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序章 昼夕夜の世界
朝は遠く海の向こうに
しおりを挟むいつも心にあるのは、「哀しい」と言う感情だった。
いつだって、
哀しく、淋しく、孤独を感じていた。
怒り楽しみは他人事で。
海の底のように暗く、身体はずっと重みを増していく。
きっと未来も、
いつまで経っても、
隙間の埋まらない、哀しみのままなのでしょう。
☆☆☆☆☆
少女にとって、世界は3つしかなかった。
陽光の降り注ぐ、「楽しみ」に溢れた明るい昼の「国」。
中途半端な逢魔時の、「怒り」に満たされた夕の「町」。
暗闇で閉ざされ、「哀しみ」しか生まれない夜の「里」。
少女は里の者だった。日が昇らず闇が続く、とても哀しい場所で生まれ育ち、闇に混じりて今を生きている。
里から出たことなんて一度もない。国や町のことは話しの中でしか知らないし、きっとこれからだって、少女は夜を過ごし続けるのだろう。
少女はそのつもりだった。だけどそれもそのうち辛くなってしまった。
ーー町の者は時々怒りに感情を任せ、里を荒らしに来る。
理由を聞いた時、
「大きな国に勝てないから、その憤りをお前らにぶつけているのだ」
と言っていた。
里の者に、「憤り」や「怒り」なんて感情は分からない。何もやり返せず、言い返せず、やられてしまう自分たちを、ただただ哀しんだ。それくらいしか、里の者はできなかった。
少女も同じだった。いなくなってしまった家族を想い、彼女はずっと泣き続けた。涙は枯れることなく痩せこけた頬を無情にも濡らす。
何も残っていなかった。もう何も、残っていない。
とうとう哀しみに耐えられなくなった少女は、真っ暗な海にその身をあげることにした。
亡くなった者たちを、燃やすための資源もないから海へと埋葬するように、深く高い闇に飲まれて、哀しみを消したかった。
少女は海へと向かう。陽の射さない暗闇は、海を隔てた向こう側にある遠く薄い明かりと、はっきり線引きされている。
ここへ来る度、遠い明かりを見て哀しくなった。でもその哀しみも、今日で終わりにしよう。
少女は海へと入っていく。冷たい波が身体を冷やしていく。ゆっくり、一歩一歩、亡くなった者たちを思い出しながら。
ゆったりとした波に、その身を委ねることにした。
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