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間章
コハクside 別れと誓い
しおりを挟む今日も今日とてつまみ食い計画を練って、そーっとキッチンに忍び寄って唐揚げを奪取する。ダメだぞ、っといってお仕置きされるけれど、その手が、瞳が、声が愛情を含んでいて、お仕置き目当ての常習犯なことはレイには秘密だ。
毎日愛されてることを感じて、これからも一緒にいられるんだって、やっと思えるようになった、のに。
「いまなんて……?」
さっきまで、ほんのちょっと前まで平和で楽しかったのに、魔物が現れた海岸から離れてギルドのみんなにレイから頼まれたことを伝え、順調に避難が進んでほとんどの人が安全地帯に行くことが出来て、レイを待っていた俺のところに帰ってきたのはべルグさんだけだった。
「レイは、最後まで戦った……倒したぞ、誰も傷つけることなく、全員を助けた」
「……レイが助かってない!やだ……探しに行かないと!ねえ!」
「無理だ、魔物が沈んで海は大荒れ、近づくことすら叶わない」
嘘だよね?もうレイの笑顔が見られない、もう撫でてもらうことも、抱きしめてもらうこともできない。歌も、ご飯も、全部、全部……
「あ……あああああああ……!」
自分が叫んでいると気づくまで時間がかかった。
「俺が……!もっと強かったら!あの魔物を倒せるくらい強かったら!」
「騎士になる、絶対なって、それで……何にだって負けないくらい強くなる……!」
そう全身で叫んだ瞬間、カッと体が熱くなった。目を刺すような光が胸から放たれる。
「コハク……お前、それ」
べルグさんの声を最後に、俺の意識はプツリと途絶えた。
俺の目が覚めたのは3日後だった。あの光は魔力の覚醒だったとあとから聞かされた。珍しい光属性だという。
「コハク……これな、レイがお前にって貯めてたんだ」
そう言ってベルグさんが差し出したのは騎士学校の学費を払っても有り余るほどの大金だった。
俺のために、こんな……レイ!
ベルグさんの静止を振り切り、ふらふらする体を引きずって家に帰った。震える手でドアを開ける。……数日開けていた家の少しこもった香りがした。
「おかえり、コハク」
いつもだったらキッチンに立つレイがそう言って、俺がつまみ食いしてお仕置きされて……
ソファに俺のお気に入りの騎士の本がそっと置いてあって、ぱらぱらとめくる。
あ……
俺があげた指輪が押し花の栞になって挟まっていた。ずっと一緒のおまじない……効かなかった……!なんで、なんで?どうして、レイが、
家の至る所にレイの痕跡が、温もりが残っているのに、レイだけが居ない、失って初めて気づいた。
俺、レイが好きだったんだ。上手く言えないけど、家族とか、それよりもずっともっと……
もう伝えることは出来ない、レイはいなくなってしまった。記憶の中でしかもう会えない。
俺は泣きながら、レイの指輪をそっと握りしめた。
温かさなんて、もうどこにもないのに。
胸が苦しくて、息が詰まりそうで、それでも、もう涙は出なかった。
「……俺、強くなるよ」
誰にも届かない誓いだった。
この想いも、誓いも、ただずっと、大切に抱えたまま生きていく。
いつか、もしまた会える日が来るのなら。
そのときは、俺がレイを守れるように——。
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