もし君が笑ったら

桜月心愛

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第一章 夜の里

壊れたセカイ

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海からものの数分で着くはずの里は、彼の質問やスケッチのせいで倍の時間を要して辿り着いた。
彼は自分の欲望に忠実らしい。

「サトは魚が主なんだ。ぼく達の島も海に囲まれてるからよく食べるんだけど、やっぱり美味しいや!」

里は時間的にも夜なため皆は寝静まっている。彼に伝えたら明日案内してと言われ、知らぬ間に私の家で寝泊まりすることになってしまった。

どうやって広い海を渡ってきたのかは知らないが、久しぶりに豪華だと、彼は出した質素な料理を残さず食べた。

彼は食べ終わった手を膝の上に乗せ、こう言う。

「先に、ぼくから知ってること話そうと思うんだけど。きみは世界の歴史を知ってるかい」

私は首を傾げた。歴史?そんなもの、今まで誰も気にすることなく生きてきた。掘り返したって何もいいことなんてないだろうし。

「さっき、海を渡ることが夢だって言ったでしょ?本当はね、この世界のこと、知るためにここに来たんだ」

「……世界を知るって?」

「ぼくらの島では歴史が代々綴られていて、ぼくはその綴ってきた一族の一人なんだけどさ。時々、その本を見せてもらうんだ。するとね、世界は元はちゃんと、一日の太陽の巡りがあったんだって」

「……太陽って、国の?」

「うーん。この島のことはまだ知らないことが多いから分からないなぁ。でも巡りって言うのは、今みたいにずっと夜明け、とかずっと夜とかじゃなくてね、朝が来て、昼が来て、夜が来て。それらは太陽が動くことで起こり、それが巡ることを一日と言っていたらしいんだ」

何だか難しい話だ。だけど、キラキラとした目で語る彼は、星の瞬きよりも輝いているように見えた。

「世界はカナシんでいるらしい。それが原因で、世界は4つに分けられてしまった。ぼくはね、喜び以外の感情も知りたい!その為にたくさんのことを分かりたいんだ!」

ユメ。彼が教えてくれた言葉は、どれもキレイなもののように思う。今の私には痛いほどに眩しいけど、死にたいとまでの哀しみはいつの間にか癒えて消えていた。

代わりに、心は早鐘を打っていて。

彼のおかげだ。だったら私は、お返しのために何が出来るだろう。


少女は彼に向かって口を開く。彼女は生まれて初めて自ら話をしようとした。


「……里、のこと。知ってる限りのことしかだけど。聞いて、くれますか」

うん、と頷いた彼に私は話し出す。里のこと、夜の闇と涙に明け暮れる里の者たちの話を。
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