影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様

佐藤 あまり

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 さて、ルイスとして生きようと思ったものの、僕はすぐにボロが出てしまいそうだ。ちゃんと考えないと…まずは人に近づかないこと。触れないこと。
 これをしっかり守ろう。あとは…黒手袋、そして肌を出さないことかな。ルイスはいつも黒手袋をつけて肌を出さない服を来ていたらしいから。
 言葉遣いも頑張んないと。うぅ…本当に演じられるか不安になってきた。

 クゥ…んん、お腹がなった。今は何時だろう。随分日が高い。
 そういえば、さっき、この部屋に男の子が来たよね。確か朝食とか言ってたような…ルイスの従者さんだったのかも。
 きゅるるるる……ご飯のことを考えた瞬間、お腹が大きく鳴り始めた。
 どうしよう、探しに…行こうかな。そろそろと立ち上がりドアを開ける。
 ぺたぺた、裸足のまま出てきてしまった。廊下を随分歩いたけれど誰にも会わない。

 歩いても、歩いても、誰もいなくて、知らない場所にどうしようもない不安に襲われた僕は、走り出した。
 どこをどう曲がったかなんて分からない。誰かがいる所まで、走って、走って。
 誰かが廊下を歩いているのが見えた。走るのをやめて、恐る恐るうかがう。
 ……誰かがこちらを見た!あの少年が来ていた服と似たような服を着ている。
 その人はこちらへ向かってきて、少し離れたところで一言、

 「ここで何をなさっているのですか」

 驚く程に冷たい視線、ここにいるのが気に食わないと言いたげな目付きに僕は狼狽した。
 どうすればいいのか分からなくて、押し黙る。沈黙が苦しい。その時、

「おい、どうした。」

 後ろから声がした。弾かれるように振り向くとそこには、濃い金色の髪に紅玉の瞳。第2王子の、リオンだった。

 「リオン様、ルイス様がこちらにいらっしゃったので、なにか御用があるのかと、お聞きしていたところです。」

 さっきとは別人のように柔らかい雰囲気でその人は答えた。

 「そうか、わかった。あとは俺にまかせてさがれ。」

 リオンが僕に向き直る。

 「おまえ、どうしてここにいる。」

 鋭い紅玉の瞳が僕を射抜いた。ルイスらしく…ルイスらしく…

 「…人を、探しに来ただけだ。」

 「へぇ、人嫌いのお前か?」

 返答に詰まってしまった。俯いて、どうしよう、どうしようと頭の中はそればかりで。

 「ルイス様!」

 名前を呼ぶ声がして、さっきご飯を運んできてくれた少年がこちらに駆け寄って来た。

 「…見つかった。帰る。」

 「ルイス様、図書棟にもいらっしゃらないようで、心配致しました。」

「リオン様、私はルイス様の側仕え、
ラトと申します。」
 
 ラトさんって言うんだ。心配…涙がこぼれそうになってしまった。いやいや、さっきのあの人みたいに、リオンの前では丁寧に話すのかも。でも、朝少しあった時と同じ、柔らかい雰囲気だなぁ。
 とにかく部屋に帰らないと、どっちからきたっけ?もしかして、迷子……どうしよう、こっち、かな?

「お前の部屋は逆方向だぞ」

 にっ2択ミスったー!方向音痴がここぞとばかりに発揮されてしまった。焦る僕。

「自分の部屋の場所も分からないのか」

 もう本当に泣きそうだ。こんなことで1年、演じ切れるんだろうか。俯いて、ぎゅうっと目を閉じる。

「私を探しに来て下さったのですね。戻りましょう、ルイス様、こちらです。」

……助けてくれた?ラトさんが歩き出して、その後ろについて行く。随分と遠くにきてしまったみたいで、やっと部屋に着いた。

 クゥ……

「ちょうど、お食事をお持ちしようとしたところだったんです。召し上がりますか?」

 こくりと頷く。ラトさんのは柔らかく微笑んで、ご飯を取りに行ってくれた。
 まだ、心臓がバクバクしている。嫌悪の混ざった視線が今更ながらとても恐ろしくなって、ラトさんの気遣いが嬉しかった。

 「お待たせ致しました。こちらに置いてもよろしいですか?」

 ラトさんが帰ってきた。パン主食の、美味しそうなプレートだ。
 
 「さっきは、ありがとう。」

 「もったいないお言葉です。今度から私を呼ぶ時は、こちらの鈴をお使いください。鳴らせばすぐに参ります。」

 ラトさんが机に置いてあった、小さな鈴を差す。

 「わかった。そうする。」

 ラトさんはお辞儀をして、部屋から出ていった。ラトさんは常に一定の距離を保って僕に接してくる。人が苦手なルイスに配慮してくれているんだろう。

 少し手が震えている……嫌われてるって分かっていたつもりだった。いざとなると情けないくらいに戸惑うしかなくて、気持ちが沈んだ。

 ご飯を食べたけど、あんまり味が分からなくて、その日はそのままベットに潜り込んで泥のように眠った。
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