侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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幕間「王都、恋模様の休息日」

ルーナ編「月下の庭で、手をつなぐだけのはずが」

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――王都の裏庭。花壇と石畳の間を、イッセイくんと並んで歩いてた。

ひんやりとした夜の空気。昼の喧騒が嘘みたいに静かで、どこかくすぐったい。



「ふふ、なんかさー、こういうの、ちょっと緊張するかも」

わたしは笑って言ったけど、内心はずっとドキドキしてた。

だって、今日はちゃんと伝えたくて、ちょっとだけ“自分”でいる覚悟、してきたんだ。

侍女としてじゃなくて、公爵家の娘でもなくて――ただの、ルーナとして。



「緊張するようなこと、何かあるのか?」

イッセイくんは相変わらず無自覚で、優しくて、ちょっと意地悪なとこあるよね。

そんなふうに訊かれると、もう、胸の中で言葉が踊り出す。



「……んー、ないよー、うんっ。ちょっとだけ、思い出話したくなっただけ」

うそじゃない。うそじゃないけど――本当のこと、ぜんぶ言えてるわけじゃない。

イッセイくんの横顔を見ながら、あの日のことを思い出してた。



最初に出会ったあの森の中。剣を振るう彼の背中を、わたしはずっと目で追ってた。

自信に満ちてて、でも決して驕らなくて、まっすぐで。

あのときから、たぶん、ずっと好きだった。気づかないようにしてたけど。



「ねぇ、イッセイくん」

「ん?」

「これからも、隣にいていい?」

「……ルーナが、そうしたいなら。もちろんだ」



やさしいなぁ、ほんと。

でも――それだけじゃ足りないって、今日はちゃんと伝えなきゃ。



気づけば足が止まってた。

月が出てた。

庭の白い花が、光に照らされて揺れてた。



「イッセイくん、手……いい?」

「……ああ」



そっと、手と手が重なる。

指先がぴたりと合って、温かさが心に流れ込んできた。

ぎゅっと握り返したら、胸の奥の不安が、ちょっとだけ溶けていった。



「ね、わたし……ずっと考えてたの」

「……うん」

「イッセイくんのこと、守りたいなって。そばにいたいなって。いちばん近くで、笑っててほしいって」



声が震えるのを、自分で感じてた。

でももう、止められなかった。

こんな気持ち、ずっと、ずっと閉じ込めてたから。



「――これが、私の気持ち……だよ」



わたしは顔を上げて、イッセイくんの目を見て、それから――ゆっくりと目を閉じた。

期待なんて、しちゃいけないと思ってたのに。

でも、ほんの少しだけ、してたのかもしれない。



ほんの一瞬の間。

世界が止まったみたいだった。



……それから。



唇が、触れた。



やわらかくて、あたたかくて。

でもそれ以上に、胸の奥が震えるように熱くて――甘くて、切なくて、全部が愛しかった。



ああ、こんなに幸せなキスって、あるんだ。

目を閉じたまま、涙がにじみそうになった。



唇が離れたあとも、わたしの手はイッセイくんの手を離さなかった。

この温もりを、もう手放したくなかったから。



「……ルーナ」

「ふふ、びっくりした?」

「……いや。嬉しかった」



その一言が、嬉しくて、たまらなかった。

気づけば、笑ってた。笑って、泣きそうだった。



「ね、これからも……“一番近く”って、約束してね」

「……ああ、約束する」



その言葉で、わたしの世界は満ちていった。



――この手を、二度と離さないって決めたよ。

――だって、わたしは、ずっと、あなただけが好きなんだから。
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