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1度目
5 名前をもらった日
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ひっひっとしゃっくりをしながらも泣き止んだのはもうとっぷりと日が暮れてからだった。
「ん……もう、大丈夫」
「良かった、ああ、目も顔もまっかっかだ」
ほっぺを親指でなぞれば火照った顔に心地よかったのか、すりっ……と頬を寄せた。
氷……は、まだ作ってなかった、濡れタオルでもないよりましだろう。
「2人して床に座り込んじゃってたな、よしよし、ソファーでちょっと目を冷やそうな」
俺の膝の上に頭を乗っけて横になってもらう。さらさらとかかる髪をよけてタオルを置いた。
「あ、」
「どうしたの……?」
なんてことだ、色々必死で俺はまだこの子に名前すら話してなかった。
「ええっと……遅くなったけど、俺はレイっていうんだ。レイって呼んでくれると嬉しい」
「あ……俺、名前ない……でもっ!好きに呼んでもらえれば……!番号とかでも……!」
「んん……俺が名前を付けてもいいってことか?素敵な名前を考えなくちゃな」
「名前……俺の?俺だけの名前?」
「もちろん、君だけの名前を」
「あ、ありがとう……!嬉しい……」
「さあ、疲れただろう、今日はそろそろ寝ような」
ベットも残してくれていて、ちょうど2つ、少し隙間を開けて並ぶベットの片方に下ろし、布団をかけた。
「ゆっくりおやすみ、俺もすぐ隣のベットにいるから、なんでも言ってな」
ふわふわの頭を撫でて、布団の上からぽんぽんと叩けば、すぐに寝息を立て始め、俺も隣のベットで眠りについた。
❀・┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈・❀
夜中、ちいさな声が聞こえたような気がして目が覚めた。
「やだ……っごめんなさい……っごめっ……」
膝を丸め、頭を抱えて震えている、目は覚めていない……嫌な夢を見てしまっているようだ。
傷になりそうなほど強く握りしめられた拳を解きほぐして、繋いだ。そっと抱き上げて涙を拭う。
きゅっ……と控えめにしがみつかれる手を誰が振り払えると言うんだ。
呼吸が落ち着き、安心した俺もまぶたが重くなる。腕の中の温もりをしっかりと抱きしめ、もうその夜に泣き声が聞こえることはなかった。
……ふわふわしたぬくもりが腕の中からもぞもぞと焦ったように抜け出そうとする。
「ごめんなさいっ…!おれ…!おれ…!」
薄目で確認した時計の針はまだ朝方を指している。
「んん…ほら…まだ早いからもう少し寝ときな…」
朝方の永遠に眠っていたくなるモードはなんなんだろうな……寝ぼけ眼でふわふわを抱えんで、二度寝を決め込む。
どれくらい眠っていたのだろうか、まぶたの裏に光が溢れる感覚に意識が浮上した。薄暗かったはずの部屋にはもう朝日が差し込んでいる。
ゆっくりと起き上がると、すぐ隣のぬくもりも目を覚ましたみたいだ。ふにゃふにゃとした動きで何かを探すような手が、俺を見つけてそっと掴んだ。
「おはよう、よく眠れたか?」
「おはようございます……あの、なんで一緒に…?」
「悪い、嫌だったか?魘されてて、ついな」
「嫌じゃない……嬉しくて……」
「なら良かった、ちょっと狭くなっちゃってごめんな」
まだぽやぽやしているようだ、窓から差し込む朝日に透けた髪がきらきらと輝いている。まるで琥珀みたいだ……コハク、コハク、か……
「なあ、名前なんだけど、コハク、はどうだ?」
「コハク……?」
「宝石の名前なんだ。君の髪みたいに綺麗で、握るとあったかくて、小さい頃俺はおひさまでできてると思ってた。でも本当かもな。木がたくさんたくさん陽を浴びて、大きくなって、そうしてできる、おひさまのいし。どうか、君の髪がきらきらする場所にいられるように、あったかくて優しい道を歩けるように……気に入って貰えると嬉しいんだけど」
戸惑うようにふるふると震えた唇がきゅっと1度閉じられ、息を吐き出した。次の瞬間、
「コハク…俺…コハク…!コハクがいい…!」
「っ……良かった、そうだ、じゃあ……」
きゅっと手を握り、こつりとおでこを合わせる。
「おはよう、コハク」
「お、はよう……!れい……!」
「ふふ、俺の名前も呼んでくれたな」
「うん…!れい…れい…!ありがとう……」
溢れんばかりの日差しの中、初めてこの子の、コハクの笑った顔を見た。
ああ、良かった……ほんとうに
ちいさな手を握ればそっと握り返してくれる。もう大丈夫、きっと一緒に歩いて行ける。
「さあ、コハク、朝ごはんにしよう」
「ん……もう、大丈夫」
「良かった、ああ、目も顔もまっかっかだ」
ほっぺを親指でなぞれば火照った顔に心地よかったのか、すりっ……と頬を寄せた。
氷……は、まだ作ってなかった、濡れタオルでもないよりましだろう。
「2人して床に座り込んじゃってたな、よしよし、ソファーでちょっと目を冷やそうな」
俺の膝の上に頭を乗っけて横になってもらう。さらさらとかかる髪をよけてタオルを置いた。
「あ、」
「どうしたの……?」
なんてことだ、色々必死で俺はまだこの子に名前すら話してなかった。
「ええっと……遅くなったけど、俺はレイっていうんだ。レイって呼んでくれると嬉しい」
「あ……俺、名前ない……でもっ!好きに呼んでもらえれば……!番号とかでも……!」
「んん……俺が名前を付けてもいいってことか?素敵な名前を考えなくちゃな」
「名前……俺の?俺だけの名前?」
「もちろん、君だけの名前を」
「あ、ありがとう……!嬉しい……」
「さあ、疲れただろう、今日はそろそろ寝ような」
ベットも残してくれていて、ちょうど2つ、少し隙間を開けて並ぶベットの片方に下ろし、布団をかけた。
「ゆっくりおやすみ、俺もすぐ隣のベットにいるから、なんでも言ってな」
ふわふわの頭を撫でて、布団の上からぽんぽんと叩けば、すぐに寝息を立て始め、俺も隣のベットで眠りについた。
❀・┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈・❀
夜中、ちいさな声が聞こえたような気がして目が覚めた。
「やだ……っごめんなさい……っごめっ……」
膝を丸め、頭を抱えて震えている、目は覚めていない……嫌な夢を見てしまっているようだ。
傷になりそうなほど強く握りしめられた拳を解きほぐして、繋いだ。そっと抱き上げて涙を拭う。
きゅっ……と控えめにしがみつかれる手を誰が振り払えると言うんだ。
呼吸が落ち着き、安心した俺もまぶたが重くなる。腕の中の温もりをしっかりと抱きしめ、もうその夜に泣き声が聞こえることはなかった。
……ふわふわしたぬくもりが腕の中からもぞもぞと焦ったように抜け出そうとする。
「ごめんなさいっ…!おれ…!おれ…!」
薄目で確認した時計の針はまだ朝方を指している。
「んん…ほら…まだ早いからもう少し寝ときな…」
朝方の永遠に眠っていたくなるモードはなんなんだろうな……寝ぼけ眼でふわふわを抱えんで、二度寝を決め込む。
どれくらい眠っていたのだろうか、まぶたの裏に光が溢れる感覚に意識が浮上した。薄暗かったはずの部屋にはもう朝日が差し込んでいる。
ゆっくりと起き上がると、すぐ隣のぬくもりも目を覚ましたみたいだ。ふにゃふにゃとした動きで何かを探すような手が、俺を見つけてそっと掴んだ。
「おはよう、よく眠れたか?」
「おはようございます……あの、なんで一緒に…?」
「悪い、嫌だったか?魘されてて、ついな」
「嫌じゃない……嬉しくて……」
「なら良かった、ちょっと狭くなっちゃってごめんな」
まだぽやぽやしているようだ、窓から差し込む朝日に透けた髪がきらきらと輝いている。まるで琥珀みたいだ……コハク、コハク、か……
「なあ、名前なんだけど、コハク、はどうだ?」
「コハク……?」
「宝石の名前なんだ。君の髪みたいに綺麗で、握るとあったかくて、小さい頃俺はおひさまでできてると思ってた。でも本当かもな。木がたくさんたくさん陽を浴びて、大きくなって、そうしてできる、おひさまのいし。どうか、君の髪がきらきらする場所にいられるように、あったかくて優しい道を歩けるように……気に入って貰えると嬉しいんだけど」
戸惑うようにふるふると震えた唇がきゅっと1度閉じられ、息を吐き出した。次の瞬間、
「コハク…俺…コハク…!コハクがいい…!」
「っ……良かった、そうだ、じゃあ……」
きゅっと手を握り、こつりとおでこを合わせる。
「おはよう、コハク」
「お、はよう……!れい……!」
「ふふ、俺の名前も呼んでくれたな」
「うん…!れい…れい…!ありがとう……」
溢れんばかりの日差しの中、初めてこの子の、コハクの笑った顔を見た。
ああ、良かった……ほんとうに
ちいさな手を握ればそっと握り返してくれる。もう大丈夫、きっと一緒に歩いて行ける。
「さあ、コハク、朝ごはんにしよう」
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