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第一章 夜の里
哀しみに呑まれて
しおりを挟むお父さんは涙を見せない人だった。
どんなに哀しいことがあっても人前では決して泣かない。
その姿を、私は泣くことの出来ない哀しい人なんだと思っていた。
結局、最期を悟ることもできぬまま、事故でさらわれていった。泣き続ける私たちを置いて。
お母さんは弱音を吐かない人だった。どんなに家庭が苦しくても無理だと言わない。その姿を、私は弱い部分を表に出せない哀しい人なんだと思っていた。
最期には病気になって私を置いていった。私は一人になった。
妹はこの世に生まれずに遠くに行ってしまったんだって。お父さんもお母さんも、私を一人にして深く沈んでいった。
「……」
遺された私は一人、深く暗い海を見て涙を流すんだ。哀しくて哀しくて、仕方がなかった。
時刻は夜。一面真っ暗な場所。
ここが、彼らにとって最後の場所で、私の最期の場所になる。
(……良くない。でも哀しい……もう哀しいのは……だから)
これで終わりにしよう。海に入ってしまえば終われるのだから。
光一つない、大きな海に。
私は波に呑まれることにした。
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