もし君が笑ったら

桜月心愛

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第一章 夜の里

里での生活

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「ーー案内してよ!」

「……え?……うん」

(……言っちゃった)

心の中でそう呟いて反省する。また勝手なことをしてしまったような気がして、ひどく落ち着かない。

ヨナにとっては大きな不安で、行くのはあるかどうかもわからない場所。果たして案内と言えるのかも微妙だが、そんな場所に行くことが決定してしまったわけで。

(でも喜んでるし、今更無理なんて言えない……)

それに先ほどの落ち込んだ彼を見て、尚更無理とは言えなくなってしまった。

(行くだけ行ってみても、悪くは無いよね……?)

ただの噂だと先に言ったし、彼も必ずあると信じ切って期待しているわけではないだろう。

ならもう諦めて案内するしかないのかもしれない。行く行かないを考えるよりも大事なことがあるし。
そう割り切るとして、次を考える。

(迷子になるもしれないし、ちゃんと準備した方がいいかな)

そう思って念には念をと考えるが、どこまで考えればいいのだろうか。

「……。……行く前に待って。一応持ってく用にご飯作るから」

「ご飯!?僕もっ!一緒に作ってもいい?」

「……え?でも、魚……」

手伝うと言われても、捌いて焼く、という簡単な調理。それに国からの配給食材には限りがあるし、保存が効くように下ごしらえ済みだから、特別手間になるようなことがない。

「……じゃあ手を洗ってーー」

「うん!」

言い終わる前に彼が水をすくって洗う。
生活用水はいつも川から運ぶから、手を洗うなどで使ったあまり汚れていない水は、再利用する。
朝ごはんの時に見ていたのか、彼は最初から分かっていたかのように、きれいな水をすくっては再利用する水が入った桶の上で洗った。

「何をしようか!」

考えながらそれを見ていたら直ぐにそれは終わる。えっとと言葉を濁して、ヨナは彼に聞いた。

「……服汚さないように魚捌いて欲しいんだけど、できる?」

「もちろんだよ!」

彼が魚を慣れた手つきで捌きだす。そう言えば彼のいた場所でも魚を食べていたと言っていた。それに海の上を通ってきたのなら魚を食べていても不思議ではない。

(……私は、火起こししよう)

石と配給品である薪を使っていつも通りに火を焚いた。

(……薪、少ないけど灯用に一本だけ持って行こうかな)

「ねぇねぇ、次はなに?」

「……焼く。それ川のだから、塩付けてしてくれる?」

「うん。終わったら次は?」

「……それで終わり。持ってくようだから葉っぱで包むけど」

「随分と簡単なんだね。やっぱりお肉や野菜は貴重なの?」

「……お肉なんて、食べないよ。そんなすごいもの。私手伝い程度しか出来ないから貰うなんてことしない」

「そっか。……その木、持っていくのかい?」

彼は私の手元を見て聞く。私はうんと答えた。そうしたら今度は、他には?、と聞いてくる。多分だが持ち物のことだろう。

「……何か必要かな?私分からなくて」

「ううん、いいと思うよ。荷物多すぎても困るしね」

ニコニコとしながら言ったメレイに、うん、安心したようにヨナは返事をした。

そうして辺りを火が燃える音だけが包む。短い沈黙だった。そのすぐ後に口を開いたのはヨナでもメレイでもなくーー

「ヨナ、いるか?」

外から聞こえた声だった。
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