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間章
炎の夢と海に沈む
しおりを挟む熱い……苦しい……どこもかしこも火がはい周っている。息が苦しくて、燃える衣を最後に視界が歪んだ。
「はぁ…っはぁ……っ……はぁ……」
また、この夢……元の世界に帰ってきてから時々こんな夢をみる。歴史の教科書で読んだ平安時代みたいな寝殿造りの部屋で、どこもかしこも燃えていて、今日みたいに息が苦しくなる時もあれば、ただ燃えるのを見つめているような時もある。
その夢の中には十二単を纏った姫様みたいな人も出てきて、その人の最期をただ見ていなくてはいけない時も、そして決まってあの刀が部屋にある。
そう……あの日、海に落ちた俺はどういう訳か元の世界に戻ってきていた。そして一人海辺に倒れた俺の傍には手を離したはずの刀があったのだ。
「はぁ……っ仕事行こう……」
半年くらいあちらで過ごしたはずなのに元の世界では1ヶ月ちょっとしか経っていなくて、でもまぁ決まっていた再就職先はおじゃんな訳で。貯金はあるもののなにかしていないと落ち着かなくて、家事代行サービスの会社に就職し、かなり評価も頂いている。
「今日は……狩野のとこか」
会社を立ち上げた狩野は多忙になり、家事代行を始めた俺に飛びつくように仕事を依頼してきた。
友人なんだけどなぁ……何回か飯を作ったりしたことはあって、普通に時々なら作ってやると言ったのにこれは払わんと……掃除も頼みたいし、なんて言ってサービス会社を通しての依頼だ。
掃除やおかずの作り置きなど諸々を終わらせて家を出ようとドアに手をかけた時、向こう側に開かれたドアの隙間から狩野が見えた。
「うぉ……っびっくりした、今日早いな」
「今日怜が来る日だと思って、頑張って帰ってきた。仕事の時間は終わりだろ?普通に飲もうぜ」
「あ、ああ、そういうことなら」
「だははははは」
「もう、そんなに笑わなくてもいいだろ」
「だってよ、もう何人目だっけ?卒業笑」
「5人目!まぁ馴染んだあたりでコロコロ人が変わるのはちょっと大変だけど、全員高評価つけてくれてるからすぐに次が見つかるのはありがたいよ」
「いやあ……でもそいつらの気持ち分かるわ~レイのお悩み相談所と飯が染みちまったんだろうな、全員転職とか、地元帰るとかして幸せにやってんだろ?」
「ああ、そうみたいだな。そんで1番卒業しなきゃいけないのは狩野、お前だかんな。お前普通に家事できるし飯も作れるし、忙しいだろうがまったく時間が無いってわけでもないんだから……結構バカにならない出費だぞ?」
「いや、もう怜の飯無しじゃ生活の楽しみが……それに最初いらないって言ったのに俺が払わせてくれって頼んだんだからさ。むしろ金額以上をいつも貰ってるよ」
全く……ホワイトな会社作ろうとして社長一人ブラックになってどうするんだ。
「そういえばあれからもう3年か、びっくりしたな~髪も伸びて、神隠しかと思ったわ」
「まぁ実際それに近かったかもしれないけど……まぁでも、楽しかった、のかな」
「その割に暗い顔するじゃん、ま、まさか言えないような大事件に巻き込まれて……」
「違うって、残してきちゃったんだ、今13くらいかな……」
「うーんすまんわからん、珍しくレイも酔ってんな?」
「ん……そうかも」
帰れるか~?の声に見送られて、家に帰ってきた。
夏の夜の風を縁側で感じていると、祭囃子が聞こえてくる。これは……またか?!
この世界に帰ってきて3年、聞こえることのなかった予定のない祭囃子……俺の頭に浮かんだのは返品の2文字だった。
返品、そう返品である。俺は今絶賛、登録してない刀を3年も手元に置いているという銃刀法も真っ青な状態なのだ。
登録しようとも思ったのだが、形がはっきりしない……というか時々幻のように実体が無くなったりして審査日を逃しまくった結果がこれである。
あっちではお世話になったけどすまん……俺も捕まりたくないんだ。
そうだ、お面を持っていかなくては。あの時に買ったものはとっくに海の藻屑であろう……ああもう、これでいいか。
手に取ったのは節分の時にスーパーで買った豆に付いてきた、紙で出来ている鬼のお面だ。
一回も使っていないそれを捨てるのが何となく忍びなくてしまちゃってたんだよな。
広い家には沢山スペースがあって色んなものを取っておけてしまうのは少し困りものなのだが、たまに役に立っちゃうからあれなんだよなぁ……
あ、そうだそうだ、一応これも持っていくか。
長い階段を息を切らしながら登り、早足であの店を探す。……あった!
布の隙間に滑り込めば、今度の内装は打って変わってなんというか、がらんどうだった。
「やあ~よく来たね」
「……こんばんは、これを返品したいんだけど」
「ええ?それはちょっと出来ない相談だねぇ」
まぁそうなるよな、そんな気はしていた、ので早々に秘密兵器を出した。
「これで、どうですか?」
「そそそそそそ、それはぁ!」
ぷるぷると震えた店主が叫ぶ。
「新!五百円玉じゃないか!」
良かった、刺さってくれたみたいだ。これで何とかなりそうだ。
「う、うう……でもそういう訳にはいかなくてねぇ」
代わりと言っちゃなんだけど、聞きたいこといっぱいあるんじゃないかい?無料でいいよ、と言われ仕方が無いので聞いてみる。
「帰ってきてから時々夢を見るんだ……部屋が燃えてて、刀があって……」
「それは……見てしまったんだねぇ」
「その刀はね、とある姫君の守り刀として作られたものなんだよ」
短刀とかの実践的なものじゃなくて、儀式の意味合いが強いかな、と続ける。
「君の見ている夢はある種、過去とも言えるその刀の記憶さ」
「記憶……刀は、燃えてしまったのか?」
「そうだね、刀としてはもう燃えてしまった。でも、守れなかった後悔、姫君を害した者への恨み、そんなものが刀の形をなして今ここにあるという訳だ」
「そう…か、時々消えかけていたのはそういう…」
そもそも実体は無かったんだな……
「消えかける?」
「ああ、時々幻みたいに透けたりして……」
「ちょっと見せてもらってもいいかい?」
これは……と店主は続ける。
「在り方が変わってきているね……君と一緒に居たからかな、夢も刀の記憶が戻ってきている予兆だ、妖刀の恨みとか後悔が薄れて、一番奥にあった本来の性質、護ることが表に出始めてるねぇ……」
「あの、最初の時とかから、まるで俺が特別……みたいな言い方をしている気がするんだが、どうしてそんな風に言うんだ?」
「あーそうだね、君はなんというか……有り体に言えばその姫君の子孫というか、まぁそんな感じさ」
そういう事だったのか……
「まぁそういう訳で、その刀はこっちでは君以外の人間には見えないよ」
はっ早く言えよ……!3年も要らん心配をしたじゃないか……!
「じゃあ、帰ります……ありがとうございました」
「ああ!ちょっと待って、これ、お預かりね」
そう言って店主が差し出したのは、3年前に海で無くしたと思っていた祖母の巾着だった。
「これ……どこで……」
「結構頑張ったんだよ~まぁお詫びというかね」
「お詫び?」
「まぁまぁ、帰るんだろ?」
「前みたいに振り返ったら居ないとか心臓に悪いから、消えるなら言っといてくれよ?」
さあさあ、と背中を押され布に手をかける。
「いや~この店は消えるって言うよりは移動式というか……」
その声を背に踏み出した足が空を切った。
え……?ぐるりと上を向いた視界の中、空中に浮かんでいるテントのような店。
「ごめんねえ~!2回目、いってらっしゃーい!」
「ぎゃああああああああ!」
どぼん!
こうして俺は人生3度目の海中ダイブを決めた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
再会まで行けませんでした……明日家族の用事で早起きしなくてはならず……5時半起きでございます。
夜ふかしできなくなってしまいました(:-:)あと1番は膨らみすぎました……七八割それです:( ˙꒳˙ ):
そして今45位……!信じられますか皆様……!
明日になれば消えてしまいそうですが50位以内に入れることがあるなんて……!と大興奮です。
再会までは行けませんでしたがこれで間章は終わりになります。やっと明日から2度目に入れます……!
コハク……ごめんよ……幸せになるから、15年後に……!やっぱりごめんよ……長すぎるね、とか、店主との会話ぽんぽんで書いてて楽しい……とかなりながら7日目書かせて頂きました。
明日はやっとやっと再会しますので……どうか楽しみにしていただけると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
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