もし君が笑ったら

桜月心愛

文字の大きさ
11 / 11
第一章 夜の里

タズネ人

しおりを挟む

「ヨナ、いるか?」

一瞬できた沈黙を埋めるように、突然外から声をかけられた。彼と目を見合わせて、それから扉を開く。

「……長さん」

「やあ!長さん、さっきぶりだね!」

長が彼のほうを見る。
そして眉根に皺を寄せながらヨナを見た。

「……ヨナちょっといいか」

「はい」

長に習うように二人を交互に見てから、外へとヨナは出た。


怖々とした表情のまま長は扉から視線をずらさない。私は緊張で足が竦んだ。

「……あの者はどうしたのだ」

「……あの者って彼のことですか。……悪い人ではないです。ただ色んなこと知ろうとしているだけでーー」

「ヨナ」

名を再び呼ばれて肩を揺らす。

「どうしたと聞いているのだ」

いつもとは違う様子に不安が膨らむ。
失敗してしまったのだろうか。何か悪いことをしてしまったのかもしれない。

「……ごめんなさい」

知らずに謝っていた。私は「コワイ」に慣れていない。だからすぐ哀しくなってしまう。

そんなヨナの頭に長は手をポンと置いて言う。

「謝らなくていい。聞いてるだけだよ」

いくらか柔らかい口調になった長に気分を落ち着けて、ようやく質問に応える。

「……昨日海で会って。シマから来たって。だけど本当に悪い人ではないです」

「そうか。それで何しに?」

「……シマの外のこと、学びに……」

「……そうか」

長はそう言って黙った。この間はなんだろう?わからないことが、今はひどく不安を誘う。この時だけは、早く何か話してほしかった。

「……今日は一緒に居なさい。明日またどうするか伝えに来る」

それだけを残して長は去って行った。彼と話そうともせずに。

「……」

残された私は玄関前でまたその後ろ姿を見送って。さっきの長の言葉を繰り返し思い出していた。

ーー「どうするか」って?

気になったけど聞けなかった。自分に里の責任なんて背負いきれないから。
私一人の判断と感覚で彼をどうするかなんて。

だけど、もし彼が里に受け入れられなかったら。
追い出すのだろうか。国に報告するのだろうか。それとも、、

ーーもし町に委ねられたら……


「ヨナ?」

「っ!」

声が聞こえた方を見れば当たり前に彼がいて、首を傾げている。

「あれ?長さん帰っちゃったの?」

「……」

なんかドクドクする。こんなに不安が大きくなったのは初めてだった。

「ヨナ、平気?」

「……うん。いこう」

そんなふうに彼に応えて、暗闇をまた歩き出す。

平気じゃない。初めて嘘までついた。でもそれだけじゃない。

また、彼に隠し事が増えた。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

黒崎オリーグ

この話も中々面白いです。
相変わらず情景描写が書かれてあるので
わかりやすいですがヨナの住む街の雰囲気がもう少し分かると読んでいきやすいかと…
生意気言ってすみません(´;ω;`)

そんでもって俺には設定が
難しかった…(´;ω;`)
でも少し切ない部分があり今後の展開を予想するのが楽しいです(・∀・)
頑張って下さいm(*_ _)m
応援しています!(๑•̀ㅂ•́)و✧

2018.08.20 桜月心愛

こちらでも読んで下さりありがとうございます!

生意気なんてとんでもないです!
書いてる側が分かっていても、読者の方々に伝わらなければ意味ないですから。

設定とか雰囲気とか、アドバイスくださったことを元に色々と訂正してみますね
( ´ ▽ ` )ノ

解除
黒崎オリーグ

最新話のヨナとメレイの会話文で
『聞かたい』となっていますよ

2018.08.20 桜月心愛

ご指摘ありがとうございます(><)

「聞かたい」→「聞かせたい」に
訂正しました

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。