206 / 214
第十七章 最後の神具と、神々の審判
第三の選択、魂を乗せた剣
しおりを挟む
《さあ、選べ》
オリオンの声が、最後の審判のように、音のない祭壇に響き渡る。
《一人の永遠の苦しみか、世界の永劫の混沌か。どちらの“理”が、より優れている?》
その問いは、俺たちの心を容赦なく引き裂いた。
目の前で揺らめく黄金の天秤。
その両皿に乗せられた、あまりにも重い二つの未来。
仲間たちが、顔を見合わせる。その瞳には、深い苦悩と葛藤が浮かんでいた。
『……そんな……』
シャルロッテを通じて、クラリスの震える心の声が届く。
『……王として……民の平和を守るのが、わたくしの務め……。たとえ、それがどれほど非情な選択であったとしても……一人の犠牲で、数多の民が救われるというのなら……わたくしは……選ばなければ……ならないの……?』
彼女は、王として民の平和を守るべきだと、唇を噛み締める。その顔は、血の気が引いていた。
『……否』
今度は、サーシャの鋼のような意志が響く。
『……一人の無辜の魂を見捨てることは、武士の道に反する。そのような偽りの平和の上に立つ誉れなど、拙者は望まぬ。たとえ世界が混沌に満ちようとも、守るべき一人の命を見捨てることは、できぬ……!』
彼女は、一人の無辜の魂を見捨てることはできないと、拳を握りしめる。
『でも、あの混沌は……地獄だったウサ……』
『そうよ……あたしたちが守りたかった笑顔なんて、どこにもなかったじゃない……』
フィーナとリリィの心は、混沌の未来がもたらす絶望に打ちのめされていた。
『……だからって、誰かがずっと泣き続ける世界が、幸せだなんて思えないにゃ……』
ミュリルの声も、悲痛に揺れる。
仲間たちの心が、引き裂かれそうになっていた。
どちらを選んでも、待っているのは地獄だ。
俺たちがこれまで信じてきた“正義”が、今、神々の理不尽な天秤の上で、その価値を問われていた。
「……黙れ」
その沈黙を破ったのは、俺の声だった。
いや、声にはなっていない。
魂の、叫びだった。
仲間たちが、はっとしたように俺を見る。
「それは、選択肢じゃない。ただの、神々の押し付けだ」
俺は、仲間たちの前に進み出た。そして、絶対的な理の化身であるオリオンを、真っ直ぐに睨みつけた。
「あんたは言ったな、『どちらが正しいかを選べ』と。だが、どっちも間違ってる! そんな二つの未来しか創れないなら、そんな神々の理そのものが、欠陥品なんだよ!」
《……何だと?》
オリオンの思考に、初めて明確な“不快”の色が混じった。
《神々の理は完全無欠。絶対の法則だ。それを、欠陥品だと?》
「ああ、そうだ!」
俺は叫び返す。
「あんたたちの理屈には、一番大事なものが欠けてる! それは、“心”だ! 哀しみに寄り添い、共に涙を流し、それでも前に進もうとする人間の心だ! あんたたちは、その心を『非効率なバグ』と切り捨てた! だから、そんな絶望的な未来しか計算できないんだ!」
俺は、仲間たちから受け取った二つの神具――《赦しの聖杯》と《絆の宝冠》を、空間に具現化させた。
「俺たちは、哀しみを乗り越える力を知った! 《嘆きの神殿》で、涙の跡に希望の花が咲くことを、この目で見たんだ!」
聖杯が、温かい光を放つ。
「俺たちは、絆で結ばれた心が、偽りの幸福を打ち破ることも知った! 《歓喜の城塞》で、独りぼっちの楽園よりも、仲間といる不完全な現実を選ぶと誓ったんだ!」
宝冠が、七色の輝きを放つ。
「だったら、創れるはずだ! 魔王の魂を救い、それでもなお、世界が混沌に堕ちない未来を! あんたたちのくだらない計算式にはない、俺たちの手で創り出す、第三の未来をな!」
俺は、天秤へと歩み寄る。オリオンが、無言の圧力で俺を制止しようとする。
《愚かな。神々の審判を汚す気か》
「汚す? 違うね。上書きするんだよ」
俺は、宝玉が置かれた皿ではない、天秤の支柱、その中央に――リアナから受け継いだ《精霊剣》を、静かに捧げ置いた。
その剣は、もはや俺一人のものではない。
クラリスの誇り、ルーナの自由、リリィの情熱、セリアの忠誠、サーシャの誠意、シャルロッテの慈愛、フィーナの希望、そしてミュリルの温もり。仲間たち全員の魂が宿った、俺たちの“絆の象徴”だ。
「俺は、あんたが提示した未来を選ばない!」
俺は、オリオンに向かって、そしてこの世界の理そのものに向かって、宣言した。
「俺が選ぶのは、混沌でも、犠牲でもない! ここにいる、俺の大切な仲間たちだ! 俺たちは、哀しき魂を救い出す! そして、その先に来る混沌があるというなら、それも俺たちが全員で受け止めて、乗り越えてみせる! それこそが、俺たちの見つけた、たった一つの“答え”だ!」
俺の魂の叫びに呼応し、精霊剣が、世界そのものを照らし出すほどの、眩い光を放った。
その光は、神々の冷たい理を溶かす、人間たちの、不屈の“想い”の輝きだった。
オリオンの声が、最後の審判のように、音のない祭壇に響き渡る。
《一人の永遠の苦しみか、世界の永劫の混沌か。どちらの“理”が、より優れている?》
その問いは、俺たちの心を容赦なく引き裂いた。
目の前で揺らめく黄金の天秤。
その両皿に乗せられた、あまりにも重い二つの未来。
仲間たちが、顔を見合わせる。その瞳には、深い苦悩と葛藤が浮かんでいた。
『……そんな……』
シャルロッテを通じて、クラリスの震える心の声が届く。
『……王として……民の平和を守るのが、わたくしの務め……。たとえ、それがどれほど非情な選択であったとしても……一人の犠牲で、数多の民が救われるというのなら……わたくしは……選ばなければ……ならないの……?』
彼女は、王として民の平和を守るべきだと、唇を噛み締める。その顔は、血の気が引いていた。
『……否』
今度は、サーシャの鋼のような意志が響く。
『……一人の無辜の魂を見捨てることは、武士の道に反する。そのような偽りの平和の上に立つ誉れなど、拙者は望まぬ。たとえ世界が混沌に満ちようとも、守るべき一人の命を見捨てることは、できぬ……!』
彼女は、一人の無辜の魂を見捨てることはできないと、拳を握りしめる。
『でも、あの混沌は……地獄だったウサ……』
『そうよ……あたしたちが守りたかった笑顔なんて、どこにもなかったじゃない……』
フィーナとリリィの心は、混沌の未来がもたらす絶望に打ちのめされていた。
『……だからって、誰かがずっと泣き続ける世界が、幸せだなんて思えないにゃ……』
ミュリルの声も、悲痛に揺れる。
仲間たちの心が、引き裂かれそうになっていた。
どちらを選んでも、待っているのは地獄だ。
俺たちがこれまで信じてきた“正義”が、今、神々の理不尽な天秤の上で、その価値を問われていた。
「……黙れ」
その沈黙を破ったのは、俺の声だった。
いや、声にはなっていない。
魂の、叫びだった。
仲間たちが、はっとしたように俺を見る。
「それは、選択肢じゃない。ただの、神々の押し付けだ」
俺は、仲間たちの前に進み出た。そして、絶対的な理の化身であるオリオンを、真っ直ぐに睨みつけた。
「あんたは言ったな、『どちらが正しいかを選べ』と。だが、どっちも間違ってる! そんな二つの未来しか創れないなら、そんな神々の理そのものが、欠陥品なんだよ!」
《……何だと?》
オリオンの思考に、初めて明確な“不快”の色が混じった。
《神々の理は完全無欠。絶対の法則だ。それを、欠陥品だと?》
「ああ、そうだ!」
俺は叫び返す。
「あんたたちの理屈には、一番大事なものが欠けてる! それは、“心”だ! 哀しみに寄り添い、共に涙を流し、それでも前に進もうとする人間の心だ! あんたたちは、その心を『非効率なバグ』と切り捨てた! だから、そんな絶望的な未来しか計算できないんだ!」
俺は、仲間たちから受け取った二つの神具――《赦しの聖杯》と《絆の宝冠》を、空間に具現化させた。
「俺たちは、哀しみを乗り越える力を知った! 《嘆きの神殿》で、涙の跡に希望の花が咲くことを、この目で見たんだ!」
聖杯が、温かい光を放つ。
「俺たちは、絆で結ばれた心が、偽りの幸福を打ち破ることも知った! 《歓喜の城塞》で、独りぼっちの楽園よりも、仲間といる不完全な現実を選ぶと誓ったんだ!」
宝冠が、七色の輝きを放つ。
「だったら、創れるはずだ! 魔王の魂を救い、それでもなお、世界が混沌に堕ちない未来を! あんたたちのくだらない計算式にはない、俺たちの手で創り出す、第三の未来をな!」
俺は、天秤へと歩み寄る。オリオンが、無言の圧力で俺を制止しようとする。
《愚かな。神々の審判を汚す気か》
「汚す? 違うね。上書きするんだよ」
俺は、宝玉が置かれた皿ではない、天秤の支柱、その中央に――リアナから受け継いだ《精霊剣》を、静かに捧げ置いた。
その剣は、もはや俺一人のものではない。
クラリスの誇り、ルーナの自由、リリィの情熱、セリアの忠誠、サーシャの誠意、シャルロッテの慈愛、フィーナの希望、そしてミュリルの温もり。仲間たち全員の魂が宿った、俺たちの“絆の象徴”だ。
「俺は、あんたが提示した未来を選ばない!」
俺は、オリオンに向かって、そしてこの世界の理そのものに向かって、宣言した。
「俺が選ぶのは、混沌でも、犠牲でもない! ここにいる、俺の大切な仲間たちだ! 俺たちは、哀しき魂を救い出す! そして、その先に来る混沌があるというなら、それも俺たちが全員で受け止めて、乗り越えてみせる! それこそが、俺たちの見つけた、たった一つの“答え”だ!」
俺の魂の叫びに呼応し、精霊剣が、世界そのものを照らし出すほどの、眩い光を放った。
その光は、神々の冷たい理を溶かす、人間たちの、不屈の“想い”の輝きだった。
20
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる