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幕間:スライムのお見合いと、女王陛下の憂鬱
私のスリィが? ちょ、ちょっとまって!?
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「ぷるぷる共存国」が建国され、私が女王に即位してから数ヶ月。
慌ただしいながらも平和な日々が続いていたある日のことだった。女王執務室で、山積みの決裁書類(紙の代わりに、ぷにぷにしたゼリー板が使われている)と格闘している私のもとに、内政大臣代理のノエルが、一通のやけに格式高い手紙を持ってきた。
「ティアナ女王陛下。我が国の『王立スライム保護連盟』より、公式の書簡が届いておりますッス」
「うん? また新しいスライム保護法案かしら? それとも、ぷるぷる補助金の増額交渉?」
「いえ……それが……」
ノエルは、なぜか言いにくそうに視線を泳がせている。
「宰相殿……いえ、スリィ様へのお見合いのご依頼、とのことです」
「………………は?」
私の思考が、完全に停止した。
お見合い? 誰が? あの、私のスリィが?
手渡された書簡には、それはもう丁寧な筆致で、こう記されていた 。
拝啓 ぷるぷるの風薫る季節、女王陛下におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます 。
さて、この度、我がスライム保護連盟にて保護しております秘蔵の“聖女スライム・セレナ”が、宰相スリィ様のご活躍に深く感銘を受け、ぜひ一度お会いし、良き縁を結びたいとの強い所望でございます 。
ご検討のほど、何卒ぷにっとよろしくお願い申し上げます 。
「ぷにっとよろしく、じゃないのよ! 結婚式の司会者みたいな締め方しないで!」
私は思わず立ち上がって叫んだ。私の心の中に、自分でもよく分からない、もやもやとした感情が渦巻いている。
『ティアナ様。どうやら私にも、ついにモテ期が到来したようです』
「来てたでしょ!? 今までだって散々、人間の恋愛市場で無双してたじゃないの!?」
宰相として私の隣に控えていたスリィが、どこか誇らしげに身体を揺らす。
こうして、国の公式行事(?)として、スリィのお見合いがセッティングされることになってしまった。
◆
お見合いの席は、城下に新しくできた高級料亭「スライム庵」で行われた 。
そして、なぜか私も、その後見人として同席している。
(国の宰相のお見合いに、女王が保護者として同席……。これ、他国の外交史節が見たらどう思うのかしら……)
『ティアナ様は、公式には“保護者兼、最終決裁権者”です。ご安心を』
「そのポジションが、一番胃に悪いのよ!」
やがて、障子の向こうから、ふわりと清らかな気配と共に、お見合い相手のセレナ様が現れた。
色素の薄い、青白い半透明の身体 。
常に淡い光を放ち、地面から少しだけ浮いている 。
話しかけると「ぷるぅ……」と鈴の鳴るような音を返すだけで、えもいわれぬ神秘性を醸し出している 。
(……うわ。これは……強敵(ライバル)ね……!)
何が、とは自分でも分からないが、直感的にそう感じた。
『ぷにっ(本日はお越しいただき、ありがとうございます)』
スリィが、いつもより心なしか声のトーンを高くして、紳士的に挨拶をする。
「うわ、スリィ、声色作ってる!?」
『ぷにぃ(お会いできて、大変光栄です)』
「キラキラした効果音を出すな! あなた、普段はもっと無機質でクールなキャラだったでしょ! どこで身につけたのよ、その社交スキルは!」
私の心のツッコミをよそに、二匹(?)の会話(ぷに語)は、意外なほど弾んでいた 。
セレナは、スリィが打ち立てたスライム福祉政策や、彼の研究成果に、深く感銘を受けている様子だった 。
(……まさか、本当にスリィにお嫁さんが……)
それは、喜ぶべきことのはずなのに、なぜか私の胸はチクリと痛んだ。
しかし、その時、お見合いの仲介役を務めていた保護連盟の役員が、そっと私に耳打ちした。
「実は……セレナ様のご希望はただ一つ。『人型への変化が可能なスライムであること』、なのです」
「……あ」
その言葉に、私はスリィの方を見た。彼は、まだその機能を持っていない 。
その瞬間、セレナの放つ光が、ふわっと淡くなった 。彼女は「また、いつか……」という気配だけを残し、静かに座を辞していった 。
スリィは、何も言わなかった 。
けれど、その後ろ姿は、ほんの少しだけ、寂しそうに見えた 。
◆
帰り道、王城へと続く月明かりの石畳を歩きながら、私はそっと尋ねた。
「……変身できるようになったら、君は、“誰か”と添い遂げたいと思うの?」
『……わかりません。ですが、変わる理由があるのであれば、変わる努力はしてみたいと思いました』
「……そっか」
スリィが、夜空に浮かぶ星を見上げる 。
『でも、今の私は、こうして貴女の隣にいられる。それだけで、十分に幸せですよ』
「……なにそれ。惚れるじゃないの……!」
『ぷに(計画通りです)』
「最後の一言が全てを台無しにするのよッ!!」
こうして、宰相スリィの最初で最後(?)のお見合い話は、静かに幕を下ろした。
けれど、それは同時に、スリィの中に芽生えた、自らの進化への、静かな決意の始まりでもあったのだった 。
慌ただしいながらも平和な日々が続いていたある日のことだった。女王執務室で、山積みの決裁書類(紙の代わりに、ぷにぷにしたゼリー板が使われている)と格闘している私のもとに、内政大臣代理のノエルが、一通のやけに格式高い手紙を持ってきた。
「ティアナ女王陛下。我が国の『王立スライム保護連盟』より、公式の書簡が届いておりますッス」
「うん? また新しいスライム保護法案かしら? それとも、ぷるぷる補助金の増額交渉?」
「いえ……それが……」
ノエルは、なぜか言いにくそうに視線を泳がせている。
「宰相殿……いえ、スリィ様へのお見合いのご依頼、とのことです」
「………………は?」
私の思考が、完全に停止した。
お見合い? 誰が? あの、私のスリィが?
手渡された書簡には、それはもう丁寧な筆致で、こう記されていた 。
拝啓 ぷるぷるの風薫る季節、女王陛下におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます 。
さて、この度、我がスライム保護連盟にて保護しております秘蔵の“聖女スライム・セレナ”が、宰相スリィ様のご活躍に深く感銘を受け、ぜひ一度お会いし、良き縁を結びたいとの強い所望でございます 。
ご検討のほど、何卒ぷにっとよろしくお願い申し上げます 。
「ぷにっとよろしく、じゃないのよ! 結婚式の司会者みたいな締め方しないで!」
私は思わず立ち上がって叫んだ。私の心の中に、自分でもよく分からない、もやもやとした感情が渦巻いている。
『ティアナ様。どうやら私にも、ついにモテ期が到来したようです』
「来てたでしょ!? 今までだって散々、人間の恋愛市場で無双してたじゃないの!?」
宰相として私の隣に控えていたスリィが、どこか誇らしげに身体を揺らす。
こうして、国の公式行事(?)として、スリィのお見合いがセッティングされることになってしまった。
◆
お見合いの席は、城下に新しくできた高級料亭「スライム庵」で行われた 。
そして、なぜか私も、その後見人として同席している。
(国の宰相のお見合いに、女王が保護者として同席……。これ、他国の外交史節が見たらどう思うのかしら……)
『ティアナ様は、公式には“保護者兼、最終決裁権者”です。ご安心を』
「そのポジションが、一番胃に悪いのよ!」
やがて、障子の向こうから、ふわりと清らかな気配と共に、お見合い相手のセレナ様が現れた。
色素の薄い、青白い半透明の身体 。
常に淡い光を放ち、地面から少しだけ浮いている 。
話しかけると「ぷるぅ……」と鈴の鳴るような音を返すだけで、えもいわれぬ神秘性を醸し出している 。
(……うわ。これは……強敵(ライバル)ね……!)
何が、とは自分でも分からないが、直感的にそう感じた。
『ぷにっ(本日はお越しいただき、ありがとうございます)』
スリィが、いつもより心なしか声のトーンを高くして、紳士的に挨拶をする。
「うわ、スリィ、声色作ってる!?」
『ぷにぃ(お会いできて、大変光栄です)』
「キラキラした効果音を出すな! あなた、普段はもっと無機質でクールなキャラだったでしょ! どこで身につけたのよ、その社交スキルは!」
私の心のツッコミをよそに、二匹(?)の会話(ぷに語)は、意外なほど弾んでいた 。
セレナは、スリィが打ち立てたスライム福祉政策や、彼の研究成果に、深く感銘を受けている様子だった 。
(……まさか、本当にスリィにお嫁さんが……)
それは、喜ぶべきことのはずなのに、なぜか私の胸はチクリと痛んだ。
しかし、その時、お見合いの仲介役を務めていた保護連盟の役員が、そっと私に耳打ちした。
「実は……セレナ様のご希望はただ一つ。『人型への変化が可能なスライムであること』、なのです」
「……あ」
その言葉に、私はスリィの方を見た。彼は、まだその機能を持っていない 。
その瞬間、セレナの放つ光が、ふわっと淡くなった 。彼女は「また、いつか……」という気配だけを残し、静かに座を辞していった 。
スリィは、何も言わなかった 。
けれど、その後ろ姿は、ほんの少しだけ、寂しそうに見えた 。
◆
帰り道、王城へと続く月明かりの石畳を歩きながら、私はそっと尋ねた。
「……変身できるようになったら、君は、“誰か”と添い遂げたいと思うの?」
『……わかりません。ですが、変わる理由があるのであれば、変わる努力はしてみたいと思いました』
「……そっか」
スリィが、夜空に浮かぶ星を見上げる 。
『でも、今の私は、こうして貴女の隣にいられる。それだけで、十分に幸せですよ』
「……なにそれ。惚れるじゃないの……!」
『ぷに(計画通りです)』
「最後の一言が全てを台無しにするのよッ!!」
こうして、宰相スリィの最初で最後(?)のお見合い話は、静かに幕を下ろした。
けれど、それは同時に、スリィの中に芽生えた、自らの進化への、静かな決意の始まりでもあったのだった 。
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