もし君が笑ったら

桜月心愛

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第一章 夜の里

遠い場所

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ーー里に来る国の人は、国や町の色々なことを私に教えてくれた。

知りたいと思ったこともないのにちゃんとそれらを覚えているのは、何度も何度も''楽しそう''に彼らが話していたから。


そんな彼らは、口々に国をこんなふうに言っていた。

『国はこの世界で一番大きく明るくて、豊かな場所なんだよ。太陽の光を浴びて植物は生い茂り、動物も大きく育つ恵まれた土地。森と言う木々に囲まれていて海へはたどり着けないが、それでもとてもーー』

最後には必ず言う。
『楽しい場所さ』と。

私はいつもそんな話を黙って聞いていた。


彼らは町の話をすることもあった。国の人たちは町へも行くのかと、ぼんやりと思ったことも、もしかしたらあったような気がする。

『町は2番目に広く、オレンジと紫が混ざった空の、夕方の場所なんだ。高い山で囲まれていて同じく海へはたどり着けない。だが、山の一部は鉱山になっていて鉱石も取ったりできるらしい。山が高く他より少し暑いから、彼らはいつもーー』

そして楽しそうに、
「怒っているのかもなぁ」と言う。


それを言ったあの人はみんなから好かれている人だった。


☆☆☆


聞いた話を、およそそんなふうに思い出しながら説明をする。
見たことのない私の言葉でだから、真実かどうかはわからないけど。

それに、私はヤマもモリも知らない。想像なんて、最初からできっこなかった。

落ち込んだ私はふと、まだ彼に言ってないことがあるのに気づく。

「……里の時には詳しく言ってなかったけど、ここには川もあるの。どこのとかはないから、……なんて言えばいいのかな」

少し考えてもう一度まとめる。


町を囲むようにある高い山から、国や里と線引きするように2本の川が流れている。その川は境界の役割を果たし三つを隔てるように広く、中央付近はそれぞれの空が入り交じった色をしているらしい。


それから思い出すように、あのことも付け足した。

「……里には、川がちょうど交わるくらいの位置に岩でできた洞窟のようなところもある、らしいけど。実際は誰もわからないみたい」

「洞窟……」

相づちをして聞いていた彼が急に大人しくなった。私は不安になり、彼に顔を向けた。
また何か失言してしまった?哀しませるのは性に合わないのに……

だが、彼を見たらそうではないことがすぐに分かった。

「洞窟かぁ……!なんていい響きだろう!」

さっきよりも瞳が輝かせている気がする。それほどにウレシイことだったのだろうか。

「ねえ、ヨナ!今から案内頼めない!?」

「……え?」

私の手を両手で包みながら彼は言った。

……もしかしたら、少し余計なことまで言ってしまったのかもしれない。だって、そこはあるのかさえはっきりと分からない場所なのだ。

それに洞窟の中は暗くて夜目でも見えないし、火を持っていくことも難しい。

だけど、、

「……うん」

キラキラとした、彼の言葉を借りるならあまりにもキレイな瞳に、私は断ることが出来なかった。
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