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第一章 夜の里
タズネ人
しおりを挟む「ヨナ、いるか?」
一瞬できた沈黙を埋めるように、突然外から声をかけられた。彼と目を見合わせて、それから扉を開く。
「……長さん」
「やあ!長さん、さっきぶりだね!」
長が彼のほうを見る。
そして眉根に皺を寄せながらヨナを見た。
「……ヨナちょっといいか」
「はい」
長に習うように二人を交互に見てから、外へとヨナは出た。
怖々とした表情のまま長は扉から視線をずらさない。私は緊張で足が竦んだ。
「……あの者はどうしたのだ」
「……あの者って彼のことですか。……悪い人ではないです。ただ色んなこと知ろうとしているだけでーー」
「ヨナ」
名を再び呼ばれて肩を揺らす。
「どうしたと聞いているのだ」
いつもとは違う様子に不安が膨らむ。
失敗してしまったのだろうか。何か悪いことをしてしまったのかもしれない。
「……ごめんなさい」
知らずに謝っていた。私は「コワイ」に慣れていない。だからすぐ哀しくなってしまう。
そんなヨナの頭に長は手をポンと置いて言う。
「謝らなくていい。聞いてるだけだよ」
いくらか柔らかい口調になった長に気分を落ち着けて、ようやく質問に応える。
「……昨日海で会って。シマから来たって。だけど本当に悪い人ではないです」
「そうか。それで何しに?」
「……シマの外のこと、学びに……」
「……そうか」
長はそう言って黙った。この間はなんだろう?わからないことが、今はひどく不安を誘う。この時だけは、早く何か話してほしかった。
「……今日は一緒に居なさい。明日またどうするか伝えに来る」
それだけを残して長は去って行った。彼と話そうともせずに。
「……」
残された私は玄関前でまたその後ろ姿を見送って。さっきの長の言葉を繰り返し思い出していた。
ーー「どうするか」って?
気になったけど聞けなかった。自分に里の責任なんて背負いきれないから。
私一人の判断と感覚で彼をどうするかなんて。
だけど、もし彼が里に受け入れられなかったら。
追い出すのだろうか。国に報告するのだろうか。それとも、、
ーーもし町に委ねられたら……
「ヨナ?」
「っ!」
声が聞こえた方を見れば当たり前に彼がいて、首を傾げている。
「あれ?長さん帰っちゃったの?」
「……」
なんかドクドクする。こんなに不安が大きくなったのは初めてだった。
「ヨナ、平気?」
「……うん。いこう」
そんなふうに彼に応えて、暗闇をまた歩き出す。
平気じゃない。初めて嘘までついた。でもそれだけじゃない。
また、彼に隠し事が増えた。
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この話も中々面白いです。
相変わらず情景描写が書かれてあるので
わかりやすいですがヨナの住む街の雰囲気がもう少し分かると読んでいきやすいかと…
生意気言ってすみません(´;ω;`)
そんでもって俺には設定が
難しかった…(´;ω;`)
でも少し切ない部分があり今後の展開を予想するのが楽しいです(・∀・)
頑張って下さいm(*_ _)m
応援しています!(๑•̀ㅂ•́)و✧
こちらでも読んで下さりありがとうございます!
生意気なんてとんでもないです!
書いてる側が分かっていても、読者の方々に伝わらなければ意味ないですから。
設定とか雰囲気とか、アドバイスくださったことを元に色々と訂正してみますね
( ´ ▽ ` )ノ
最新話のヨナとメレイの会話文で
『聞かたい』となっていますよ
ご指摘ありがとうございます(><)
「聞かたい」→「聞かせたい」に
訂正しました