『転生悪役令嬢、スライムで世界を変える』 ~追放先で見つけたヌルヌルが産業革命を巻き起こしました~

のびすけ。

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番外編『ぷにぷに神話・前日譚 ~最初のスライム~』

「分かたれしもの、ひとつの光」

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──語り部は、そっと語る。

「光とは、ひとつに見えて、実はふたつなのです。
 それが別れ、再びひとつになる時、世界に奇跡が起きる……と、言われています」



長き旅の果て。
スルは、世界の端に辿り着きました。

そこは、夜と朝が交わらず、
風も止まり、時間すら眠ってしまった場所。

“無響の断崖”。

誰もがそこを恐れ、近づかない。
だがスルは、呼ばれたのです。

ぷに、ぷに。
小さな音を刻みながら、彼は断崖の果てへと進んでいきました。

そこで、彼は“もうひとりの自分”に出会います。



それは、鏡のように自分に似ていました。
けれど、色は灰色で、瞳は冷たく、声を持ちませんでした。

それは、スルの“分かたれた魂”。

スルが癒してきた者たちの悲しみ。
孤独。怒り。痛み。喪失。

そのすべてを“引き受けて”きた影のかけら。

彼は名を持ちませんでした。
ただ、ずっと、スルの背後に寄り添い続けた“もうひとりのスル”。

『……』

影は言葉を持たず、ただスルを見つめました。

スルも、何も言わずに近づいていきます。

そして、影に触れた――その瞬間。

世界に、裂け目が走った。



記憶が、ぶわっと溢れ出しました。

灼光の窯で溶けた熱。
星の唄に染まった泉。
涙を知った王の笑み。

そのすべてが、スルを通して“影”に流れ込んだのです。

影は震え、初めて“声”を発しました。

『──いたい、やさしい、くるしい、なみだ』

それは、誰かの記憶ではない。
彼自身の、初めての“感情”だった。

スルは、ぷに、と震えながら、影に身体を重ねました。

それは、“ふたつの魂”が、ひとつに戻る瞬間。

光が、彼らを包みました。

暗かった影が、すこしだけ淡くなり、
透明だったスルが、すこしだけ曇りました。

けれど──それは“混ざった”のではなく、
互いに歩み寄って、“ひとつの輪”を作ったのです。



ふたりはもう、ひとりになった。

そして、世界の端にひとつの“穴”が現れました。

そこは、どこへも繋がらない空間。
ただ、いままでスルが出会ってきた“想い”だけが、流れ込む場所。

“記憶の庭”。

怒りを鎮めた石。
歌を託された泉。
涙を知った玉座。

それらが、すべて優しい形で、庭に咲き誇っていました。

スルはそこにそっと横たわると、
新しく生まれた“声”で、最後にこう言いました。

『ここが、わたしの終わり。
 でも、それは……新しい“やさしさ”のはじまり』

そして、世界のどこかに──

ぷにぷにと、やさしく震える、
“記憶を継ぐ者”たちが生まれ始めたのです。

彼らはみな、ほんのすこしだけ色を持ち、
ほんのすこしだけ、誰かの涙に敏感で。

そして、笑っていました。

その中に──

“スリィ”と呼ばれる、小さな、けれど芯のあるぷにぷにがいたこと。
それは、また別のお話。



──この神話が本当かどうか、誰にも分かりません。
けれど、夜空の下で小さなスライムが誰かを癒していたなら。

それは、きっと“スル”の記憶が受け継がれているからなのかもしれません。

次にあなたが涙を流す夜。
傍らで、小さなぷにぷにの気配がしたなら──

「それは、彼のやさしさ」なのです。

ーーーーー

──さあ、そろそろ夜も更けました。
語り部の仕事も、これでおしまいです。

でも最後に、ひとつだけ。
少しだけ、不思議な“現代の話”をさせてください。



ここは、今の時代。
ぷに王国と呼ばれる、世界でもっともやわらかくて、平和な国。

その中央広場には、ひときわ目立つ“ぷにぷに像”があります。

その姿は、丸くて、透明で、ちょっとおまぬけな形をしていて。
初めて見た旅人は、きまってこう言うのです。

「……な、なんだこの、癒し全振りのモニュメントは!?」

けれど、王国の民は口をそろえてこう言います。

「あれが、最初のぷに様だよ。世界を癒した伝説の、やわらかい勇者さま!」

その像の足元には、小さくこう刻まれています。

『ここから始まり、どこへも終わらない。
やわらかき者、世界を照らす。
名前はスル。ぷにの原点』

……そう、信じるか信じないかは、あなた次第ですが。



王国では、今日も子供たちが遊んでいます。

「ぷにスルごっこー! 王様のおなかをぷにって癒すのー!」

「わたし、星の唄の精霊役ー!」

「じゃあぼくは、涙の王様!」

……遊び方は、なかなかに個性的ですが、
誰もがやわらかく、やさしく、ぷにぷにと笑っているのです。

ある日、広場にひとりの年老いた旅人がやってきました。

風にゆれる白髪と、静かな瞳。

彼は、像の前にしゃがみ込むと、こう呟きました。

「……ああ、やっぱり似ている。君に」

「おかげで、泣けるようになったよ。ありがとう、ぷにの神さま」

そして、ひと粒の涙が、像の足元に落ちたとき。
像の中に、ほんのわずかに──光が、灯った気がしました。

気のせいかもしれません。
でも、見た者の心には、きっとずっと残ったことでしょう。



さあ、これで本当に、お話はおしまいです。

でも、忘れないでください。
やさしさとは、声高に語るものではなく。

ただそっと、傍にいてくれること。
冷たい心に、ほんのすこし触れてくれること。

まるで、
あの日、世界の隅で震えていた“ぷに”のように。

もしもあなたが、どこかで小さなぷにぷにに出会ったなら──
優しくしてあげてくださいね。

彼は、あなたの涙を知っているのですから。

──そして伝説は、
今日も、ぷに、と笑って語られていくのでした。
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