白夜の天-そら-へ導いて

桜月心愛

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第1章 聖女である少女は

第7話 死は二人を分かたない(中編)

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「聖女さま探しですか?」

「ああ、急ぎだから手伝って欲しい。」

 ……負けた。彼女は思ったよりしつこく聞いてきて、結局言うしかなくなってしまった。
 
(感が鋭いのかなんなのか……普段はリア相手だからテンションに流されやすくなってるのか……?)

 口は堅い方だと思っていたのに情けない。マリアナに言われたからきつく言うこともできないしと落ち込むラスティに反して、彼女は出かける気満々のようである。

「では早速行きましょう!」

(負担かけることもしたくないのに、上手くいかないな。)

 最初に言ったことーー憑依や興奮は負担になるーーを彼女は忘れてしまったのだろうか。マリアナの事じゃなくとも、ラスティもテンションについていけてない。違和感も拭えないから、もう少し大人しくしてほしいものだ。

「教会に向かうぞ。昨日頼んだから、見つけてくれているかもしれない。」

「へえー、教会ですか。あたし初めてです。」

「そこまで距離はないが、具合悪くなったりしたら言えよ。」

 はい、と返事をする彼女は聞くまでもなく元気そうだ。子どものようにキョロキョロしている。

(まあいいか。気分が落ち込んでいるのも良くないだろうから。)

 それにマリアナが言う通り聖女の力で憑依を脱することができるのなら、なるべく早めの方が良い。そのためには行き来を増やすような無駄足は避けたいものだ。


「あ、騎士さまー!」

 教会前の通りで昨日の少女が手を振っていた。金色のセミロングを海月クラゲのようにふわふわと上下に浮かせながら、ジャンプをしてそこにいることをアピールしている。
 そこまでしなくても雨上がりでは人通りが少ないのではっきりと分かるのだが。

「聖女さまいらっしゃったなのです!昨日の内にお伝えしたかったのですが、どこに行けば会えるのか聞くの忘れてて。待ってれば来てくれるかと。」

 そうして良かったなの、と安心した顔で笑っている。

 ラスティはそんな彼女を感心した面持ちでみつめた。あどけない笑顔を見せながら、この子は結構すごいのかもしれない。昨日あんなに探しても見つからなかったのに、あっけなく見つけてくれた。感謝してもしきれない。

「それでどこに、、」

「ーーわあ!シロンさまだ!!」

 ラスティの言葉を思いっきり遮って、突然大声をあげて教会から飛び出してきたのはショート髪の少女。その勢いでマリアナへと突進しそうになった聖女らしき彼女を、ラスティは反射的に間に入って止めた。

「うー、何するですか騎士さま!」

「いや、こっちのセリフだ!いきなり走ってくるな、危ないだろう!」

「……あれ?シロン様、じゃない……誰です?乗っ取るなーです!」

 話聞いてるのか……と聞いても、騒ぎ始めた彼女からは返事がこなさそうなのでやめておこう。

 ……それしても幼い。見習いの子と、さほど変わらないように見える。隣にいる相方であろう少年もまだ全然子供といった感じだ。

「すみません、こいつイノシシなんですよ。頭が。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。てか、この人と言うか私ってシロンって言うんです?そういえば名前聞いてなかったなーって。」

 いや、イノシシ否定してやれよ……

 ……ん?ていうか、シロン?シロンって誰だ?

「おい、勘違いしてないか?こいつはシロンじゃなくて、マリアナだ。一文字も掠ってないぞ。」

 シャー、と今度は猫のように警戒を表す彼女はまたしても聞いていないみたいだった。

「取り敢えず中に入らないなのですか?客間にお通ししますなの!」 

 対して、ニコニコと人懐こい見習いの方が大人っぽく見える。

「そうですよ!落ち着いてください!ね?」

「気にしなくていいですよ。さっさと行きましょう。」

「……」

 一行に流されるがまま、周りの空気についていけないまま、ラスティは見習いのこの案内に従う。


「自己紹介しておきますね。私、聖女見習いのユノ・レイストなのです。今はここで、代理管理人をしてますなの。」

「わたしはロレッタ!こっちが一緒に旅してるノア!」

「ノア・クラインです。よろしくお願いします。」

 案内で部屋へと導きながら、効率良く、この中で最年少である彼女が名乗り始める。
  最後にラスティたちが名乗って、ロレッタがようやくマリアナの名前を気にし始めた。

「シロン様はマリアナ様って言うんですね。まさかこんな所で会えるなんて夢みたいですっ!!」

「ロレッタ、さっきから疑問だったんだが、マリアナのこと知ってるのか?」

「知ってるも何も憧れですよ!マリアナ様はすごいんです!色々たくさんすごいんです!」

「へぇ、そうなんですか!何だかすごいですね!」

 はあ、とラスティは相槌を打つ。よく分からないが何か凄いらしい。ウィズまですごいで片付けていて、気になるのは気になるが、詳しくを聞いても理解できない気がする……

「すみません。こいつ、本当にバカなんですよ。」

「バカバカ言うなぁ!わたしバカじゃないもん!」

 ラスティの適当な返事が呆れたように聞こえたのか、そうノアが謝罪する。
 それに反論して彼をポカポカと叩き始めたロレッタに、悪気も何もなくユノが足を止めて言った。

「ロレッタ様、着きましたなのです。ラスティ様のお話し、聞いてあげてくださいなのです。」

 途端、ロレッタは叩く手を止めてずいっとラスティに顔を近付ける。

「頭の良いわたしに任せてください!先輩騎士様!」

 自分で言うか……とノアが小さい声で言ったが機嫌が直った彼女には聞こえなかったらしい。

(大丈夫なのか?頼んでも……?)

 見た目だけでなくどこまでも子供っぽいロレッタより、ユノの方が信用できるような気がしてきた。

(ロレッタが無理ならユノに頼むか……)

 心の中で彼女にとってひどいことを思いながら、

「ああ、よろしく頼む……」

 ラスティはそう応えた。



☆☆☆☆☆



「と言う訳なんだが……」

 部屋に入るなり説明をしたラスティは、意外にも真剣な表情で話しを聞いていたロレッタに返答を求める。
 彼女の隣ではノアが何かを考え込むような仕草をし、ラスティの隣ではマリアナの形をしたウィズが、緊張した面持ちでロレッタを見つめていた。
 ユノはというと案内を終えて部屋を出てったきりである。

「うーん憑依だと離すのは難しいですね。数日経っちゃってるし。」

 困ったような態度でロレッタが応える。

「やはりこういうのはできる者とできない者がいるのか?」

「そういうわけではないんですけど、能力の高さによっては簡単じゃなかったり。一番手っ取り早いのは、依頼者の未練を解決しちゃうことですかね?」

「それだと時間がかかるだろう。長時間このままにしておく訳にはいかない。」

「そうなんですよねー。わたしたちも今他の依頼者さんがいるから時間を目一杯取れないし。」

 うーんとまた、唸ったロレッタを見ているとどれだけ難しいかが何となくとも伝わってきてラスティも一緒になって頭を抱えた。

「みなさん、お飲み物いかがなのですか?」

 ユノがトレイを持って戻って来た。しかし、部屋にいる全員が黙りこくっている空気を察してピタッと止まる。

「あの、思ってたよりも深刻なのですか?ごめんなさい。まだ分からなくて。」

「そんなことない。お茶ありがとう、ユノ。」

 ラスティが礼を言って、ノアが受け取る。そこでノアがあっ、と声を出した。

 一瞬零したのかと焦ったが、テーブルの上にはしっかりとコップが乗っている。

「びっくりした!ノアのバカ!おっきな声出さないでよ!」

「ウィズさん、その相手の人の名前、教えて貰っていいですか。」

 騒ぐロレッタを無視して、ノアがウィズに聞いた。落ち込むようにずっと下を向いていた彼女が驚いた顔をして声を出した。

「えっ?名前?名前って彼の?えっーとね。……あれ?……どうしよう、思い出せない。」

「忘れちゃったの?!尚更どうしたらいいかわかんないよー!」

「どうして思い出せないのかな……未練の筈なのに……でも確かに、こんなふうになる前に名前を聞いたはずなの。だからマリアナ様たちを見つけて……」

 一人でブツブツと考え込んでしまった彼女に確認するように、ノアは一つの名前を口にした。

「トーヤ、じゃないですか?」

「……!」

 その場にいたユノ以外の全員が驚く。だが、ラスティだけは驚いた他の三人とは違う方で、である。

「……っ!……そ、う、トーヤ、です……」

 何かを思い出したからなのか、それとも愛しい人の名前を聞いて感情が昂ったからなのか、彼女は頬を濡らして返事を返す。

(もしかして、俺があの時、愛馬のトーヤを呼んだから……ウィズは……)

 俺を追いかけてきたのか。そう確信する中で、ノアの次の言葉で救われるような、そんな気持ちにもなった。

「俺たちの依頼者かもしれない。」

「……!それ、本当か?」

「話が似てるのと名前が同じなことから、俺はそう思いますが。何ならこれから連れてきますよ。本人に聞くのが手っ取り早いです。」

「ノアとロレッタ、今から頼めるか?」

「うん!こっちも解決出来るし、好都合ですよ!行こ、ノア!」


 二人が部屋を出発して、ユノはようやく安堵の表情を浮かべる。

「良かったなのです!ラスティ様!ウィズ様も!」

「ユノもありがとな。協力してくれて。」

 いえいえ、と当人のように嬉しそうに笑って、ユノは他の仕事をするためにその場を後にした。

「ウィズ、会えるみたいでよかったな。」

「……」

(……?)


 その表情に違和感を感じる。

 会いたい人に会えるはずなのに、その泣き止んだ横顔は何処か喜んでいないように感じた。




                        後編へ続く
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