【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?

のびすけ。

文字の大きさ
71 / 74
第15章 最高のハッピーエンドを君に

役者は揃い、舞台は燃える

しおりを挟む
キィィィン……。

耳鳴りのような高い音が響いた。 
それは音ではなく、空間そのものが軋むような不快な波動だった。

「……な、なに?」

リゼットが動きを止める。
クラウディアがハッとして窓の外を見る。

菖蒲が警戒態勢に入り小太刀に手をかける。
エミリアさんが不安げに空を見上げる。

ルージュがネグリジェの乱れも気にせず鋭い視線を虚空に向ける。

窓の外。 
王都の青空が塗りつぶされていた。 
黒雲ではない。 
それは質感のある重厚な布のような……。

「……幕、か?」

俺が呟いた通りだった。 
王都の空を覆い尽くしたのは、巨大な深紅の「舞台幕(カーテン)」だった。 

まるでこの世界そのものを一つの巨大な劇場に変えてしまうかのように。 
太陽の光が遮断され、代わりに不気味なスポットライトのような光が地上を照らし出す。

「主殿!あれを!」

菖蒲が指差した先。 
工房の中央、俺たちが普段テーブルとして使っている作業台の上にいつの間にか一通の手紙が置かれていた。

真っ黒な封筒。 
それを封じるのは血のように赤い蝋。 
そして、そこに刻まれた紋章を見て俺たちの全身に戦慄が走った。

歪んだ仮面と茨の絡みついた薔薇。 

「虚構の楽園(アルカディア・フォールス)」の紋章だ。

「……奴らか」

俺は震える手を押さえつけその封筒を手に取った。 
封を開けるまでもない。 

俺がそれに触れた瞬間封筒が自然に発火し、そこから黒い煙が立ち上った。 
煙は空中で文字を形作り、そしてあの聞き覚えのある気取った男の声が俺たちの脳内に直接響き渡った。

『ごきげんよう、愛しき人形たち。そして、私の愛する“異端のプロデューサー”、アルト・フォン・レヴィナス君』

その声は以前戦ったカミヤの声ではない。 
もっと深く、もっと底知れぬ絶望の響きを含んだ声。 

組織の頂点に君臨する存在。 
脚本家(オーサー)の声だ。

『先日のカイザー君との“ゲーム”は拝見させてもらったよ。バグを利用した攻略……ふふ、実に無粋で、実に君らしい科学的な解決だったね。だが、君は一つ勘違いをしているようだ』

煙が形を変え巨大な仮面の顔となる。 
その仮面は笑っていた。 
嘲笑っていた。

『世界はゲームではない。数値やデータで割り切れるものではないのだよ。世界とはすなわち“物語”だ。感情と、運命と、そして悲劇によって織りなされる壮大なドラマなのだ』

工房の空気が急速に冷えていく。 
ヒロインたちが身を寄せ合う。 
俺は彼女たちを庇うように前に出た。

『君たちが勝ち取ったハッピーエンド。あれは、所詮、三流の喜劇に過ぎない。見ていて反吐が出るほど、甘く、ご都合主義で退屈な結末だ』

オーサーの声が熱を帯びる。

『だから、私が書き直してあげることにしたよ。君たちの物語を。もっと美しく、もっと残酷で、もっと感動的な“本物の悲劇”にね』

ズズズズズ……! 

工房が、いや、王都全体が揺れた。 
地震ではない。 
世界そのものが強制的に書き換えられていく感覚。

『さあ、幕開けだ。これより王都全域を舞台とした最高傑作『終焉の悲劇』を上演する。 主演はもちろん君たちプリズム・ナイツ。そして結末は……』

仮面の目が怪しく光った。

『――英雄の死と、世界の絶望である』

その宣言と共に、黒い煙が爆発的に膨張し俺たちの視界を覆い尽くした。

「きゃあああああああっ!」 
「主殿ッ!」 
「アルト!」

少女たちの悲鳴が遠ざかる。 
俺の手から彼女たちの温もりが引き剥がされていく感覚。

「やめろ!みんなを、離せ!」

俺は叫び虚空に手を伸ばす。 
だがその手は何も掴めない。 
俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。

ーーーーー

目が覚めた時俺は一人だった。 
見慣れた工房ではない。 

そこはどこまでも広がる無機質な舞台裏のような場所だった。 
無数のロープ、書き割りの背景、そしてスポットライトの機材が乱雑に置かれている。

「……ここは?」

頭痛を堪えて立ち上がる。 
プリズム・チャームを確認する。 

通信機能は……圏外だ。 
ヒロインたちの反応も消失している。

「分断されたか……」

俺は唇を噛んだ。 
カイザーの時はゲームのルールを押し付けられた。 

だが今回は物語のルールを押し付けられている。 
強制的な舞台転換。 
強制的なシチュエーション。

その時、頭上のスピーカーからオーサーの楽しげな声が流れた。

『ようこそ、舞台裏へ。プロデューサー君。君には特等席を用意したよ。ここから指をくわえて見ていたまえ。 君の大切なヒロインたちがそれぞれの“悲劇”に飲み込まれ絶望に堕ちていく様をね』

目の前の空間に五つの巨大なモニターが浮かび上がった。
そこに映し出された光景を見て俺は息を呑んだ。

モニター1には、燃え盛る村の中で幼い頃の俺(の幻影)の死体を抱いて泣き叫ぶリゼットの姿。 

『幼馴染に忘れ去られ、守れなかった悲劇』

モニター2には、折れた剣を前に家名を剥奪され泥水を啜るクラウディアの姿。 

『誇りと居場所を失った騎士の悲劇』

モニター3には、石を投げられ罵倒されながらそれでも祈り続けるが誰一人救えないエミリアの姿。 

『誰も救えず、魔女と断罪される聖女の悲劇』

モニター4には、俺を守るために自らの命を差し出しそれでも俺が死んでいく様を見せつけられる菖蒲の姿。 

『主君を守れず、道具として壊れる忍びの悲劇』

そして、モニター5には、愛する俺に拒絶され化け物として討伐されるルージュの姿。

『愛する人に拒絶され、怪物として狩られる魔女の悲劇』

それぞれのヒロインが、彼女たちが最も恐れるトラウマ、最も避けたいバッドエンドの幻影の中に囚われていた。

『どうだい?美しいだろう? 人は、希望があるからこそ、絶望する。彼女たちの輝きが強ければ強いほど、その絶望は深く、甘美な味になるのだよ』

オーサーが笑う。 
俺の心臓が早鐘を打つ。 

怒りではない。 
恐怖でもない。 

俺の中に湧き上がってきたのは、プロデューサーとしての激しい“義憤”だった。

「……三流だな」

俺は静かに呟いた。

『なんだと?』

「三流だと言ったんだよ、脚本家。こんな、ただキャラクターをいじめて、泣かせるだけの脚本が面白いとでも思っているのか?安っぽいお涙頂戴だ。ご都合主義の不幸だ。見ていられないほど退屈な駄作だ!」

俺はモニターを睨みつけた。 
そこに映る彼女たちは確かに泣いている。
苦しんでいる。 

だが俺は知っている。 
彼女たちがどれほど強いか。 
どれほど俺との絆を信じているか。

「彼女たちは僕の自慢のヒロインたちだ。こんな安っぽい幻影ごときで心が折れるほど柔な育て方はしていない!」

俺は近くにあった制御コンソールらしき機械に駆け寄った。 
構造は複雑だが、魔力回路の基本設計はこの世界の魔導具と同じだ。 

ならば解析できる。 
ハッキングできる!

「脚本通りになんて動いてやるものか。僕は演出家プロデューサーだ。役者の魅力を最大限に引き出し、クソみたいな脚本を最高のエンターテインメントに書き換えるのが僕の仕事だ!」

俺はツールボックスから工具を取り出し、コンソールの蓋をこじ開けた。 
スパークする魔力。 

指先が焼けるような熱を感じるが構わない。

「待ってろ、みんな!今、声を届ける!君たちの物語は悲劇なんかじゃない!僕たちが紡ぐのは、いつだって最高に騒がしくて最高に幸せなハッピーエンドだろッ!!」

俺の叫びと共に、俺の指先から蒼い光が迸った。

【創造変神】の力が舞台装置を侵食していく。

「第一幕、開演だ。脚本の書き換えリライトを始めようか!」

俺の瞳にかつてないほどの闘志の炎が宿った。
悪趣味な脚本家対、最強のプロデューサー。 

物語の結末を懸けた最後の戦いの幕が、今、切って落とされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々
ファンタジー
ソドムの少年から平安武士、さらに日本兵から二十一世紀の男子高校生へ。 一つ一つの人生は短かった。 しかし幸か不幸か、今まで自分がどんな人生を歩んできたのかは覚えている。 だからこそ今度こそは長生きして、生きている実感と、生きる希望を持ちたい。 そんな想いを胸に、青年は五度目の命にして今までの四回とは別の世界に転生した。 早死にの男が、今まで死んできた世界とは違う場所で、今度こそ生き方を見つける物語。 本作は、「小説家になろう」、「カクヨム」、にも投稿しております。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ

黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ! 「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。 だが、それは新たな伝説の始まりだった! 「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」 前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる! 「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」 仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。 一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを! 無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!

処理中です...