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第12章 神を名乗る遊戯者と、盤上の駒たち
プロローグ 平穏という名のバグ
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五日間にわたる、甘く、そして過酷なデート大作戦は、僕たちプリズム・ナイツの絆を、新たな次元へと進化させた。
工房での日常は、相変わらず五人分の好意が火花を散らす、甘く騒がしい戦場だ。
だが、その根底には、互いを認め、一つのチームとして結束した、確かな信頼関係が芽生えていた。
「アルト!おっはよー!今日の朝食は、新作のふわとろフレンチトーストよ!愛情だけは、誰にも負けないんだから!」。
工房の扉を、もはや挨拶代わりのように勢いよく開けて現れたリゼットは、湯気の立つ皿を手に、太陽のように笑う。
その言葉は、明らかに、部屋にいる他の四人に向けられた、宣戦布告だった。
「ふん、朝から糖分と脂質の過剰摂取とは、非論理的ね。プロデューサーの健康管理も、筆頭騎士の務め。私が用意した、17種類の野菜とハーブを使った、栄養バランス完璧なスープこそが、彼の脳を活性化させる唯一の正解よ」
窓辺の席で優雅に足を組み、分厚い魔導書を読んでいたクラウディアが、リゼットを一瞥もせずに、冷静に指摘する。
だが、その横顔が、ほんの少しだけ得意げに見えるのを、僕の観察眼は見逃さない。
「あらあら、うふふ。お二人とも、とっても美味しそうです。でも、朝はまず、温かいお茶で、心を落ち着けるのが一番ですわ。ね、アルトさん?」
そんな二人の間に、聖母の微笑みを浮かべたエミヤさんが、そっとカモミールティーのカップを差し出す。
彼女の慈愛に満ちたオーラの前では、どんな戦いも、一時休戦を余儀なくされる。
「主殿!そのような西洋かぶれの食事では、忍びとしての瞬発力は養えませぬ!これぞ、我が一族に伝わる、秘伝の味噌を使った焼きおにぎり!主殿の未来の妻として、健康管理は拙者の最重要任務でござる!」
天井の梁から、音もなく逆さまに降りてきた菖蒲が、香ばしい匂いを漂わせるおにぎりを、僕の口元へと突きつけてくる。
そして、とどめの一撃は、僕の背後から、妖艶なため息と共に放たれた。
「はぁ、子供のままごと遊びは、見ていて退屈だわ。いい、アルト?本当に世界を獲る男は、朝から、こういうのを食べるのよ」
いつの間にか背後に立っていたルージュが、僕の肩に、その豊満な胸を、ぐり、と押し付けながら、耳元で囁く。
彼女が差し出した皿の上には、最高級の生ハムと、見たこともない珍しいフルーツが、芸術的に盛り付けられていた。
(おそらく、魔王城の食料庫から、こっそり持ってきたのだろう)。
リゼットとクラウディアは憎まれ口を叩きながらも、背中を預けられる戦友となり、エミリアと菖蒲、そしてルージュも、それぞれの個性を尊重し合う、最高の仲間となっていた。
僕の頭脳は、彼女たちの成長した心を触媒に、次々と新たな合体必殺技の数式を弾き出す。
まさに、完璧な布陣。
この平和が、ずっと続けばいい。
誰もが、そう信じていた。
その日の午後。
僕は、プリズム・ナイツの全員を、工房の中央に集めていた。
壁に設置した大型のホログラムディスプレイには、先日、訓練場で成功させた、新たな合体必殺技の戦闘データが、美しい光の軌跡となって映し出されている。
「皆、見てくれ。これが、君たちの新たな力の証明だ」
僕は、誇らしい気持ちを隠さずに、プレゼンテーションを開始した。
「リゼットとクラウディア君の『フレイザード・ストリーム』
君たち二人の、相反するようで、実は深く共鳴し合っているマナの波形が、完璧なシンクロを見せた結果だ。
熱膨張と急速冷却による内部破壊。
これは、どんなに強固な装甲を持つ敵であろうと、理論上、破壊可能だ」。
僕がそう言うと、リゼットとクラウディアは、顔を見合わせ、少し照れくさそうに、しかし、誇らしげに頷き合った。
「次に、エミリアさんと菖蒲君の『幻夢セラフィック・フィールド』
これは、戦闘の概念そのものを覆す、画期的な技だ。
菖蒲君の、敵の認識を欺瞞する幻術と、エミリアさんの、魂そのものを浄化する癒やしの波動。
この二つが組み合わさることで、僕たちは、敵を『倒す』のではなく、『救う』という、新たな選択肢を手に入れた」。
エミリアさんと菖蒲は、互いに手を取り合い、嬉しそうに微笑んでいる。
「そして、ルージュ君。君の、その制御不能なほどの情熱的な雷の力。それを、エミリアさんの慈愛のフィールドで包み込む『サンクチュアリ・ボルト』
菖蒲君の隠密能力と組み合わせる『ファントム・ボルト』。
君の力は、僕たちの戦術の幅を、飛躍的に広げてくれた」。
ルージュは、「ふんっ、アタシにかかれば、当然よ」とそっぽを向きながらも、その口元は、嬉しそうに緩んでいた。
「僕たちの絆は、もはや、単なる足し算じゃない。掛け算となり、指数関数的に、その力を増している。
だが、これで終わりじゃない。僕の頭の中には、まだ、君たち五人全員の心を一つにした、究極の合体技…『プリズム・ギャラクシアン・シンフォニー』の、更なる進化の可能性が見えている」
僕の、ほとばしる情熱に、彼女たちの瞳もまた、ヒーローとしての、強い輝きを宿していた。
このチームなら、どんな脅威が現れようと、必ず乗り越えられる。
僕は、心の底から、そう確信していた。
◇
だが、その平和な日常を、歪んだ玉座から見下ろす者がいた。
銀髪に紅い瞳を持つ転生者、カイザー・フォン・ヴォルフガング。
悪の組織『世界攻略ギルド(ワールド・ハッカーズ)』の絶対的支配者にして、この世界を「クソゲー」と断じる、唯一のプレイヤー。
彼の本拠地である、浮遊城塞『ラグナロク』の最深部。
そこは、玉座の間というよりも、ハイテクなゲーミングルームと呼ぶ方が、ふさわしい空間だった。
壁一面に埋め込まれた、無数のホログラムスクリーンには、この世界のありとあらゆる情報が、リアルタイムで表示されている。
各国の軍事力、経済指標、主要人物のステータス、そして、僕たちプリズム・ナイツの、詳細な戦闘データ。
それら全てが、彼にとっては、ゲームの攻略情報に過ぎなかった。
カイザーは、玉座のようなゲーミングチェアにふんぞり返り、僕たちの工房での、和気藹々とした作戦会議の様子を、退屈そうに眺めていた。
その映像は、彼の部下である暗殺者ノクスが設置した、不可視の偵察ドローンから送られてきているものだ。
「へえ、NPC相手に友情ごっこか。面白い。絆だの、想いだの…そんな、数値化できない、曖昧なパラメータに、本気で価値があると信じているとはな。ご苦労なこった」。
彼の呟きに、傍に控えていた三人の幹部が、それぞれに反応する。
「カイザー様。あの者たちの発するエネルギー、実に興味深いサンプルですわ。特に、あのプロデューサー、アルト・フォン・レヴィナス。彼を中心に、他のNPCたちの能力値が、明らかに上昇しているのが観測されます。まるで、強力なバフ効果を持つ、特殊なNPCのようですわね」
妖艶な魔導士イザベラが、うっとりとした表情で、カイザーに報告する。
彼女にとって、僕たちは、珍しい研究対象でしかなかった。
「フン!小手先の技でしかねえ!あんなもん、俺様の斧の前では、紙切れ同然だぜ!なあ、カイザー様よぉ!早く、あいつらを『狩る』クエストを、俺様にくれよ!経験値が、美味そうだぜ!」
筋肉の塊のような狂戦士レックスが、巨大な戦斧を肩で担ぎ、獰猛に笑う。
彼にとって、僕たちは、倒すべきエネミーでしかなかった。
影の中から、音もなく、暗殺者ノクスが、静かに頷いた。
彼にとって、僕たちは、主が命じれば、ただ、排除すべきターゲットでしかなかった。
カイザーは、そんな部下たちの言葉には、興味もなさそうに、指を鳴らした。
すると、彼の目の前の空間に、この世界の、詳細なステータス画面のようなものが、ウィンドウとして表示される。
「…だが、平和なだけのチュートリアルは、もう終わりだ」。
カイザーは、楽しそうに、その唇を歪めた。
「あの、アルトとかいう奴。俺と同じ『プレイヤー』のくせに、まだ、この世界の本当のルールを、理解していないらしい。教えてやらないとな。この世界では、神(俺)が定めたルールこそが、絶対なのだと」
彼は、ゆっくりと立ち上がると、その紅い瞳に、絶対的な支配者の、残酷な輝きを宿した。
「さあ、始めようか。この、クソゲーの、デバッグを」
彼の指先から、世界の法則そのものを書き換えるという、チートスキル【理の改竄(デバッグ・ザ・ワールド)】の、紫色の光が、放たれる。
ホログラムスクリーンに映し出された、王都周辺の地図。
その中から、彼は、まるでレストランでメニューを選ぶかのように、無造作に、一つの村を、指し示した。
王都からほど近い、魔鉱石の採掘で栄える、平和な鉱山の村、「ノイマン鉱山村」。
彼の指が、その村の名に触れた瞬間、彼の目の前に、システムウィンドウが表示される。
<対象エリア:ノイマン鉱山村>
<現在のステータス:平穏>
<ステータスを変更しますか? Y/N>
カイザーは、躊躇なく、「Y」の文字を、選択した。
<イベントを生成します>
<イベント名:『静寂の村と、虚ろな人形たち』>
<難易度:C>
<推奨レベル:30~40>
<実行しますか? Y/N>
「ふん、チュートリアルにしては、少し簡単すぎたかな?まあ、いいだろう」
再び、「Y」を選択する。
その瞬間、彼の身体から放たれた紫色の光が、因果律の鎖を断ち切り、時空を超えて、ノイマン鉱山村の、法則そのものを、書き換えていく。
彼の次の「クエスト」の舞台として、王都からほど近い、とある平和な鉱山の村が、無慈悲に選択された。
その村で、人々が、何も知らずに、穏やかな眠りについていることなど、彼の興味の対象では、全くなかった。
ただ、これから始まる、一方的なゲームの、開幕を待つだけだった。
工房での日常は、相変わらず五人分の好意が火花を散らす、甘く騒がしい戦場だ。
だが、その根底には、互いを認め、一つのチームとして結束した、確かな信頼関係が芽生えていた。
「アルト!おっはよー!今日の朝食は、新作のふわとろフレンチトーストよ!愛情だけは、誰にも負けないんだから!」。
工房の扉を、もはや挨拶代わりのように勢いよく開けて現れたリゼットは、湯気の立つ皿を手に、太陽のように笑う。
その言葉は、明らかに、部屋にいる他の四人に向けられた、宣戦布告だった。
「ふん、朝から糖分と脂質の過剰摂取とは、非論理的ね。プロデューサーの健康管理も、筆頭騎士の務め。私が用意した、17種類の野菜とハーブを使った、栄養バランス完璧なスープこそが、彼の脳を活性化させる唯一の正解よ」
窓辺の席で優雅に足を組み、分厚い魔導書を読んでいたクラウディアが、リゼットを一瞥もせずに、冷静に指摘する。
だが、その横顔が、ほんの少しだけ得意げに見えるのを、僕の観察眼は見逃さない。
「あらあら、うふふ。お二人とも、とっても美味しそうです。でも、朝はまず、温かいお茶で、心を落ち着けるのが一番ですわ。ね、アルトさん?」
そんな二人の間に、聖母の微笑みを浮かべたエミヤさんが、そっとカモミールティーのカップを差し出す。
彼女の慈愛に満ちたオーラの前では、どんな戦いも、一時休戦を余儀なくされる。
「主殿!そのような西洋かぶれの食事では、忍びとしての瞬発力は養えませぬ!これぞ、我が一族に伝わる、秘伝の味噌を使った焼きおにぎり!主殿の未来の妻として、健康管理は拙者の最重要任務でござる!」
天井の梁から、音もなく逆さまに降りてきた菖蒲が、香ばしい匂いを漂わせるおにぎりを、僕の口元へと突きつけてくる。
そして、とどめの一撃は、僕の背後から、妖艶なため息と共に放たれた。
「はぁ、子供のままごと遊びは、見ていて退屈だわ。いい、アルト?本当に世界を獲る男は、朝から、こういうのを食べるのよ」
いつの間にか背後に立っていたルージュが、僕の肩に、その豊満な胸を、ぐり、と押し付けながら、耳元で囁く。
彼女が差し出した皿の上には、最高級の生ハムと、見たこともない珍しいフルーツが、芸術的に盛り付けられていた。
(おそらく、魔王城の食料庫から、こっそり持ってきたのだろう)。
リゼットとクラウディアは憎まれ口を叩きながらも、背中を預けられる戦友となり、エミリアと菖蒲、そしてルージュも、それぞれの個性を尊重し合う、最高の仲間となっていた。
僕の頭脳は、彼女たちの成長した心を触媒に、次々と新たな合体必殺技の数式を弾き出す。
まさに、完璧な布陣。
この平和が、ずっと続けばいい。
誰もが、そう信じていた。
その日の午後。
僕は、プリズム・ナイツの全員を、工房の中央に集めていた。
壁に設置した大型のホログラムディスプレイには、先日、訓練場で成功させた、新たな合体必殺技の戦闘データが、美しい光の軌跡となって映し出されている。
「皆、見てくれ。これが、君たちの新たな力の証明だ」
僕は、誇らしい気持ちを隠さずに、プレゼンテーションを開始した。
「リゼットとクラウディア君の『フレイザード・ストリーム』
君たち二人の、相反するようで、実は深く共鳴し合っているマナの波形が、完璧なシンクロを見せた結果だ。
熱膨張と急速冷却による内部破壊。
これは、どんなに強固な装甲を持つ敵であろうと、理論上、破壊可能だ」。
僕がそう言うと、リゼットとクラウディアは、顔を見合わせ、少し照れくさそうに、しかし、誇らしげに頷き合った。
「次に、エミリアさんと菖蒲君の『幻夢セラフィック・フィールド』
これは、戦闘の概念そのものを覆す、画期的な技だ。
菖蒲君の、敵の認識を欺瞞する幻術と、エミリアさんの、魂そのものを浄化する癒やしの波動。
この二つが組み合わさることで、僕たちは、敵を『倒す』のではなく、『救う』という、新たな選択肢を手に入れた」。
エミリアさんと菖蒲は、互いに手を取り合い、嬉しそうに微笑んでいる。
「そして、ルージュ君。君の、その制御不能なほどの情熱的な雷の力。それを、エミリアさんの慈愛のフィールドで包み込む『サンクチュアリ・ボルト』
菖蒲君の隠密能力と組み合わせる『ファントム・ボルト』。
君の力は、僕たちの戦術の幅を、飛躍的に広げてくれた」。
ルージュは、「ふんっ、アタシにかかれば、当然よ」とそっぽを向きながらも、その口元は、嬉しそうに緩んでいた。
「僕たちの絆は、もはや、単なる足し算じゃない。掛け算となり、指数関数的に、その力を増している。
だが、これで終わりじゃない。僕の頭の中には、まだ、君たち五人全員の心を一つにした、究極の合体技…『プリズム・ギャラクシアン・シンフォニー』の、更なる進化の可能性が見えている」
僕の、ほとばしる情熱に、彼女たちの瞳もまた、ヒーローとしての、強い輝きを宿していた。
このチームなら、どんな脅威が現れようと、必ず乗り越えられる。
僕は、心の底から、そう確信していた。
◇
だが、その平和な日常を、歪んだ玉座から見下ろす者がいた。
銀髪に紅い瞳を持つ転生者、カイザー・フォン・ヴォルフガング。
悪の組織『世界攻略ギルド(ワールド・ハッカーズ)』の絶対的支配者にして、この世界を「クソゲー」と断じる、唯一のプレイヤー。
彼の本拠地である、浮遊城塞『ラグナロク』の最深部。
そこは、玉座の間というよりも、ハイテクなゲーミングルームと呼ぶ方が、ふさわしい空間だった。
壁一面に埋め込まれた、無数のホログラムスクリーンには、この世界のありとあらゆる情報が、リアルタイムで表示されている。
各国の軍事力、経済指標、主要人物のステータス、そして、僕たちプリズム・ナイツの、詳細な戦闘データ。
それら全てが、彼にとっては、ゲームの攻略情報に過ぎなかった。
カイザーは、玉座のようなゲーミングチェアにふんぞり返り、僕たちの工房での、和気藹々とした作戦会議の様子を、退屈そうに眺めていた。
その映像は、彼の部下である暗殺者ノクスが設置した、不可視の偵察ドローンから送られてきているものだ。
「へえ、NPC相手に友情ごっこか。面白い。絆だの、想いだの…そんな、数値化できない、曖昧なパラメータに、本気で価値があると信じているとはな。ご苦労なこった」。
彼の呟きに、傍に控えていた三人の幹部が、それぞれに反応する。
「カイザー様。あの者たちの発するエネルギー、実に興味深いサンプルですわ。特に、あのプロデューサー、アルト・フォン・レヴィナス。彼を中心に、他のNPCたちの能力値が、明らかに上昇しているのが観測されます。まるで、強力なバフ効果を持つ、特殊なNPCのようですわね」
妖艶な魔導士イザベラが、うっとりとした表情で、カイザーに報告する。
彼女にとって、僕たちは、珍しい研究対象でしかなかった。
「フン!小手先の技でしかねえ!あんなもん、俺様の斧の前では、紙切れ同然だぜ!なあ、カイザー様よぉ!早く、あいつらを『狩る』クエストを、俺様にくれよ!経験値が、美味そうだぜ!」
筋肉の塊のような狂戦士レックスが、巨大な戦斧を肩で担ぎ、獰猛に笑う。
彼にとって、僕たちは、倒すべきエネミーでしかなかった。
影の中から、音もなく、暗殺者ノクスが、静かに頷いた。
彼にとって、僕たちは、主が命じれば、ただ、排除すべきターゲットでしかなかった。
カイザーは、そんな部下たちの言葉には、興味もなさそうに、指を鳴らした。
すると、彼の目の前の空間に、この世界の、詳細なステータス画面のようなものが、ウィンドウとして表示される。
「…だが、平和なだけのチュートリアルは、もう終わりだ」。
カイザーは、楽しそうに、その唇を歪めた。
「あの、アルトとかいう奴。俺と同じ『プレイヤー』のくせに、まだ、この世界の本当のルールを、理解していないらしい。教えてやらないとな。この世界では、神(俺)が定めたルールこそが、絶対なのだと」
彼は、ゆっくりと立ち上がると、その紅い瞳に、絶対的な支配者の、残酷な輝きを宿した。
「さあ、始めようか。この、クソゲーの、デバッグを」
彼の指先から、世界の法則そのものを書き換えるという、チートスキル【理の改竄(デバッグ・ザ・ワールド)】の、紫色の光が、放たれる。
ホログラムスクリーンに映し出された、王都周辺の地図。
その中から、彼は、まるでレストランでメニューを選ぶかのように、無造作に、一つの村を、指し示した。
王都からほど近い、魔鉱石の採掘で栄える、平和な鉱山の村、「ノイマン鉱山村」。
彼の指が、その村の名に触れた瞬間、彼の目の前に、システムウィンドウが表示される。
<対象エリア:ノイマン鉱山村>
<現在のステータス:平穏>
<ステータスを変更しますか? Y/N>
カイザーは、躊躇なく、「Y」の文字を、選択した。
<イベントを生成します>
<イベント名:『静寂の村と、虚ろな人形たち』>
<難易度:C>
<推奨レベル:30~40>
<実行しますか? Y/N>
「ふん、チュートリアルにしては、少し簡単すぎたかな?まあ、いいだろう」
再び、「Y」を選択する。
その瞬間、彼の身体から放たれた紫色の光が、因果律の鎖を断ち切り、時空を超えて、ノイマン鉱山村の、法則そのものを、書き換えていく。
彼の次の「クエスト」の舞台として、王都からほど近い、とある平和な鉱山の村が、無慈悲に選択された。
その村で、人々が、何も知らずに、穏やかな眠りについていることなど、彼の興味の対象では、全くなかった。
ただ、これから始まる、一方的なゲームの、開幕を待つだけだった。
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