イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

文字の大きさ
176 / 177
最終章 最終話 約束のキスを、世界で一番好きな君へ

約束の、その先へ

しおりを挟む
静まり返ったステージ。

ひよりの最後の歌声の余韻が、まるで目に見えない光の粒子のように、会場の隅々まで満たしていく。



彼女は、大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼし、言葉を失っていた。スポットライトの下、純白のドレスを纏ったその姿は、あまりにも儚く、そして、どうしようもなく美しかった。



コメント欄も、あの熱狂的な弾幕が嘘のように、一瞬だけ時が止まったかのようだった。

誰もが、彼女が紡いだ、あまりにも純粋な恋の物語に、心を奪われていた。



やがて、堰を切ったように、温かい拍手が会場を包み込む。

それは、次第に大きなうねりとなり、彼女の勇気と、その真っ直ぐな想いを祝福するかのようだった。



ひよりは、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、それでも世界で一番美しく笑い、深く、深くお辞儀をした。

エンディングの音楽が流れ始め、誰もがこの伝説的なライブの終わりを確信した、その瞬間だった。



ふいに、エンディングの音楽が止まった。

ステージの照明が再び、柔らかく、しかし力強く、ステージの中央を照らし出す。

そこに、俺はゆっくりと歩み出た。



「――ひより、誕生日おめでとう」



サプライズゲストとしての、俺の登場。

一瞬の静寂の後、コメント欄は《!?!?》《レイ!?》《え、本人!?》《神展開》と、観測史上最大級の速度で爆発した。

会場からも、驚きと歓声が入り混じった、地鳴りのような声が上がる。



呆然とするひよりの前に立ち、俺はスタッフからマイクを受け取った。

ずしりと重い。

これから俺が口にする言葉の重さが、そのままマイクに乗り移ったかのようだった。



心臓が、うるさい。でも、もう迷いはなかった。



(ここから、コウ視点)



ひよりの歌が、俺の胸に突き刺さっていた。二年分の想いを込めた、あまりにも真っ直ぐな恋文。

その一言一句が、俺たちの思い出の扉を、次々と開いていく。



すべては、あの日から始まったんだ。病院のベッドで、声を失って絶望に泣き濡れるお前の姿を見た、あの日から。

「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」と、震える声で俺にすべてを託してきた、あの瞬間から。



ただ、妹を助けたい、その一心で引き受けた代役。

それが、俺の人生を、こんなにも色鮮やかなものに変えてしまうなんて、思いもしなかった。



Vtuberレイとしての俺の隣には、いつだって他のヒロインたちの笑顔があった。

完璧な女王様気取りで、でも本当は寂しがりな夜々先輩。



ボイスドラマの練習で、唇が触れるか触れないかの距離まで近づいた時、彼女が見せた潤んだ瞳を、俺は忘れられない。



クールなようで、誰よりも熱い情熱を秘めたみなとさん。

無人島で、俺のために黙って魚を焼いてくれた、その不器用な優しさが、胸に染みた。



太陽みたいに明るくて、俺を“推し”として全力で支えてくれたメグ。

彼女の「コウくんを一番輝かせてみせる!」という言葉に、俺はどれだけ勇気づけられただろう。



妹のように懐いてくれた、るるちゃんやいのりちゃん。

彼女たちの純粋な憧れの視線が、俺を“ちゃんとした大人”でいさせてくれた。



マインクラフトで、お前が俺との“愛の巣”ばかり作っていた、あの夏の日。

無人島で、食料よりも俺との時間を選んでくれた、あのサバイバル。



温泉旅行の夜、二人で見た、満点の星空。

あの時、浴衣姿のお前の横顔が、あまりにも綺麗で、心臓が大きく跳ねたのを、俺は一生忘れない。



そして、二年前の、あの“卒業”文化祭。

すべてのステージが終わり、祭りの後の静けさの中、俺はお前を呼び出した。



「最高のステージだった」と伝えると、お前は「……それで、お兄ちゃんの答えは?」と、震える声で尋ねた。俺は、あの時、こう言ったんだ。



『俺は、ソロデビューのオファーを受ける。でもそれは、お前から逃げるためじゃない。お前の隣に、胸を張って立つためだ。だから……ひよりが18歳になるまで、待っていてほしい。俺が、自分の足で、お前の隣に立つのにふさわしい男になったら、その時は、ちゃんと答えを言わせてくれ』



ひより、お前の今日の歌は、その約束に対する、完璧すぎるアンサーだった。

あいつはもう、俺に守られるだけの妹じゃない。

自分の力で、こんなにも大きなステージの真ん中で輝いている。



俺が支えていたんじゃない。俺が、支えられていたんだ。



この声も、この居場所も、全部、ひよりがくれたものだ。

だから、今度は俺が返す番だ。



もう、迷わない。

この声も、この人生も、全部、彼女のために。



俺は、マイクを握りしめ、ひよりの瞳をまっすぐに見つめた。



「ひより。俺の声は、お前がくれたものだ。でも、俺の人生は、これからはお前自身に捧げたい」



それは《レイ》でもなく、“お兄ちゃん”でもない。“天城コウ”としての、初めての告白だった。



「俺は、妹としてじゃなく、一人の女性として、天城ひよりを愛してる」



ひよりの大きな瞳から、再び涙がこぼれ落ちる。

でも、それはもう悲しみの涙じゃない。



「……俺と、結婚してください」



数万人が見守る配信の中、俺はひよりの前に、ひざまずいた。

そして、ポケットから取り出した小さな箱を、震える手で開いた。



そこには、朝渡したネックレスとお揃いの、小さなマイクがデザインされた、銀色の指輪が光っていた。



静まり返ったステージ。

ひよりは、大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼし、言葉を失っていた。



コメント欄も、一瞬だけ時が止まったかのようだった。

やがて、彼女は震える声で、しかしはっきりと、マイクに向かって叫んだ。



「……はいっ!」



その一言を合図に、コメント欄は歴史上最大級の祝福の弾幕で埋め尽くされた。

《うおおおおおお!》《結婚おめでとう!》《泣いた》《伝説になった》……。



俺は立ち上がり、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、それでも世界で一番美しく笑うひよりの手を取った。



「ひより、約束、覚えてるか?」



「……うん」



「二年前の、あの約束の……続き、しよっか」



俺は彼女をそっと引き寄せた。二年前の文化祭前夜にはできなかった、あの“約束の続き”。

数万人のファンの前で、俺たちは初めての、本当のキスを交わした。



その瞬間、会場からは割れんばかりの歓声が上がり、配信画面には無数の祝福のスパチャが虹のように降り注いだ。

それは、Vtuberの歴史に刻まれる、最高のハッピーエンドだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

処理中です...