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彼女の未来へ
しおりを挟む「えーっと。ここら、だったかな?」
自分の部屋、片付けられたクローゼット下から、一つの箱を見つけて取り出す。
底が深い、四角いシンプルな箱の蓋には、''手紙''と、拙い字で書かれている。
「あ、やっぱりここだ。何か懐かしいな。それくらい見てなかったってことだよな……」
埃は被ってないが、祓うように箱に触れて机に置いた。隣には猫の絵が描かれた箱が、同じように置いてある。
「結構沢山、あいつと文通したんだな。届いた時一回キリしか読んでないけど、あいつは何度も読み返してくれてたのか」
こうして一枚一枚読んでみても、彼女が置かれていた環境を匂わすようなことは何も書かれていない。
家族のこととか、テストのこととか。俺のことを気にかける言葉が、雫の文字で書かれている。
「……あいつらしい」
全てを読み返しても、辛いとか淋しいとか、相手に心配をかけるような言葉は確かに見当たらない。でもそれが逆に雫らしく感じた。
俺が手紙を書く時彼女のことしか考えていなかったように、彼女も、辛いことを忘れて文通を楽しんでくれていたんだろうか。
そうだったら嬉しい。今なら素直にそう思える。
それから、彼女に送った自らの手紙を見た。
帰る際に雫の母方の祖父母に頼んで、雫に送った手紙を貰った。あなたと雫のことなのだからあなたが貰ってと、快く譲ってくれた。
「俺の字汚いな!?読めねぇんだけど……」
涙の痕が残っているが、あえて触れずに自分へのツッコミを入れて、
「……?箱に何か……」
箱の隅の紙みたいなものに気付いた。
「……写真?」
見れば、あの橋の上で、白い帽子をかぶる幼い雫と両親とが写っている。
「……。……特別な場所、か」
彼女が言っていた。景色の良い、自然に囲まれた小さな橋があると。そこはパパが曾祖母の家へ行った時、必ず行く秘密の場所。パパとママと雫しか知らない、家族の秘密基地。
ーーいつかみっ君とも行きたいなぁ……
呟くように言っていた彼女を、今でも鮮明に思い出せる。叶わなかったけれど、あの場所で会えた。俺はそれだけで嬉しい。
「雫の白い帽子は、俺たちを繋ぎ止めようとした、あいつの両親の気持ちだったのかもな」
あの夢から現実の世界に戻った時、俺は知らぬ間に橋の上で座り込んでいた。それを母さんたちが暗闇から見つけてくれたのだ。
その時の俺は無意識にあの白い帽子を掴んでいた。後で聞けば、雫の祖父母の元からいつの間にか消えていたと言う。
「不思議、だったな。でも夢じゃない。幻でもない」
奇跡だと言うのならそうなのだろう。だけど俺にとっては意味のある時間だったから、奇跡だなんて一言じゃ片付けられないと思う。
意味のある時間。その中で、泣きたかったら泣いていいと、教えてくれたのも彼女だったから。もしまた淋しさを感じて泣きたくなったら、その時にだけ泣けばいい。
「久しぶりに手紙書くか!」
スッキリとした気分だ。今ならどんなくさい言葉でも、雫に言える気がする。
いつも通りの真っ白い便箋を出して、使い古したペンを持って、いくらかマシになった字で、、
ーー拝啓、未来の君へ
君の心からの笑顔で、君の声を聞きたいんだ。
~Fin~
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