イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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最終章 第二話 すべての“好き”が、君への道標だった

開演のブザーと、最後の“お願い”

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LinkLive“卒業”文化祭、当日。

開演を三十分に控えたバックステージは、甘いポップコーンの匂いと、機材チェックの無機質な電子音、そして何より、これから始まる祭典への期待と緊張が入り混じった、独特の熱気に満ちていた。



壁にはファンからの応援メッセージが書かれた横断幕が飾られ、廊下を走り回るスタッフたちの足音と、客入れBGMの軽快なサウンドが、否応なしに胸を高鳴らせる。



俺、天城コウは“特別相談役”として、各チームの最後の準備を手伝って、その喧騒の中を駆け回っていた。ひよりたちの喫茶店に氷を運び、みなとさんのお化け屋敷の最終センサーチェックに付き合い、ステージ袖では音響スタッフと進行の最終確認を行う。



自分の出番があるわけではないのに、心臓は奇妙なほどに高鳴っていた。それは、この日のステージに、俺たちの、そして俺自身の“答え”が懸かっていることを、痛いほど理解していたからだ。



「天城くん、少しだけいいかしら」



ふいに、背後から凛とした声がした。振り返ると、そこには息を呑むほど美しいドレス姿の夜々先輩が、一人静かに立っていた。

演劇で纏う女王の衣装は、彼女の白い肌と銀の髪を、まるで芸術品のように引き立てている。



だが、その完璧な姿とは裏腹に、俺に差し出された彼女の指先は、かすかに冷たく、隠しきれない緊張を伝えていた。



「すごい衣装ですね。本物の女王様みたいです」



「……お世辞はいいわ」



彼女はそう言って、ふいと視線を逸らした。

俺は、彼女とのこれまでの日々を思い出していた。



初めてのコラボ配信で、俺の声に動揺してキャラが崩壊しかけた、あの夜。

ボイスドラマの練習で、唇が触れるか触れないかの距離で、本気の“好き”を囁かれた、あの息詰まるような瞬間。そして、昨夜、俺のアパートの前で告げられた、宣戦布告。



『あなたに相相応しいのは、未熟な妹なのか、それともこのわたくしなのか……その目で、見極めなさい』



彼女はずっと、気高く、強く、そして誰よりも脆い心で戦ってきた。俺という、年下の、不器用な後輩を相手に。



「……ただ、見ていなさい」



彼女は、意を決したように、俺の瞳をまっすぐに見つめ返した。

「わたくしが、この祭りの本当の主役になる瞬間を。……あなたのために、最高の舞台を用意したのだから」



それは、いつもの不敵な命令口調とは違う、少しだけ潤んだ瞳で告げられた、切実な“お願い”だった。

その瞳の奥に、俺への全ての想いを乗せて、彼女は静かに微笑んだ。俺は、ただ頷くことしかできなかった。







夜々先輩の熱を背中に感じながら、俺は次にメグとみなとさんのブースへと向かった。そこは、夜々先輩の楽屋とは対照的に、無数のケーブルとモニターに囲まれた、まるで秘密基地のような熱気に満ちていた。



「コウくん!見てくださいよこのVJソフト!みなとさんのプロジェクションマッピングと同期させて、アタシがリアルタイムで神演出ぶちかますんスよ!」



メグは、ヘッドセットを首にかけ、DJのようにコンソールを操りながら、興奮気味に俺に説明してくる。その瞳は、もはや恋する乙女のものではない。

最高のエンターテイメントを創り出す、プロのクリエイターの目だった。



「……あとは、タイミングだけ。葛城さん、信じてますから」



その隣で、みなとさんが静かに、しかし確かな信頼を込めて頷く。



俺は、この二人の関係性の変化に、胸が熱くなるのを感じていた。

最初は、俺を巡るライバルのようだった二人。



ガチオタで情熱家のメグと、クールで理論派のみなと。

水と油のように思えた彼女たちは、この文化祭の準備を通して、互いの才能を認め合い、唯一無二のパートナーとなっていた。



「二人とも、すごいな。最高のステージになりそうだ」



俺がそう言うと、メグはニカッと笑った。

「当たり前じゃないですか!アタシとみなとさんの才能が合わされば、向かうところ敵なしッスよ!……まあ、コウくんを一番輝かせるっていう目的は、ブレてないですけどね!」



みなとさんも、静かに微笑む。



「……見ていてください、レイくん。私たちが創り出す、“新しい景色”を」



彼女たちの瞳には、もう迷いはない。俺への想いを、それぞれの形で昇華させ、自分たちの“創作”という未来へと繋げようとしている。その強さが、眩しかった。







最後に、るるといのりちゃんの楽屋を覗くと、二人は小さな手を握り合い、お互いのセリフを確認していた。お揃いの白いワンピースが、姉妹のようで微笑ましい。



俺の姿に気づくと、二人はぱっと顔を輝かせた。



「先輩、見ていてください。私たちの、感謝の物語です」



いのりが、どこか吹っ切れたような、穏やかな表情で言う。

ホラー配信で泣き崩れた、あの夜。俺がかけた「泣いてもいい」という一言が、彼女を縛り付けていた“完璧”という名の呪いから、少しだけ解放したのかもしれない。



「うん!王子様に、ありがとうって伝えるの!」



るるも、元気いっぱいに頷く。小学生最後の夏休み、俺と過ごしたあの“デートのような取材”の日。

彼女もまた、小さな胸に、大きな恋心を育ててきた。



この朗読劇は、そんな二人が、俺への感謝と、そして、それぞれの足で未来へ歩き出すという決意を込めて創り上げた、卒業制作のようなものなのだろう。

その純粋な瞳に、俺は胸が熱くなるのを感じた。



全ての“挨拶”を終え、俺がステージ袖の定位置についたその時、客電が落ち、開演を告げるブザーが鳴り響いた。同時に、地鳴りのような割れんばかりの歓声がフロアを揺らす。



スポットライトの向こう側、俺たちの最後の祭りが、今、幕を開ける。

俺は、これから繰り広げられるであろう、彼女たちの最高のステージを、そして、その先にある俺自身の“答え”を、ただ固唾をのんで見守ることしかできなかった。
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