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第十四章 始まりの大陸と、神々の黄昏
揺らぐ天秤と、託された剣
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俺の、そして仲間たちの想いを乗せた光の一撃。
それが神の理を代弁する男、オリオンを完全に打ち倒すには至らなかった。
光が晴れた時、彼は変わらずそこに立っていた。
だが、その完璧な白金の鎧には僅かな焦げ跡がつき、神々しい顔には一筋の汗が伝っていた。
彼の絶対的な自信に満ちた瞳に、初めて「予測不能」という名の揺らぎが浮かんでいた。
「……面白い」
オリオンは、まるで未知の現象を観察する科学者のように、静かに呟いた。
「実に興味深い。お前たちの“想い”という名の、非論理的で、非効率で、予測不能なエネルギー……それが、神々の築いたこの世界の理(システム)に干渉するとは。これは、もはや無視できる誤差(エラー)ではない。検証すべきバグ(アノマリー)だ」
彼はそう言うと、一つの試練を俺たちに課した。
「ならば、試してやろう。お前たちの“想い”が、神々の築いた秩序を覆すに値するかどうかを」
「この大陸には、神々の力を宿した三つの“神具”が眠っている。それが世界の理を支える楔(スタビライザー)だ。もし、お前たちがその全てを手に入れ、神々の試練を乗り越えられたなら……認めよう。お前たちの“正義”という名の、その不完全なOSを。だが、できなければ、お前たちは世界の理を乱した罪人として、ここで消滅(デリート)する」
それは、あまりにも過酷な神の試練だった。オリオンは、初めて人間らしい、不敵な笑みを浮かべると、光の粒子となってその場から姿を消した。
彼の絶対的な気配が消えた瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れたように、仲間たちは次々とその場に崩れ落ちた。
「……はぁ……はぁ……行った、のか……?」
ルーナが、汗で額に張り付いた髪をかき上げながら、荒い息をつく。
「……魔力、ほとんど空っぽウサ……。もう、ぷるぷるどころか、からからウサ……」
フィーナは、完全に燃え尽きたように地面に大の字になっていた。
俺もまた、立っているのがやっとだった。
《精霊剣リアナ》を杖代わりに地面に突き立て、必死に身体を支える。
神の理に直接抗った代償は、想像以上に大きかった。
皆が疲弊し、沈黙が支配する中、ゴゴゴ……と大地が震えた。
俺たちが身構えると、目の前にいた原初の精霊――岩石の巨人が、ゆっくりと動き出した。
巨人は、オリオンとの戦いで砕け散った遺跡の瓦礫を、その巨大な手で優しく掬い上げると、俺たちの前にそっと置いた。
それは、風雨を凌ぐための、即席のシェルターのようだった。
そして、その巨大な指が、大陸の奥深く――悲しげな霧に包まれた、天を突くかのような山脈を、無言で指し示した。
《嘆きの神殿》……最初の神具が眠る場所だ。
「……助けて、くれたのか……?」
俺の呟きに、巨人はただ静かに佇んでいる。
言葉はない。だが、その行動には、明確な“意志”が宿っていた。お前たちに、託す、と。
瓦礫の陰で休息を取りながら、リリィが悔しそうに言った。
「神具を集めろ、ですって!? なによそれ! 散々あたしたちを消そうとしといて、今度は無理難題のクエスト押し付けてくるなんて、神様ってのは相当なブラック上司ね!」
「ですが、彼は引きましたわ」
クラリスが、気品を保ちながらも、疲労の色濃い顔で答える。
「それは、イッセイ様の……いいえ、わたくしたちの想いが、彼の理屈を超えたということです。……それは、希望ですわ」
「うむ。試練とは、乗り越えるためにあるもの」
サーシャもまた、静かに頷く。
「道が示されたのなら、進むまで。武士の道は、常に前にある」
彼女たちの言葉は力強い。
だが、皆が傷つき、疲弊しているのも事実だった。
この状態で、神々の試練に挑むことができるのか……。
俺の心に、一瞬だけ不安がよぎる。
そんな俺の心中を察したかのように、セリアが隣に膝をついた。
「イッセイ様。ご決断を」
彼女の瞳は、揺らいでいなかった。
「私たちは、あなたの剣であり、盾です。あなたが立つと決めるなら、私たちは何度でも立ち上がります」
そうだ。俺は、独りじゃない。
俺は、仲間たちを振り返る。皆、傷つき、疲弊していた。
だが、その瞳の光は消えていない。絶望ではなく、確かな闘志と、俺への信頼が宿っていた。
「……行くぞ」
俺は、光を放ち続ける精霊剣を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。
「リリィの言う通り、神様ってのは理不尽で、自分勝手だ。オリオンの言う秩序も、結局は神々の都合でしかない。……だったら、俺たちが変えてやろうぜ」
俺は、皆の顔を一人ひとり見つめて、言葉を続けた。
「俺たちの戦いは、魔王を倒すことじゃない。神々が押し付けた、哀しい運命そのものに、抗うことだ。リアナや、
名もなき魔王が流した涙を、俺たちの手で終わらせる。そのための、戦いだ」
俺の言葉に、仲間たちの瞳に、より一層強く、決意の光が宿った。
「上等じゃない!」
「やってやろうぜ、ウサ!」
「ええ、どこまでも!」
俺たちは、原初の精霊が示してくれた《嘆きの神殿》の方角へと、再び歩き始めた。
一歩一歩は、まだ重い。だが、その足取りは、確かに未来へと向かっていた。
神々の黄昏。その空の下で、俺たちの、本当の戦いが始まろうとしていた。
それが神の理を代弁する男、オリオンを完全に打ち倒すには至らなかった。
光が晴れた時、彼は変わらずそこに立っていた。
だが、その完璧な白金の鎧には僅かな焦げ跡がつき、神々しい顔には一筋の汗が伝っていた。
彼の絶対的な自信に満ちた瞳に、初めて「予測不能」という名の揺らぎが浮かんでいた。
「……面白い」
オリオンは、まるで未知の現象を観察する科学者のように、静かに呟いた。
「実に興味深い。お前たちの“想い”という名の、非論理的で、非効率で、予測不能なエネルギー……それが、神々の築いたこの世界の理(システム)に干渉するとは。これは、もはや無視できる誤差(エラー)ではない。検証すべきバグ(アノマリー)だ」
彼はそう言うと、一つの試練を俺たちに課した。
「ならば、試してやろう。お前たちの“想い”が、神々の築いた秩序を覆すに値するかどうかを」
「この大陸には、神々の力を宿した三つの“神具”が眠っている。それが世界の理を支える楔(スタビライザー)だ。もし、お前たちがその全てを手に入れ、神々の試練を乗り越えられたなら……認めよう。お前たちの“正義”という名の、その不完全なOSを。だが、できなければ、お前たちは世界の理を乱した罪人として、ここで消滅(デリート)する」
それは、あまりにも過酷な神の試練だった。オリオンは、初めて人間らしい、不敵な笑みを浮かべると、光の粒子となってその場から姿を消した。
彼の絶対的な気配が消えた瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れたように、仲間たちは次々とその場に崩れ落ちた。
「……はぁ……はぁ……行った、のか……?」
ルーナが、汗で額に張り付いた髪をかき上げながら、荒い息をつく。
「……魔力、ほとんど空っぽウサ……。もう、ぷるぷるどころか、からからウサ……」
フィーナは、完全に燃え尽きたように地面に大の字になっていた。
俺もまた、立っているのがやっとだった。
《精霊剣リアナ》を杖代わりに地面に突き立て、必死に身体を支える。
神の理に直接抗った代償は、想像以上に大きかった。
皆が疲弊し、沈黙が支配する中、ゴゴゴ……と大地が震えた。
俺たちが身構えると、目の前にいた原初の精霊――岩石の巨人が、ゆっくりと動き出した。
巨人は、オリオンとの戦いで砕け散った遺跡の瓦礫を、その巨大な手で優しく掬い上げると、俺たちの前にそっと置いた。
それは、風雨を凌ぐための、即席のシェルターのようだった。
そして、その巨大な指が、大陸の奥深く――悲しげな霧に包まれた、天を突くかのような山脈を、無言で指し示した。
《嘆きの神殿》……最初の神具が眠る場所だ。
「……助けて、くれたのか……?」
俺の呟きに、巨人はただ静かに佇んでいる。
言葉はない。だが、その行動には、明確な“意志”が宿っていた。お前たちに、託す、と。
瓦礫の陰で休息を取りながら、リリィが悔しそうに言った。
「神具を集めろ、ですって!? なによそれ! 散々あたしたちを消そうとしといて、今度は無理難題のクエスト押し付けてくるなんて、神様ってのは相当なブラック上司ね!」
「ですが、彼は引きましたわ」
クラリスが、気品を保ちながらも、疲労の色濃い顔で答える。
「それは、イッセイ様の……いいえ、わたくしたちの想いが、彼の理屈を超えたということです。……それは、希望ですわ」
「うむ。試練とは、乗り越えるためにあるもの」
サーシャもまた、静かに頷く。
「道が示されたのなら、進むまで。武士の道は、常に前にある」
彼女たちの言葉は力強い。
だが、皆が傷つき、疲弊しているのも事実だった。
この状態で、神々の試練に挑むことができるのか……。
俺の心に、一瞬だけ不安がよぎる。
そんな俺の心中を察したかのように、セリアが隣に膝をついた。
「イッセイ様。ご決断を」
彼女の瞳は、揺らいでいなかった。
「私たちは、あなたの剣であり、盾です。あなたが立つと決めるなら、私たちは何度でも立ち上がります」
そうだ。俺は、独りじゃない。
俺は、仲間たちを振り返る。皆、傷つき、疲弊していた。
だが、その瞳の光は消えていない。絶望ではなく、確かな闘志と、俺への信頼が宿っていた。
「……行くぞ」
俺は、光を放ち続ける精霊剣を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。
「リリィの言う通り、神様ってのは理不尽で、自分勝手だ。オリオンの言う秩序も、結局は神々の都合でしかない。……だったら、俺たちが変えてやろうぜ」
俺は、皆の顔を一人ひとり見つめて、言葉を続けた。
「俺たちの戦いは、魔王を倒すことじゃない。神々が押し付けた、哀しい運命そのものに、抗うことだ。リアナや、
名もなき魔王が流した涙を、俺たちの手で終わらせる。そのための、戦いだ」
俺の言葉に、仲間たちの瞳に、より一層強く、決意の光が宿った。
「上等じゃない!」
「やってやろうぜ、ウサ!」
「ええ、どこまでも!」
俺たちは、原初の精霊が示してくれた《嘆きの神殿》の方角へと、再び歩き始めた。
一歩一歩は、まだ重い。だが、その足取りは、確かに未来へと向かっていた。
神々の黄昏。その空の下で、俺たちの、本当の戦いが始まろうとしていた。
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