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4 あったかシチュー
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何とかドアを開け、ソファのを上にそっとその子を下ろした瞬間、ぱたぱたと抵抗し始めた。
「ごめんなさい…!俺、汚い…!」
「大丈夫、お風呂に入ればいいんだから、気にしないでいい」
戸惑いを隠せない様子だ。そのままだと良くないのでとりあえずお風呂に入ってもらおう。
うーん、一緒に入った方がいいか?でも出会ったばかりの人となんて怖いか。シャワーの場所やシャンプーなどの説明をして、俺はキッチンにご飯を作りに行った。
なにを作ろうか……あまり食べれてなかったみたいだし、今の食材だとスープくらいか?シチューはどうだろうか。
まぁ、よし、味は置いといて野菜を切っていくか、ふとキッチンの給湯器メーターを見ると、冷水!?俺さっきスイッチつけたよな?!
慌ててお風呂場に向かい、ノックする。
「ちょっとごめん、入るな」
ぴちゃり、足が冷たかった。こちらに顔を向け、震えてる男の子。
「えっ…ご、ごめんなさい…なにか悪いことを…!」
「ちがうちがう、お湯を使ってくれるか?」
「いいの……?」
「いいに決まってる、ああ、体がこんなに冷え固まって……髪とか俺が洗ってもいいか?」
「ん……」
シャワーヘッドを受け取り少しずつお湯をかけていく。
「耳とか、触っても大丈夫か?」
「うん……大丈夫」
「ふふ、可愛い耳だな」
犬の獣人なのか、たれ耳としっぽがついていた。しっかりシャンプーをした髪は金色で、まるでゴールデンレトリバーみたいでとても可愛い。
背中を洗ったり一通り済ませ、ゆっくりあったまってな、と湯船に浸かったその子を見届け、俺は急いで料理の続きをする。
控えめに呼ばれ、髪を丁寧に拭いたあと、しっぽもタオルでぱふぱふと挟んで水気をとり、煮ている間にドライヤー的な魔法具で乾かしていく。
炎と風の薄い楕円形の魔法石が重ねてある手のひらサイズのやつが、ゴムバンドで手に引っ掛けられるようになってる。つまり、手から温風が出る優れものだ。
ふわふわの、少しくりっとした金の髪を撫でて、耳としっぽもしっかり乾かしていく。とかし終わってさらふわになる頃、コトコトとお鍋がいい香りを放ち始めた。
「よし、できた。服俺のでごめんな、明日にでも一緒に買いに行こう」
俺のパジャマの上だけでもぶかぶかだ。袖をまくって何とか着てもらった。
手を繋いで椅子に座らせ、とりあえずシチューを持ってくる。おいもが入ってるし、パンは食べられそうなら持ってこよう。
「ここにシチューがあるからな、少し熱いから気をつけて食べなね。多少こぼしても大丈夫だから気にしなくていいぞ」
「あっ…ありがとう、ございます」
俺も食べるか、もう夜ご飯だ。こじんまりとしたテーブルの向かいに座って、手を合わせる。
「いただきます」
「い、いただきます」
様子をうかがって手をつけていなかったが、俺が食べ始める音がすると、挨拶の言葉を繰り返してスプーンを握った。口に合うだろうか……
はぷり、恐る恐るシチューをすくい、口に入れた次の瞬間
「……っふ……っううっひっ……」
「熱かったか……?!」
「ちがっ……ちがくて!ただ、あったかかったから、それで……っ」
我慢するように声をくぐもらせ、閉じたままの目から涙を滴り落としながら、1口、2口、3口と食べ、余程お腹がすいていたのだろう、息をはふはふとつきながら必死にスプーンを口に運んでいる。
「ふ……はあ、ん……ん」
あっという間に完食してしまった。足りなかったかな、でもあんまりいっぺんに食べても良くないよな……
「もう、お腹空いてないか……?」
「ん……お腹、あったかい」
「そっか、良かった」
「あの……」
「ん?なあに?」
「どうして……どうして俺を引き取ったの……?」
「それは、お」
「俺、目も治らなかった……何の役にも立たないのに……!価値が、ないのに……!」
俺の言葉を待たず、はくはくと震える声で叫ぶように吐き出されたそれに、ひゅっ……喉が引きった。ああ、そんなこと、こんな子供に言わせていいはずがない。言わせてはいけなかった……!
「役に立つとか立たないとか、そんなんで引き取ったんじゃない……!俺が、君と一緒にいたいと思ったから……!だから……!」
俺が泣きそうになってどうする。泣いていいのは俺じゃない。
「一緒に……?」
「っ……ああ、一緒に」
笑ってもこの子には見えない、そっと手を取って口元に当ててみた。俺が笑っていることが伝わったのだろうか。初めて抱きついて来た。ぎゅうううっとしがみつく小さな手と嗚咽が痛々しくて。
「誰も怒らないから……我慢しないで泣いていい」
「ううううう……っああ……ああああっひっ……」
何かが決壊したみたいに泣きじゃくる小さな体を抱きしめ、背中を、頭を、そっと撫で続けていた。
「ごめんなさい…!俺、汚い…!」
「大丈夫、お風呂に入ればいいんだから、気にしないでいい」
戸惑いを隠せない様子だ。そのままだと良くないのでとりあえずお風呂に入ってもらおう。
うーん、一緒に入った方がいいか?でも出会ったばかりの人となんて怖いか。シャワーの場所やシャンプーなどの説明をして、俺はキッチンにご飯を作りに行った。
なにを作ろうか……あまり食べれてなかったみたいだし、今の食材だとスープくらいか?シチューはどうだろうか。
まぁ、よし、味は置いといて野菜を切っていくか、ふとキッチンの給湯器メーターを見ると、冷水!?俺さっきスイッチつけたよな?!
慌ててお風呂場に向かい、ノックする。
「ちょっとごめん、入るな」
ぴちゃり、足が冷たかった。こちらに顔を向け、震えてる男の子。
「えっ…ご、ごめんなさい…なにか悪いことを…!」
「ちがうちがう、お湯を使ってくれるか?」
「いいの……?」
「いいに決まってる、ああ、体がこんなに冷え固まって……髪とか俺が洗ってもいいか?」
「ん……」
シャワーヘッドを受け取り少しずつお湯をかけていく。
「耳とか、触っても大丈夫か?」
「うん……大丈夫」
「ふふ、可愛い耳だな」
犬の獣人なのか、たれ耳としっぽがついていた。しっかりシャンプーをした髪は金色で、まるでゴールデンレトリバーみたいでとても可愛い。
背中を洗ったり一通り済ませ、ゆっくりあったまってな、と湯船に浸かったその子を見届け、俺は急いで料理の続きをする。
控えめに呼ばれ、髪を丁寧に拭いたあと、しっぽもタオルでぱふぱふと挟んで水気をとり、煮ている間にドライヤー的な魔法具で乾かしていく。
炎と風の薄い楕円形の魔法石が重ねてある手のひらサイズのやつが、ゴムバンドで手に引っ掛けられるようになってる。つまり、手から温風が出る優れものだ。
ふわふわの、少しくりっとした金の髪を撫でて、耳としっぽもしっかり乾かしていく。とかし終わってさらふわになる頃、コトコトとお鍋がいい香りを放ち始めた。
「よし、できた。服俺のでごめんな、明日にでも一緒に買いに行こう」
俺のパジャマの上だけでもぶかぶかだ。袖をまくって何とか着てもらった。
手を繋いで椅子に座らせ、とりあえずシチューを持ってくる。おいもが入ってるし、パンは食べられそうなら持ってこよう。
「ここにシチューがあるからな、少し熱いから気をつけて食べなね。多少こぼしても大丈夫だから気にしなくていいぞ」
「あっ…ありがとう、ございます」
俺も食べるか、もう夜ご飯だ。こじんまりとしたテーブルの向かいに座って、手を合わせる。
「いただきます」
「い、いただきます」
様子をうかがって手をつけていなかったが、俺が食べ始める音がすると、挨拶の言葉を繰り返してスプーンを握った。口に合うだろうか……
はぷり、恐る恐るシチューをすくい、口に入れた次の瞬間
「……っふ……っううっひっ……」
「熱かったか……?!」
「ちがっ……ちがくて!ただ、あったかかったから、それで……っ」
我慢するように声をくぐもらせ、閉じたままの目から涙を滴り落としながら、1口、2口、3口と食べ、余程お腹がすいていたのだろう、息をはふはふとつきながら必死にスプーンを口に運んでいる。
「ふ……はあ、ん……ん」
あっという間に完食してしまった。足りなかったかな、でもあんまりいっぺんに食べても良くないよな……
「もう、お腹空いてないか……?」
「ん……お腹、あったかい」
「そっか、良かった」
「あの……」
「ん?なあに?」
「どうして……どうして俺を引き取ったの……?」
「それは、お」
「俺、目も治らなかった……何の役にも立たないのに……!価値が、ないのに……!」
俺の言葉を待たず、はくはくと震える声で叫ぶように吐き出されたそれに、ひゅっ……喉が引きった。ああ、そんなこと、こんな子供に言わせていいはずがない。言わせてはいけなかった……!
「役に立つとか立たないとか、そんなんで引き取ったんじゃない……!俺が、君と一緒にいたいと思ったから……!だから……!」
俺が泣きそうになってどうする。泣いていいのは俺じゃない。
「一緒に……?」
「っ……ああ、一緒に」
笑ってもこの子には見えない、そっと手を取って口元に当ててみた。俺が笑っていることが伝わったのだろうか。初めて抱きついて来た。ぎゅうううっとしがみつく小さな手と嗚咽が痛々しくて。
「誰も怒らないから……我慢しないで泣いていい」
「ううううう……っああ……ああああっひっ……」
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