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失った日
しおりを挟む固く閉じた瞼に眩しい光が当たった。それによって、意識は現実に戻される。
見開いた先に広がったのは見慣れた自分の部屋。
いつの間に帰ってきたのだろうか。行く時もそうだったから、家路への道も、ぼーっとしたまま辿ったのだろうか。
少しの間、そんなことを思考して、やがて気付いた。
いや、違う。
ここは、''今''じゃない。
机の横には卒業したはずのランドセルが掛けてある。中に猫のキーホルダーが入っているであろう紙袋が、丁寧に机の上に置いてあった。
夢の中、だろうか?それしては酷くリアルな。
だけど確かに、ここは6年前の自分の部屋と酷似している。
紙袋は雫へのプレゼントだったものだ。事故の後結局渡せずじまいになった、言ってしまえば後悔そのもの。
それを見れば、想像は十分だった。
これは幻想。雫の死に触れた俺が、死ぬ前に見ている走馬灯のようなもの。夢で言うなら、明晰夢とでも言うような。
これが現実だなんてありえない。
だからここはきっと、雫たちが交通事故にあった日だ。
だったらすることは一つ。自由の効く身体は、その為だけにある。
俺は部屋を飛び出した。
雫の家に行って、行くな!って伝えようとした。それ以外、したいことなんて思い浮かばなかった。
しかし、過去は過去。映像は映像。
そしてその光景は写真を切り取るように止まって、フラッシュが起こった先ではもう、目の前は違う場所だった。
事故があった時のことを一生懸命思い出そうとする。どこで、何時、どんな風に。
何の偶然が重なって、その事故が起きてしまったのか。
だけど、当事者ではない自分は詳しくなんて知らない。夢の中ですら、雫を助けることは出来ない。
去年の両親からのプレゼントである季節外れの帽子をかぶって。車の中で笑顔の両親と楽しそうに会話をする彼女を。
世界はまるで、自分が浮遊霊にでもなったかのように、俺を無視して時を刻んでいった。
このあと悲惨な事故が起こるなんて誰も想像できないほど、幸せそうな家族だった。
問題の交差点。知らない俺でもそうだと分かるように、映像はスローモーションで繊細にあの瞬間を繰り返す。
暴走し飛び出すトラック。餌食になった小さな乗用車。潰れる前方。吹き飛ぶ車体。
その光景に目を閉じるけれど、世界はそれを許さないとでも言うかのように、俺の瞼の裏に、脳のあらゆる機能に、深く焼き付けさせた。
あらゆるものをひっくり返されたような、長く響く、嫌な時間だった。
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