侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十五章 嘆きの神殿と、神に挑む者たち

絆の声、悲しみを越えて

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「みんな、聞け!」

俺は、剣に魂を乗せて叫んだ。それは単なる声ではなかった。
《精霊剣リアナ》を通して増幅された、俺の意志そのもの。

俺の魂が、仲間たちを想う心が、絆という名の光となって、彼女たちを囚える悪夢の牢獄へと突き刺さったのだ。

「過去からは逃げられない! でも、未来は創れる! 俺たちがここにいる意味は、過去を悔やむためじゃない! 未来を掴むためだ!」

その声は、物理的な壁を越え、悪夢に囚われた仲間たちの心へと直接届いた。

ーーーーー

サーシャ:炎の中で、誓う剣

燃え盛る故郷ヒノモト。
兄の幻影が、哀しげに拙者を見つめている。
『お前だけが生き残った』その言葉が、重い鎖となって拙者の手足を縛る。
剣が、重い。もう、振るえない。拙者の剣は、仲間たちの死体の上に成り立っているのだから……。

(……そうだ。拙者は、罪人だ)

心が絶望に染まり、炎に呑み込まれようとした、その時だった。

『――未来を掴むためだ!』

イッセイ殿の声……!
その声は、地獄の業火を貫く一筋の光だった。

(未来……? 拙者に、まだそのようなものが……)

脳裏に浮かぶのは、イッセイ殿の背中。そして、共に笑い、戦ってきた仲間たちの顔。
そうだ、拙者が守るべきものは、もはや過去のヒノモトだけではない。


「……そうだ」
サーシャは、はっと顔を上げた。その瞳に、再び鋭い光が宿る。

「拙者の剣は、もはや復讐のためではない。イッセイ殿と、仲間たちと共に、未来を守るための刃……!」

彼女は、血に濡れた兄の幻影に向き直り、深々と頭を下げた。

「兄上。……否、過去の幻影よ。拙者は、もうお前たちに囚われぬ。お前たちの魂は、拙者が守る未来の中で、永遠に生き続ける。……さらばだ」

彼女がそう叫んだ瞬間、燃え盛っていた炎の幻影が、まるで夜明けの霧のように霧散した。
手の中の剣が、嘘のように軽くなっていた。

ーーーーー

クラリス:玉座を降りて、共に立つ

無力な玉座。民の怨嗟。わたくしは、ただ震えることしかできない、無力な姫。
それが、わたくしの罪。わたくしの限界……。

(ああ、やはり、わたくしには王の器など……)

幻影たちの手が、わたくしの足に絡みつき、玉座から引きずり下ろそうとする。
もう、どうでもいい。そう思いかけた、その時。

『――未来を掴むためだ!』

イッセイ様の声……!
その力強い声が、わたくしの心の闇を打ち払う。

(……そうでしたわ。わたくしは、もう独りではない)

脳裏をよぎるのは、彼の言葉。『独りで背負うのが王じゃない』。
そうだ、わたくしは、彼と出会い、仲間を得て、独りで立つことの脆さと、共に立つことの強さを知ったはず。

「……黙りなさい、亡霊ども!」

クラリスは、涙を拭い、毅然として立ち上がった。
その姿には、もはや無力な少女の面影はない。

「わたくしは、もう玉座の上から民を見下ろしはしない! 仲間を信じ、共に立ち、民の隣を歩むことこそが、真の王の姿……! イッセイ様が、そう教えてくれた!」

彼女がそう宣言した瞬間、足に絡みついていた幻影たちが光となって消え、玉座の間の重苦しい空気が晴れていく。彼女の周りに、気高き光が戻ってきた。

ーーーーー

ルーナ、リリィ、セリア……そして、皆の答え

一人、また一人と、仲間たちが俺の声に応えるように、自らの力で悪夢を打ち破っていく。

仮面舞踏会の孤独に囚われていたルーナは、イッセイの『お前の本当の笑顔が好きだ』という魂の声を聴き、啖呵を切った。

「そうよ! これがあたしよ! 嘘の仮面なんて、もういらない! あたしは、あいつの隣で、素顔で笑うって決めたんだから!」

彼女がそう叫ぶと、華やかだが空虚だった舞踏会の幻は、ガラスのように砕け散った。

貧しさの中で家族を失った罪悪感に泣き崩れていたリリィは、『お前の力で、もっと多くの人を笑顔にできる』という声に、顔を上げた。

「……そうよね。泣いてたって、誰も救えない。あたしのこの商才は、みんなを幸せにするためにあるんだから! 見てなさいよ、神様! あたし、世界一の商人になって、世界中を笑顔で満たしてやる!」

彼女の瞳に商魂の炎が再び宿った瞬間、薄暗い路地裏の幻は、活気あふれる市場の光景へと変わった。

過去の無力さに囚われていたセリアは、『お前はもう、守られる側じゃない。俺の背中を守る、最高の騎士だ』という声に、落とした剣を拾い上げた。

「……そうです。私は、もう無力ではない。イッセイ様、あなたの背中は、この私が、命に代えても守り抜く……!」

彼女がそう誓った時、彼女を嘲笑っていた魔物の幻影は、彼女の鋭い眼光の前に霧散した。

シャルロッテは、彼女を拒絶する精霊たちの幻影に『君の声が必要だ』というイッセイの声を聴き、「たとえ拒まれても、私はあなたたちの声を聴き続ける」と誓い、再び精霊との絆を取り戻した。

フィーナとミュリルは、奴隷だった頃の孤独な悪夢の中で、『お前たちは俺の大切な家族だ』という温かい声を聴き、二人で固く手を繋いだ。
「「私たちは、もう独りじゃない!」」その絆の光が、冷たい闇を完全に打ち払った。

彼女たちは、俺との旅の中で得た“絆”という名の光で、自らの過去の影を照らし出したのだ。

パリン、パリン、と。
世界が砕ける音がした。
俺たちを隔てていた黒水晶の鏡の壁が、一斉に砕け散り、光の粒子となって舞い上がる。

気づけば、俺たちは再び一つの場所に集っていた。神殿の、最初の回廊。
皆、頬には涙の跡があった。だが、その表情は、かつてないほど強く、そして晴れやかだった。

「……みんな」

俺が声をかけると、全員が俺を見て、ふっと微笑んだ。言葉はいらない。
俺たちは皆、同じ試練を、同じ想いで乗り越えたのだ。

「……まったく。人騒がせな試練でしたわね」

クラリスが、少しだけ掠れた声で言った。

「ふふっ、でも、おかげでスッキリしたかも。これで心置きなく、イッセイくんを攻められるわ」

ルーナの悪戯な言葉に、皆から笑いがこぼれる。

神々が仕掛けた、心を折るための試練。だが、それは皮肉にも、俺たちの絆を、鋼のように強く鍛え上げる結果となった。
オリオンの冷たい声が、どこからか響いた気がした。

『……面白い』

俺たちは、顔を見合わせ、力強く頷いた。
さあ、行こう。試練は、まだ終わっていない。
神々の罪、その象徴である《赦しの聖杯》を、この手で掴むために。
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