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プロローグ
そして僕は、童貞のまま勇者を辞めました
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【陽奈美視点】
(……翔太、好き、だぁい好き……っ!♡)
思考が、蕩けて、ぐずぐずに溶けていく。
耳元で囁かれる翔太の荒い息遣い、私の名前を呼ぶ掠れた声、そのすべてが媚薬みたいに全身を駆け巡って、もう、どうにかなってしまいそうだった。
私の腰に絡みつく彼の脚は、異世界で十年も戦い抜いてきた勇者のもので、鋼のように硬くて、力強い。なのに、私を貫く彼のそこは、岩を溶かすマグマみたいに熱くて、私の奥を抉るたびに、身体の芯がじゅん…と甘く痺れた。
「あっ、んぅっ…!♡しょ、しょうたぁ…っ!♡♡♡」
もう、まともな言葉なんて出てこない。恥ずかしいなんて感情は、とっくの昔に快感の彼方へ吹き飛んでしまった。ただ、もっと欲しい、もっと翔太の全部で私を満たしてほしい、その本能だけが、私を突き動かす。シーツを握りしめる指先に、ぎゅっと力が入った。
(ああ、すごい…っ。翔太のが、陽奈美の中で、おっきくなってる…っ!♡)
奥の、一番感じるところを、ぐり、と抉られる。そこはダメ、そこを突かれたら、私、ほんとにおかしくなっちゃう…! 子宮がひくひくと甘く痙攣して、今まで感じたことのない途方もない快感の予感が、背筋を駆け上った。
涙で潤む瞳で翔太を見上げると、彼もまた、欲望に濡れた瞳で、私を欲情した雄の顔で見つめていた。その視線だけで、私の奥はきゅうっと締め付けられる。
「ひなみ…っ、もう、ダメだ…俺…」
「んんっ♡!いや、まだ、だめぇ…っ♡♡♡!」
まだいかせない。もっと、もっと深く、あなたの存在を、この身体に刻みつけて。
「も、陽奈美のぜんぶ、翔太で、いっぱいにしてぇっ…♡!」
泣きじゃくりながら、私は自分から腰を揺らした。
懇願するように、彼の腰に自分のそれを擦り付ける。
私の願いが通じたのか、翔太の動きが一段と激しくなった。
理性のタガが弾け飛んだ獣みたいに、私の腰を掴んで、容赦なく突き上げてくる。
痛いくらいなのに、それが、堪らなく気持ちいい。
「あ、あ、ああっ♡!いぐ、いっちゃうからぁあああッ♡♡♡!!」
脳が真っ白に染め上げられ、全身を凄まじい快楽の痺れが貫いた。翔太の熱い迸りが、私の身体の奥深くまで、何度も、何度も注ぎ込まれる。その熱を感じながら、私は意識を手放した。
ーーーーー
【主人公視点】
……甘い絶頂を夢想した夜を、僕は異世界で何度も、本当に何度も過ごした。
来る日も来る日も、血と泥に塗れて魔物と戦い、仲間と命を懸けてきた十年。
その唯一の心の支えが、平穏な日本の日常と、そして淡い期待だった。
全ては、元の世界に帰るため。
高校の教室、ありふれた毎日、そして、僕の帰りを待っている(かもしれない)人たちのいる、あの場所へ。
そして、十年を共に戦い抜いたパーティーメンバー。
聖女にして、アインツベルグ王国の第一王女、セラフィーナ・ルミナス・フォン・アインツベルグ。
慈愛に満ちた聖女様は、僕にだけは重すぎる愛と独占欲を隠さない。
森の叡智を宿すハイエルフの大魔法使い、ルナリア・シルバームーン。
人間を見下す彼女が、唯一「主」と認めて執着する相手が僕だった。
鋼の肉体を持つ王国騎士団の聖騎士、ブリジット・アイアンハンド。
質実剛健を絵に描いたような彼女は、僕への忠誠心と恋心を完全に混同している。
そして、ぴこぴこ動く兎耳が愛らしい兎獣人(ラパン)のシーフマスター、ミミ・コットンポウズ。
繁殖欲が人一倍強く、「ご主人様の子どもをたくさん産むウサ!」が口癖だ。
そんな個性豊かすぎる彼女たちと、魔王を倒した暁には、結婚して初体験を……なんていう、今思えば勇者にあるまじき不純な約束まで交わしてしまった。
二十六歳(精神年齢)にもなって童貞。僕だって、男なのだ。
そして、ついにその日は来た。
激戦の末、僕の聖剣が魔王の心臓を貫き、世界に平和が訪れた。凱旋した王城では盛大な祝宴が開かれ、その夜。
「「「「我が勇者様(主様・団長・ご主人様)!」」」」
用意されたのは、天蓋付きのキングサイズよりもさらに巨大な、ふっかふかのベッド。
そこで待ち構えていたのは、湯浴みを終えて肌を上気させた、四人の絶世の美女たちだった。
セラフィーナの豊満な胸が、薄いシルクのネグリジェ越しにその存在を主張する。
ルナリアのモデルのような肢体が、月光を浴びて神秘的に輝く。
ブリジットの鍛え上げられた腹筋と脚線美が、戦士の色香を放つ。
ミミの小柄な身体に不釣り合いな双丘が、愛らしくも扇情的に揺れる。
四人が四様に、艶かしく衣服を脱ぎ捨てていく。
さあ、僕の十年分の童貞が、今まさに報われる! 勇者としての最大のご褒美が、目の前に!
僕が、ゴクリと生唾を飲んで、一番近くにいたセラフィーナを抱きしめようとした、まさにその瞬間だった。
『――お疲れ様でした、勇者。貴方の役目は、これにて終了です』
頭の中に響いたのは、僕をこの世界に召喚した女神の、無慈悲で事務的な声だった。
「え?」
次の瞬間、僕の身体は目も眩むほどの光に包まれた。
セピア色の記憶のように、仲間たちの驚愕と悲しみに満ちた顔が遠ざかっていく。
「待ってくれ! 僕の初体験は!?」
そんな悲痛な叫びも虚しく、僕の意識はそこで途切れた。
◇
「……かわ、くん……相川君! ちょっと、大丈夫?」
「はっ!?」
身体を揺さぶられ、僕は勢いよく顔を上げた。
目に飛び込んできたのは、見慣れた、しかし十年ぶりに見る光景。
チョークの匂い、埃っぽいカーテン、窓から差し込む西日。そこは、僕が十年間夢にまで見た、日本の高校の教室だった。
そして、僕のすぐ隣では、心配そうに眉を寄せた少女が、僕の顔を覗き込んでいた。
「鮎川、さん……?」
「もう、さん付けなんてやめてよ、昔みたいに陽奈美って呼んでって言ってるでしょ? それにしても、急に机に突っ伏して唸るなんて、どこか具合でも悪いの?」
少しウェーブのかかった栗色のセミロングヘア。
感情豊かに輝く大きな瞳。太陽のような笑顔。
僕の幼馴染、鮎川陽奈美だ。
十年前はまだどこか子供っぽさが残っていたのに、すっかり可憐な美少女に成長している。
それにしても、距離が近い。
吐息がかかりそうなほど顔が近く、制服越しでもわかる柔らかそうな胸が、僕の腕にむにゅっと当たっている。シャンプーの甘い香りが、僕の鼻腔をくすぐった。
「(なんだ、この状況は…?)」
混乱する頭で、僕は無意識に自分のスキルを発動させていた。
勇者としてのチートスキルの一つ、【鑑定】。
万物の情報を読み解く、神の視点にも等しいスキルだ。
【鮎川 陽奈美】
種族:人間
ジョブ:付与術士
ステータス:
好意:98
独占欲:MAX
性的興奮度:85
身体情報:B88(D) / W58 / H86
性感帯:うなじ(S)、耳(S)、太ももの内側(A)、クリトリス(SS)
性癖:マーキング(独占欲の表れ)、甘い言葉での賞賛
「(情報量が多すぎるだろぉぉぉぉぉっ!!)」
僕は心の中で絶叫した。なんだこれは。
なんでスリーサイズから性感帯、性癖まで丸見えなんだ!? しかも性的興奮度85ってどういうことだ!? 僕、今、めちゃくちゃ欲情されてるじゃないか!
慌てて自分のステータスも確認する。
【相川 翔太】
称号:【真の勇者】【魔王を討伐せし者】etc...
種族:人間
年齢:18歳(肉体年齢) / 28歳(精神年齢)
ステータス:
筋力:EX(測定不能)
魔力:EX(測定不能)
敏捷性:EX(測定不能)
・
・
・
特殊状態:【魅力:MAX(制御不能)】
「(これかぁぁぁぁぁぁっ!!)」
原因は一目瞭然だった。勇者時代の能力はそのままに、なぜか【魅力】のパラメータだけがカンスト、いや、限界突破して『MAX(制御不能)』というとんでもない状態異常になっていた。
どうやら僕は、自分の意思とは無関係に、常に最大レベルの魅力(フェロモン)を周囲の女性に撒き散らしているらしい。陽奈美の異常な距離感と好意も、全てはこのスキルのせいなのだ。
訳が分からないまま、その日の授業は終わった。
僕は周囲の女子生徒からの熱視線に耐えながら、なんとか陽奈美の「一緒に帰ろ?」という誘いを振り切り、逃げるように家路についた。
◇
懐かしい我が家のドアを開けると、「おかえりなさい、翔太さん」という優しい声が僕を迎えてくれた。
義母の、静香さんだ。
僕が小学生の頃に父さんと再婚した義理の母で、今は父さんを亡くし、女手一つで僕と双子の義妹を育ててくれている。
しっとりとした黒髪をうなじで緩くまとめた、清楚で儚げな美人。少し憂いを帯びた優しい眼差しが、昔から変わらない。しかし、今日の彼女はどこか違った。僕を見るその瞳が、やけに熱っぽいのだ。
「あらあら、制服が少し汚れていますわ。さ、こちらへ」
そう言って、静香さんはごく自然な仕草で僕のブレザーの埃を払い始めた。
その時、彼女の豊満な胸が僕の腕に柔らかく押し当てられる。
【相川 静香】
種族:人間
年齢:28
ステータス:
母性:MAX
罪悪感:70
性的興奮度:65
身体情報:B95(G) / W62 / H93
性感帯:うなじから背中(S)、乳房(SS)、子宮の奥(S)
性癖:背徳感、尽くしたい願望(母性の性的な転化)
「(母さんまでぇぇぇぇっ!?)」
僕は硬直した。罪悪感と性的興奮度が同居している生々しいステータスが、僕の心を抉る。
そこへ、ドタドタとやかましい足音が二つ。
「「お兄ちゃん、おかえりー!」」
僕の腰に左右から抱きついてきたのは、中学二年生になったばかりの双子の義妹、理奈と瑠奈だった。
「こら、理奈、瑠奈。お兄さんは疲れているんですよ」
静香さんが優しく窘めるが、二人はお構いなしだ。
「だって、お兄ちゃんと、一緒にいたいんだもん!」
「…うん。お兄ちゃんの匂い、落ち着く」
好奇心旺盛で猫みたいな瞳の姉の理奈と、物静かで小動物のような妹の瑠奈。
瓜二つの美少女に成長した二人の仕草が、妙に小悪魔的で扇情的に見えてしまう。
成長途中の華奢な身体が、僕の身体にぴったりと密着していた。
【相川 理奈&瑠奈】
種族:人間
年齢:18
ステータス:
兄への愛情:MAX
独占欲:80
性的興奮度:50
(以下、二名分のえっちな情報が続く)
「(もう勘弁してくれ…!)」
僕は、この家にいてはいけない危険な獣になってしまったような気分だった。
極めつけは、夕食の時にリビングのテレビから流れてきたニュースだった。
『本日未明、新宿に出現したD級ダンジョン『ゴブリンの巣』は、ギルド所属の冒険者パーティーにより、三時間で攻略されました。これにより、首都圏の魔石エネルギー供給は、今後も安定する見通しです』
ダンジョン? 冒険者? 魔石?
それは、僕が十年戦ってきた異世界で使われていた言葉そのものだった。
どうやら僕が異世界にいる間に、この地球はとんでもない変貌を遂げていたらしい。
世界中にダンジョンが出現し、そこから産出される「魔石」が石油に代わる新エネルギーとなる〝冒険者時代〟へと。
僕が異世界で戦っていたダンジョンやモンスターと酷似した脅威が、今度は僕の故郷を脅かしている。
平穏な日常を取り戻すため。
そして、僕のせいで少しおかしくなってしまったけれど、それでもかけがえのない、この新しい家族を守るため。
僕は、異世界の知識とカンストしたステータスを武器に、現代ダンジョンの攻略を決意した。
だが、この時の僕はまだ知らなかった。
僕の意思とは無関係に撒き散らされる制御不能の魅力(フェロモン)が、僕が守ろうとしている日常そのものを、甘く、ドロドロに崩壊させていくということを……!
そして、僕を追って、世界の垣根を越えようとしている者たちがいることにも、まだ気づいてはいなかった。
(……翔太、好き、だぁい好き……っ!♡)
思考が、蕩けて、ぐずぐずに溶けていく。
耳元で囁かれる翔太の荒い息遣い、私の名前を呼ぶ掠れた声、そのすべてが媚薬みたいに全身を駆け巡って、もう、どうにかなってしまいそうだった。
私の腰に絡みつく彼の脚は、異世界で十年も戦い抜いてきた勇者のもので、鋼のように硬くて、力強い。なのに、私を貫く彼のそこは、岩を溶かすマグマみたいに熱くて、私の奥を抉るたびに、身体の芯がじゅん…と甘く痺れた。
「あっ、んぅっ…!♡しょ、しょうたぁ…っ!♡♡♡」
もう、まともな言葉なんて出てこない。恥ずかしいなんて感情は、とっくの昔に快感の彼方へ吹き飛んでしまった。ただ、もっと欲しい、もっと翔太の全部で私を満たしてほしい、その本能だけが、私を突き動かす。シーツを握りしめる指先に、ぎゅっと力が入った。
(ああ、すごい…っ。翔太のが、陽奈美の中で、おっきくなってる…っ!♡)
奥の、一番感じるところを、ぐり、と抉られる。そこはダメ、そこを突かれたら、私、ほんとにおかしくなっちゃう…! 子宮がひくひくと甘く痙攣して、今まで感じたことのない途方もない快感の予感が、背筋を駆け上った。
涙で潤む瞳で翔太を見上げると、彼もまた、欲望に濡れた瞳で、私を欲情した雄の顔で見つめていた。その視線だけで、私の奥はきゅうっと締め付けられる。
「ひなみ…っ、もう、ダメだ…俺…」
「んんっ♡!いや、まだ、だめぇ…っ♡♡♡!」
まだいかせない。もっと、もっと深く、あなたの存在を、この身体に刻みつけて。
「も、陽奈美のぜんぶ、翔太で、いっぱいにしてぇっ…♡!」
泣きじゃくりながら、私は自分から腰を揺らした。
懇願するように、彼の腰に自分のそれを擦り付ける。
私の願いが通じたのか、翔太の動きが一段と激しくなった。
理性のタガが弾け飛んだ獣みたいに、私の腰を掴んで、容赦なく突き上げてくる。
痛いくらいなのに、それが、堪らなく気持ちいい。
「あ、あ、ああっ♡!いぐ、いっちゃうからぁあああッ♡♡♡!!」
脳が真っ白に染め上げられ、全身を凄まじい快楽の痺れが貫いた。翔太の熱い迸りが、私の身体の奥深くまで、何度も、何度も注ぎ込まれる。その熱を感じながら、私は意識を手放した。
ーーーーー
【主人公視点】
……甘い絶頂を夢想した夜を、僕は異世界で何度も、本当に何度も過ごした。
来る日も来る日も、血と泥に塗れて魔物と戦い、仲間と命を懸けてきた十年。
その唯一の心の支えが、平穏な日本の日常と、そして淡い期待だった。
全ては、元の世界に帰るため。
高校の教室、ありふれた毎日、そして、僕の帰りを待っている(かもしれない)人たちのいる、あの場所へ。
そして、十年を共に戦い抜いたパーティーメンバー。
聖女にして、アインツベルグ王国の第一王女、セラフィーナ・ルミナス・フォン・アインツベルグ。
慈愛に満ちた聖女様は、僕にだけは重すぎる愛と独占欲を隠さない。
森の叡智を宿すハイエルフの大魔法使い、ルナリア・シルバームーン。
人間を見下す彼女が、唯一「主」と認めて執着する相手が僕だった。
鋼の肉体を持つ王国騎士団の聖騎士、ブリジット・アイアンハンド。
質実剛健を絵に描いたような彼女は、僕への忠誠心と恋心を完全に混同している。
そして、ぴこぴこ動く兎耳が愛らしい兎獣人(ラパン)のシーフマスター、ミミ・コットンポウズ。
繁殖欲が人一倍強く、「ご主人様の子どもをたくさん産むウサ!」が口癖だ。
そんな個性豊かすぎる彼女たちと、魔王を倒した暁には、結婚して初体験を……なんていう、今思えば勇者にあるまじき不純な約束まで交わしてしまった。
二十六歳(精神年齢)にもなって童貞。僕だって、男なのだ。
そして、ついにその日は来た。
激戦の末、僕の聖剣が魔王の心臓を貫き、世界に平和が訪れた。凱旋した王城では盛大な祝宴が開かれ、その夜。
「「「「我が勇者様(主様・団長・ご主人様)!」」」」
用意されたのは、天蓋付きのキングサイズよりもさらに巨大な、ふっかふかのベッド。
そこで待ち構えていたのは、湯浴みを終えて肌を上気させた、四人の絶世の美女たちだった。
セラフィーナの豊満な胸が、薄いシルクのネグリジェ越しにその存在を主張する。
ルナリアのモデルのような肢体が、月光を浴びて神秘的に輝く。
ブリジットの鍛え上げられた腹筋と脚線美が、戦士の色香を放つ。
ミミの小柄な身体に不釣り合いな双丘が、愛らしくも扇情的に揺れる。
四人が四様に、艶かしく衣服を脱ぎ捨てていく。
さあ、僕の十年分の童貞が、今まさに報われる! 勇者としての最大のご褒美が、目の前に!
僕が、ゴクリと生唾を飲んで、一番近くにいたセラフィーナを抱きしめようとした、まさにその瞬間だった。
『――お疲れ様でした、勇者。貴方の役目は、これにて終了です』
頭の中に響いたのは、僕をこの世界に召喚した女神の、無慈悲で事務的な声だった。
「え?」
次の瞬間、僕の身体は目も眩むほどの光に包まれた。
セピア色の記憶のように、仲間たちの驚愕と悲しみに満ちた顔が遠ざかっていく。
「待ってくれ! 僕の初体験は!?」
そんな悲痛な叫びも虚しく、僕の意識はそこで途切れた。
◇
「……かわ、くん……相川君! ちょっと、大丈夫?」
「はっ!?」
身体を揺さぶられ、僕は勢いよく顔を上げた。
目に飛び込んできたのは、見慣れた、しかし十年ぶりに見る光景。
チョークの匂い、埃っぽいカーテン、窓から差し込む西日。そこは、僕が十年間夢にまで見た、日本の高校の教室だった。
そして、僕のすぐ隣では、心配そうに眉を寄せた少女が、僕の顔を覗き込んでいた。
「鮎川、さん……?」
「もう、さん付けなんてやめてよ、昔みたいに陽奈美って呼んでって言ってるでしょ? それにしても、急に机に突っ伏して唸るなんて、どこか具合でも悪いの?」
少しウェーブのかかった栗色のセミロングヘア。
感情豊かに輝く大きな瞳。太陽のような笑顔。
僕の幼馴染、鮎川陽奈美だ。
十年前はまだどこか子供っぽさが残っていたのに、すっかり可憐な美少女に成長している。
それにしても、距離が近い。
吐息がかかりそうなほど顔が近く、制服越しでもわかる柔らかそうな胸が、僕の腕にむにゅっと当たっている。シャンプーの甘い香りが、僕の鼻腔をくすぐった。
「(なんだ、この状況は…?)」
混乱する頭で、僕は無意識に自分のスキルを発動させていた。
勇者としてのチートスキルの一つ、【鑑定】。
万物の情報を読み解く、神の視点にも等しいスキルだ。
【鮎川 陽奈美】
種族:人間
ジョブ:付与術士
ステータス:
好意:98
独占欲:MAX
性的興奮度:85
身体情報:B88(D) / W58 / H86
性感帯:うなじ(S)、耳(S)、太ももの内側(A)、クリトリス(SS)
性癖:マーキング(独占欲の表れ)、甘い言葉での賞賛
「(情報量が多すぎるだろぉぉぉぉぉっ!!)」
僕は心の中で絶叫した。なんだこれは。
なんでスリーサイズから性感帯、性癖まで丸見えなんだ!? しかも性的興奮度85ってどういうことだ!? 僕、今、めちゃくちゃ欲情されてるじゃないか!
慌てて自分のステータスも確認する。
【相川 翔太】
称号:【真の勇者】【魔王を討伐せし者】etc...
種族:人間
年齢:18歳(肉体年齢) / 28歳(精神年齢)
ステータス:
筋力:EX(測定不能)
魔力:EX(測定不能)
敏捷性:EX(測定不能)
・
・
・
特殊状態:【魅力:MAX(制御不能)】
「(これかぁぁぁぁぁぁっ!!)」
原因は一目瞭然だった。勇者時代の能力はそのままに、なぜか【魅力】のパラメータだけがカンスト、いや、限界突破して『MAX(制御不能)』というとんでもない状態異常になっていた。
どうやら僕は、自分の意思とは無関係に、常に最大レベルの魅力(フェロモン)を周囲の女性に撒き散らしているらしい。陽奈美の異常な距離感と好意も、全てはこのスキルのせいなのだ。
訳が分からないまま、その日の授業は終わった。
僕は周囲の女子生徒からの熱視線に耐えながら、なんとか陽奈美の「一緒に帰ろ?」という誘いを振り切り、逃げるように家路についた。
◇
懐かしい我が家のドアを開けると、「おかえりなさい、翔太さん」という優しい声が僕を迎えてくれた。
義母の、静香さんだ。
僕が小学生の頃に父さんと再婚した義理の母で、今は父さんを亡くし、女手一つで僕と双子の義妹を育ててくれている。
しっとりとした黒髪をうなじで緩くまとめた、清楚で儚げな美人。少し憂いを帯びた優しい眼差しが、昔から変わらない。しかし、今日の彼女はどこか違った。僕を見るその瞳が、やけに熱っぽいのだ。
「あらあら、制服が少し汚れていますわ。さ、こちらへ」
そう言って、静香さんはごく自然な仕草で僕のブレザーの埃を払い始めた。
その時、彼女の豊満な胸が僕の腕に柔らかく押し当てられる。
【相川 静香】
種族:人間
年齢:28
ステータス:
母性:MAX
罪悪感:70
性的興奮度:65
身体情報:B95(G) / W62 / H93
性感帯:うなじから背中(S)、乳房(SS)、子宮の奥(S)
性癖:背徳感、尽くしたい願望(母性の性的な転化)
「(母さんまでぇぇぇぇっ!?)」
僕は硬直した。罪悪感と性的興奮度が同居している生々しいステータスが、僕の心を抉る。
そこへ、ドタドタとやかましい足音が二つ。
「「お兄ちゃん、おかえりー!」」
僕の腰に左右から抱きついてきたのは、中学二年生になったばかりの双子の義妹、理奈と瑠奈だった。
「こら、理奈、瑠奈。お兄さんは疲れているんですよ」
静香さんが優しく窘めるが、二人はお構いなしだ。
「だって、お兄ちゃんと、一緒にいたいんだもん!」
「…うん。お兄ちゃんの匂い、落ち着く」
好奇心旺盛で猫みたいな瞳の姉の理奈と、物静かで小動物のような妹の瑠奈。
瓜二つの美少女に成長した二人の仕草が、妙に小悪魔的で扇情的に見えてしまう。
成長途中の華奢な身体が、僕の身体にぴったりと密着していた。
【相川 理奈&瑠奈】
種族:人間
年齢:18
ステータス:
兄への愛情:MAX
独占欲:80
性的興奮度:50
(以下、二名分のえっちな情報が続く)
「(もう勘弁してくれ…!)」
僕は、この家にいてはいけない危険な獣になってしまったような気分だった。
極めつけは、夕食の時にリビングのテレビから流れてきたニュースだった。
『本日未明、新宿に出現したD級ダンジョン『ゴブリンの巣』は、ギルド所属の冒険者パーティーにより、三時間で攻略されました。これにより、首都圏の魔石エネルギー供給は、今後も安定する見通しです』
ダンジョン? 冒険者? 魔石?
それは、僕が十年戦ってきた異世界で使われていた言葉そのものだった。
どうやら僕が異世界にいる間に、この地球はとんでもない変貌を遂げていたらしい。
世界中にダンジョンが出現し、そこから産出される「魔石」が石油に代わる新エネルギーとなる〝冒険者時代〟へと。
僕が異世界で戦っていたダンジョンやモンスターと酷似した脅威が、今度は僕の故郷を脅かしている。
平穏な日常を取り戻すため。
そして、僕のせいで少しおかしくなってしまったけれど、それでもかけがえのない、この新しい家族を守るため。
僕は、異世界の知識とカンストしたステータスを武器に、現代ダンジョンの攻略を決意した。
だが、この時の僕はまだ知らなかった。
僕の意思とは無関係に撒き散らされる制御不能の魅力(フェロモン)が、僕が守ろうとしている日常そのものを、甘く、ドロドロに崩壊させていくということを……!
そして、僕を追って、世界の垣根を越えようとしている者たちがいることにも、まだ気づいてはいなかった。
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【作者より、感謝を込めて】
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本当に、ありがとうございます。
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アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
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第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
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※小説家になろう様にも掲載しています。
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