悪の組織の幹部とは思えぬ、蕩けるように甘い表情で、僕を見つめ返した。



「もうっ、アルトったら。ふふんっ、そんなにすぐにアタシに会いたいなんて…素直じゃないんだから!」



彼女は、指先で自分の唇にそっと触れると、僕に向かって、妖艶なウィンクを一つ、飛ばした。

そして、スキップでもしそうな軽い足取りで、ウキウキと、闇夜へと消えていった。

もちろん、変身機は、持ったまま。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



後に残されたのは、僕の言葉の意味が全く理解できず、ただ呆然と立ち尽くすプリズム・ナイツの四人と。



「いや、だから、変身機を…あと、データが…」

最後まで、自分の意図が全く伝わらなかったことに、心底、首をかしげる、スーパー鈍感主人公の僕だけであった。







魔王城、玉座の間。

意気揚々と帰還したルージュは、昼ドラのクライマックスを見終えて、満足げに欠伸をしている魔王ゼノビアに、作戦の結果を報告していた。



「――というわけで、魔王様。例のプロデューサー、アルト・フォン・レヴィナスですが、私の予想を遥かに超える、非常に有能で、危険な男でしたわ」

「へぇー、そうなの」

「ええ。つきましては、彼の力を無力化するため、このわたくしが、彼の懐に潜入し、四六時中、監視する必要があると進言いたします!彼の心を、このダイナマイトボディで完全に虜にして、骨抜きにしてやりますわ!」



自信満々に、しかし、その瞳は期待でキラキラと輝いている。

ゼノビアは、そんな腹心の、あまりにも分かりやすい変化を、ニヤニヤしながら見つめていた。



「…ふーん。まあ、あんたがそう言うなら、好きにすれば?任せるわよ」

「はっ!ありがとうございます、魔王様!」



(ちょろいわね、あんたも)

ゼノビアは、欠伸を噛み殺しながら、心の中で呟いた。

(まあ、せいぜい、あんたの『初恋』とやらを、楽しんでくればいいわ。世界征服なんて、いつでもできるんだから)



こうして、魔王様からの(極めていい加減な)勅命という、完璧な大義名分を手に入れたルージュ。

彼女の、アルトへの、猪突猛進なアプローチが、これから始まることを。

そして、プリズム・ナイツの工房が、文字通り、恋の戦場と化す未来を、この時の僕は、まだ、知る由もなかったのである。
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