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王都断罪編①
斬首台へ歩く男
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穀物の収穫期を目前に控えたフォルスター王国。
その王都クレスチナには、今日も朝から多くの人々が溢れかえっていた。
通りには国旗や季節の花々が飾られ、所狭しと並ぶ屋台からは香ばしい匂いが漂い、楽団の奏でる陽気な音楽が街を駆け抜けていく。
まるで祭りのような華やかさ。
だがその賑わいの理由は、決して祝うべきことではなかった。
今日という日は、かつて人類を救った大英雄――ファウスト・ライウスが、国家転覆罪の罪により処刑される日なのである。
処刑が行われるのは、王城前にそびえる時計塔広場。
その中央に設置された斬首台を一目見ようと、広場は朝から群衆で埋め尽くされていた。
誰もが、ファウストの首が刎ねられる瞬間をこの目に焼きつけようとしていた。
普段なら、家族連れや恋人たちの憩いの場として穏やかな時が流れる広場も、今は血気に満ちた野次馬たちで溢れかえり、まるで“祭り”のような熱気に包まれている。
だが、その祭りの名は“処刑”。
それは、英雄の最期を見届けるための“見世物”でしかなかった。
「ファウスト・ライウスって、たった一人で魔族の軍勢を退けたらしいぜ」
「国王のお気に入りだったって噂もあるな」
「アドルフ王子に引けを取らないほどの美形だったって聞いたわ」
「でも、アイツが例の事件の首謀者なんだろ?」
嘘と真実が入り交じった数々の噂が、群衆の間で飛び交う。
それぞれの口が勝手に語り、想像と妄想が交差する中――。
ゴォーン、ゴォーン――。
重々しい鐘の音が空気を震わせ、処刑の時刻を知らせた。
その音とともに、ファウストを乗せた囚人護送馬車が時計塔広場にゆっくりと到着する。
そして――。
護送車の扉が開かれ、看守たちに引きずられるようにして現れたのは、かつて“英雄”と呼ばれた男の、あまりに無惨な姿だった。
痩せこけ、血色もなく、まともに歩くことすら困難なその身体。
誰もが知る英雄ファウスト・ライウスの面影は、もはやそこにはなかった。
一体、どれほどの拷問を受ければ、ここまで人は変わり果てるのか――。
誰からともなく想像が広がり、広場のあちこちからゴクリ、と唾を呑む音が聞こえてきた。
処刑に憤り、怒号を浴びせようとしていた者たちも、その口を閉じる。
拳を振り上げていた者は、ゆっくりと力を失い、腕をだらりと垂れ下げた。
そこにあったのは、悪党ではなかった。
英雄でもなかった。
ただ――壊れた一人の人間が、そこに立っているだけだった。
「っ――う、裏切り者めっ! ふざけやがって!」
静まり返った空気を切り裂くように、観衆の中の一人が怒声を上げ、手にしていた石をファウストに向けて投げつけた。
「俺の家族を返せっ!」
石は地面に弾けるように落ち、乾いた音を立てる。
その音が、群衆に合図を送ったかのようだった。
一瞬の躊躇の後、誰かが小石を拾い、また誰かが叫ぶ。
「そ、そうだよな……! あんたのせいで、俺の家族は……!」
「信じてたのに……あなたを、信じていたのにっ!」
堰を切ったように怒号と物が飛び交い、斬首台へと向かうファウストに向かって石や瓦礫が投げつけられる。
それはまるで、大粒の雨が空から降り注ぐかのようだった。
にもかかわらず、ファウストは一歩も怯まず、真っ直ぐと歩みを止めなかった。
体を打つ鈍い音が、乾いた悲鳴のように広場に響く。
一つ、また一つと石が当たり、その身体には新たな傷が刻まれ、血がゆっくりと流れ落ちる。
それでも、ファウストの歩みは止まらない。
石を投げていた者たちは次第に顔を引きつらせはじめた。
嬉々として石を投げていたはずの群衆の表情から、次第に笑みが消えていく。
やがて、誰も石を投げなくなった。
広場に響くのは、ファウストの足音と――カチャリ、カチャリと鎖のこすれる音だけ。
「悪魔だ……」
「やっぱり、あいつは魔族の手先だったんだ……」
誰かの呟きが火種となり、観衆の中に沈んでいた恐怖が一気に広がる。
それは、戦乱の時代に深く刻まれた“あの恐怖”。
魔族の恐怖。
その記憶だった。
ファウストの身体には、群衆によって投げつけられた石や瓦礫による傷がいくつも刻まれていた。
だが、その血が地に垂れるより早く。
ふわり、と。
ファウストの体から、柔らかくも異様な“淡い黄色の光”が放たれる。
それは風に舞う綿毛のようにゆらめき、彼の傷口を優しく包み込んだ。
次の瞬間、痛ましいはずの切り傷が、煙のように消え去った。
血は引き、肌は元どおりになり、傷跡すらも一切残っていない。
それはまるで、神話の中の奇跡のようだった。
「こ……こんなの、人間じゃない……」
群衆の誰かが震える声で呟き、それが連鎖するように周囲へ広がっていく。
さっきまで憎悪に任せて石を握っていた手は、恐怖に震え、握りしめられていた石が次々と地面へ落ちていった。
――人間ではありえない再生力。
その異様を目の当たりにしながらも、当の本人は何ひとつ語らず、ただ当然のように歩み続ける。
ファウストは静かに、まっすぐに斬首台へ向かっていた。
その背には、群衆の恐怖と猜疑、そして畏れが重く降り注いでいる。
斬首台に辿り着くと、そこには過剰なほど宝石で飾り立てられ、陽光を反射してぎらつく甲冑を身に纏った男が立っていた。
第一王子、アドルフ・フォルスター。
彼は鋭利な銀の剣を手に取り、まるで儀式を始める前のように、丁寧に刃を磨いていた。
その王都クレスチナには、今日も朝から多くの人々が溢れかえっていた。
通りには国旗や季節の花々が飾られ、所狭しと並ぶ屋台からは香ばしい匂いが漂い、楽団の奏でる陽気な音楽が街を駆け抜けていく。
まるで祭りのような華やかさ。
だがその賑わいの理由は、決して祝うべきことではなかった。
今日という日は、かつて人類を救った大英雄――ファウスト・ライウスが、国家転覆罪の罪により処刑される日なのである。
処刑が行われるのは、王城前にそびえる時計塔広場。
その中央に設置された斬首台を一目見ようと、広場は朝から群衆で埋め尽くされていた。
誰もが、ファウストの首が刎ねられる瞬間をこの目に焼きつけようとしていた。
普段なら、家族連れや恋人たちの憩いの場として穏やかな時が流れる広場も、今は血気に満ちた野次馬たちで溢れかえり、まるで“祭り”のような熱気に包まれている。
だが、その祭りの名は“処刑”。
それは、英雄の最期を見届けるための“見世物”でしかなかった。
「ファウスト・ライウスって、たった一人で魔族の軍勢を退けたらしいぜ」
「国王のお気に入りだったって噂もあるな」
「アドルフ王子に引けを取らないほどの美形だったって聞いたわ」
「でも、アイツが例の事件の首謀者なんだろ?」
嘘と真実が入り交じった数々の噂が、群衆の間で飛び交う。
それぞれの口が勝手に語り、想像と妄想が交差する中――。
ゴォーン、ゴォーン――。
重々しい鐘の音が空気を震わせ、処刑の時刻を知らせた。
その音とともに、ファウストを乗せた囚人護送馬車が時計塔広場にゆっくりと到着する。
そして――。
護送車の扉が開かれ、看守たちに引きずられるようにして現れたのは、かつて“英雄”と呼ばれた男の、あまりに無惨な姿だった。
痩せこけ、血色もなく、まともに歩くことすら困難なその身体。
誰もが知る英雄ファウスト・ライウスの面影は、もはやそこにはなかった。
一体、どれほどの拷問を受ければ、ここまで人は変わり果てるのか――。
誰からともなく想像が広がり、広場のあちこちからゴクリ、と唾を呑む音が聞こえてきた。
処刑に憤り、怒号を浴びせようとしていた者たちも、その口を閉じる。
拳を振り上げていた者は、ゆっくりと力を失い、腕をだらりと垂れ下げた。
そこにあったのは、悪党ではなかった。
英雄でもなかった。
ただ――壊れた一人の人間が、そこに立っているだけだった。
「っ――う、裏切り者めっ! ふざけやがって!」
静まり返った空気を切り裂くように、観衆の中の一人が怒声を上げ、手にしていた石をファウストに向けて投げつけた。
「俺の家族を返せっ!」
石は地面に弾けるように落ち、乾いた音を立てる。
その音が、群衆に合図を送ったかのようだった。
一瞬の躊躇の後、誰かが小石を拾い、また誰かが叫ぶ。
「そ、そうだよな……! あんたのせいで、俺の家族は……!」
「信じてたのに……あなたを、信じていたのにっ!」
堰を切ったように怒号と物が飛び交い、斬首台へと向かうファウストに向かって石や瓦礫が投げつけられる。
それはまるで、大粒の雨が空から降り注ぐかのようだった。
にもかかわらず、ファウストは一歩も怯まず、真っ直ぐと歩みを止めなかった。
体を打つ鈍い音が、乾いた悲鳴のように広場に響く。
一つ、また一つと石が当たり、その身体には新たな傷が刻まれ、血がゆっくりと流れ落ちる。
それでも、ファウストの歩みは止まらない。
石を投げていた者たちは次第に顔を引きつらせはじめた。
嬉々として石を投げていたはずの群衆の表情から、次第に笑みが消えていく。
やがて、誰も石を投げなくなった。
広場に響くのは、ファウストの足音と――カチャリ、カチャリと鎖のこすれる音だけ。
「悪魔だ……」
「やっぱり、あいつは魔族の手先だったんだ……」
誰かの呟きが火種となり、観衆の中に沈んでいた恐怖が一気に広がる。
それは、戦乱の時代に深く刻まれた“あの恐怖”。
魔族の恐怖。
その記憶だった。
ファウストの身体には、群衆によって投げつけられた石や瓦礫による傷がいくつも刻まれていた。
だが、その血が地に垂れるより早く。
ふわり、と。
ファウストの体から、柔らかくも異様な“淡い黄色の光”が放たれる。
それは風に舞う綿毛のようにゆらめき、彼の傷口を優しく包み込んだ。
次の瞬間、痛ましいはずの切り傷が、煙のように消え去った。
血は引き、肌は元どおりになり、傷跡すらも一切残っていない。
それはまるで、神話の中の奇跡のようだった。
「こ……こんなの、人間じゃない……」
群衆の誰かが震える声で呟き、それが連鎖するように周囲へ広がっていく。
さっきまで憎悪に任せて石を握っていた手は、恐怖に震え、握りしめられていた石が次々と地面へ落ちていった。
――人間ではありえない再生力。
その異様を目の当たりにしながらも、当の本人は何ひとつ語らず、ただ当然のように歩み続ける。
ファウストは静かに、まっすぐに斬首台へ向かっていた。
その背には、群衆の恐怖と猜疑、そして畏れが重く降り注いでいる。
斬首台に辿り着くと、そこには過剰なほど宝石で飾り立てられ、陽光を反射してぎらつく甲冑を身に纏った男が立っていた。
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